昼休みにドッペルゲンガー   作:a0o

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(中)

 なし崩しに近い形で電車に乗ったものの旅行を楽しむ気分でもないことからキャンセルして引き返そうかと言う意見も出たが、気持ちを落ち着かせる意味と町でまた厄介が起きている可能性から避難する意味でも予定通りにしようという結論になった。

 

 この結論に夕麻とめぐみは大きく肯き、ハルヒロはいつもの眠たそうな目の焦点をあわせずに消極的に肯定した。

 

 それでも楽しげな会話が出来る雰囲気でもなく一行は静かに首都圏を出て誠一の実家のある地方の奈古戸(なこと)町駅に到着し、ホームを出ると恰幅のいい中年男性が手を振って出迎えてきて誠一と夕麻が気さくに手を振って答えた。

 

「久しぶり父さん」

 

「またお世話になります。おじさま」

 

「おいおい、そんなに畏まらなくてもいいって。それよりその二人が?」

 

 父親の視線の先にいるめぐみとハルヒロが小さく頭を下げて挨拶する。

 

「ああ、夕麻の高校の後輩で女の子が西園寺めぐみちゃんで男の子が春田弘之くん」

 

「はじめまして」

「どうも」

 

「息子から話は聞いてるよ。しかし避暑地に来る若者はいるが、地方の祭りに来るとは結構物好きだね」

 

 笑いながら歓迎の意を表す男性にめぐみが前に出て目を輝かせてくる。

 

「はい!藤平先輩から話を聞いてとてもロマンチックで、是非にわたしもそのヒトたちを祝福したいと!」

 

「ハハハ、一応悲恋の物語なんだけどね」

 

 今朝方までならちょっと変わった物好きな娘だったが、今は全く違う意味に取れるやりとりに漠然と奈古戸町の御伽噺を思い浮かべる。

 

 その昔、この地方を治めていた山の神に仕えていた精霊、神を祭っていた祭司の一族の少年との種族の垣根を越えた悲恋の物語。山の神に見初められ、それまで在った禍々しき因習を解き放つ為に贄となってしまった憐れな一組の男女の物語。以来、神と人は互いの領域を侵さないようにしつつもいつかは互いに交わる時を祈願する新たな風習が生まれた。それが明日の秋祭り。

 

(秋じゃなくて夏だったら帰省とあわせられていいのにと思ってたんだがな)

 

 よくある創作か時を経ての事実の変遷かと思っていたのだが、非常識との邂逅で実は真実の歴史だったのではないかと思い、何かしらの能力を持つめぐみは甘美な期待を抱いているではないかと。

 

 しかしそこまで突っ込んだ事を聞くほど野暮ではない為、一行は車に乗り藤平の実家に向う。道中祭りの準備や飾られている灯篭にめぐみは盛り上がり誠一と父親が説明する中で空気は朗らかになっていった。

 

 藤平の表札がある家に到着した一行は誠一の先導で玄関に父親は車庫に。

 

「ただいま~」

 

「ああ、お帰り誠一」

 

 戸を開けて中に入ると母親とおもしき女性が出迎え、それぞれが挨拶する。

 

「夏以来ですね。おばさま」

「はじめまして、西園寺めぐみです。お世話になります」

「あ~、春田弘之です。はじめまして」

 

「これは御丁寧に。それにしても夕麻ちゃん、おばさまだなんて他人行儀な。お義母さんでいいのに」

 

「母さん、気が早いって」

 

 微笑ましい母と子とその彼女とのやりとりにハルヒロは思った疑問を口にする。

 

「え、でも天野さんのことフィアンセだって―――――」

 

「ばっ、余計な事言うな!」

 

「あらあら、これは本当にお赤飯を炊かなきゃ」

 

「あれはあの場に合わせた・・・・・えーっと――――」

 

 誠一の態度にめぐみが意地の悪い笑みを浮かべ、夕麻がワザとらしく両手を目に当てる。

 

「えー、あれ嘘だったんですか~、サイテー」

 

「誠一、ひどい。グスン」

 

「悪乗りしてんじゃねぇよ!このバカ共!!」

 

