Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 妹へ送るエール 作:ハープ
〜エール side 〜
…見事に負けたわね。
深夜零時過ぎ。私達はボロボロになって帰ってきた。
「いや〜、歴史的大敗ってヤツですね〜」
「な、なんだったのよあの敵は…」
凛とルビーがそんなやり取りをしていると、
「どういう事ですの⁉︎カレイドの魔法少女は無敵なのではなくて⁉︎」
ルヴィアが逆ギレしてサファイアを引っ張っていた。
「私に当たるのはおやめください、ルヴィア様」
うん、あれはないわ。八つ当たりにも程がある。
「ルビーサミング!」「セイッ!」
私が止めようとルヴィアの腹にエルボーを決めたのと、ルビーが目潰しをしたのはほぼ同時だった。
「サファイアちゃんを苛める人は許しませんよ〜!」
「…意外ね、貴女も姉らしい所あるじゃない、ルビー?ちょっと見直したわ」
痛みに悶絶するルヴィアを前に胸を張るルビーに、少しだけ感心した。
「フッフッフ…私だってやる時はやるんですからね〜!っと、それはさておき、魔法少女が無敵なんて慢心にも程があります!まぁ魔術師相手なら概ね事実と言えますが、英霊が相手ともなれば、相性の悪い敵も当然います!」
「で、アイツはその相性の悪い敵、って訳ね」
少し反り返った後にそう告げるルビー。
「アレって相性で済ませていいレベル?魔力砲の出力はステッキ以上、無数の砲台。対策しなきゃならない事が山積みよ」
境界面に飛んだ私達を待ち受けていたのは、無数の魔力砲台。
そこから放たれる魔力砲はルビーの障壁を容易く突破した。おまけに……
「あの魔力反射平面も問題よ。あれをどうにかしない事には攻撃しようがない」
そうなのだ。美遊の全力の魔力砲すら簡単に弾くシールド。
あれがある限り、私達に勝機はない。
「……ねえ、カレイドって空飛べたりしないの?反射平面も砲台も固定されてたみたいだし、有効範囲外から攻められればなんとかなりそうに思えたんだけど」
凛の指摘した課題に、私なりの考えを出してみた。
「ん〜、出来るっちゃ出来るけど、練習もなしにいきなり飛べるとは「そっかー、飛んじゃえば良かったんだね〜」へ?」
イリヤを見てみたら、当然のようにあっさりと宙に浮いていた。
「ちょ、なんでいきなり飛べてるのよ!」
「すごいですよイリヤさん!高度な飛行をこんなにサラッと!」
……凛とルビーの反応からして、簡単な訳ではないのね。
「そ、そんなにすごい事なの?」
イリヤも難しいとは感じていないらしく、不思議そうにしている。
「強固なイメージがなければ浮く事すら難しいのに、一体どうして…」
珍しくサファイアまで驚いているけど…イメージ、ね。道理で。
「どうしてと言われても……魔法少女って、飛ぶものでしょ?」
「「な、なんて頼もしい思い込み‼︎」」
ズガーン!と背景に落雷を幻視する程衝撃を受けている魔術師二人。
そう。イリヤには既に魔法少女=飛べる、という図式が出来上がっている。魔術理論にも一般常識にも囚われないイリヤの小学生らしい想像力なら、空を飛ぶのもそう難しい事じゃない。
「さてと、これでこっちは問題解決だけど…美遊、貴女も飛べる?」
さっきからずっと黙り込んでいる美遊に水を向けてみると、
「…………人は、飛べない…!」
あ、やっぱり理論派だった。
数式とか無駄に出来てたから逆にこういうのは苦手な気はしてたのよね〜。
と、不意に美遊の後ろからルヴィアがマントをむんずと掴んで引きずっていった。
「まったくなんて夢のない…そんな考えだから飛べないのです!次までに飛べるように特訓して差し上げますわ!」
「………今日はここまでね。私も戦略考えとくから、また明日にしましょう」
引きずられてゆく美遊を見届けた後、私達も家に帰っていった。
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「はぁ……。記録で見た時は、キャスターは大した事なさそうだったんだけどなぁ」
自分の部屋に戻ってきて、ひとり呟く。
第五次の記録では、高い対魔力を持つセイバーに圧倒されたりしていたので、
けど実際には、カレイドの障壁ではキャスターの魔術を防ぎきれず、イリヤが飛べた事でなんとか活路が見出せた程度。
「それに、気になる事はもう一つ……」
それは、私服からパジャマに着替えた時に気づいた事。
最初の魔力砲は障壁を貫通して届いていたし、逃げる直前に放たれた巨大な魔力砲でも、余波で多少はダメージを受けた。
小さいながらも、それなりに身体に傷が付いていたはずなのに、それが一つ残らず消えている。
……考えられるとしたら、
体内に入れられた時に入っていた魔力はとっくに切れているし、私は魔術回路を開いていない。魔力がない以上、いかに
でも、ステッキも使っていない私には、他に思い当たるものがない。
「……まさか」
最悪の想像が頭をよぎった。
……あの場に、セイバーもいた……?
