スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋、しかし今は食欲の秋だろうと『
通っている大学近くの行きつけの定食屋。
そのまん前で黒いゴズロリ姿の幼女が佇んでいる。周りに親や保護者らしき者の姿はなく声を掛けて警察にでもと思案しているが、対応を間違えればこっちが犯罪者扱い・・・・・・その位、その娘の姿は際どい。特に前は服の機能を果たしているのかと問いたかった。
「交番に連れて行きたいけど、どう見ても
かく言う自分も夕飯を食べに来た身、どうしようかと思案していると空模様が怪しくなりポツポツと雨が降り出してきた。
「マジかよ・・・・・・」
面倒そうに幼女の方を見てみると、濡れることなど全く気にせずに定食屋を見続けて立っており、半ば自棄に近い気持ちで声を掛ける。
「あー、濡れるぞ・・・・・・入りたいんだったら早くしよう」
「・・・・・・?」
小首を傾げながら誠一に顔を向ける幼女に勢いのまま手を引いて店に入る。
「いらっしゃ・・・・・・君、何処でそんな娘をさらって来た?」
カウンターからの店主らしき中年男性から呆れた目を向けられながら、誠一は親指で戸を指しぶっきら棒に答える。
「つい目と鼻の先でだよ。って、あれ?」
二人の遣り取りをお構い無しに幼女はカウンター席の椅子の上に立ち、厨房からの匂いを嗅ぎ続けていた。
「ハハハ、お嬢ちゃん。食べたいんならキチンと座って注文してくれないと」
「注文?・・・・・・我、それ欲しい」
幼女は厨房の奥を指差し匂いの根源に期待の眼差しを向ける。
「はいよ。日替わり定食一丁、今日は特製デミグラスハンバーグだよ。直ぐに持ってくるから座って待ってな」
店主の返事に幼女は椅子に座りこみ静かに待つ。それを呆けた目で見ながら誠一は隣に座り手提げカバンを足元に置いて問いかける。
「俺は藤平誠一。君の名前は?」
「我、オーフィス」
名前からして日本人じゃないようだ。容姿や流暢な日本語から想像してなかったが、それはどうでもいいので、次の質問をする。
「その、オーフィスはお金持ってるの?」
「お金?」
「あー、いい。俺が連れてきたんだから俺が払う。それでどうして店の前に一人でいたの?」
「いい匂いがした」
「で、釣られて来たと・・・・・・。お母さんとかは一緒じゃないの?」
この問いにオーフィスは頭を左右に揺らす。一瞬、聞いてはいけない事だったかとも思ったが、表情や仕草を見ている限りはそうは思えず質問を切り替えようとする前に口を答えが来る。
「我、生んだの次元の狭間、そこグレードレッド居る、帰れない」
「・・・・・・ああ・・・そう」
一言で済ますなら意味不明、複雑な事情があるのかそうでないのかも解らない答えだ。やっぱり警察にと考えながら誠一も注文、オーフィスは足をぶらつかせながら厨房を見ており、誠一もスマフォをいじりながら会話もなく時間が過ぎていく。
「へい、お待ちどう。日替わりとミックスフライ」
誠一にミックスフライ、オーフィスに日替わりのハンバーグ定食が差し出される。オーフィスの方には子供用のスプーンが添えられており、オーフィスは無造作に手に取り手首を回して見ていたが直ぐに飽きて出来立てのハンバーグの匂いを嗅ぐとスプーンを刺して口に運びそしゃくすると嬉しそうな表情でどんどん食べていく。
「気に入ってくれたようで何よりだね」
「ああ、そうだな」
横で見ていた誠一は箸を持って食事をはじめ、店主も嬉しそうに言いながら厨房に戻って行く。程なくしてオーフィスは定食をたいらげ、まだ食べている誠一の方(正確にはまだ手を付けていないエビフライ)に目を向ける。
(ハハハ。ま、仕方ないか)
連れて来た手前に子供であることから邪険にも出来ず誠一はエビフライをタルタルソースにつけてオーフィスの口まで持っていく。すかさず口に含み、もぐもぐと顎を動かす様に笑みを浮かべながら残っているご飯を食べて、お冷を飲み食事を終える。
「ごちそうさま」
「・・・・・・ごちそうさま」
自分とオーフィスのソースまみれの口を拭き、手を合わせるとオーフィスも真似してくる。窓を見ると御誂え向きに雨も止んでおり、伝票を手にとって立ち上がるとオーフィスも席を立って着いてくる。この僅かな時間で懐いてくる様に可愛げと同時に危うさを感じつつ清算を済ませる。
