鮮血の錬金術師   作:龍華樹

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全速力で屋敷に引き返し、来栖家の魔術工房の要たる離れに踏み入ると同時に、私は胸の魔術刻印を通して、地脈の最上位使用権と、ホムンクルス達の絶対命令権が譲渡されたことを知った。

これで、名実共に私は八坂市のセカンドオーナーとなったわけだ。

 

さらに、アンナから差し出されたのは、一通の封筒。

どうやら父は、いずれこうなる事を予期して、あらかじめアンナに遺言を託していたらしい。

 

『我が娘へ

これは僕の魔力が途切れた場合にのみ、君の魔力波長に合わせて文字が浮かび上がるように、準備しておいたものだ。

おそらくこれを読んでいるということは、僕の魔力が何らかの要因で、既に絶たれていることと思う。

 

さて、いずれこうなるだろうことは、君もよくわかっていたね?

僕の体は無茶をやらかした先代達の荒い施術のせいで、心肺、循環器、免疫系、ほとんどの箇所に歪みができて癌化していた。

先祖代々、本当に馬鹿な連中だ。奴らの杜撰な研究が、どれほど我が家の名を貶めたことか。プラハや倫敦にいたころも散々陰口をたたかれたものだ。まあ、口さがない連中は残らず、ぶち殺してやったが。

 

さて、愚痴はこのくらいにして本題に入ろう。

魔術刻印はすでに継承させているし、我が家の魔術についても大事な部分は余さず教えたつもりだ。霊脈の管理はここ数年、動けない僕に代わって代行していた君の方が詳しいだろうし、秘薬やホムンクルスの扱いについても問題ないレベルまで仕上がっている。

君は命の水の調合を苦手としていたようだが、あれは僕と同じペースでやろうと無理をしていたからだよ。この手の作業は、流石に年季が物を言う。かつてアルバが言っていただろう、焦らず、君のペースでやればいいと。欠かさず毎日やるようになれば、嫌でもすぐに慣れる。

全体基礎科(ミスティール)ならすぐにでも必要単位を得られる程度には、仕込んだつもりだ。

 

ちなみに、いずれ時計塔に渡る時のために、個体基礎科(ソロネア)にある我が家の席を譲る手続きも既に済んでいる。

あちらではシザームントのオルロック翁を後見人として頼るといい。協会の重鎮だが、派閥には囚われない御仁だ。かつて、世話になったことがある。推薦状を同封しておいた。食えないジジイだが、決して悪い人物ではない。

できれば現代魔術科(ノーリッジ)にも席を置くことを勧める。落ちぶれて鉱石科から追い出されたエルメロイのロードが仕切ってるらしいが、だからこそ派閥争いからは適当に距離を置けるだろう。

 

土地や資産の扱いについても同様だ。いつ僕が死んでもいいように、必要な手続きは何年も前に済んでいる。葬儀が終わり次第、一ノ宮弁護士会の長谷部先生を頼りなさい。県議員の石渡先生や小石川先生あたりも、君に将来的な借りを作ろうと、力を貸してくれる筈だ

どいつもこいつも、例の滋養薬が目当てだろう。寿命と若さをほんの少し伸ばすだけの代物に群がる俗物だが、うまく利用しなさい。

 

ま、これらはいずれにしろ大した問題じゃないさ。君なら僕より上手にやるだろう。

本当に重要なのは、魔術師としての、君自身の選択だ。

ここではっきりと伝えておくが、残念ながら、我が来栖家の秘伝の術式では、根源に至ることはできない。

もちろん、胎内に世界の似姿を再現することで根源に至る、というアプローチそのものが間違っているわけではない。数多くの魔術師たちが、同様の手法で根源を目指している。

かつて僕が協会で調べたところでは、似たような手法で胎内に666もの生命の因子を内包させ、原始の生命の海を再現しようとした魔術師もいたようだ。プラハや倫敦とは異なる学舎の魔術師だが、残念ながらそれでも根源には至れなかったらしいがね。

 

しかし、何よりの問題は、我が家の術式そのものにある。

薄々は君も気付いていたのだろうが、そもそも我が放蕩開祖殿が取り憑かれた夢とは、根源への到達ではない。

極めて世俗的な俗物の夢、つまりは不老不死さ。そのために模索した手段が、生命の源を摂取し、生命力を循環させ、その反動に耐えられるよう、自らの胎内を星の有様と同じにカタチに改造することだった。

 

その、真なる完成形とは…』

 

そこから先は、読み進めるほどに、私の背中に大量の汗が噴き出した。

 

ああ、なんて事だ!クソッタレな我が先祖に呪いあれ!

