Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 妹へ送るエール 作:ハープ
〜エール side〜
「退院おめでとう、エールちゃん」
「えへへ、ありがと、ママ」
ママから名前をもらってから一週間が経ち、ようやく退院できた私は、ママと一緒に家へと向かっている。
正直、身体はとっくに治っていた─回復速度が尋常じゃなかったし、
「じ、じゃあ、やっと会えるよね!ママがずっと話してた、私のお兄ちゃんと…妹?でいいの?」
照れ隠しも兼ねて聞いてみる。私の方がハッキリしないけど、年は同い年くらいらしいし。
「そうね……貴女の方がしっかりしてそうだし、イリヤのお姉ちゃん、お願いできるかしら?」
そんな笑顔で頼まれたら断るなんて選択肢はない。元々断る気もなかったけどね!
「もっちろん!任せてママ!」
そんな思いで、胸を張って主張する。サムズアップのおまけ付き。
……なんか、行動が肉体年齢に引っ張られて来ているような。
「あら、頼もしいわね。……それと、申し訳ないのだけれど、貴女を送ったら、私と切嗣…私の夫ね。私達はしばらく出掛けないといけないの」
「そうなの?ちょっと寂しいかな〜。でもどうして?」
正直ホントに寂しいし、イリヤを置いて長期間家を空けるなんて信じられなかったんだけど……
「えっと、色々やらないといけない事があるの……」
と、はぐらかされてしまった。
「ふ〜ん、そっか。でもたまには帰ってきてよね!」
「!ええ、約束するわ」
そうこうしている内に家に着いたみたい。
……やっぱり武家屋敷じゃないんだ。まあ、普通の家の方が落ち着くからいいけど。
「……………」
「?どうかしたの?エールちゃん」
「えっと、入る時ってただいまでいいの?初めて入るけど」
なんだかちょっと変な感じがする。自分の家だけどまだ自分の家じゃない、というかなんというか……
「もちろん、ただいまでいいと思うわ。ここはもう貴女の家なんだから」
「……そっか。そうだよね」
難しく考えるのはやめよう。ここは今日から私の家。なら迷う必要なんてない。
「「ただいま」」
……ふふっ。なんかいいな、こういうの。
なんて小さな幸せに浸っていると、
「お帰りなさいませ、奥様。貴女がエールさんですね。奥様からお話は聞いております。
私はアインツベルンのメイドのセラと申します。これからよろしくお願いします。」
あー、えっと、なんというか……
「セラかた〜い。エール困ってる」
堅苦しすぎて微妙に引いていたけど、誰かが私の内心を代弁してくれた。
「リーゼリット!貴女はだらしがなさ過ぎるのです!というか、イリヤさんの事を任せていたはずですが?」
「シロウに預けた。あ、私はリーゼリット。長いからリズでいい。よろ〜」
「うん!私エール!よろしくリズ!」
こっちの方が楽でいいなぁ。あ、
「リーゼリット!貴女は自分がメイドだという自覚があるのですか!こちらにきてからというもの、日に日にだらしなくなって……クドクド……」
なんか長くなりそう……って、リズが目で助けを訴えているような。……よし、ついでだから助けてあげよう。
「ねぇねぇリズ、イリヤ達ってどこ?」
「ん、こっち。セラ、私はエールを案内する。そこどく」
どこか勝ち誇っているリズに、セラが悔しそうに歯噛みしている。……ちょっと悪い事したかも…。
「ぐぬぬ…おのれリーゼリット。………まあいいでしょう。改めて、エールさん達は任せましたよ。私は夕食の準備があるので」
おお、流石プロ。切り替えが早いね。
「エール、イリヤ達はこっち。セラの事は気にしなくていい」
「あ、うん!」
そうだった。今はこっちが大事。さてさて、どんな感じかな〜♪
「ほい、この部屋」
あ、着いた。どれどれ……
取り敢えず気付かれないようにそっとドアを開けると、
「おにぃちゃんっ」
そこには、なんとも微笑ましい兄妹の姿があった……。
こんな時間を過ごせなかった結末を知っているからこそ、その光景が一層尊く、侵し難いものに見えた。
………もう少し、このままにしておこうかな。
「どうかした?」
一向に入ろうとしない私に、リズが声を掛けてきた。
「………うん。もう少しだけ、見てたいな、って……」
「?」
リズが私の返事に首を傾げつつ、部屋の中を覗き見ると、
「………納得。でも子供が空気を読む必要はない」
「え?……⁉︎ちょ…⁉︎」
とっさに逃げようとしたけど、力でリズに勝てる訳もなく、部屋に入れられてしまった。
「「………」」
「えーと、あはは…」
驚いて固まっている二人。
無言の視線が辛いので何か喋って下さいお願いします。
「あー、今日からウチに来る子、だよな。俺は衛宮士郎。君と同じでここに引き取られて来た。それでこっちが…」