「まいどあり。しかし・・・その娘、どうするんだ?下手したら不審者と間違えられるぞ?」
「このまま駅前の交番に連れてく・・・そうなって職質かけられたりしたなら返って手間が省けるさ」
やましい事はないと堂々としているような、開き直っているような誠一に店主は大丈夫だろうかと思うも送り出す。
「?」
店を出て程なく歩くと駅とは別方向にカバンを引っ張られ、視線を落とすとオーフィスが指を刺しながら言う。
「こっち」
そのまま誠一の手を引いて道を進んでいき暫くして古びた洋館に辿り着く。夜ならば幽霊が出るといわれても不思議じゃない雰囲気の館に若干引き気味になりながらも尋ねる。
「ここ、君の家?」
「
「・・・・・・君の保護者か何か?」
人の名前なのかどうかも分からないのでさらに尋ねるが、オーフィスは応える事無くそのまま手を引いて誠一を館の中に連れて行こうとし、流石に遠慮しようとするが小さな体からは考えられないほどに強く引っ張られ入っていく。
「おじゃましまーす」
挨拶して中を見回すが外観に反して朽ちた感じも誇りが舞うような様子もなく生活臭が漂い少し安心する。されど人が出て来る気配もなく誰も居ないのかと問おうとオーフィスを見ようとするもそこに姿はなく、直ぐ近くの部屋でゴソゴソと言う音が聞こえ足を向ける。
(なにしてんだ一体?)
隅にあるクローゼットの中をオーフィスが掻き分けて目当ての物が見つかったのか、誠一に近づいて封筒を差し出してくる。怪訝そうに受け取り中を開くと『登記済証』と記されており、直ぐさましまって困ったように問いかける。
「えーと・・・・・・これは?」
「人間、こう言うの好きって聞いた。だからあげる」
「つまり、さっきのお礼ってこと?」
オーフィスは小さく肯き、誠一は額に手を当てて困った顔をした後で屈んでオーフィスと顔を会わせる。
「あのね、ご飯奢ってもらったぐらいでこんな大事な物を渡しちゃ駄目。第一、さっき言ってたカオス・・・・・・さん、だっけ?その人の所有物件なんだから子供の君が――――」
「つまりこれじゃ駄目?」
首を傾げながら問うオーフィスに誠一は苦笑して言いたい事を簡潔に述べることにした。
「子供がそんな事を気にしなくていいの。ただ人に何かして貰ったら感謝するのは大事、だからここは〝ありがとう〟でいいんだよ」
頭に手を添えながらゆっくりと言うとオーフィスは小さく口を開く。
「ありがとう」
「そう、それだけで充分。そして良く出来ました」
笑いながら数回頭を撫でて封筒を返して立ち上がる。
「それじゃ、俺はもう帰るな。今度、あの店に行く時はキチンと保護者同伴で行くように」
本当なら子供を一人で残すことはしたくは無いが、誰かが帰ってきても揉めそうであり、日もすっかり落ち空模様も再び怪しい上、明朝にも予定があるので早々に退散することにした。一方オーフィスは何思っているのか分からない表情のまま出て行く誠一の背中と手にしている封筒を見て首を傾けて次の瞬間に姿が消えて、館のドアが閉まると同時にクローゼットの戸も閉まった。
この一時の出来事が後に・・・・・・と言うより割りと直ぐに大きな運命の軋みを生じさせるなどこの時は誰もが知るよしもなかった。
***
翌日の早朝の駅前、誠一は今日からの連休を友人達と遠出する為にいつものカバンと大き目のリュックを背負い、一人スマフォを弄りながら待っていた。
「お待たせ~」
陽気な声に顔を向けると艶やかな黒髪を腰まで伸ばしたスレンダーな女の子がキャリーケースを引き摺りながらやって来た。
「おはよう。夕麻」
スマフォをポケットにしまい大学の同期であり彼女でもある『天野夕麻』に挨拶する。
「おはよう、誠一。それにしても旅行だってのにいつもの手提げ、なんか華が無いわねぇ」
「田舎の秋祭りに行くだけなのに何を期待してるんだか」
開口一番にふざけてくる夕麻に同じくふざけて返す。
「はぁ、アンタの地元でしょ。もっと他に言い様無いの?」
「そう言うのは行きたいと言った奴に言え。っと噂をすれば」