それなら、
でも、そうなると……
「キャスターを倒した後、連戦でセイバーとやり合う必要がある、か」
……私も、出来るだけの事はしないといけない、って事かな。
もとより、イリヤを守る為なら使える物はなんでも使うと決めている。
私は覚悟を決めて、記録の中で飽きる程聞いたあの言葉を呟く。
「───
〜エール side out〜
〜イリヤ side 〜
「さてと、この辺でいいかな。イリヤ、特訓するよ」
「はーい」
「それでは行きましょう!コンパクトフルオープン!境界回廊最大展開!」
キャスター(お姉ちゃん命名)にやられた次の日、私達は、夜の戦いに備えて、森の中の開けたところで特訓する事にしました。
…お姉ちゃんの背負ってるものが何なのか気になる。
「っと、そだ。お姉ちゃん、ルビー、コレ使ってみてもいいかな?」
そう言って、私はリンさんから預かってきたモノを取り出す。
「クラスカードですか?いいですよ」
「一回もやらないのも不安だしね、やってみて?」
二人にOKを貰った私は張り切って、
「アーチャーって言うぐらいだから、弓だよね?どんなのが出てくるのかな?よーし、
カードをルビーにかざしてそう唱えると、あっという間にルビーが弓に姿を変えた。
「おおっ!ホントに出た〜!これ使えば勝てるかな?お姉ちゃん」
「…(あの黒弓…やっぱりアーチャーは
「ふぇ?」
お姉ちゃんに言われてふと手元を見てみる。
「あ、あれ⁉︎矢がないっ!ルビー、矢は⁉︎」
「ありませんよー」
そんな素っ気なく⁉︎
「なにそれ〜⁉︎全然意味ないよこれー!」
「(まぁ、アーチャーの宝具は
そう言ってお姉ちゃんは、手に持っていたピンポン球を私に投げてきた。
「…そうですね〜、一歩ずつやっていきましょう!これでどうするんです?」
あ、ルビーが元に戻ってる。
「決まってるでしょ?キャスター対策。ルビー、顔以外の物理保護のレベルを落としなさい。ボールが当たって少し痛みを感じるくらいに。私がひたすら打ちまくるから、イリヤはそれを全部避けて」
ルビーの質問に、お姉ちゃんはいたずらっぽい笑みを浮かべてそう言った。
「え?ち、ちょっと待って〜って危なっ⁉︎」
いきなりボールが私の方に飛んできたので慌てて避ける。
「敵は待ってくれない。どんどんいくよ!全部躱しきるか接近して私に一撃入れられたら終わりね!」
いつの間にかお姉ちゃんの周りにはボールの入った箱がいくつも置かれていて、動き回りながらラケットでボールを打ち出してきた。
「打ち出すポイントを複数箇所用意してキャスターの砲台を再現してますね〜、中々本格的です!」
お姉ちゃんは私の避けた先を予測してるみたいで、どんなに動き回っても逃げ切れない。
「こんなの全部避けるとか絶対ムリだよね⁉︎ってイタァッ⁉︎」
「隙だらけよ!止まらない!」
痛みでつい動きを止めると、一気にボールが集中する。
「イ〜ヤ〜っ!」
な、なんで今回こんなスパルタなの〜⁉︎
〜イリヤ side out〜
〜エール side 〜
「そろそろ休憩にしよっか。イリヤ、ボール拾うよ」
「うぅ、疲れたよ……」
「やっと終わりですか〜、やれやれです」
箱で用意していたボールを打ち尽くしたので、全部回収してから私達は休憩に入った。
「だんだん動きは良くなってるけど、動き出しがまだ少し遅いかな。打たれてからじゃなくて、私の手とか目の動きである程度先読みしないとね。キャスターの砲台なら、自分にロックオンしてるのは分かるから、それを目印に動くといいと思う」
「…ウン、ソウダネ…」
あら、燃え尽きてる。
「いや〜中々スパルタでしたね〜。ここまでする必要ありました?」
愉快そうにしながらルビーが聞いてきた。
まぁ、確かにキャスターだけならここまで徹底する事もないんだけどね…
「キャスター戦は極力無傷かつ速攻で終わらせた……っ⁉︎美遊⁉︎」
急に気配を感じて空を見上げた直後、もの凄い勢いで美遊が堕ちてきた。
「…全魔力を物理保護に変換しました。ご無事ですか美遊様」
「な、なんとか……」