 

『…というわけだ。まったく、ロクでもない祖先を持つと苦労する。

僕はこの研究を何とか真っ当なものに修正しようと足掻いたが、結局、君に押し付けることになってしまったのを残念に思う。

僕は代々続けてきたものを完全に捨て去る勇気もなく、別の道を見つけるほどの才覚もなかった。中途半端な僕にできたのは、この魔術を完結させることだけだったようだ。

だから、これをどう扱うかは、君の選択に委ねる。

魔術師としてさらなる研究を続けるもよし、 全てを打ち捨て人として生きるもよし。あるいはもう一つの道を辿るもいいだろう。

だが、どんな選択になっても、せめて君が幸せな日々を送ることを祈る。

 

すまない、礼子』

 

 

 

 

 

 

 

 

来栖亭は葉山町の山の手、八坂市内を一望できる高台に建っている。

 

明治期に建てられたレンガ作りの洋館の周囲は昼間でも薄暗く、湿った空気が漂っていて、地元の人間でさえ、滅多に近づかない。

 

夕暮れ時に八坂を襲った雷雨は、市内各所を散々に雷鳴で打ち据えると、直ぐに消え去った。

既に海のかなたに太陽は沈み、辺りはしっとりとした闇に包まれているが、真夏の日射で温められた大地と、通り雨の組み合わせは、あたりの湿度を上昇させている。

 

その闇の中、一人の男が無造作に歩を進めていた。

 

黒く湿った腐葉土が幾重にも積み重なり、湿気った絨毯のように柔らかく不安定な足場を乗り越えると、来栖邸の高い尖塔が視界に入る。

ここまでくれば、男の目的地は、もう目と鼻の先だった。

 

「酷い国だな。暑さはともかく、湿気が多くてかなわない。死者の保存には気を使いそうだ」

 

額に浮き出た汗をぬぐいながら、男は懐からジッポーを取り出すと、安い紙巻き煙草に火をつけた。

主人に見られたら、ライターで火をつけることから、煙草の銘柄に至るまで、何から何まで勘気に触れて特大の雷を(魔術的に)落とされるだろう。

 

煙草をふかしながら横目で眺めたそこは、木立の合間に小さな広間ほどね空間が開けていて、十体ほどの亡骸が散乱している。いや、その表現は正しくない。動く死体が、動かぬ死体に成り果てているだけなのだから。

 

「10体がかりで、排除できたのは僅かに2体だけ、か・・・少々見くびっていたかな」

 

男はうんざりしたように、煙を吐き出した。

 

死者達もただ一方的にやられたというわけでもない。青白い肌を持った不気味な生き物の屍骸が混じっている。来栖の魔術師が得意とするホムンクルスだ。

既にこのペースで百体近く、死者を破壊されている。所詮は適当に調達した一山いくらの極東のサルどもなので、いくら壊されたところでどうということはないが、さすがに効率が悪すぎる。

 

「存外ねばるよなあ。面倒な…」

 

煙草を投げ捨てながら、再び森を歩く。

 

来栖邸を囲む里山に踏み入ってから、‪3時‬間と少し。日没を待ってから行動を開始したため、すでに時刻は深夜と言っていい時間帯に移り変わっている。

森には至る所に方向感覚を狂わせる暗示の罠や、意識を奪う有毒の霧、あるいは来栖が得意とする戦闘用のホムンクルスが放し飼いにされていて、一筋縄にはいかない。

 

それらを現地調達した死者の群れをぶつけ、文字通り使いつぶして力任せに突破してきた。まだまだ死者のストックはある。数を揃えて攻めかかるには最適の僕だ。

それに、既に先手は打ってあるのだ。

 

男は笑みを浮かべながら、来栖亭の裏庭に歩を進めた。

その背後には、手に手に火器を装備した、数十もの死者の群れが付き従っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子を監視しながら、私は苛立ちまぎれに爪を噛んでいた。