「お~い、玄関先でなにを騒いどる?」

 

 父の登場にその場は収まるに見えたが、

 

「やるなら居間で。それと俺も混ぜてくれ」

 

「混ぜっ返すんじゃねぇよ!!」

 

 憤慨しながら家の中に入っていく誠一を笑いながら見送る中で、言いだしたハルヒロだけが気まずい顔で後に続き、夕麻とめぐみを母親が客間に案内して行った。

 

 実家の自室で荷物を下ろし、やる事がなくなったのでハルヒロに目を向けると気まずいかのままで声を掛けられた。

 

「先輩・・・・・・さっきはその・・・・・・」

 

「悪気が無いのは分かってる。気にせんでいい」

 

「は、はぁ」

 

 歯切れの悪い様に溜息をついて窘める。

 

「謙虚なのはいいけど、卑屈になるのは悪い癖だぞ。

 無駄に自信を持てとは言わないが、もう少し前向きに物事を見ろ。なにより」

 

「なにより?」

 

 会話の主導権を握り道中聞きたかった事を切り出す。

 

「お前が話したいのはあの悪魔たちの事じゃないのか?」

 

「―――――――!」

 

 絶句しながら何故と顔に書いてあるので、

 

「お前、リアス・グレモリーって名前を聞いたあたりから、ずっとなにかを言いたそうにして呑み込んでただろ」

 

「―――相変わらずよく見てますね。でもここじゃ何なんで」

 

「外で話そう。俺も夕麻には聞かせたくない」

 

 そのまま廊下に出るとめぐみと出くわし、夕麻が一緒でないのかと聞こうとする前に元気のいい声が発せられた。

 

「天野先輩なら夕ご飯の支度を手伝うって言ってましたよ。

 先輩~、ラブラブで羨ましいです。やっぱりお土地柄、熱々カップルになり――――」

 

「いい加減にしなさい」

 

 無駄にテンションの高いのを軽く額を突くことで黙らせる。

 

「む~、ケチ。じゃあいいですよ~、明日の主賓さんたちに聞きますから」

 

「ん、山神の神社に行くのか?だったら案内を――――」

 

「大丈夫です。場所は聞きましたから大体分かります。

 それに一人の方が色々と都合がいいし、動き易いんで」

 

 頭にある翠のカチューシャを指差し納得する。

 比喩でもなく話しが聞けたなら自分も聞きたいし、めぐみの性格からして危ないと感じたら近づかないし逃げるのも容易なのも道理だ。見方を変えればそんな性格、もとい生活ゆえに見られなかったロマンを見たいという気持ちも尊重すべきだろう。

 

「それじゃ、また後で!」

 

 衰えること無いハイテンションで歩いていくめぐみに手を振りながら、誠一とハルヒロはのんびり、ゆっくりと街道を歩いていく。道中の自動販売機で立ち止まり五百円玉を入れボタンを押そうとするが、背後のハルヒロに振り向く。

 

「そういえば炭酸は苦手だっけ?」

 

「いえ、おれは大丈夫です」

 

「そうか」

 

 そのまま透明な炭酸飲料を二本買い渡して飲むとハルヒロが咽る。

 

「うぅ、キツイっすね」

 

「それが良いじゃないか」

 

 誠一が美味そうに飲むのを見ながら財布を取り出して中を探る姿にこちらから話を振る必要は無さそうなので黙って待つ。

 

そして目当ての物を取り出し誠一に差し出す。

 

それは精巧な魔方陣が描かれた一枚のチラシだった。視線をハルヒロに向けて説明を求める。

 

「先輩と会う前なんですが、駒王町って所にいる中学時代の友達の家に遊びに行って、これはソイツから貰った、なんでもグレモリー(・・・・・)って悪魔が現れて願いを聞いてくれるって。当時ってか今朝まで眉唾物だと思ってたんだけど・・・・・・」

 

「一つ聞く、お前と西園寺は高校からの付き合いだそうだが、出会ったのはこのチラシを手にした後か?」

 

「ああ、この間違いない・・・・・・やっぱり――――――――」

 

「自分にとって危険かどうか探りを入れにきたと考えれるな」

 

