昼休みにドッペルゲンガー   作:a0o

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 (下)

 

 

 

 翌日、奈古戸町での毎年恒例である秋祭りが始まった。

 鮮やかな藍色の浴衣を着た夕麻を除いて全員がラフな格好で屋台や太鼓や笛の音の陽気な雰囲気を味わいながら大通りを通る神輿に目をやる。神輿には一組の男女の人形が寄り添う様に飾られており、祭りを最も楽しみにしていためぐみが大はしゃぎで追いかけハルヒロがお目付け役を買って出るという口実(・・)で追いかけていく。

 

 そのまま二人っきりで賑わう祭りの中を満喫するが、時々、恋人(せいいち)が見せる切なそうな顔に夕麻は尋ねるかどうか迷いながら手を繋いで隣を歩く。

 

 

 そして何事も無くその日の祭りは終わり、勿体無さそうな顔で夕麻が言った。

 

「お祭り終わっちゃうね」

 

「なに、また来年もあるさ」

 

 屋台が並ぶ大通りから皆が帰路に着くのを坂道の上から見下ろしながら安心したような表情とニュアンスで自然と言葉が出た。

 

「ホント、無事で終わってよかった」

 

「・・・・・・ねぇ、誠一?」

 

「ハハハ、ゴメンな。楽しめなかったか」

 

 夕麻の心配そうな顔に今日一日で思うところがあった心情を隠せなかったことを詫びる。

 

「何かあったの?」

 

 踏み込んできた彼女に誠一は語り出す。

 

「あれは俺が子供の頃だ」

 

 自身の苦い思い出である昔の祭りでの出来事を。

 当時の祭りを親と一緒に参加し出店回りや賑やかで楽しげな音にはしゃいでいた。そんな中、酔っ払った男が騒ぎを起こし近くに居た誠一は子供ながらにいきり立ち正面から文句を言った。されど相手は酔っ払い、逆上し暴れ出しあわや取っ組み合いの喧嘩になる寸前だったが駆けつけた周りの警備に取り押さえられ事なきを得た。

 しかし、その最中に男が暴れ振り回していた拳が近くに居た少女にあたってしまい、少女は痛みと恐怖で大泣きしてしまった。怪我自体は流血などと言った大変なものではなく少女も親にあやされて涙も震えも収まっていったがそれを目にしながら、あやす親に睨まれたことは今でも目に焼きついている。

 

 そして、もしも当たったのが瓶やもっと硬いものだったら、打ち所が悪かったらと言った悪い想像は頭をよぎって胸を締め付ける。

 

 勿論、悪いのは羽目を外しすぎた酔っ払いであり、当時子供だった誠一に諭されることはあっても咎められることは無かったが、一時の感情による浅はかな行動で危うく取り返しの付かないことになるところだったのは否定できない。

 

「・・・・・・?」

 

 話を終えた誠一に夕麻が体を寄せて来た。

 

「それが今の貴方の、異様なほどのクールの原点(ルーツ)って訳か。

 なんだか少し安心した。でも大丈夫よ、私は誠一のこと大好きなままだから」

 

 肩に首を預けてくる夕麻の頭にそっと手を添える。

 

「それでその女の子は今どうしてるの?」

 

「今もこの町にいる来年当たり高校受験だって言ってたかな?」

 

「ん~~~~、ちょっと?」

 

「ここはそんなに広い町じゃないから噂話は直ぐに聞こえてくるの。夕麻が勘ぐるようなことは何も無いから心配するな」

 

 体を離し不満顔をする夕麻に苦笑しながら弁明する。

 そしてそのまま抱き寄せて、

 

「うわっ!」

 

「馬鹿」

 

 良い雰囲気を打ち壊す声に目を向ける。

 

「ああ、もうちょっとだったのに」

 

「すみません。おれ止めよっていったんだけど」

 

 前のめりに倒れているめぐみにしこしこと頭を下げるハルヒロを尻目にしていると、

 

「フフフフフフ」

 

 全く違う方から含み笑いが聞こえてきた。

 そこには顎に指をあていかにもなポーズを取っているゲオルグの姿があり、誠一は全く面白くない顔で文句を言う。

 

「見てたんならせめて気を利かせろよ」

 

「おやおや随分だなぁ。霧を使うなと言ったのは君だろうに」

 