 

「死者を使い捨て、ね」

 

なんともカンに触る連中だ。

しかし、業腹だが、いくら我が家自慢の戦闘型ホムンクルスといえど、5倍近い物量で来られたら流石に危うい。何せあちらとは、遺憾ながら製造コストが違う。

それにしても、あれだけの量の死者、いったいどこから持ち込んだのやら。ヘタを打てば、魔術協会のみならず、聖堂教会の関与を招くだろう。それは、想像したくもない悪夢だ。

 

「…虫酸の走るやり口ね。相手は魔術師ではなく、魔術使いと見るべきか…」

 

かつては父が寝そべっていた籐椅子の上に足を組んで座りながら、私は離れの壁面に埋め込まれた大型ディスプレイに映し出された襲撃者達の様子を、悶々としながら眺めていた。

 

これは生きたフクロウの目玉を移植した使い魔型ホムンクルスの視界を、電子信号に変換して映し出したものだ。真っ当な魔術師ならゲテモノ扱いするだろう。単なる父の趣味の産物以外の何物でもないと思っていたのだが、まったく、何が役に立つかわからない。

 

「アンナ、擬態型を除いた、精製済みホムンクルスのストックは?」

 

確か戦闘用ホムンクルスは、もう全て払拭してしまったはずである。元々、護身用に数えるほどしか作っていない。

この際、精密作業型だろうが、未成熟な粗悪品だろうが、使えるものはなんでも使うしかない。

 

「稼働中の、戦闘型は、全滅です。精密作業型は、12体。試作、精密擬態型、3体。試作、戦闘型、1体でございます」

 

「試作?戦闘型がまだあるの?」

 

精密作業型は秘薬研究のために必要なので、いくら試作品を作っていようが、分からなくもないのだが、魔術師にとって戦闘は手段であって目的ではない。父が戦闘型を研究し、試作していたというのは、違和感を覚える話だ。

 

「それ、どんなもの?」

 

アンナがラップトップコンピュータを、私よりよほど手慣れた仕草で操作すると、壁面に埋め込まれた大型ディスプレイに概要図が表示される。

 

「…え⁈何このゲテモノ!」

 

映し出されたソレに、思わず生理的な嫌悪感が先だった。

それはとても名状し難い冒涜的な姿をしていたからだ。

 

「元々は、精密作業型の、研究から、作られ、ました。精密作業用の、触腕を、複数、つければ、作業効率が、上がるのでは、ないかと」

 

なるほど、確かに腕を増やせば、作業は捗るかもしれない。うまくいけばホムンクルスの維持コストを下げられただろう。

だが、精密に動かせる触腕を余りに大量にくっつけたために、脳の許容量が追いつかなくなり、結果として発狂してしまったという。

 

「捕食本能、以外の、活動を、制御、できなくなったので、廃棄予定、でした。便宜上、戦闘型に、分類、しています」

 

試作故に寿命は長くなく、あと数日で枯死するらしい。

 

「まあ、ちょうどいいわ。奴らが家の中に侵入したらけしかけて。番犬がわりにはなるでしょう」

 

データ通りの性能ならば、屍肉に群がり貪り尽くすだろう。

 

「承知、いたしました」

 

アンナは何やら手元のキーボードとマウスを操作した。文明の利器に通じた、中世の自動人形とは、真っ当な魔術師が見たら目を疑うだろう。

 

ため息をつくと、私は傍らの遺書をダストシュートに放り込んだ。たちまちのうちに、紙片は粉々になり、一瞬で消し炭に変わる。

最悪でも、これがなければ、我が家の研究の真実に至ることはできまい。

 

「…ああ、もう、本当に。魔術師なんて、どいつもこいつも度がし難い。ねえ、アンナ。私、もう頭がどうにかなってしまいそうよ」

 

「何か、甘いものを、ご用意、しましょうか?」

 

「今はお酒の気分ね。ヘネシー、ちょうだい。1858年物のグランドカンパーニュがあったでしょう?」

 

ブランデーとしては一級品で、ボトル一本で小さな家が建つ値段がする。いつかくすねてやろうと思っていたが、夢が叶った。

 

「すぐに、ご用意、いたします」

 