 誠一の結論にハルヒロは唸りながら頭をかく。

 

「で?」

 

「で、って?」

 

「春田は西園寺と友達辞めたいのか?」

 

「いや、そうじゃないけど・・・・・・」

 

 誠一の詰問に愚図ついている様に顔を伏せるが、

 

「だったら問題なしだ。西園寺は無害だし、寧ろ危険と感じたら立ち止まって引き返すことが出来る奴だ。何も心配は要らん」

 

「うん、そうだよな」

 

 はっきりと断言するとスッキリしたように顔を上げる。分かり切っている事でも背中を押して貰いたいのを優柔不断なれ初々しいと思うと同時に、

 

(いつでも何処でもって訳にはいかんそ)

 

 と心の中で呟き、適当に雑談をしながら明日の祭りで回るルートの下見を兼ねて町を案内していく。一通り回りきり日も暮れてきたので帰ろうとした時、霧が立ち込めてきて足を止める。

 

(おいおいおい・・・・・・何なんだよ、今度は?)

 

 気温の変化と相俟って背筋が寒くなりながら振り向くと、案の定ハルヒロの姿は無く僅かであった霧が右も左も分からない程に深くなり、動くに動けず立ち尽くす。

 

 方向どころか時間の感覚も分からなくっていく中で、明らかな自然現象ではない霧について考察する。

 

 こんな事が出来るのは今朝方の悪魔かそれに準ずる存在以外は考えられない。その目的は悪戯であってくれればまだ良いが、隠れ家が知れたことかイッセーの容態が急変でもしてお礼参りにでもしに来たというなら最早なす術が無い。聞く耳を持っていても相手を納得させるだけの物など何も無いし、非常識な存在の敵意を減ずるほどの芸当も全く見当がつかない。

 

 そんな絶望的な考えがグルグルと頭の中で回りながら周囲を警戒するが事の主が現れる気配がなく、実は大して時間は過ぎてないのかと焦りが増している時、霧の中をゆらゆらと緑色の光が近づいて来た。

 

(今度は鬼火か?)

 

 一歩後ずさるが足音ともによく知った声が響いてきた。

 

「先ぱ~い、無事ですか~?」

 

 視界に手を振りながら走ってくるめぐみが映り安堵して近づいていこうとするが、

 

「先輩、動かないで」

 

 の声に足を止めて程なくしてめぐみが前までやって来て息を切らす。

 

「ハァ、ハァ・・・・・・よかった。合流できて」

 

 呼吸が整うのを待ち現状把握をしようと思っていた時、別方向からパチパチとゆっくりした拍手が聞こえ目を向ける。

 

「いや~、最低レベルまで抑えたとは言え神滅具(ロンギヌス)の霧の中で自在に動けるとは御見それしたよ。随分と神器を使い込んでいるようだ」

 

 そこには制服にローブを羽織った青年がおり、静かに近づき適当な位置で立ち止まる。

 

「西園寺、奴は?」

 

「悪魔じゃありません。間違いなく人間ですが、その・・・・・・」

 

 自分と同類だとは言いたくないと書いてある顔にそれ以上はいらないと手で制し、向かい合っている青年に文句を言う。

 

「随分とまぁ、無礼な招待だね。何処の誰かも知れないお兄さん」

 

「これは手厳しい。ではまずは名乗ろう。

俺、いやわたしはゲオルグ、禍の団が英雄派に属する者。

 そして今朝の事、派閥は違えども同じ組織の者として謝罪する」

 

 右手を肩に当てて小さく頭を下げるも一切の誠意を感じえない為に気を緩める事無く言葉を返す。

 

「んで、ワザワザ謝りに来ただけでこんな大層な演出を?」

 

 警戒心満載の誠一の声に苦笑しながらゲオルグは懐から薄い何かを取り出し放り投げる。

 それは誠一の足元に落ちゲオルグに警戒を解かずに拾い上げて見ると、目を見開く。

 

「・・・・・・!?」

 

 制服姿の高校生くらいの夕麻とイッセーが仲良く歩いている写真だった。

 隣から見ためぐみも驚き、二人の反応に満足そうな笑みを浮かべるゲオルグ。そのまま何も語る事無く少しの間沈黙が訪れる。

 