落ちた衝撃で出来たクレーターから、美遊がサファイアを杖代わりにして出てきた。
「み、ミユさん?なんで空から…?」
「………」
「ルヴィア様にヘリから突き落とされました」
……後でルヴィアには説教が必要ね。
イリヤとサファイアの会話を聞いてそう決めた。
「ところで、お二方はここで何を?」
「ん?飛行訓練。イリヤ飛んで〜」
「…は〜い」
ちょっと嫌そうな声を上げつつ飛び上がったイリヤに、不意打ちで一球投げてみる。
「ちょ、いきなり⁉︎せめて予告ぐらいしても…」
「っと、こんな感じで飛んでるイリヤにボールを打ちまくってキャスター対策してた。イリヤ〜、もういいよ〜!…?どうかした?美遊」
イリヤを下ろして振り返ると、美遊がどこか呆然とした様子で立ち尽くしていた。
「……飛んでる」
「はい、ごく自然に飛んでらっしゃいます。」
「…………」
……まったく、可愛い所もあるじゃない。
私達の前で困ったようにしている美遊を見て、つい微笑ましい気持ちになる。
ふと見ると、イリヤも気付いたのか私の方を見ていたので頷くと、美遊に近づいていく。
「あ、あのねミユさん。一緒に練習しない?飛べないと戦えないし、困った時はお互い様でしょ?だから、ね?」
そう言われた美遊はしばし躊躇ったあと、
「…その、教えて欲しい。飛び方…」
頰を赤らめながら上目遣いにそう言う美遊に、イリヤは花咲くように笑みを浮かべる。
「うんっ!」
…少し前進したかな。このまま和解出来たら最高なんだけど…。
「じゃあまずは、エイッて感じで!」
ズコッ。
イリヤが宙に舞いながらそんな事を言っているのを聞いて、思わずずっこける。
美遊は一瞬「え?」みたいな顔をしつつ、素直に跳んでみていたけど、当然飛べない。
「えぇっと、じゃあ「ストップ」はい?」
実際に飛べるイリヤに任せようと思ってたけど、このままではどうにもならなそうだったので、一旦止めた。
「イリヤ、それじゃダメ。まだ美遊は「人は飛べない」って思ってるから、飛べる前提のイメージじゃどうにもならないよ」
「あ、えっと…」
じゃあどうしよう、とイリヤが私を見てきた時、サファイアが意見を出してきた。
「昨晩イリヤ様は、『魔法少女は飛ぶもの』と仰いました。そのイメージの元になったものを教えて頂ければ、何かヒントになるかもしれません」
イリヤのイメージの元……あまり役に立つとは思えないけど、他に考えがある訳でもなし、ダメ元でやってみるか。
「オッケー分かった。イリヤ、私これ片付けてから行くから、先帰って準備しといて」
「うん」
と、先に帰るのはいいけど、飛んで行ってしまったので美遊が置いてけぼりになってしまった。
「はぁ、やっぱり飛ぶのが楽しいのかしら。ごめん、ちょっと待ってて」
私がそう言ったきり、沈黙が続く。
………………き、気まずい。
「エールスフィール」
「うん?」
あまりに気まずいので、私が何か声をかけようとした時、美遊の方から話しかけてきた。
「貴女はどうしてカード回収をしているの?」
そういえば、イリヤのを聞いてる途中で止めちゃったから、私のはちゃんとは聞いてないんだっけ。
「あー、そうだ。あの時はごめんなさいね、あの子、まだ巻き込まれた感が強くて受け止めきれてないから。きっかけがあれば、ちゃんと向き合って考えられると思うから、待っててあげて?…っと、今は私の話だった。私がカード回収を手伝う理由はそれこそ単純」
私は美遊の目の前に移動して、
「…妹が危ない事をしてるのよ?姉の私が知らないフリして放っておける訳ないじゃない」
「っ‼︎」
笑ってそう言うと、美遊はひどく驚いたように目を見開いた。
〜エール side out〜
〜美遊 side 〜
…やっぱりこの人、お兄ちゃんに似てる。
エールスフィールへの質問の後、彼女達の家に向かう途中、私はそう思った。
性別も年齢も違うけれど、妹を放っておけないと笑った彼女の顔が、別れ際のお兄ちゃんの顔と重なる。
……お兄ちゃん…。
「美遊?どうかした?」
「え?」
ふと見ると、エールスフィールが心配そうにこちらの顔を覗き込んでいた。
