被物語   作:柊狐白


原作:物語シリーズ
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自分を見つけてしまった少女のおはなし
(注:物語シリーズの二次創作とは銘打ったものの脈絡なく忍さんや阿良々木先輩が出てくるだけでほとんどうちの子です)

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被物語

001

 

風景を文章で表すのは無理だと何処かで聞いた。

いま一瞬の視界を切り取っただけでも小物色彩質感距離など描写すべきものが面白いくらいにある上、仮にそれを全て文字に書き起こしたとて全て伝わるわけではない。

例えば色彩に限って言えば色彩番号というのかな、そういう表現は出来るけども、それを理解できるのはその知識がある人だけ。自分の持つ知識が他人にもある前提で文字を書くなんて、どうなんだろう、幼稚と形容するべきだろうか。

さておき、一瞬の風景でもそんな膨大な情報量を誇るそれを、連続させ映像に変換させるとどうなるか。

言わなくても分かる通りそれだけで本が一冊作れる。そして内容が薄すぎて私だったら途中で寝る。

とかいうわけで、文字に書き起こすという行為は今の風景に近い言葉を探して並べるとそういうことだと認識しよう。

妥協しよう。

人間を二文字で表したら、みたいなものがあったりするのも、そういうものだと思う。その人の人となりを言い表すものとして最も適切な表現を挙げるものではあるが、しかしそれはその人の全てではない。

例えば(さっきから例えすぎな気がするがそれも妥協するとして)他校の話になるけれど、神原駿河さんの場合だったら傑物。しかし、それで彼女の過去や人間関係を表せるわけではない。私なんかには知る由もないのだが。

例えば悪名高い阿良々木先輩ならば変態。しかしそれだけで彼の家族構成が理解できる事はない。

妹さんたちのことは知っているけれど。

阿良々木先輩とは正反対の評価だ。

例えば、私_____嘉田城紅葉の場合だったら、人形だろう。

もちろん、ご飯も食べるし、話せるし、動けるし人形そのものというわけではない。

しかしそこに私の意思の介在しなかったそれは人形と形容するに足りるものだった筈だ。

ならば、こう戯言を垂れ流している私は紅葉ではないのか?

否だ。

人形の私も私だったし、これを語る私も私だ。

少し性格が変わったくらいで、立場も何もかも変えられるほどこの世界は優しく出来ていない。

けれど救いが無いわけでもない。事実、私は救われたんだから。その物語を誰かに伝えたところで罰は当たらないだろう。

救われようが何を語ろうが、言った通り私は私でしかいられないのだけれど。

 

『被物語』

 

【第✕話 くれはドール】

 

002

 

瞼を上げる。

目に映る天井の木目が、昔は人の顔に見えると感じていた、感覚が頭を過ぎる。

…今となってはいくら見てもそれは木目であってそれ以外の何も感じる事も出来ない。そもそも何を連想する気も感情を覚える気もないのに感想を捻り出すだなんて、滑稽なものだ。それに笑うつもりもないけれど。

布団を引き剥がし、体を起こす。

季節が季節だからか、外の空気は冷たく、私は身を震わせる。

嫌がっても問題を先送りにするだけだから二度寝と洒落込むつもりなんてないけど。

着替えて、台所へ向かう。

朝食を作るその手つきはもう慣れたもので、時間というものが家族の死に対しての感慨をも風化させるという事実すら驚きを与えない。

今更だ。

人と人とは支え合って生きているだなんてよく言うけれど、支え合うその相手は特定の誰ということはないのだろう、代替品などいくらでもある。

代替品すら受け取ってないのだけれど。

もう悲しくも寂しくも何ともない。それらを感じたところで今更だし、疾うに考える事など放棄してしまっている。

「いただきます」

考える事を放棄しても、それに関してはもはや習慣というべきか刷り込まれたもので、実際食材に感謝を込めるつもりなどないけれど、ずるずると続けてしまっている。

他に関しても同じことが言えるようで、理由なんか失くしても続けてしまう。

生きる理由を失くしてもずるずると生き続けてしまう。

この何も考えない人形みたいな状態を、生きていると言うならば、だけど。

 

003

 

学校での私の立場は別に悪いわけではない…筈。

それなりに上手くやっているはずだ。話を聞くのは得意だし。

赤べこの親戚の名を恣にするくらいの能力は持ち合わせている。

欲しくはないけど。

…そう言えば相槌打つだけって話聞くの得意って言うのかな?

まぁいいか。意識して聞いたところで噛み砕き深く考える気なんてないんだし。

「あの、嘉田城さん、」

話しかけるクラスメイトの少年。名前は確か、茜くんとか言ったはずだ。

女の子のような名前だけど、男の子、女の子のような華奢な体つきだけど男の子、女の子のような可愛らしい顔だけど男の子。

…男の子。

彼自身は日陰側の人間だと思っているらしいが、その子供のような…とは違うか。愛くるしい?見た目からか女子側からの人気は高い。

この子を見てると女の子より女の子というか…少なくとも男の子には見えない。性別茜くん。

彼のおかげで女の子をやめた元女子も多いと聞いたが、果たして…?