「イリヤだよ!イリヤスフィール・フォン・アインツベルン!あなたのなまえは?」
そんな私の切実な願いが届いたのか、自己紹介をしてくれた二人。あどけない笑顔で迎えてくれるイリヤが可愛い。
さて、きっかけ作ってくれたんだから私もしっかりしないと。
「私はエール。エールスフィール・フォン・アインツベルン。今日からイリヤのお姉ちゃんだよ♪」
よし、取り敢えず挨拶は悪くないかな……。およ?士郎が何か疑うような目をしている気が……
「どうかした?えっと、士郎お兄ちゃん?」
うん、呼ぶの長い。
取り敢えずお兄ちゃん呼びしたけど、なにかのタイミングで呼び捨てよう。
「あ、いや、その…二人が同じくらいに見えたから、ホントに姉なのかな、ってちょっと」
あ、それか。そういう細かいところを突っつくから将来余計な事言って痛い目に……。まぁ、今それはいいか。
「ママの決定です!」
この家における最高権力者の言葉は絶対。
「って事だから、これからよろしくね、イリヤ」
「うん!えへへ」
頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。
……綺麗な笑顔。こんな風に笑うことの出来なかった世界を、私は知っている。
せっかくの幸せなんだから、ずっとこんな風に過ごさせてあげたい。
そんな風に思っていると、ふと私達以外の気配がした。
「………いつから覗いてたの?ママ、とおじさん」
私がそう言うと、扉の陰からママと見知らぬおじさん(笑)が出てきた……。すごく傷ついた顔してるけど。
「う〜ん、エールちゃんが誰か喋って〜って顔してたあたりから?」
あ、あれを見られた…⁉︎
「それってほとんど最初からじゃない!もう、いたなら出てきてもいいのに…」
思わず顔を赤くして叫ぶけど、ママはどこ吹く風。
……一緒に帰って来たのに忘れてた私が悪いか。
「それで、そのおじさんは?」
頭を切り替えて一応初対面の人について聞く。さっさと聞いておかないとボロを出しそうだし、ここで名前を聞き出しておくとしよう。
「おじさん……こ、こほん。僕は衛宮切嗣。アイリの夫だ。君から見れば、パパ、ということになるかな」
どこか傷ついたような表情を見せつつ、自己紹介をしてきたけど、ふむ……パパ、パパ?
「な、なにかな。僕を見ながら唸っているようだけど」
「…………なんか、パパって呼び方合わない」
グサッ!
あれ、なんかやっちゃった?
切嗣が泣きそうな顔で崩れ落ちてしまった。
「奥様、夕食の準備ができましたが、って、何故旦那様が泣き崩れているのですか⁉︎」
すみません私のせいです。
「エールがおじさん呼びしてパパって顔じゃないって言ったらこうなった」
あ、リズダメ。繰り返さないであげて。
改めて言われた事を確認させられたのがトドメになったらしく、とうとう切嗣が声を上げて泣き出してしまった。
閑話休題。
「じゃあ、行ってくる」
さっき言っていた通り、ママと切嗣は出掛けちゃうみたい(切嗣は何とか持ち直した)。
……正直、二人が出かける目的には、心当たりがある。
聖杯戦争。
これに関わりがあるのは間違いない。
仮に今回二人が聖杯戦争を終わらせていたとしても、大聖杯や、小聖杯であるイリヤは魔術師達に狙われる可能性は高い。
多分、そういった連中からイリヤを守る為に戦うのだろう。
「本当にごめんなさい。もう少しいてあげたいのだけれど……」
………もう。私達の為に戦ってくれるんだから、そんなに謝らなくてもいいのに。
「ですが仕方がありません。留守は私どもが責任を持って預かります。どうか御安心下さい」
セラがそう言って送り出そうとするが、ママはまだ名残惜しそうにしている。
………はぁ、しょうがないなぁ。
黙って見送るつもりだったけど、ひとこと言っておく事にした。
「もう、やる事があるんでしょ?早く終わらせて帰ってきてね。それまで……」
そこまで言って言葉を切る。
これは私の誓い。子供っぽく振る舞うのをやめて、今だけは真剣に言葉を紡ぐ。
「それまで、イリヤの事は私が守るから。もしあの火事みたいな事が起きても、絶対に。
あの時私を助けてくれたあの人と、ママがくれたこの名前に誓って、約束する」
言い回しは子供っぽくしたんだけど、やっぱり変だったかな。みんなしてびっくりした顔してる。
「だから、頑張ってきてね!ママ!」
誤魔化しに子供モードに戻す。
「……ええ、お願いね。私も頑張ってくるから」
こうして、ママ達と別れ、そして同時に、私の新しい生活が始まった。
〜エール side out〜
喋ってる人以外が空気です……。最後の所は個人的に気に入っていたので絶対入れる!と思っていたのですが、繋げ方が難しかったですね。