私がなんでもないと首を振ると、
「…ねぇ、美遊?何も一人で抱え込む必要は無いんだからね?貴女が周りを頼る事は、別に悪いことじゃない」
「⁉︎それって、どういう…?」
まるで私の事情を知っているかのような物言いに、思わず顔を向ける。
「…さてと、シリアスはここまでにして、家に入りましょ?取り敢えずイリヤのイメージの元を見るんでしょ?あまり役に立つとは思えないけど」
詳しく聞こうと思ったけど、はぐらかされてしまった。
でも、実際今はそちらの方が大事なので家に入ったのだけど……
「こ、コレは…⁉︎」
「うん、私の魔法少女イメージの大元、の一つかな」
イリヤスフィールが用意していたのは、魔法少女を題材としたアニメだった。確かにアニメの魔法少女は飛行していたのだけど…
「航空力学はおろか、重力も慣性も作用反作用も無視したデタラメな動き……⁉︎」
「あらら、やっぱりそうなっちゃったか。予想以上だったけど。アニメにそこまで求めちゃダメなんだけどなぁ…」
戦慄している私に、エールスフィールが突っ込んでいる。
「このアニメを全部観れば、美遊様も飛べるようになるのでしょうか」
「……多分、無理。コレを観ても、具体的なイメージには繋がらない。浮力で飛んでいるようには見えないから、揚力で飛んでいると考えても……ブツブツ…」
サファイアの質問に首を振りつつ、それでも何とかイメージしようとしたけど、計算が合わないのでうまくいかない。と、
「そこまでっ!」「ルビーデコピン!」
「はうっ⁉︎」
エールスフィールの声と同時に、ルビーが私の額にデコピンを食らわせてきた。
「な、何を…」
「まったく…美遊は頭がいい分理屈にとらわれ過ぎてるのよ」
「そうです!イリヤさんのような過程をすっ飛ばして結果だけをイメージするぐらいの能天気さが、魔法少女には丁度いいんです!」
「なんか私酷い言われようなんだけど⁉︎」
途中入ったイリヤスフィールの抗議がスルーされて、言葉が続く。
「美遊さんにはこの言葉を送りましょう。『人が空想できる事全ては、起こり得る魔法事象』…私達の創造主たる魔法使いの言葉です」
「…物理事象じゃなくて?」
「同じことです!」
私の疑問に対して、ルビーはそう答える。
「まぁ、それはそれとして…空想って言うのは、大げさに言えば人の願いみたいなもの。そこに具体的な過程はないけれど、こうであって欲しいと結果を願う…。イメージなんて、そんなものでいいの」
……すごく、実感が湧いた。彼女の言っている事は、私自身にも当てはまるものがあるから。
「……なんとなく、考え方は分かった気がする」
私が立ち上がると、
「そう?なら良かった。あまり時間もないけど、頑張ってね」
「ミユさんなら出来るよ、絶対!」
二人はそう言ってくれた。
「……じゃあ、また」
何も言わずに帰るのも気まずいので、一言告げて扉を閉めた。
〜美遊 side out〜
〜エール side 〜
「戦うな、なんて言われた昨日に比べたら、前進したのかな…?」
美遊が帰った後、イリヤがそんな事を呟いた。
「そうですね〜。あとはお二人がうまく連携出来れば言う事なしなんですが…」
「ま、成るように成る、としか言えないかな。頑張りましょ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
夜。橋の下の公園に、私達は再び集まった。
「複雑な事してもしょうがないから、役割を単純にしたわ。小回りが利くイリヤにキャスターを引き付ける囮役、突破力のある美遊に本命の攻撃を担当してもらう。エールは私達と行動して、二人のフォローをして」
「「「了解」」」
凛の指示に、私達が答える。
「もう失敗は許されない。行くわよ!」
こうして、私達の
…何が起ころうと、イリヤ達は死なせない!
〜エール side out〜
セイバー戦とか遠かったですね。リベンジ直前でここまであるとは思いませんでした。
次回こそはセイバー戦に入ります。というか、キャスター戦と一発目の