誠一が目を向ける方向には夕麻が卒業した高校の後輩で、ざっくばらんな茶髪に眠そうな目をした少年『
「すまん、待たせたか?」
「大丈夫よ、ハルヒロくん。わたしも今来たとこだから」
「それじゃ先輩、早く行きましょうよ」
めぐみが誠一の腕を引っ張って急かすようにホームに足を向ける。
「おい、天野さんの前で―――――」
「だから大丈夫だって、こんな娘だってのは知ってるから」
そんな遣り取りをしながらハルヒロと夕麻も後に続いて行く。そのまま切符を買って電車に乗って他愛無い話をして・・・・・・となるはずなのに唐突に先頭を歩いていためぐみの足が止まる。
「どうした?」
誠一が尋ねても答える事無く周囲を忙しなく見回し、その頭にはいつの間にか翠色に薄っすらと光っているカチューシャが着いており、後ろに居た夕麻とハルヒロも吊られるように周囲を見回し、そして気付いた。さっきまだ居た多くの人が居なくなり不自然なほどに静まり返っている状況に。
(おいおい何なんだよ・・・・・・このいかにもこれから良くないことが起こりますよ、みたいな演出は?)
出来れば冗談やドッキリで済ませて欲しいが本能や無意識と言った部分が警報を鳴らし続けており冷や汗が止まらない。そんな張り詰めた空気は唐突にめぐみに突き飛ばされて一気に切れた。次の瞬間、誠一の居た場所に禍々しい熱気がうねり爆ぜる。
「・・・・・・・・・・・・・」
誠一は絶句して立ち尽くして、めぐみを見るが彼女は間髪居れずに叫ぶ。
「ハルヒロ伏せて!」
返事もする間も無くハルヒロは勢いよく跪き強烈な風切り音が響き何かが通る気配に怖気を覚え、側にいた夕麻も恐怖に震えながら逃げ出そうとする。
「いやぁ!!!」
「天野先輩、動かないで!!」
しかし気が動転している夕麻は足を止める気配はなく走り出そうとするが、ハルヒロが腰にしがみ付いて止めた。次の瞬間、夕麻の前方の地面が轟音とともに抉れ、二人は吹き飛ばされる。誠一とめぐみが夕麻とハルヒロをそれぞれ抱かかえる。
(西園寺が居なければ今頃はミンチ、それとも・・・・・・)
抉れた地面を見ながら僅かながらに冷静さを取り戻した誠一は、この非常識な状況に対応しためぐみに目を向けるが、自分達の前方に三つの魔方陣が現れ黒のローブを纏った者達の登場に思考を巡らしていく。
(ここまで来るとやつらは人間じゃないとか言っても驚かないな)
余りにも臭くてありきたりな演出は誠一の心を更に冷静にしていき、改めて状況を再認識することが出来た。周囲には自分達四人と怪しい三人組しかおらず先ほどの非常識な現象とめぐみの指示も大掛かりなドッキリと取れなくもないが、腕の中で震えている夕麻の恐怖は疑う余地はなく、ハルヒロも一杯一杯の表情でめぐみもハルヒロほどでは無いが切羽詰まった様子だ。
(ここまでするのは明らかに常軌を逸してるが、まだ)
考える中での最悪に冷や汗をかくが、何とか一縷の望みをかけて相手の出方を伺う。すると三人はまずめぐみを次に誠一を見ながらそれぞれに口を開いた。
「
「だが戦闘タイプではなさそうだ。特に支障はあるまい」
「然様。僅かでもウロボロスの痕跡を嗅ぎつけられるわけにはいかん」
言うだけ言って三人は手をかざして魔方陣を展開する。それにハルヒロは焦燥に駆られて誠一に詰問する。
「ちょっと先輩!アイツ等さっきからなに言ってるんだよ!?」
「俺に解る訳ねぇだろ、そして問題は其処じゃない」
種明かしの段階が過ぎたことで性質の悪い冗談の可能性を捨て非常識を認めた。同時にさっきの遣り取りが身内同士での確認であり自分達に聞かせる意図が無いこと、つまりは交渉の余地が無いことも悟り、逃げようが命乞いしようが無駄であり自分達が助かる可能性は一つだけだと。
(奇跡が起きるしか無理だなこりゃ)
完全なまでに絶望的状況の中、腕の中で震える夕麻を強く抱きしめ目を瞑る。その様子に敵たちは淡々と作業するように誠一たちの命を刈る一撃を放とうとした。が、
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』
突然の声に顔を上げると赤い閃光が誠一たちと敵との真ん中に落ち、そこには赤い
(今度はなんだってんだ?)