「えーっと、貴方は?」

 

 話に一人着いて聞けない夕麻が聞くが、誠一は取り合わせないように前に出てハルヒロとめぐみも近づいてゲオルグと向かい合う。

 

「さて約束通り、こちらは祭りが終わるまでは待った。昨日の返事を聞かせて貰えないかな」

 

「では改めて確認する。お前たちは夕麻をひいては俺たちの身の安全を保障してくれるんだな?そしてオーフィスだったか、あの娘を結局どうしたいのか?」

 

「勿論だ。しかしこんな道端で立ち話もなんだから、場所を変えよう」

 

 色よい返事と取ったゲオルグが手を差し伸べ、一同(夕麻は一人訳が分からないまま)近づこうとした瞬間に晴れ渡っていた星空から突如、雷が双方の真ん中に足を止める。

 

 驚愕の表情で全員が一斉に空を見上げると巫女服姿に蝙蝠と鴉の様な黒い翼をそれぞれ生やした朱乃が笑みを浮かべながら空中を静止していた。

 

「あらあら、随分と楽しそうな集まりですわね。その話とやら私達(・・)も混ぜていただけません」

 

 笑顔とは裏腹に口調には不機嫌が込められており、続く視線を真っ先に浴びせられた夕麻がパニックを起こして悲鳴をあげる。

 

「いやぁああああ!!!なんなのよ!!私がなにしたって言うのよ!」

 

 素で恐がっている姿は疑いようも無く誠一が落ち着かせようとするのを横目で見ながら、ゲオルグも不思議そうに朱乃に質問を投げつける。

 

「本当に不思議だ。何故領地でもないこの町に?」

 

 口を動かしながら神器を発動させようとした時、背後からの殺気に気付き横に飛び退くと、今しがた自分の居た場所に紅い魔力が激突し地面を消し去り窪みを造った。

 

「教えてあげるわ、女の勘よ。どうもその娘を見た時からそのままで済むとか思えなかったから、ちょっとマークさせてもらったのよ」

 

 魔力が放たれた方向からはリアスが蝙蝠の翼を広げながら舞い降り、夕麻に鋭い視線を浴びせる。

 

「――――――――・・・・・・」

 

「気を確り持て!!」

 

 誠一は更なる恐怖に最早悲鳴もあげられなくなってしまい、そのまま気絶しそうな彼女の両頬を挟み叩いて意識を保たせ、それを視界に納めながらゲオルグは戦闘態勢を取ろうとする。

 

(それにしても二対一か・・・・・・これは少々―――――)

 

 現状を鑑みるとそれぞれに紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)に雷光の巫女の異名を持つ上級悪魔だが、彼とて上位神滅具(ロンギヌス)の所持者でありあらゆる魔術を納めた魔術師、本気を出せば早々に遅れなど取らない・・・・・・・はずだった。

 

「おい!アンタ、ああいうのから守ってくれるんだろ!?だったらなんとかしろよ!!っうぁ!!!」

 

 いつのまにか背後にいたハルヒロがローブの袖を引っ張り邪魔された隙に雷光が迸りハルヒロは尻餅をつき、ゲオルグは霧を展開して姿を消す。直ぐに体制を整えて仕切りなおそうとするが、

 

「ちょっとなに隠れてんのよ!?英雄の子孫なんでしょ!戦いなさいよ!!」

 

 今度はめぐみが神器を展開して霧で分からなくなっているゲオルグを指差して喚く。

 

 それを見たリアスは指された方向に向って満遍なく魔力を放ち、朱乃も雷光を連続で放ち続ける。

 

(くぅ!!ええい、一体なにを考えているんだ!?・・・・・・・・・・・・!!?)

