Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 妹へ送るエール 作:ハープ
「──お待たせ」
「……イリヤは良かったの?」
「……昨日のアレがトラウマになっちゃったみたいでね。近付いても怖がって逃げちゃうのよ」
「あ、その……ごめん、なさい」
「いいのよ、気にしなくて。今は
「……うん」
「じゃ、気分切り替えて…」
「ラストバトル、始めますわよ!」
「
〜エール side 〜
「凛、ルヴィア!上!」
「なっ⁉︎」
「くっ!」
二人に注意を呼びかけると同時に、私も跳び上がる。直後、私達がいた場所にナニカが降ってくる。
「お姉ちゃん!凛さんルヴィアさん!──
後方で範囲外にいた美遊がソレに魔力砲を放つ。が、
「◼️◼️◼️◼️◼️!」
「効いてない…⁉︎」
「美遊!この、こっちを向きなさい!」
砲撃を無力化され戸惑う美遊へと向かっていくのを、咄嗟に黒鍵を投擲して注意を逸らす。
「◼️◼️◼️◼️!」
上手くいってくれたらしく、こちらに向かって殴りかかってくるのをバク転で躱す。空振りとなった拳が床を抉る度、瓦礫と化したそれらが飛び散る。
──流石はバーサーカー、といったところね。
最初はセイバー戦同様干将・莫耶を使おうかと思ったけど、私なんかの細腕で戦おうものなら例え完全に受け流せたとしても十合と保たずに腕が折れると思う。相変わらずの馬怪力だけど、斧剣がないのがせめてもの救いか…って⁉︎
「しまっ⁉︎」
気が付けば既に壁際で、これ以上下がれない。
「あー、もう!」
間一髪、バーサーカーの股下を潜り抜け、振り下ろされた拳を躱す。
「お姉ちゃん、大丈夫⁉︎」
「肝が冷えたわ…」
もう二度とあんな回避法はしたくない。
「やっぱりここ狭すぎよ。やり難いったらない」
「あの突進力はやっかいですわね…!」
「どうにか足止めできない⁉︎」
上手いこと合流した凛達が対策を練ろうとしてはいるものの…
「無理です。魔力砲が効いていません。というより、身体に届いてすらいないように感じます」
「対魔力とは違う、より高度な何か…!」
「まさか、宝具…⁉︎」
導き出される答えに、凛が慄く。あの攻撃を見た上でさらに鉄壁なんて分かれば無理もないか。…もっとも、実際はそれ以上な訳だけど。
「来ますわよ!」
「くっ…私が抑える!隙をついて美遊がランサーで!」
──
再度突進してくるバーサーカーを、ラウンドシールドで受け止める。
「グゥッ!」
突進の威力を乗せた一撃は雪花の盾ですら防ぎ難い。受け止めこそしたものの、余りある力で吹き飛ばされる。
「お姉ちゃん!」
「っ…!」
踵を地面に突き立て、そのまま脚を軸に無理矢理回転する。
「ふん、にゅっ!」
吹き飛ばされた勢いを乗せて盾を投げつける。さしものバーサーカーもランクと関係なしにその質量に警戒したのか、動きを止めて受け止めた。
「今よ!」
「
即座に美遊が回り込み、宝具を開帳する。
「◼️◼️◼️……」
「はあ、はあっ…ふぅ」
心臓を穿たれ、沈黙するバーサーカー。正直ランクが微妙な気もしたけど、無事一度殺せたらしい。
ようやく一回……あと十一個、削り切れるのかしらこれ、ってマズっ!
「よくやりましたわ
「エールもお疲れ「美遊、離れて!」え?」
背中を貫いたまま肩で息をしている美遊をルヴィアが労っているけど、そんな暇はない。凛の言葉を遮りながらバーサーカー─その背中にいる美遊─めがけて突っ込む。
「…◼️◼️◼️◼️◼️!」
「な……⁉︎」
蘇生が完了し、再び雄叫びを上げるバーサーカー。あまりの事態に美遊は動けていない。
お願い…届いて──!
