召喚されて魔王の影武者になる話   作:生カス

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前回のあらすじ:ゲスロリ


5話 召喚されたしパリピ

 魔界と聞いていつも真っ先にイメージしていたのは、薄暗くどんよりとしていて、全体的に黒い荒廃したところ……そんな感じのモノであった。しかし実際はそんなことはない。

 秋の曇りの天気と言えばわかってもらえるだろうか、黒というよりは灰色のイメージだ。空は雲で覆われているが、しかし明るく、どんよりとした空気は少しも感じられない。枯れてはいるが木や草などの植物もちらほら見られ、寂しさはあれど、荒廃と呼べるほどのものは無かった。

 

「あーもうつっかれた……ヨシカゲーおんぶー」

 

「まだ歩き始めて10分と経ってませんぜ、魔王様」

 

 俺が魔王様(笑)に召喚された日から1日が経過した。一晩寝た頭でとりあえず理解できたことは、ここがマジモンの異世界だってこと、俺は魔王様(失笑)ことイブ・エヴァンスに悪魔として召喚されたってこと、今は魔界の障壁が壊され魔王様(爆笑)は勇者的な人たちに狙われ放題な状態ということ。

 

「いいからおぶれよ。こんなことしてる間にも勇者の魔の手が刻々と私に近づいてきているんだぞ。こんなところでグダグダ言ってる暇はないんだ。そんなこともわからないのかこのナメクジ野郎が」

 

「ウミウシみてーに地面に寝そべっといて何言ってんだ」

 

 そして魔王(コイツ)が悲しいほどわがままだということだ。それにしてもよくあそこまで何の躊躇もなく地面に五体投地できるな。服の汚れ以前に砂利とか痛くないんだろうか?

 

「おっぶーれ! おっぶーれ! おっぶーれ! おっぶーれ!」

 

「そんな幕之内みたいにオマエ……」

 

 結局俺は根負けし、寝そべっているイブを地面から引き剥がし、自分の背中に背負った。……めっちゃ砂利ついてる。うわめっちゃ背中ざりざりいってる。うわなんかすごい気持ち悪いこの感触。

 

「おいどうしたんだよ。あ、もしかして胸の感触とか楽しんでないだろうな、この童貞ナメクジ!」

 

「砂利しかねえんだよ。胸の微かな感触とか女の子の甘い香りとか甘酸っぱいもの全部砂利に食われてんだよ」

 

「誰が微かだ。訂正しろ、これでも並程度にはあるんだ」

 

「……ハッ」

 

 鼻で笑ったのが相当気に入らなかったのか、イブは背中越しに俺のほっぺをつねってきた。それだけならまだよかったけれど、砂利のついた手を口に突っ込むのは勘弁してほしかった。周りのモノを巧みに利用しやがってからに。

 

「あ……見えたぞ、あれだ」

 

 そういって、イブは前の方を指さす。そこに目をやると、無機質な形のシルエットが乱立しているのが見える。少し霧がかってはいるものの、それが街であるということはすぐにわかった。

 

「へえ……魔界にも街ってあるんだな。ちょっと意外だ」

 

「お前の世界の常識がどんなのかは知らんが、知能ある生物が住んでいる以上、インフラなりなんなり必要だろう? そりゃ街くらいできるさ」

 

「なるほどねえ……そういえばお前以外の魔物ってどんなんなんだ? 見たことないけど……」

 

「私は魔物じゃない、魔族だ! そこ間違えるな!」

 

「どう違うんだ?」

 

 俺がそういうと、フッフーンと得意げに息を吐いてから話し始める。

 

「魔族は魔界の中でも特に高位の存在、人間界で言う王族みたいなもんだ。そこらの一般魔物とは違うんだよ」

 

 一般魔物ってワードだけ聞くとマジ意味わかんねえな。……でもそれ、動物学的には結局一緒じゃないのか? それとも、やっぱり一般魔物と魔族様じゃ種族そのものが違うんだろうか? ということは町に住んでる魔物はまた違った形態なのかもしれない。ちょっと気になる。気付けば、ちょうど俺たちは街の入り口に着いていた。

 

「まあわかったよ……あ、じゃあさ、せっかくここまで来たんだし、魔物がどんなものかちょっと見たいんだけ」

 

「だめ」

 

 食い気味に断られた。しかも多分今まで聞いた中で一番明瞭な声色でだめって言われた。こんなはきはき喋れたのかよコイツ。

 