離れの一角に備えられた、父のミニバーに向かうアンナの背中を見送りながら、私は一抹の寂しさを覚えた。

いつものアンナなら、学生がこんな時分に高級酒を煽るような無作法は、咎めていたはずだ。

それがないということは、既にアンナの主従権が私に移っているということ…いや、今は余計なことを考えるのはやめよう。

 

ハア、と再びのため息。

 

胃はキリキリと痛み、心臓はバクバクと鼓動を繰り返す。

魔術師にとって、死はずっと身近にあるものだ。外法の理である魔術は、時に術者自身に牙をむく。

錬金術の失敗で、毒ガスを作ってしまったことがあれば、ホムンクルスの制御に失敗して襲われたこともあるし、属性魔術に失敗して指先が凍傷でもげ落ちそうになったこともある。

いや、魔術を行使する以前の問題で、胎内で魔力(オド)を生成するにしろ、外界の魔力(マナ)を取り込むにしろ、一歩間違えば魔術回路が焼き切れて廃人になる危険と隣り合わせだ。

 

私の魔術回路の数はメイン、サブ併せて47。属性は希有な火と水の二重属性。

アラヤ先生の見立てによれば、起源は『掠奪』だという。我が来栖家の魔術特性は『変性』なので、下手に起源を揺り起こすと魔術の継承に悪影響がでるそうだ。

まあ、魔術の才能だけなら来栖家の歴史から見ても最高のものを与えられたといっていいだろう。

 

それだけに魔術の修練には細心の注意を必要としたし、幼い頃は魔術回路が魔力を生成する苦痛になじめず、恐怖ばかりが先立って呪文を満足に唱えることすら怖かった。

それを取り除き、私が魔術師として歩けるようになったのは、コルネリウス先生のおかげだ。

 

もっとも、いざ魔術師として、根源を目指してさらなる研鑽を積むべきと、気を張って受け継いだ研究成果の正体が、まことにロクでもないシロモノだと知らされた今となっては…

 

「…もう、あれだわね。呆れを通り越して、怒りすら湧いてこない。でも、苛立ちだけは目一杯、てとこか」

 

今更、目の前の敵を恐れているわけではない。自分でも不思議なくらい、この状況への恐れは湧いてこない。かといって自棄でもない。いや、ある意味ではそれに近いか。

 

ならば、これは八つ当たりだ。

 

「どうぞ、お嬢様」

 

私は、アンナが差し出したグラスを一息にあおった。濃厚な芳香と酒精が舌と喉を焼く。

 

「…悪くはないけど、命の水には比べるべくもないわね。なるほど、これが父さんのせめてもの慰めだったわけだ」

 

まあ、いい。苛立ちは、全て阿保な敵にぶつけてくれよう。

来栖が単にホムンクルスを操るしか能のない魔術師と思ったら大間違いだ。

血流は頗る好調。体調は万全。我ながら、戦意は極めて高い。奴ら、絶対に生かして返さない!

 

「お嬢様、裏門、表門、通用門、三箇所を、同時に、とりつかれ、ました」

 

「そう、ならトラップを起動しましょう」

 

多少は派手になるだろうが、敷地内に設置された結界の遮蔽効果は、簡易礼装の比ではない。

 

私は籐椅子から身を起こすと、窓際をデンと占拠している大型の作業机に向き直った。

その上のスペースの大半を占めているのは、来栖邸周辺の地形を模した精密な立体模型。そのところどころに、破壊されたホムンクルスの残骸や、襲撃してきた死者の群れまでが、忠実に再現されている。

これは全て細微な色砂の固まりでできていて、周囲のマナの流れに呼応し、自ら砂を組み換えて周辺状況を寸分たがわず正確に再現するという、父の手による逸品だ。

 

今、灰色の色砂で形作られた死者の群れは、我が家の表門、裏門、通用門に取り付き、鋼鉄製のそれをよじ登ろうとしている。

 

「…馬鹿め」

 

私は指先に傷をつけると、にじみ出てきた小さな血の塊を3滴ばかり、ウゾウゾと蠢く死者達の真上に垂らした。

 

「Hert herted/唸れ、心臓!!」

 