「◼️◼️◼️◼️◼️!」
「キャッ⁉︎」
「カフッ!」
間一髪、美遊だけは突き飛ばすことに成功したものの、私自身は無防備にバーサーカーに吹き飛ばされ、コンクリの壁に叩きつけられる。
「エールスフィール⁉︎」
「復活した…⁉︎デタラメにも程があるでしょうが⁉︎」
凛達の驚愕の声が聞こえる。
──意識飛び、かけた…けど、橋の鉄骨よりはマシね。凹凸ないし痛み全身に拡散したし。
内心で強がってはみるものの、ダメージは大きく動けそうにない。
「撤退よ!不死身の相手なんてしてられないわ!」
「美遊!エールスフィールの回収を!」
「は、はい!お姉ちゃん、掴まって!」
「悪いわね…っ!
姉としては不甲斐ないことこの上ないけど仕方ない。
身体強化した美遊に抱えてもらい、牽制に剣を射出して爆発させながら、凛達に続いてビル内部に逃げ込む。
──とはいえ、逃げると言っても時間が経てばストックも回復してしまうし、どうしたものかしらね………
〜エール side out〜
〜美遊 side 〜
「ここまで離れれば……お姉ちゃん、大丈夫?」
ビル内を走ること数分。十分に距離を稼いだところで、お姉ちゃんの様子を見る。
「なんとかね…。ったく、ホント馬鹿力よ。骨が折れずに済んだのは奇跡ね」
軽口を叩きながら私から降りる姿に無理をしている様子はない。ひとまずホッとすると共に、罪悪感が胸に去来する。
「…ごめんなさい。私が早く気付いていれば……」
「そういうのは言いっこなし。流石にアレは反則級だもの、仕方ないよ」
俯く私の頭に軽く手を置いて慰めてくれるけど、暗い気持ちは拭えない。
「でも…私なら
「それは確かにね〜」
魔力補充に宝石を飲み込みながら、軽い口調で返すお姉ちゃん。
理屈で言えば、回復にリスクのない私が受けた方が良かったはず。お姉ちゃんが身代わりになっても戦略的にメリットはない。口振りからそれに気付いているのは分かるのに、どうして……?
そんな風に考えながら見つめると、お姉ちゃんは悪戯っぽく笑って、
「でも、仮にも私は美遊のお姉ちゃんだもの。妹を守るのは当然だよ」
「あ………」
『俺は兄貴だからな。妹を守るのは当然だよ』
思い出すのは、別れ際のお兄ちゃんの言葉。私の心ない言葉も気に留めず、伝えてくれた優しい願い。
「……ありがとう」
思わず泣きそうになるのを必死に押し殺す。
「ふふっ、どういたしまして」
特別なことを言ったつもりはないのだろう。私のお礼をお姉ちゃんは深く捉えた様子はなく、優しく微笑む。
──でも、だからこそ。
「………空気読んで黙ってたけど、あまり余裕ないのよ?」
「──はい」
「限定次元反射路形成、鏡面回廊一部反転───」
凛さんに促され、準備を始める。
──今度は、私が。
「───ダメだよ美遊?一人で残ろうなんて」
「え?」
──瞬間、身体を引き戻され、代わりにお姉ちゃんが魔法陣の外に出る。
「なっ……⁉︎」
「エールスフィール⁉︎」
ルヴィアさん達が目を見開く。
「
「!お姉ちゃ──」
サファイアの声で我に返り、咄嗟に手を伸ばしたけど、術式が発動して私達は実数域に戻されてしまった。
お姉ちゃん、どうして……?