「違う。夕麻じゃない」

 

「お見事、この数秒でよく気付いた」

 

「え、どゆこと?」

 

 誠一の呟きにゲオルグは再び拍手、めぐみが分からないままなので呆れながら説明する。

 

「お前らの学校の制服と全然違うだろう。

 ここに写ってるのは今朝の連中が言っていた夕麻のそっくりさんだ」

 

「その通り。本当に理解が早くて助かるよ」

 

「ここまで来ると土地柄だけじゃなくて、一種の才能ですね」

 

 ゲオルグとめぐみの賞賛に全く喜ぶことが出来ないまま、再び恋仲のごとく写っている写真を見る。

 今朝、リアスが言った騙されたを念頭に置くと、これは恋人とのデートではなく色仕掛け(ハニートラップ)であることは容易に想像がつく。そして重要なのは写っている女性と夕麻は本当にソックリであり、もしもまたイッセーかリアスがいたら変な気を起こしても不思議じゃないと思えた。

 そんな迷惑極まりない情報を見せ付けてくることが示すものは嫌なものしか思い付かない。

 

「愉しいか、人を恐がらせて?

 それともアジトを潰された腹いせか?」

 

 考えられうる可能性の中でマシなものを言いながら相手の真意を探る。

 

「おいおい、あまり見くびらないでくれ。これでも名のある英雄の子孫なんだ。そんな了見の狭い真似はしないよ」

 

「なら何しに来た?」

 

「では結論から入ろう、君たちを禍の団・英雄派に招きたい。

 見ての通り君の彼女は彼ら悪魔の忌諱に触れる存在、実際に写真に写っている堕天・・・・・・女性は殺されてるしね。口約束だけでは安全とはいない」

 

 言い直しはあったものの口調はスラスラとしており嘘は感じない。

 

「見返りも無く保護してくれるのか、英雄の子孫さん?」

 

 しかし真意も感じないために安易に飛びついたりはせず問いを重ねる。そしてその反応を嬉しそうな目で見ながら答えてくる。

 

「その物怖じしない精神力と冷静を通り越した冷徹さ、実に期待通りだ」

 

「おい」

 

 話をそらすことを許さないと意味も込めた催促にゲオルグは左手を小さく前にあげて謝罪の意を示し今度こそ答えを言い出す。

 

「では言おう。藤平誠一殿、君には我がボスであるオーフィス、昨日の女の子の面倒を見てもらいたい」

 

「子供のお守りの為だけにここまでするのか?それとも実はするほどの存在だと言うのか?」

 

「何処まで気付いているかは知らないが、彼女は人間じゃない。字義通りの意味で世界一強いドラゴンだ」

 

 この返しに誠一は疑念の目を向ける。オーフィスの心象は恐ろしいとは全く無縁だったからだ。そのまま黙って続きを待つ。

 

「現在、悪魔や堕天使それに神や天使と言った存在は手を組んで新たに世界の在り様を定めようとしている。我々、禍の団はそれに異を唱える者たちの集まりでその頂に最強の存在たるオーフィスを置いている。しかし彼女は行動原理や考え方がどうにも読めない異質な存在でもある」

 

「・・・・・・何故俺なんだ?」

 

 不安要素を軽減する為の監視者ならそれこそ身内から出すのが道理だ。誠一には異能の力など一切無い。人材がいないとしてもめぐみが居るのだから、まだ唾の付いていないそちら側の存在も居るはず。

 

「理由は幾つかある。まずさっきも言った君の精神性、次にこの町に生まれ育った為にこちら側に忌避感が希薄であること、何よりオーフィスが懐く事を実際にやった奇特な人間だからだ」

 

「そちらには出来ないと?」

 

「ああ、君はこの町の御伽噺を美談と捉えているようだが、俺達に言わせれば行き場の無い故の悲劇の逃避行だ。事実として異能の力を持つ者は弾かれ、異形と交わることは疎まれる。実際に君達の今住んでる町の近くでも十年ほど前にそうした悲惨な出来事があったくらいだ」