「えーなんだよ、どうせ通り道だろ?」

 

「ダメだ。急いでるって言っただろ? 寄り道してる暇なんかないんだよ」

 

「じゃあ、そのお姉さんにあった後にでも」

 

「ダーメ」

 

 なんなんだ一体? やっぱ魔王って立場上むやみに一般魔物に合うもんじゃないのかね? それとも単に嫌いな奴でもいるか。

 

「とにかくさっさと行ってさっさと帰るぞ! 魔物に見つかる前に急げ、さあ!」

 

「わかったから背中で暴れんじゃないよ! ……つか何なんだ? いくら何でもそこまで嫌がること……」

 

「いいからは早くし」

 

 

 

「あれ、魔王様じゃねっすか?」

 

 

 

「うげっ……」

 

 突然横の方から、聞きなれない男の声が聞こえた。もしかして魔物か? なんかイブが露骨に嫌な声を出したけど、知ってる人なんだろうか?

 

「あ、この街の方ですか? 初めまして、おれはウワァァァ!?」

 

 初対面の人の顔を見て絶叫する。無礼千万な話この上ないだろう。俺もそのことは重々承知している。しかし考えてみて欲しい。どんな『人』だろうと思って声のする方に振り向いてみたら。

 

 

 

 フクロウの頭をしたムキムキの人体がいたんだぞ?

 

 

 

「え、ウワアさんすか?」

 

「い、いやすいません。こ、この土地にまだ慣れていないもんで……」

 

「あれ、つかよく見るとアンタ人間じゃねっすか? 珍しっすね」

 

 フクロウ特有の首の傾げ方をして、その男(?)は尚も気さくに話しかける。正直そのガチムチボディでその所作はやめて欲しい気持ちが否めない。

 

「姉ちゃんに用があるんだけど、今いるか?」

 

「ああ、姐さんなら、多分ご在宅っすよ。どしたんすか?」

 

「魔法障壁が破られてな、最近勇者どもが私のとこに来たんだよ。急いで姉ちゃんとこ行って直してもらわないと」

 

「マジっすか!? そりゃやばいっすね~……あ、じゃあその前にちょっと酒場いって飲みません? いまみんな集まってるんすよ~」

 

「お前人の話聞いてた!? 急いでるっつってんだよ!」

 

「いーじゃねっすか、魔王様めったに来ないっしょ~。たまには一緒にアガりましょうよ。ほら、そこのアンタも一緒に」

 

 そう言って彼は、背中におぶっているイブごと俺を背負った。

 

「うおおこの人チカラつよ……!」

 

「おいはなせ、はーなーせー!」

 

 しかしそんな抗議の言葉も虚しく、俺たちは酒場へと連行されていったのだった。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

「ポオォォォォウ! みんな盛り上がってるうぅぅ!?」

 

「ホッホオォォォォウッ!!」

 

「んだよ足りねえよ! もっとバイブスアゲてけよフォォォウ!」

 

「ホッホオォォォォウッ!!」

 

「ウェエエイ! しかも今日は魔王様もいるぜフェエエエイ!」

 

「ホッホオオォォォォアアァァウッ!!!!」

 

 

 

 

 え、なにこれは……

 

 状況をなるべく簡単に説明しよう。今俺たちはフクロウのパリピたちに囲まれている。フクロウのパリピって何だよ……でもこれ以外に今の状況を的確に表せられるような語彙を俺は持っていない。

 

「ちょっとヨシく~ん、さっきから全然飲んでないじゃ~ん。もしかしてジュース派?」

 

「いやあ、こういうのあんまり慣れてなくてハハハハ」

 

「よーそんなんじゃ女の子にモテんぞ~?」

 

「ヨシくん彼女とかいるん? どうなん? お? お?」

 

 そんでもってこの人達打ち解けるのはえーな。いやそれは全然いいんだけど、全員鳥類に準じた完全無表情で迫ってくるから、今のこの状況シュールレアリスムの極致でしかない。ピカソもどん引きだわ。

 

「ッハアァァッ………」

 

 イブに至っては、心底疲れたようなため息を時折吐いては、いつも以上に濁った眼でグラスに注がれたジュースをチビチビ飲んでいた。

 

「な、なあイブ……やっぱこの人たちが魔物なのか?」

 

「あ? そうだよ、こいつらがさっき言ってた魔物さ。こうなるから会うのヤだったんだよ……」

 