余りにも目まぐるしく展開が変わっていく中で再び理解が追いつかなくなりそうになるが、どうやらそれは敵側も同じ様であり誠一たちに対する態度と明らかに違い赤い鎧に明確な畏怖を抱いていた。
「貴様は赤龍帝!?」
「何故ここに、ここはグレモリー領では―――――」
「なんであれ、手ぶらでは帰れん!」
三人は左右と上方に飛び魔方陣から魔力を放つ。左右の二人は赤龍帝と呼んだ者に上に飛んだ敵は誠一たちに。
(あくまで狙いは俺達・・・・・・いや、俺か?!)
迫り来る脅威に対し誠一は咄嗟に
「く!」
「おのれ!!」
残った敵二人は背中から蝙蝠のような羽を出し飛び回る。一方が陽動を仕掛け一方が
(ふえぇ~、全員一発で沈めやがった)
三対一にも関わらず瞬く間に圧勝して見せた赤龍帝を目に納めながらも誠一はまだ安心は出来ないとめぐみの腕を肘で突き意見を求める。心なしか彼女のカチューシャの光が強まり表情にも余裕が無いからだ。
「違う・・・・・・そいつも同じ悪魔だ」
(悪魔って・・・・・・)
搾り出すように出た言葉に頬を引きつらせながら、この相手には交渉は可能なのかそれとも事態が悪化しているのか思考を巡らすが判断できる材料が丸でなく、受身に回らざるえない状況下で冷静を保とうとする気力も削られ焦燥が込み上げてくる。
「あー、恐がらなくても大丈夫ですよ。何もしないし、って言うか助けに来ただけだから」
そんな誠一たちの空気を察してか赤龍帝は頭をかきながら困ったような口調で言った。
しかしそれで〝はい、そうですか〟と言って警戒を解くほど誠一たちは楽天的でなく、疑念の篭った視線を赤龍帝に向ける。そもそも完全武装の状態では説得力はないし、殺そうとした敵と同じ存在であると言う友人の言葉に信用など出来るはずもなかった。
(しかしそれでも暴力じゃなくて言葉を交わそうとする以上、状況はマシだな)
「申し訳ないが、そう言うならその厳つい鎧を脱いで話してくれると助かるんだが」
付けこまれないように毅然としながらも丁寧に応じ相手を測る。先の言葉からいきなり態度を変えるとは考えにくいが、この要望に対してどうであれ断るようなら敵であると判断して対応しなければならない。そうなった時の相手は何を要求してくるのか?そもそも何故命を狙われねばならないのか?この危機を脱することを考えながら相手を見る。
「ああ、確かにこのままじゃ話し辛いよな。失敬失敬」
赤龍帝は陽気な声で返事をして、次の瞬間に鎧から赤い光が灯り鎧は消えた。今更この程度の非常識には驚きはしないが、現れた茶髪の高校生ほどの少年が立っていたのには意外であった。
もっと厳ついイメージの強面を想像していただけに気が緩みそうになるが、まだいけないと己を叱咤する。
確かに直ぐに殺す気はなさそうだが、悪魔と言う情報から魂でも要求してくるかもしれないし、そうでなくても何故こんな事になっているのかも分からないのだ。慎重に会話して状況を把握、助かる糸口を見つけなければならないと思い考えをまとめ口を開こうとするが、赤龍帝たる少年は目を見開いて固まっており再び不可解な状況に突入してしまった。