 

 足を引っ張られて防戦一方になり、神器も魔法も展開できず反撃の隙も無い。

 ゲオルグは比較手に冷静さを保っている誠一に大人しくさせるように指示しようとするが事もあろうに誠一たちは遥か向うを全速力で走って逃げていた。

 

(・・・・・・おいおいおい)

 

 逃げていく誠一たちはリアスの目にも入り皮肉と怒りを込めた声で言い放つ。

 

「宛が外れたようね。棚ボタなのか狙ってたのか知らないけど、私のイッセーにこれ以上ちょっかい出すなんて絶対に許さないわ!!」

 

 リアスは小魔力の連続攻撃からより大魔力を放つのに切り替える為の溜めに入り、一瞬攻撃が止んだ隙にゲオルグが魔方陣を展開するが朱乃の雷光が直撃した。

 

 しかし、不完全な術式であった魔方陣は暴発し雷光と相俟って予期せぬ衝撃波を生み、リアスと朱乃の動きを一時止める。

 

 今度こそ隙が生まれ絶霧(ディメンション・ロスト)を発動、霧を纏いながらリアスの文句を短く返す。

 

「解釈はそっちが自由にやってくれ、面倒なドラゴンへの対応は当初の予定通りにするさ」

 

 あっさりと撤退していくことからして夕麻は、あれば良い程度のカードだったのかと類推するが、戦闘は終わり兎も角今はリアスと朱乃は飛翔して走っている誠一たちの前に降り立つ。

 

「イヤァ!!死にたくない!殺さないで!!」

 

「気休めにもならないかも知れないけど殺す気はないから」

 

 怯えきり腰をぬかす夕麻に憮然と言うリアス。

 

 しかし、それだけで納得など出来るはずもなく溜息をつきながら説明を続ける。

 

「理由として私たちの勢力は今の世に争いごとを起こすこと良しとしない。

 寧ろそれはさっきまで戦っていた男が所属する禍の団がそうなの、何せテロリストなんだから」

 

「つまり命を奪ったり誑かしたりはしないと?」

 

「少なくとも今はそうなろうとしているわ」

 

 誠一の問いへの答えからは、まだ完全ではないと言う意味が読み取れ複雑な空気が生まれるが、リアスは不機嫌を極限まで押さえ込み事務的な態度で人差し指を突きつける。

 

「だからこそ言うわ。間違っても禍の団に組みしようとはしないこと、もしもそうなったなら今度こそ私たちは容赦なく貴方達を殲滅する。三度目は無い、これが最後の警告よ」

 

 そして誠一たちの返事も待たずに朱乃と共に転移して去って行った。

 

「助かったんですかね、先輩?」

 

 

「聞く相手が違うだろ。どうなんだ、西園寺?」

 

 めぐみは声を掛られるまでも無く神器を全力で発動し翠色の灯りを強めながら肯きながら親指を立てた。

 

「うん。大丈夫、あたし達を見てないし誰もいません」

 

 安全宣言に誠一とハルヒロは安堵の息を吐いた。

 しかし、まだ恐怖で混乱が抜け気っていない夕麻は不安そうに誠一の服を掴んでおり優しく手を握って声を掛ける。

 

「心配するな。向うの警告を守って大人しくしてれば命の危険はないだろう。

 気まぐれで動くならとっくにやってるし、さっきの男にしても直ぐに使えないなら労力は吊りあわない、無駄な接触はしないだろう」

 

「でも・・・・・・でも・・・・・・」

 

 尚も不安な様子に落ち着かせるように説明を重ねる。

 

「わざわざマークしてたくらいだ。あの悪魔の少年が大事なのは疑いようは無い、だったらあんなにハッキリした問題に手も打たず治療も施さないなんてことはあるまい・・・・・・勿論、一朝一夕ではないだろうから何なら暫くここに居るか町を離れるか?まだ一年だし取り返しは付くだろう」

 

「へぇ~、じゃあ、あたし達ひょっとして先輩と同期になっちゃたりするのかな?」

 

「おい!」

 

 茶化すめぐみに突っ込むハルヒロを見ながら夕麻は涙目ながらも微笑み言った。

 

「みんな、ありがとう。

うん、大丈夫。私、信じるよ誠一やめぐみちゃんを」

 

「えーと天野さん、おれは?」

 

「ハルヒロくんもいざとなったら守ってね」

 

「う~、善処します」

 

 持ち出しといて自信なさげな姿に場の空気は朗らかになり、今度こそ帰路に着く。

 

 歩いている中、誠一はあの場ではああ言ったものの実際はギリギリであったことに内心で溜息をつく。

 

(しかし、それはリアス(あちら)も同じ・・・・・・まだ認めきれてないみたいだったなぁ)

 

 去り際のリアスの様子から彼女の心情を悟り思い出す。

 

 

 

 ***

 

 