まぁそれはいいとしよう。そこまで興味はない。

「ん、何の用でしょう?」

「いや、用ってほどのことじゃないんだけどさ、アンケートを委員会で集めないといけなくて」

それは多分用ってほどのことだよ。

「あれ、でも配られた覚えないんだけど…」

「あっ、いやその、手伝って欲しいなって…」

「んー、まぁいっか」

でもなんで私なんだろう?

そんな疑問が浮かぶけれど、考えなくてもいいものだ。

余計なこと考えるから辛くなるんだ、と家族を喪ったときに気付いたんだ。

何も考えなければ辛いなんて感じずに済む。

だから。

何も考えなくていい。

何も考えたくない。

回るだけの歯車になる方が、壊れるよりマシだ。

 

004

 

…。

いつの間にか散らかっていた自宅。

まぁ確かにそういえば片付けしてなかったけど。

にしてもこんなになってたとは…。

空き巣が入った説すら浮かぶような散らかり具合だ。

まぁ空き巣に入られたところで、通帳とか印鑑とかいう大事なものは持ち歩いてるから何もとられようがないんだけど。

けれど片付けしなくちゃならないっていうのはそれだけで被害ではある。

まぁ片付けるんだけどさ…と。

視界の端に黒くててかてかした虫が映る。

その姿に身が竦むのは意志の有無に関係はない筈だ。生理的嫌悪感、言わば本能だろう。

「ひゃあッ!?」

後ろに倒れ込む私。

衝撃で積み上がった箱が崩れ落ちる。

わざわざ積み上げるとは何考えてるんだ、嫌がらせかよ空き巣さん。

「って」

その箱の中から除く、糸。それとも髪の毛か。

それは、私の髪の色と同じ色。

「待って」

その箱に近寄る。

「なに、これ」

おそるおそる。

箱に。

手を。

かける。

見ちゃ駄目だ。

だって、それは、私が…

私が、なに?

知らない、知らない、知らない!

私はそう言い続けるけど、私はそれを聞かない。

 

中身は、私だった。

 

005

 

やだ、やだ、やだ、

私が久々に抱いた感情は、嫌悪か、恐怖か、判別をつけることはできない。

ひたすら走る。どうせ現実逃避なのだけれど。そもそも、あの箱の中身は現実なのだろうか?確かめるのが怖い。怖い。やめて、

「たすけて…っ」

それは誰に向けたわけでもないのだろう。友達に話したとして、私が否定されるのは、私として見られなくなるのは、きっと耐えられない。

「助けて、か。人は1人で助かるだけ、っていうのはメメの台詞だったね」

けれど、それを聞いた人はいたみたいで。

「大変そうだねそれはそうだろう、家の中から自分が見つかったんだから」

「だれっ、な、んで…知っ、」

「私かい?私は臥煙伊豆湖、」

それは女の人だった。

見たところ20代だろう、しかしやたらと若い服装をしている。

「なんでも知ってるおねーさんだ」

そういうことらしかった。

 

006

 

私は救われた気でいた。

というか、救われる気でいたのか。

だからだろう、

「嫌だよ、君を助けたりなんてする訳ないじゃないか」

その言葉を呑み込めなかったのは。

「えっ」

「私も暇じゃないんだよ。それとも何だ、私が助ける理由を君が用意してくれるのかい?」

「いや、だって」

私は困っているんだ。

だから彼女が私を助けるのは当然のことじゃないか。

「まるで子供の癇癪だね」

きっとずっと何も考えていなかったことの弊害だろう、精神が成長していなかったらしい。

「そもそも私に助けを求めるのが筋違いなんだよ、余計なお世話は彼の十八番だろうに」

携帯を取り出し誰かと電話する臥煙さん。

「けど私にも人の心はあるからね、申し訳程度の情けならかけてあげようじゃないか」

電話を切ってこちらを向く。

「浪白公園で待っているといい」

 

007

 

臥煙さんから僕の携帯に電話が入ったのは八九寺と戯れている時だった。

「お前様、あれはおそらく世間一般的に戯れているとは言わぬ」

「うるさいぞ忍ー、なんだお前あれか、嫉妬しちゃってんのかー」

「我が主様が囚われの身となってしまえば色々と不便じゃからの」

「ナチュラルに犯罪者扱いするんじゃねえよ。最悪そうなっても親に頼んで出してもらうさ」

「子供のころの純粋な主様の面影もないの」

「やめろ。というかその頃の僕をお前は知らないだろう」

「お前様の影の中で主様の過去が見られてのぅ」

「前から気になってたんだけど僕の影の中ってどうなってんの?」

「映画3本分でまとめられるとは、お前様も薄い人生を送ってきたものよの」

「お前それ多分だけど春休みのやつだろ!」

あれからのことはそれなり濃い人生を送ってきたよ!!アニメ化出来るくらいには!!