 

 この話にめぐみは息を呑む。

 

「だからこそ身を守る術を提示して、それを更に向上させていかかければならない。その為に協力を申し出たい」

 

「・・・・・・夕麻を守ってくれるのか?」

 

「約束する。勿論、君や友達も一緒に」

 

 即答するゲオルグの態度や目には真摯さがあり好印象がもてる空気が醸しだされており、誠一は心の中で――――――

 

(嘗められたものだな)

 

 はっきりと拒絶の意思を固めた。

 

「明日」

 

「明日?」

 

 誠一の言葉をゲオルグが復唱する。

 

「祭りが終わる時にもう一度来てくれ」

 

「返答はその時にという事かい?出来れば今直ぐに決断してもらいたいんだが」

 

「まず夕麻、それに春田に話した後で全員一致の上で。それが筋だろ」

 

「君がよしと言えば、皆賛同すると思うんだが?」

 

「俺達は連んではいるが誰が上とかは無い。ましては命に関わるんだ、意思の確認は必要だ」

 

 毅然とした態度を崩さず正論を出して会話を打ち切る。

 

「いい返事を期待するよ」

 

 誠一の一歩も引かない対応にこれ以上は無理だと判断し、ゲオルグもその場から消え霧も無くなり道の先にハルヒロを見つけ近づいていき誠一達は家に帰った。

 

 

 

 ***

 

 

 夕食を済ませ誠一の部屋にやってくるめぐみ、誠一から話を聞いたのかハルヒロが神妙な顔をしていた。

 

「夕麻は?」

 

「今、お風呂だから当面は出てこないんじゃ」

 

 誠一の問いにめぐみはカチューシャを出す。こう言う時は同姓であることが有りがたいものだ。

 

「それでさっきの話よね。天野先輩が出てきたら何ていうの?絶対に一悶着起きるわよ」

 

「だよなぁ」

 

「夕麻に聞かせないよ」

 

 めぐみの言にハルヒロが肯定するが誠一はバッサリと切り捨てる。

 

「え?それってつまり・・・・・・」

 

「アイツの申し出に応じる気は無い」

 

「けどそれだと天野さんが」

 

 ハルヒロはイッセーとレイナーレの写った写真を見ながら不安そうに言う。英雄派の申し出を断れば夕麻が殺され自分達も巻きぞいになってしまう可能性が生涯付きまとう。ましてや悪魔によって死ぬほど恐い思いをさせられたハルヒロは異形の存在に対して肯定的にはなれず異能を持っているとは言え同じ人間である存在からの助けを拒むことが理解できない。

 

「甘いわよハルヒロ、あいつ等に付いたって体のいいカードとしてストックされるだけだって」

 

「どうしてそうなるんだ?」

 

「はぁ~、あのね一連の出来事が全部偶然だと思うの?最初からかは知らないけど向うの狙いは天野先輩よ」

 

 そのまま、めぐみは推理を語る。

 まずは根拠として余りにも偶然が重なり過ぎている。誠一とオーフィスの邂逅、イッセーと因縁のある相手とそっくりな夕麻、その二人に偶々知り合いの神器持ちの自分。今朝の出来事であるリアスたちも偶々近くに居たとのこと。

 これらを組み合わせるとまず、英雄派は神器持ちである自分をマークしており夕麻の存在を知った。イッセーこと赤龍帝とは最近敵対して調査の結果、精神的攻撃に使えるとして恋人である誠一を通して襲われるようにあくまで自然な形でオーフィスと出会わせた。今日自分達が旅行に行くことも突き止めていて、リアスたちが助けに入るように計画。案の定、イッセーは夕麻によって心の傷(トラウマ)を抉られて意識を失うまでになってしまった。だから、効果が続いているうちにもう一度ぶつけようと言う腹なのだろう。誠一のオーフィスへのお守りも嘘では無いだろうが、機嫌を損ねて消されたとしても惜しくない捨て札程度のもので自分の神器に関しても便利に使えるから利用するつもりなのだろう。

 

「知らない間に得体の知れない連中の嗅ぎ回られてた?ってかまんま、おれ無関係じゃん」

 

「まあ、アンタも保護するって言ってたのは話の流れからくるついででしょうね」

 

 めぐみの推理に憮然するハルヒロ、そんな光景を横目で見ながらパチパチパチと手を叩く誠一。

 

「無駄話はそれくらいでいいか?