 

 回想。昨晩、誠一はめぐみとハルヒロと別れ家を出て町の外れでハルヒロが持っていたチラシを前に強く念じていた。

 

「御丁寧に〝願いを叶えます〟とあるんだ、だったら出て来てくれないか、リアス・グレモリーさん」

 

 そして魔方陣から紅い光が発せられ、目当ての紅髪が現れる。

 

「まさか、その日のうちに、それも其方からお呼びか掛かるなんて。いい根性しれるわ」

 

 リアスの開口一番の皮肉に対して思うところは無く淡々と用件を切り出す。

 

「取引がしたい。まずは話を聞いてもらえないか」

 

「悪魔に殺されかけたのに悪魔と取引?怪しすぎてビックリね」

 

「貴女にも興味がある話だと思うが」

 

「私とあなたの共通にして盛り上がれる話題、どんなのかしら?」

 

「貴女の想い人、イッセー君に危険が迫ってる」

 

「続けなさい」

 

 怪しがっていたのに即効で食いつき尚且つ想い人であることを否定しない姿に誠一はビスネスライクに告げる。

 

「先にも言ったがまずはこの情報を対価に取引を受けて欲しい」

 

「何を望むのか聞かせてくれるかしら」

 

「至って簡単、俺達の身の安全の保障。貴女達と今接触してる奴に対しての危害を払拭して欲しい。無期限でだ」

 

「接触?と言う事は見られてる可能性・・・・・・は無いみたいね」

 

 リアスの言に現状での安全度が増した。監視の可能性は誠一も考えていたが自分達をそこまで重要視しているとは思えず単独で動いていること。楽観でありもしも遣り取りを盗み見られたとしても弁明が効くように会話は慎重に運んだ。

 

 周りを警戒しながら目で続きを促すリアスにゲオルグからの写真を差し出す。

 

「これって・・・・・・どうしてアナタが?」

 

 誠一は順番に説明を始める。今朝の出来事の後、地元であるこの町にやって来て町を案内していた時にゲオルグと名乗る青年に会い、その写真を渡され自分達に身の危険があることから保護下に入るように要請された。

 しかし、話をそのまま鵜呑みにしてしまうほど能天気ではなく、赤龍帝(イッセー)を倒す手札として夕麻を使う為に騙そうとしている可能性もあることから話に乗るつもりが無く、明日の返答の時に一芝居打ち自分達が無価値であるか有するにはリスクが高いことを悟らせるように仕向けたいと提案する。

 

 話を聞き終わったリアスは嘆息しながら写真を付き返した。

 

「残念だけど、それは私達にメリットが吊りあわないわ。仮に貴方たちが敵に回るなら今度こそ殲滅するまで。そもそもこの申し出自体が罠じゃないと証明できる?何よりここは私の領地じゃない、個人の一存での勝手は出来ないわ」

 

 ビジネスライクの対応を返してくるが、言葉とは裏腹にその目には悪魔もしくは女のプライドがあるように感じ、イッセーを傷つけた者たちに対する負の感情が隠しきれず未熟であり、まだ何者にもなってない女の子であると察し突くべきポイントを定める事が出来たので粛々と切り返す。

 

「次期公爵と名乗っていたのに私情が混ざっているように感じるだが?」

 

「あら、そう。生憎だけど私たちグレモリーは情愛の深い悪魔なの、何も恥じることは無いわ」

 

 リアスは堂々と胸を張って話を終わらせようとするが、思い通りにさせない。

 

「情愛に深いというなら、部下の事ももっと見るべきでは?

 あの少年の心の傷、そこにある意味・・・・・・いや影を、心にいる彼女を」

 

「安い挑発もいい加減にして。私たちにはもう終わった話を蒸し返さないでくれる」

 

「終わってなど居ない、だから今こんなことに成っている。そう主張するなら今直ぐにでも終わらせてくれ」

 

 誠一は写真を手にとって躊躇無く破り、リアスは一瞬面食らう。

 

「例え利用されるだけのメリットがないとしても俺と組めば直ぐにあの少年が壊されることはない。しかしもしも俺達の思う最悪の可能性が実現したら彼は二度同じ女に殺されることになる、そんな思いを味あわせたいんですか?」

 