「冗談じゃよ、かかっ」

「そ、そうだよな。…じゃあなんで知ってんだ」

「西尾維新先生作の物語シリーズ原作があって」

「嘘だろ!?ちなみに、どれくらい読んだんだ?」

「結物語までじゃ」

「お前それ今回の時系列追い越しちゃってんじゃねぇか!どうすんだよこの矛盾!!」

「大丈夫じゃよ、儂の頭の中とお前様の影の中以外にその文章は存在せん」

「お前、どんな時間軸に存在するんだよ…まさか複数の時間軸に跨ってたりしないよな?」

「そんなことあるわけないでしょう」

「口調が変わっちゃってるぞ」

「冗談じゃよ本気にしたのか、わっはっは」

「いやもう誰だよ!笑い方忘れちゃってんじゃねえか!!」

とか忍と遊んでる間に浪白公園に辿り着く。

そこにいたのは、目に光のない少女だった。

 

008

 

来たのは阿良々木先輩。

そう、阿良々木先輩。

あの。

変態として知られる。

「阿良々木先輩!?」

「なんで名前が知られてるんだ、もしかして僕有名人だったのか!?よしわかった、握手くらいなら」

「あっすいません近寄らないでもらえますか」

「そこまで嫌悪感抱かれるようなことした僕!?」

いやだってこれはなんというか。

変態さんから逃げて何が悪い。

逃げなければヤられる…!

「お前様、」

と、阿良々木先輩の裾を引くのは金髪の幼女。

「このひとまた幼女に手を…」

「おい待て誤解がある、取り敢えず話をしよう」

「えぇ、」

けどまぁ風の噂だけで人を判断するのは良くないだろう。

「はい、なんの話でしょう」

「まずスリーサイズを教えてくれないか」

風の噂はなにも間違ってなかった。

「お前様!」

と、声を荒げるのはその幼女。

「待て忍、」

「儂は」

幼女は私を指さした。

「この娘を喰えばいいのじゃろう?」

 

009

 

食べる?

今この幼女は食べると言ったか。

「まだ、決めつけるには早いだろ」

「そうでもない、こやつは確実に怪異じゃよ」

「っだからって!!」

「甘いのう、我が主様は」

そう言った幼女は腹に手を突き刺し、日本刀と思わしきそれを取り出す。

「待っ、」

「儂が代わりにやってやろう」

刀を振る幼女。

それによって、私の腹は裂かれる。

もう一回、刀を振る。もう一回、もう一回。

もう一回、体が裂ける。もう一回、もう一回。

その裂けめからいわゆるはらわたというものがとびでてきて、どうろにぶちまけられる。ふわふわ、びりびり、ぼろぼろそれをぼぅっとみつめるわたしにももういしきなんてないんだろうそれをみることすらだんだんかなわなくなっていくなにもみえなくなってなにもみえなくなってなにもみえなくなってみえないみえないみえない。

なにも、

なにも、

なにも…。

 

010

後日談というか、今回のオチ。

私が目を覚ましたのは、箱の中だった。

阿良々木先輩に売られたのかな、とかそういうことを考えたけれど、どこの薄い本でもそんな急展開は見られないだろう。

そもそもそこは私の家だった。

片付けの途中で力尽きたあの、あれ。

手元をまさぐってみると、手紙。

やけに拙い字だった。

『わたしへ

おとうさんもおかあさんもおばあちゃんもいなくなっちゃってかなしい。

だから、おともだちをつくろうとおもいます』

思い出す。

『おにんぎょうをつくって、それにねがいをこめればいいんだって。

どうしておてがみをかいているかというと、そのおまじないがせいこうするとぜんぶわすれちゃうそうです。』

人形に霊力を込めて友達になる、その本には確か式神術の1種だとか書いてあった。

私はそれに縋って、実行したのだ。

実際それで私の友達、もしくは家族が出来る筈だったのだが、どうやら私は力を込めすぎたらしい。

私が私として機能することがなくなり、その友達になるはずだったそれが私として生きていたのだ。「…はぁ」

それが失敗しただけならいい。

その私(偽物)でも私の人格を持って生きていられたのだけれど、私の体を見つけたのが運の尽き…。

そうだろうか、と自分に問う。

実際、見つけたお陰で本来の体に戻ることになり、感情も取り返した。

…斬られたことは気にしないでおこう。

感情に整理はまだつかないが、しかしだからといって日常が待ってくれる訳では無い。

着替えて、ご飯をつくる。

「…案外美味しい」

いつの間にか料理の腕が上がっていた。

 

「あっ、かたしろさん、おはよう、」

「ん、おはよ」

真っ先に挨拶をしてきたのは茜くん。

朝から見ると尚更なんか癒されるわ…って。

よく見ると、彼の頬が少し赤らんでいる。

「…ふふっ」

今までの彼との会話を思い出したら、少し笑ってしまった。

どうして、こんなあからさまな好意に気付かなかったのだろう。

「茜くん」

「ふぁいっ!!」

後ろを向いて小声で「うっしゃ名前おぼえられてたぁぁっ!!!」とガッツポーズをとる茜くん。名前くらい覚えてるよ。どんだけ自己評価低いんだ。

まぁそれは取り敢えず流す。

少なくとも、昨日のことは私にとっていいことだったとわかった。

 

「私と付き合ってよ」

 

彼に対するこの感情も、きっと昨日のことのお陰で気づけたものだから。



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