そしてその視線の先はめぐみでも誠一でもなく彼の腕の中に居る夕麻であり、それに気付いた夕麻はゆっくりと少年の方を向く。
そして夕麻と顔を合わせた少年は小刻みに震えて目を見開いた。
「あ、あの天野先輩?」
「・・・・・・夕麻、知り合いか?」
めぐみと誠一の言葉に反応し少年の態度に余裕が消えた。
「・・・・・・天野・・・・・・ゆ、夕麻・・・・・・・な、なんで・・・・・・お前が・・・・・・」
搾り出すように出た台詞に一同の注目が夕麻に集まるが、度重なる恐怖で精神が磨耗していた為にあっさりと耐え切れずに叫び出す。
「う~、知らないわよ!あんたなんか!!気安く私の名前を呼ばないでよ!!!」
「バカ!!」
誠一は急いで夕麻の口を塞ごうとする。
「おい、あんた大丈夫か?」
しかしハルヒロの声に気を取られ目を向けると、少年は胸に両手を当てながら前屈みになっており呼吸も荒くなっていた。
「ハァハァハァ・・・・・・ハァ、ハァハァハァ・・・・・・・ハァハァ」
明らかな過呼吸に陥りながらも視線は夕麻に固定され、その目には言い表せない感情があり、夕麻の恐怖をさらに煽った。
『落ち着け相棒!単に似ているだけでそいつは唯の人間だ!!あの堕天使じゃない!』
更に何処からともなく響く新たな声に夕麻は完全にパニックを起こす。
「もう一体何なのよ!!誠一、助けてよ!そいつ悪魔なんでしょ!?私まだ死にたくないよ!私の彼氏でしょ!だったらやっつけるなりなんなりしてよ!!」
「あ・・・・・・あぁ・・・・・・・ああぁ」
「ああ、もう夕麻、黙れ!」
その姿に別の危機感を感じ夕麻の口を塞ごうとするが、夕麻は耳を塞いで頭を振り回し押えようとしても抵抗が強まってしまう。
「!!みんな、耳塞いで!早く!!」
めぐみの警告にすかさず従う。
「うあぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
ずると震えていた少年が勢いよく頭を上げ獣の雄叫びのごとき絶叫が響き、そのまま少年は仰向けに倒れこんだ。
「・・・・・・・・・・・・」
理解不能な状況の連続に唖然とするしかない一同に先ほどの声が響いた。
『ま、お前たちには災難だったが、これは所謂事故だ。余り恨んでくれるな』
(そう思うなら出てきて説明しやがれ)
心の中で悪態をつきがら辺りを見回す誠一だがそれらしい姿はなく、しかし頭に伝わるといった感じもなく耳で聞こえる感覚に声の発信源はあると思っていると、めぐみが指で突いて少年の左手を指す。
注意深く見てみると緑の光が点滅しているのに気付き、やり場のない感情を抱いた。
『ハハハ、中々に物分りが良いみたいだな。ならもう少し待っていろ。その方がお互いの為だ』
(ん?待ってたら消えてくれるのか?)