 リアスの表情が神妙なものに変わる。先ほどまでの怒り具合からしてまだイッセーは目を覚ましてないのかも知れないとして最も起こって欲しくないことを仄めかせて心を揺さぶる。

 

「今の貴女が最も大切したいものはなんですか?次期公爵としての名誉、悪魔としてのプライドですか?情愛に深いと称するなら、貴女に付いて来てくれる部下達であり、その中でも彼の存在が一番ではないんですか?そうであるなら答えは自ずと決まるはず」

 

 こうして誠一とリアス、互いの想い人を傷つけられた同士が共闘を組むことになったが、完全に納得しているとは言いがたい別れ際のやりとりに釈然としない心境であった。

 

 

 

 ***

 

 

 翌日、午前をゆっくりと休み、午後に東京に戻る電車に乗っていた誠一たちだがどうにも疲れが取りきれず行き以上に静かになって電車に揺られていた。

 

「くぅ~~―――――――」

 

 夕麻は頭を誠一の肩に乗せながら熟睡しており、昨晩の出来事が余程堪えていたことを容易に想像でき優しく頭を撫でる。

 幸い前に座っているハルヒロやめぐみも寝ており茶化される心配は無い。(尤も起きていても然して関係ないが)かくいう自分も疲れているのだが神経が高ぶって目が冴えており、かと言ってやることも無いので静かに窓の景色でも眺めようとしていた。

 

「退屈だからお話しませんか先輩」

 

 だが眠っていたと思っていためぐみからの声に窓でなく前の席に目を向ける。

 そこに座っているめぐみのからかう様な笑みも無く、疑念を込めた目を向けていた。

 

「訊きたいことがあってウズウズしてるか」

 

「あ、やっぱ分かりますか、いつも通り顔に書いてってやつ?」

 

「今は目が言ってるだな。ま、こんな言葉遊びはいいとして、何が訊きたい?」

 

「じゃあ遠慮なく。どうしてあの悪魔と組む気になったんですか?

 下手したら皆まとめて殺される可能性だってあったって言うのに?」

 

「おいっ」

 

 誠一は横の夕麻に目をやるが、めぐみはカチューシャを指して静かに言う。

 

「これだけ近くなら寝てるか起きてるかくらいは分かりますから」

 

「ホント、便利な能力だね」

 

「そこまで深くは分かりませんよ」

 

(ま、極めれば別かもしれないけど)

 

 と余計な事を言わないように口を噤みながら誠一に返答を求める。

 

 めぐみが知りたいのは純粋な好奇心で深い意味は無さそうだが、今まで神器で危険を回避して来た身としては、今回の旅行の目的たる悲恋の物語への祭りと命や人生を左右する予期せぬ災難は心に大きな衝撃だった。だから何故異形の外側に居た誠一が異能者とは言え人間じゃなく悪魔を信じる気になったのか、興味がくすぶっていた。

 

 夕麻の手前、適当にあしらって答えなくても良さそうに思えたが言いたくない訳でもなく断る理由もない事から一息ついて話し始める。

 

「あのゲオルグって奴から写真を渡された時にその気になった」

 

「え?」

 

 意味が分からず怪訝な顔になるのを冷めた目で見ながら続ける。

 

「あの時、仲良さそうにしている少年とソックリさんを見て、彼は本気だったか少なくとも本気に成ろうとしていたんだって直感した時、夕麻を見た時の反応とその後の絶叫がしっくり来たんだ」

 

「でもそれは一度殺されたからだって・・・・・・」

 

「だったら恨みや怒りを向けて来るはずだ、後に来た娘達みたいに。でもあったのは驚愕と恐怖だけだった。なら何に怯えていたのかその疑問があの写真を見たとき解けた・・・・・・いや感じたと言ったほうがいいかな」

 

 誠一は一度言葉を切り横目で夕麻を見る。

 

「もしも、俺が夕麻に裏切られて死にそうになったら、俺は狂うか壊れるだろう。でも夕麻を見るまでの行動や言動はまともに見えた。狂っても壊れても腐ってもいなかった。正気を心を保つことができる誰かが側にいたんじゃないかって、それは彼女かあの娘たち全員か。それが一連の出来事の中で俺が抱いた唯一の良い印象だった」

 

「良い印象って・・・・・・そんな曖昧な理由で人間じゃなくて悪魔を信じたんですか?」

 