「魔物の人ってみんなこんなんなのか? なんつーか、思っていたよりずいぶん陽気というか……」

 

「いや、こいつらはヤンシュフっていう種族で、他にもいろんなのが魔界にはいるぞ。陽気なのは種族がどうこうじゃなくてこの街の連中がそうなだけだ」

 

「へえ、そっか……」

 

 他の魔物ってどんなんなのだろうか? この、ヤンシュフって人達と同じ、鳥頭(比喩でなく)な人達なんだろうか? ……魔界にミスコンあったらどんな選定基準になるんだろうか? どうでもいいけど気になる。

 

「なーところでさー、ヨシくんって魔王様の彼氏なわけ?」

 

「は?」

 

「あ、やっぱそうなん? いや2人の距離、妙に近いから怪しいとは思ってたんっすよ~」

 

「は、はあ!?」

 

 不意打ちにされた質問に、どう返していいのかわからないのか、イブは顔を真っ赤にして口をパクパクしていた。

 

「でも人間の男なんて渋い趣味してるね~」

 

「ちげーよ! コイツは召喚魔法でたまたま出ただけ! ただのナメクジだし!」

 

 コイツ俺のことナメクジって言うの気に入ったのかな? じゃあ俺もこいつのこと、これからウミウシって呼ぼう。

 

「うぇーい、そんなこと言って本当は~?」

 

「だ、だからそんなんじゃ……」

 

「必死になって否定してるところがまた怪しいぃ~」

 

「何でも色恋沙汰に持ってこうとすんなや! だから嫌いなんだお前ら! なあヨシカゲ?」

 

「そうだなウミウシ」

 

「ウミウシ!?」

 

 何だかもはや面白いことになってきた。気付けば俺とイブはフクロウパリピたちにウェイウェイウェイウェイホッホホッホと完全に包囲されていた。イブがちょっと涙目になってた。

 

「お? お? もうお互いあだ名で呼び合う仲なの?」

 

「2人はどういう関係なんすか~。いい加減教えてくださいよ~」

 

「だ、だからなあ……」

 

 

 

 

 

 

 

「私も教えて欲しいな」

 

 

 

 

 

 

 

 酷い喧噪の中でなおはっきりと響いた、しかしどこか静けささえ感じる声。その声がした瞬間、俺もイブも、その場にいる全員が、その声の方向に振り向いた。

 

「うげっ……」

 

 イブはその人が誰かすぐにわかったのだろう。本日2回目の『うげっ』を言った。

 ……大きく、顔の上半分を全て隠してしまっているとんがり帽子、ゆったりとした、しかし着用者のスタイルの良さを惜しげもなく晒しているデザインの服、そして……彼女の身の丈ほどはあるだろう、大きな杖……

 

 

 その姿はまるで、ありきたりとさえ言える。魔女そのものだった。

 

 

「貴方が……そうなのね……」

 

 そういって彼女は俺の方へと近づき、その帽子を取った。……その美貌と、セミロングの、光の反射を許さないほどの黒い髪、そして両サイドの小さい角……そう、彼女はイブに似ていた。

 いやむしろ、目もきれいだしスタイルもいいしで上位互換とさえ言えるかもしれない。

 

「初めまして、私は……」

 

「姉ちゃん……」

 

 イブは、相変わらずのムスッとした顔でそう言った。姉ちゃんってことは……この人が魔法障壁を修理する……

 

「なんでここにいるんだよ、家にいたんじゃないのか?」

 

「今日来ることはわかっていたからね。でもちょっと遅いから、多分ロックにでも捕まったんだろうなって……」

 

 ロック……多分あの最初に会ったフクロウのことを言っているのだろうか。そんな名前だったのか。

 

「……貴方が、妹の召喚した……」

 

「知ってるんですか、俺のこと……?」

 

 狼狽する俺とは対照的に、彼女はどこまでもゆっくりと落ち着いた動作で、俺に妖艶な笑みを浮かべて、言った。

 

「ええ、知ってますよ。あなたが……」

 

 

 

 

 

「ナメクジクソ野郎さんね?」

 

 

 

 

 

 あ、間違いねえこの人ウミウシ(イブ)の姉だわ。俺は隣でジュースをすすってるイブ(ウミウシ)を見ながら、そう思った。

 

 

 




魔界はサイレントヒルの街か、霧のかかった時の釧路をイメージして貰えれば大体作者のイメージとあってます。
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