同時に、莫大な量の魔力が流れ込んできた。

市内各所にある龍脈の起点の地下深く、密かに埋設された要石を通じて、この魔術工房に集まってくる膨大な量のマナ。

最高の魔術礼装である、この魔術工房の機能のおかげで、未熟な私でも無理なく大源の魔力を扱うことができる。

その起点となるのが、私に移植された魔術刻印。刻印の位置は、命の源たる心臓、その真上だ。

 

「Bloodline drifts,goes arond,turns,comes back/

血脈は荒れ狂い、巡り、還りきたれ!」

 

刻印は代々の党首が自らの魔術回路そのものを使い、己が研究の全てを記録させた生きた魔道書。それ自体が臓器のようなものなので、移植にあたっては不具合や適合性の問題が生じる。

故に、重要な臓器の近くは避けて移植するのが通例なのだが、血流を操る魔術を得意とする来栖では、循環系と呼応させて魔力増幅を容易にするため、あえてその位置に移植する。

これにより、素早く効率的に魔力の精製を可能とするのだが、当然、身体に与える負荷が大きく、副作用が強い。

事実、来栖の歴代党首は、その多くが心不全を患って早世していた。

 

「Beat Blood /我が血に呼応せよ!!」

 

同時に、足元に刻まれた魔法円が輝きだす。

まるで傷口から吹き出したばかりような、鮮やかな血色の魔力。

それは幾重もの螺旋状となり私の体を取り巻きつつ、この屋敷全体に張り巡らされた魔力通路(パス)に隅々まで行き渡り、侵入者避けの機能の一つを、一瞬にして機能させた。

とたんに、眼下で群れていた死者たちを示す色砂が、白く染まると崩れ落ちる。

壁のディスプレイを確認しても、熱量をほぼ全て掠奪されて、絶対零度近く冷やされ、砂のように崩れ去る死者の様子が、ありありと映し出されていた。

 

「お見事、です」

 

工房の機能におんぶ抱っこの魔術行使だったが、この規模の大魔術を成功させたのは久々だ。

威力に関しては申し分なく、会心の出来だった。

 

…だが、おかしい。

 

「…マナの収束が悪かった。おかげで効果範囲が狭い。ほとんど全部凍結させるつもりだったのに、取りこぼしが多すぎる」

 

巻き込んだ筈の範囲まで寒波が届かず、未だ健在の死者がちらほら確認できる。

 

これは、まさか…⁈

 

「やられた!夕方の雷雲だ!奴ら、落雷を使って龍脈の流れを荒らしやがったんだ!!」

 

思わず口汚い言葉がついて出た。

 

夕暮れ時を狙った天候魔術!父から習った古い定石の通りだ!

 

魔術師が土地を管理しているなら、そこに防衛魔術を仕掛けているのは当たり前なので、逆に襲撃する側がそれを無効化しようとするのは当然だ。

おそらく天候魔術で、市内の龍脈の各所に落雷を落とし土地を傷つけ龍脈を乱したのだろう。

土地が傷つけられれば、自然と魔力の通りは悪くなり、精度も下がる。

 

父から聞いてはいたが、今の今まで忘れていた。

天候を操る魔術は珍しいものではない。例えば雨乞いの儀式なんて、歴史を紐解けば世界中に類似例が散見している。魔術基盤としては強固なものだ。しかし、現実的には、現代の魔術師にはあまりにも難易度が高いので、頭から除外していた。

とはいえ、ここ最近続いた真夏日のせいで温められていた大気と、海沿いで湿気が多い土地という条件があえば、雨雲を呼ぶ程度ならさほど難しくはないかもしれない。

いや、むしろ都合よく自然発生した雷雲を利用して、雷の落着場所を誘導したという方がありえそうだ。それならば、必要なハードルはグッと下がる。

しかも、時刻は夜と昼の境、夕暮れ時は魔術的には神秘の切り替わる間隙にあたる。そこを狙われては、いかな我が家の術式でも守りきれない。

 

これまでも土地を狙ってきた連中はいたが、ここまで大規模にやらかされたのは初めてだった。次があれば、留意しておこう。

 

「第二波を打ち込むか…いや、マナをかき集めるより、奴らが屋敷に押し入る方が早い!」

 

思わずほぞを噛んだが、後の祭りだ。

 

「アンナ、武装を!それと例のホムンクルスを引きずり出して!こちらから打って出るわよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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