 信じられないと言う顔をするめぐみに視線を合わせる。

 

「俺たちは非常識から間然に蚊帳の外にいる人間だ。西園寺だってギリギリの所で踏みとどまっている口だろう」

 

 めぐみは息を呑み言葉に詰まる。

 

「何を信じていいかなんて分かるはずが無い。なら姿形だけかもしれなくても俺と同じ好みの少年の心を抱き留めた女性、胡散臭い英雄君よりもどうせ賭けるならそっちの方がいいじゃないか」

 

 誠一は言葉が詰まったままで固まっているめぐみを、自分の恋心を物差しにして命を懸けた判断に呆れているのか驚いているのか、切羽詰っていたとは言え乏しすぎる根拠を持って危機を乗り切り平穏な日常に戻ってこられた奇跡の如き幸運に胸が一杯なのか、と都合のいい憶測を並べながら面白そうに見ていた。

 

「・・・・・・そこまで言うなら、もう会わないようにって言うのは早計だったんじゃあ」

 

 視線に対して皮肉を返してくるのに少し考えるように腕を組む。

 

「そうだね~。だけど・・・・・・」

 

 リアスとの組む時や去っていった際の遣り取りを思い出すと女のプライドなのか、まだ認めていない否、許容する余裕がない女の子と言う心象もあって、あれ以外に向うを肯かせる選択肢はなかった。

 

「だけど?」

 

「う~、悪魔にこの表現はどうかと思うが、リアス女史自身がイッセー君の光となっているから心の影にある傷が見えなくなってるって言う側面もあるだろうしね。正直、そんな直ぐにどうこうなるのかって不安もあるからな」

 

「月並みな言い方ですけど、単純なようで複雑ですね」

 

 勿論、イッセーがちゃんと心の傷(トラウマ)と向き合って心の整理をつけたなら、どんな形でも話をしてみたいという気持ちもありはする。

 

(さてはて結局どうなってるんだろうか?)

 

 そんな事を思いながら窓の外に目を向ける。

 

 

 ***

 

 

 駒王町、兵藤家の自室でイッセーは眠っていた。

 当初は寝汗も凄くうなされていたが、現在は呼吸も落ち着き物静かで顔色も良かった。

 

「う、うう~ん――――――」

 

 そして漸く目を覚ましたイッセーの目には手を握り心配そうな顔をしたアーシアが映った。

 

「あ、イッセーさん。よかった、やっと気が付いた」

 

 目に涙を浮かべるアーシアにゆっくりと起き上がりながらバツの悪そうに口を開く。

 

「ゴメンな、アーシア。心配かけたみたいで・・・・・・」

 

「そんな謝らないで下さい。それよりもイッセーさん、ホントに大丈夫ですか?」

 

 涙を指で拭きながら心配そうに尋ねてこられ、そもそもどうして寝込んでいるのかを思い出そうとする。

 

「え~と、確か変な飛び込みの依頼があって町を離れて、その帰りに禍の団があらわれったって急報で俺が一足先に現場に行って・・・・・・行って、それから・・・・・・・・・・・・どうなったんだっけ?」

 

 ショックで記憶が飛んだのか素で分からないと言う態度に不安そうな哀しそうな目を向けるアーシア。

 

 それにますます困惑し声を掛けようとした時、部屋の戸が開き朱乃と小猫が入って来た。

 

「イッセーくん、良かった。目が覚めて」

 

「朱乃さん、心配かけました。小猫ちゃんもご――――――」

 

 イッセーが言い終わる前に朱乃が抱きつき豊満な胸を顔に押し付けて来る。

 

「「――――――――――!!」」

 

 それに後の二人が負けじと近づいて来るがその前に朱乃が振りほどかれて、少女たちは唖然とする。

 いつものイッセーなら困惑しながらも役得だといってニヤけた顔するのだが、今は憔悴した顔で目に怯えの色を見せ、先の一件での出来事から事態の深刻さを再認識した。

 

「す、すみません・・・・・・ちょっと、驚いて・・・・・・そ、その部長は?」

 

 しかしイッセー自身は無自覚なまま誤魔化そうとしている様子も無く、朱乃が作り笑いをしながら手を握り優しい口調で言った。

 