希望的観測を抱くがそんな訳もなく少年の直ぐ横に紅い魔方陣が現れ四人の少女が現れる。しかも全員、猛烈な美少女であり紅髪の少女が真っ先に少年に駆け寄り手を握り、続いて黒髪ポニーテールに金髪と白髪の小柄な少女が心配そうに囲んでいく。
「イッセー、どうしてこんな?」
「一人で行かせたのは早計でしたかしら」
「イッセーさん、今治しますから」
「アーシア先輩、私も手伝います」
傍から見れば羨ましい限りの光景だが目線をめぐみに向けると、聞きたいことを悟ったのか小さく肯く。
(つまりはこの娘たちもみんな悪魔か)
『あー、相棒に外傷はない。原因はそこに居る
イッセーの左手が点滅し少女達が一斉に夕麻を見て驚愕に目を見開く。
「レ、レイナーレさま」
アーシアと呼ばれていた金髪少女が恐れるにように言い。
「生きて」
「アーシアちゃん、小猫ちゃん、落ち着いて。彼女は間違いなく人間で別人・・・・・・でも正直、驚きましたわ」
「朱乃の言う通りよ、堕天使レイナーレは消滅させた。生きてるはずないわ」
小猫と呼ばれた白髪の小柄な子が殺気を放とうとするのを黒髪ポニーテールの朱乃女史が窘め、最後に紅髪の女が肯定して誠一たちに向き直り近づいて来る。
訳が分からないままに話の中心になってしまい怯えている夕麻を背中に回し庇うようにハルヒロとめぐみも誠一の横に着く。そして今まで見聞きしたことから状況を把握し不利にならないように交渉するのと夕麻を落ち着かせる意味も込めて口を開く。
「どうやら其方さんにとって途轍もなく嫌な奴と間違えられてたみたいだが、誤解には至っていないと見ていいかな?」
「ええ、その通り。物分りが良さそうで何よりね。
立ち位置や態度からして紅髪の彼女がリーダーで間違いなく、イッセーの件に周りの少女たちが刺すような視線を向けたが直ぐに納めて夕麻から誠一に視線を切り替える。
納得はしていないようだが、どうやらイッセーの身に起こったことは
「時間も掛けたくないから前置きはなし、貴方たち何故あの悪魔たちに狙われたの?そこの神器保持者が原因かしら?」
めぐみに性格には翠のカチューシャに注目し、少しの間観察した後に呟く。
「
「ええ、あれば便利な能力ですが別段、珍しい類でもありませんし、殺そうとするにはどうにも弱いですわ」
リーダーの言葉を補強する朱乃の姿に彼女が副官的位置に居るようで黙って控えているアーシアと小猫を見ながら、この集団の力関係を悟り会話の切欠と話すべき相手を見定め、遣り取りを見ながら一連の出来事を思い出し話べき内容をまとめて話を切り出す。
「まだ完全に分かっている訳じゃないが、奴らの狙いは明らかに俺だった。しかし動機に関しては全く心当たりが無い。問答無用で襲い掛かってきたし、それを凌いだめぐみへの愚痴もこれと言ったことは無かった」
「でも何か引っかかる事があるじゃない?」
どうやらこのリーダーは愚鈍ではないようだ。誠一の言葉が嘘だと疑うことも鵜呑みにするような素振りもなく、口調や態度から自分たちに提示出来るカードがある事を悟りつつ相手を建てて作り笑いで問うてくる。
情報を得るために騙しているとも考えられるが、手間と時間を考えると吊りあわず趣味でやるにしても面白味の無い運び方に可能性は低いと判断、知っている事を話せば解放される見通しは充分にあると感じ口を開く。
「ウロボロス、その痕跡・・・・・・そう言っていた。何のことかは分からない」
誠一の言葉に彼女らは顔を見合わせそれぞれに話す。
「ウロボロス、オーフィスが?」
「この彼と関わってると?」
「
「実はお友達なんですか?」
不可解と言いたげな彼女たちの遣り取りを聞いて誠一は顔を引きつかせながら、自身のカバンの中を確認すると内ポケットに返したはずの封筒が入っているのに気付き額に手を当てる。
つい昨日会った幼女、それを先ほど見た非常識の存在で目の前に居る者たちの敵だと仮定して改めて吟味すると全てが繋がる。だが、根拠なき心象が解せないと言っている。
(アイツ、そんな害意も危なさもあったか?)