〜美遊 side out〜
〜エール side 〜
「──ふぅ。なんとか間に合ったか」
サファイアによって鏡面界から離脱していく美遊達を見送り、息をつく。
美遊の性格からして、一人で残って戦おうとするのは読めていたし、当然そんなことをさせる気はなかった。さりげなく私も一緒に残って二人で戦う、という選択肢もなくはなかったのだけど、これからやることを見られたくもなかった。
「徹底するなら、サファイアはこっちに残しとくべきだったかな。魔力も気にしないでやれたのに…っと」
「◼️◼️◼️◼️!」
天井を突き破ってバーサーカーが降ってくる。休憩時間はおしまいらしい。
「……どこかの世界ではイリヤを守ってくれてありがとね。でも──」
黒弓を投影し、向かい合うバーサーカーに構える。
「──ここでは敵同士。乗り越えさせてもらうよ、バーサーカー!」
──
「────!」
空間を捻じ切る勢いで放たれた一射は心臓を貫通し、バーサーカーから命のストックを一つ奪う。
「今の内に…!」
剣軍を投影し、バーサーカーの足下を破壊して地面まで叩き落とす一方で、自分はバーサーカーが作った穴から屋上まで戻る。これで少しは時間が稼げるはず。
「……とっておきよ」
そう言いながら取り出したのは、ルヴィアから貰った宝石。私個人の魔力では、
「………!」
宝石を握る手が震える。
──でも。
「もうこれ以上、イリヤ達を戦わせたくないから……。私は、あの子達の平穏な日常を取り戻す──!」
怖気を振り切って詠唱を始める。
「──
詠唱と同時に、カードと座との繋がりを意識する。
…ただ詠唱しただけじゃダメ。アイツの全てを持ってこないと、私がコレを使うことは出来ない。
「
一つ一つ唱える度に、座からアーチャーの力を引き出していく。
「──!」
ピシリ、と視界がひび割れる。アーチャーの情報が次々と流れ込み、私という存在を飲み込もうとしている。
──っ…ここからは私とアーチャーの勝負。私が打ち勝つか、それともアーチャーに飲み込まれて意識が消えるか……!
「─
耳鳴りがする。頭痛が警告のようにガンガンと響きわたる。風が体を切り裂くように、意識がバラバラに引き裂かれていくのを必死に繫ぎ止める。
「
───ついてこれるか。
「っ!」
風の向こうから、そんな言葉が聞こえた気がした。私を突き放すようで、激励しているような声。
──上等っ!
己を鼓舞して最後の詠唱を唱える。
「
瞬間、炎が広がり、鏡面界を塗り替える。荒野に無数の剣が突き刺さり、歯車が紅い空を覆う
「◼️◼️◼️◼️………」
突然の景色の変化に驚いたのか、警戒した様子を見せるバーサーカー。
「さて、久しぶりだなバーサーカー。もてなしを変えられないのは申し訳ないが、私にはコレしかないものでね」
そう言いながら腕を広げ、突き立てられた剣を見回す。
「──改めて告げるしよう。これより貴様に立ち塞がるは無限の剣。剣戟の極致………恐れずしてかかってくるがいい!」
「◼️◼️◼️◼️◼️!」
私はデュランダルを手に取り、向かってくるバーサーカーに挑んでいった。
「はあぁぁあ!」
「◼️◼️◼️◼️!」
〜エール side out〜
エール「第三回プリエ座談会、今回はノーゲストでいきます。座談会じゃないとかのツッコミはなしで」
エール「テーマは一つだけ。『最後口調アーチャー化してない?』」
エール「これは後々本編でも軽く説明することになるとは思うけどね、要するに固有結界の弊害よ。本来他人の心象風景を具現化なんて出来ないけど、クラスカードの特性を利用して可能にしたわ」
エール「本編の私は少し誤解してるけど、カードはアクセスした座の英霊に自らを置換する。だからこれのセーフティを外す、つまり限界を超えて置き換えを行うことで、自分の存在が侵食される代わりに英霊本来の力に限りなく近づけるのよ。存在が英霊になっていくんだから、突き詰めれば固有結界の展開まで持っていける、って話ね」
エール「ま、そんなことしたら最悪自我が消滅して、英霊に身体を乗っ取られちゃうから、普通そんなことしないけどね。ちなみに今の私はその一歩手前でギリギリ踏みとどまってる状態です。イメージし辛かったら、美遊兄の状態を意図的に引き起こして、それを更に悪化させた、みたいに思ってくれればいいわ」
エール「今回の解説はここまで。次回は…美遊達が鏡面界から戻った後の話から、かな?イリヤも復活してくれるはずよ。私の戦いは……文量次第ね」
エール「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 妹へ送るエール
次回もよろしくお願いします」