「いいえ、まだ疲れているだろうに配慮が足りなかったのは私ですわ。

 それとリアスは今冥界に行ってますわ。ちょっとバタバタしたことが起きて、それに次のレーティングゲームの打ち合わせも兼ねて」

 

「そう、なんですか・・・・・・だったら俺も寝てなんて――――――」

 

「まだ寝てないといけませんわ。そんなんじゃ学園祭の準備も不安です」

 

 ベッドから立ち上がろうとするのを強引に寝かせ窘める。

 

「え、でも・・・・・・」

 

 尚も言い募ろうとすると小猫がベッドに潜り込んで抱きついてくる。

 

「早く元気になるように仙術治療もしますから、もう少し休んでくださいイッセー先輩」

 

 そのまま何も言えなくなり大人しくするのを確かめて朱乃とアーシアは立ち上がる。

 

「それじゃあ、小猫さん、あとは宜しくします」

 

「私もリアスに報告しますから、ゆっくり休んで下さい」

 

 部屋のドアを閉めて少し廊下を歩いたところでアーシアが心配そうに口ずさむ。

 

「イッセーさん、まだレイナーレさまのことを・・・・・・」

 

「アーシアちゃん、今それを言って刺激してはいけません・・・・・・それにリアスもあのソックリさんの彼氏にかなりキツイ事を言われたみたいですし・・・・・・もう少しどちらかの心が落ち着くのを待ちましょう。そして、その時は貴女も力を貸して下さい」

 

「ハイ!」

 

 決意を込めて即答するアーシアに微笑みながら、朱乃も近い内に訪れるだろうその時(・・・)を思い覚悟を決めた。

 

 

 ***

 

 

 東京に戻り夕麻を送り届けた後にハルヒロとめぐみとも別れ、誠一は一人で三日前にオーフィスに連れてこられた洋館への道を歩き、あった筈の洋館が荒地に変わっているの横目で見ながらそのまま通り過ぎて行く。

 

(もう関わるべきじゃないと解っているのに・・・・・・何やってんだかな、俺は)

 

 偶然であれ誰かによる故意であれ、あの一時が切欠で豪い思いをしたというのにどうしてもオーフィスが悪者には思えず、あの時の事を恨む気持ちも湧いて来ないししたくも無かったため、もう一度会って話しがしてみたかった。

 

 もっともこの結果は想定内であり、いる可能性など無いに等しいことも考えたが此処と定食屋以外に当てなど無く、さっき入った店にはオーフィスの姿はなく手詰まりであった。

 

(う~ん、あの娘がテロリストで彼らの敵か・・・・・・やっぱり信じられないなぁ)

 

 だからと言って自分に出来ることなどないし、あったとしても夕麻を危険に晒したり恐がらせる様なことに番ってしまうなら論外だ。

 

 一昨日と昨日のように恐怖に震える姿を思い出し、もう二度と夕麻に同じ思いをさせたくないと強く思う。その時、ふとイッセーの事が頭をよぎり彼について聞いた話しを改めて思い出す。

 

 恋心を弄ばれた挙句に殺されながらも復活し、腐ることも壊れることも無く新たな仲間と想ってくれる女たちと一緒にテロリストと戦う、正しく物語の主人公だ。ならば、

 

「俺は一時の間、主役のようだったが、これからの・・・・・・本当の主役はお前たちだ。さっさと目を覚まして、己が心の闇を・・・・・・恐れをしかと見ろ。そしてその分だけ格好良くなれ・・・・・・物語の主人公君」

 

 そうであるならあの娘(オーフィス)のことも解ってくれるかも知れない。そう、ささやかに望みながら、日常に生きる者(ふつうのにんげん)非日常で生きている存在(たたかっているヒーロー)たちに向かい〝幸あらんことを〟と故郷の神と共に祀られた男女に祈る。

 そして、その先に――――――その二つが交わる道を。同時に悲恋の男女の物語が祝福に変わる様にとの思いを込めて願った。

 




 ご愛読ありがとうございました。
 主人公としては一誠にはリアスや朱乃たち(むしろこっちが重要)がいるから心配は無いみたいな気持ちで思っていて欲しいのですが、原作を見る限りはこの時点では、どうにもそれで良いと言い切れないので私としてはちょっと微妙な心情です。皆さんはどうでしょうか?
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