謎解きゲームがしたならミステリーのイベントにでも参加してくれ」

 

「なんですか先輩、無駄話って!」

 

「今の西園寺の仮説もさっきのゲオルグとか言う奴の話も全ては与り知らぬことだ。真偽の分からないことをグダグダ考えても時間の無駄だ。何よりも問題はそんな所に無い」

 

「只の偶然でも仕組まれた必然でも関係ないと?」

 

 ハルヒロは説明を求めて訊いて来る。

 

「今俺達が直面している問題は悪魔に食われるのがいいか?英雄派(あいつら)に食い物にされるのがいいかの選択を突きつけられてることだ」

 

「だからそれぞれの真意と言うか何が最善なのかを――――――」

 

「求める答えがプラス、マイナスであるなら有意義だが最善を歌うならそれは最適な答えとは言えない」

 

 食い下がろうとするめぐみに誠一は首を横に振りながら言い切る。

 

「じゃあ聞かせてくれませんか、藤平先輩の答えってやつを」

 

 ハルヒロの問いに誠一は両手の人差し指でバツを作る。

 

「俺の答え、それはゼロを掛ける事だ」

 

「「つまり、どう言うこと?」」

 

 余りにも抽象的な返答にめぐみとハルヒロの声が重なり説明を始める。

 

「難しいことじゃない。異・・・・・・非常識と完全にキッパリと縁を切るだけだ。

 西園寺の仮説が当たってたら断っても奴らはもっとストレートに夕麻をさらって赤龍帝(てき)にぶつけようとして来るし、偶然の場合でもいつ悪魔共の気が変わるとも分からない」

 

 そしてそれは申し出を受けた場合も同じ、不条理だろうと夕麻がレイナーレとそっくりである限り安心することなど不可能。それを思えばやられる前にやると言う理論で英雄派と組むのも一つの選択肢だが、それで済むと考えるのは浅はかである。

 

「あいつ等につくことは悪魔たちの明確な敵になるってことだ。よしんば倒せたとしても今度は報復の可能性に怯えるだけだ」

 

「じゃ、どうするんですか?!悪魔との口約束信じてずっと怯えて暮らしますか?

 それともわたしの能力で危険を回避し続けながら、皆で逃避行でもするんですか?」

 

「今朝の絶叫と睨まれたのとこの写真見るとおれも不安で仕方ないんすけど・・・・・・」

 

 めぐみとハルヒロが噛み付くが、それも仕方がない。そもそもにおいて自分達には命を守る手段が無いのだ。本来、異形と関わりのない誠一に夕麻にハルヒロ、めぐみも神器を持っているとは言え関わらないようにしてきた。全く頼れる(よすが)が無いしなにを信じるべきかも分からないし分かったとしても受身にならざるを得ない。まず間違いなく英雄派はそれを見越して自分達に降ると見ているだろう。

 

 

「向うは俺達に抵抗する力が無いと思っている。付け入る隙があるとしたならそこしかない」

 

「だからどうやって?」

 

「向うの知らないもう一つの偶然・・・・・・俺達にとってはそうでもない必然を使う」

 

 誠一はハルヒロとめぐみを見て説明を開始し―――――――――

 

「ちょっと正気ですか!?」

 

「おれが言うのもなんだけど、いくらなんでも危険すぎるって!!」

 

 猛反対を喰らった。

 

「俺は英雄ゴッコに興味など無いし、そんな輩の手拍子で踊るよりかはマシだ」

 

「でもだからって・・・・・・」

 

「そもそも上手くとも思えないよ」

 

 不安顔のハルヒロとめぐみだが、誠一は立ち上がり告げる。

 

「心配要らん、今からの対応は俺一人でやるから」

 

 一人部屋を出て行く誠一に残された二人は顔を見合わせるしかなかった。

 

 

 

 




 今回は繋ぎで次でこの物語は終わります。
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