無論、あの僅かな時間で相手の全てを分かると言う程自惚れては居ないが、それは目の前の輩も同じ、どちらも信ずるに足るものが見当たらない為に誠一の心は揺れており、何か一つでいいから判断材料が欲しいと改めて昨日から今を思い返す。
昨日会ったオーフィスは確かに多少ずれた感じはしていたが、見た目どおり年相応の子供と言う印象はどう考えても変わらない。そんなオーフィスの敵であるなら保身の為に悪魔たちに情報を売るのは後味が悪い。しかし、警告もなしに自分達を殺そうと襲ってきた輩もどうにもオーフィスの味方と言う印象は持ち辛く、蚊帳の外に居る身としてはこの問題で判断はつかない。
故に視点を変えて身近な人間を物差しに状況を振り返る。自分たちの中で一番向こう側に近いめぐみは襲ってきた敵たちに鬼気迫る勢いで対応しハルヒロも必死に耐えていたが、イッセーの登場からは恐怖は抜け切っていないまでも危機感は薄らいで見えた。終始、怯えていた夕麻は論外といいたいが、イッセーとその後の少女たちの反応からして向うを測ることができる唯一の切り口は他に無さそうだった。
(気乗りはしないが踏み込んでみるか)
誠一は結論を出して口を開く。
「すまないがまずこっちの疑問に答えてくれないか。
貴方方はさっきから夕麻を誰と重ねてるんだ?その、えー堕天使とやらはその彼にいったい何をしたんだ?」
この問いにアーシアが俯き、小猫と朱乃がそっと背中に手を添え、紅髪が目を細めながらキツイ口調で返してくる。
「他者のプライベート、それも心の傷を知りたがるなんて趣味が良いとは言えないわね」
「ご尤も。しかし俺も趣味や好奇心で訊いてるわけじゃない。
天野夕麻は俺の
正論に対して引け無い道理を示す。これに対して紅髪はアーシアを見て、
「私は大丈夫です」
「そう」
確認を取り誠一に目を合わせて話す。
「では結論から言うわ。アナタの彼女はイッセーとアーシアを騙して一度殺した相手、堕天使レイナーレにソックリなのよ。ちなみに人間に化けてた時の名前も〝天野夕麻〟私からも聞きたいのだけれど本当に関係ないの?」
夕麻は首を何度も横に振って否定を示す。
「無い。天野先輩は無関係よ!」
「俺も証人になる。夕麻とソックリさんにも妙な輩にも会ったことは無い」
神器所有者であるめぐみは兎も角、誠一に関しては納得できないと更に問う。
「それにしてはさっきから物分りがいいように思えるけど?」
「会ったことは無いが、それっぽい話を聞いて育ったからな。マニアって訳じゃないが頭ごなしに否定することはしない。
それにしても一度殺されたとは・・・・・・」
「そこら辺は別にいいでしょ。
それよりも私が聞きたいのは、貴方たちがなんで禍の団に狙われたのだけれど?」
話を強引に終わらせる姿にまだ解せない気持ちが付きまとうが、これ以上の追求は不味いと感じ、誠意ある対応に腹を決め鞄から封筒を取り出し説明を始める。
「実は昨日、そのオーフィスと名乗るよう・・・・・・女の子と会ってな。ちょっとだけ世話したらこんな物を渡された」
一度返したのにいつの間に、と思いながら封筒を差し出す。
「不動産、家の権利書・・・・・・これって?」
「おそらく複数ある拠点の一つでしょうね。そこから足が着くのを警戒して口封じに来たと」
中身を確認して合点が入ったとばかりに紅髪と朱乃は最早、誠一たちのことはお構いなく事態を把握して話し合う。
「直ぐにアザゼル先生とお兄様に連絡を。もう引き払ってるかもしれないけど放っては置けないわ」
「ええ、直ぐに」
「なんとも災難だったみたいだけど、私たちの手にコレが渡った以上はもう心配は無いはずよ」
解放を示され誠一たちは安堵するが、次の行動が定まり背を向ける少女たちにリーダーの紅髪が最後に一瞥してくる。
「本来なら記憶を消しておきたいのだけれど、そのままにして近づかないようにする方がお互いの為ね」
これにめぐみが息を呑みながらも肯き、誠一も追随するように肯く。
「全く持って仰るとおりだ。ただ、その為にもせめて名前ぐらいは聞かせて貰えないかな?」
誠一の要求に一度目を瞑り、紅い髪を振りながら背を向ける。
「リアス・グレモリー、悪魔界の次期公爵よ。
ちなみに今回は偶々野暮用を済ませた帰り道だから、もう二度と会わないことを望むわ」
リアスは魔方陣を展開して去っていき、重苦しい空気がなくなったと同時に駅には再び人が集まり、本当に解放されたことを実感しながら誠一たちもやって来た電車に乗って去って行った。
時系列は9巻と10巻の間。イッセーがトラウマをはっきりと認識するのに必要かなと思い私なりに徹底的に叩いてみましたが、このイベントはありで良いでしょうか?