東方聖杯戦   作:鯉月 月(ゆえ)

2 / 4
動き出す願望機

「終わった、終わった。赤夜(せきや)、帰ろうぜ」

 

 全ての授業が終わり、教室内が帰宅ムードになった途端にカバンを机の上に置いて上履きのかかとを踏み脱ぎやすいようにする修人。

 

「帰りのHRがあるだろうが。落ち着いて座ってろ」

 

「うーい」

 

 修人(しゅうと)は軽く返事をしてカバンに顔を埋めて腕をだらりとする。

 

 そうこうしているうちに山田先生が教室に入ってきた。

 

「全員そろっているな? じゃあ気を付けて帰れ」

 

 教室を見渡し解散を告げると教室から出て行った。

 

「よっしゃ。帰ろう」

 

「おう」

 

 修人と共に教室を出て昇降口へ向かう。

 

「直接来るか?」

 

「あー、とりあえず帰ってカバン置いてから行くわ」

 

 靴に履き替えて駐輪場へ歩いていく。

 

「それじゃ、またあとでな」

 

「あいよ」

 

 修人とは家が逆方向なので一旦別れて自転車で家へ向かう。

 

 

 

 木々に囲まれた道をのんびりと自転車で進んでいくと視界が開けて大きな湖が見えてくる。町はずれにあるこの大きな湖は観光地としてちょっとだけ有名になったことがあるらしく、まれに観光客がいる時がある。

 

 湖の近くに建っている家は俺の家くらいなので、観光客がいないときは静かで風が草木を揺らす音しか聞こえない。

 

 自転車を家の前に止めて家に入り、カバンを部屋に投げ入れさっと着替える。いつものショルダーバックを持ち玄関を開ける。

 

「あら? ここの人?」

 

 外に出ると大きな日傘をさした女性が声をかけてきた。

 

「あ、はい。そうですけど」

 

 なぜだか少しだけその女性を怖いと感じ後ろに下がる。

 

「ちょっと聞きたいことがあったのだけど。……、でもいいわ。だいたい分かったから」

 

「そ、そうですか」

 

 そういうと女性はゆっくりとした足取りで森の方へと歩いていく。

 

「あ! ここら辺は街灯が少ないですから日が落ちる前に町の方へ戻った方がいいですよ。」

 

「ありがとう。あなたも夜道には気をつけなさいね」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 俺の返事を聞き満足そうに頷いた女性は再び森の方へ歩いて行った。

 

「……、観光の人かな?」

 

 この町はあまり大きいとは言えない町なので、名前はわからなくても顔だけは知っている人の方が多いのだが、今の人は見たことがなかった。

 

「まぁいいか」

 

 観光で来る人は珍しいがいないってわけでもないし、たまたまうちの前を通っただけだろう。

 

「っと、こんなことしてる場合じゃなかった。早く行かねぇと」

 

 慌てて自転車に乗り修人の家に向かった。

 

 

 

 

 

「ふふ、面白そうな子だったわね」

 

 傘を差した女が乗り遠ざかる少年を眺めながら呟く。

 

「これもしっかり反応してたみたいだし」

 

 女の手には泥に(まみ)れた(はい)が握られていた。

 

「さてと、次は誰にしようかしらねぇ」

 

 女はその杯をどこかへしまい、ふらふらと森の奥へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 夕方まで修人の家で遊び、修人が買い物を頼まれたのでお開きになり途中まで自転車を押しながら一緒に歩く。

 

「結局起動しなかったな。あのゲーム」

 

「うーん、昨日までは問題なく動いてたんだけどなぁ。急に読み込み出来なくなったなぁ」

 

 修人の言っていたゲームはディスクを入れても起動せず、結局別のゲームで遊ぶことになった。昨日までは問題なく起動していたらしくなぜ起動しなくなったのかはわからなかった。

 

「まぁそれは今度やらせてもらうわ」

 

「おうよ。それにしてもお前、相手に煽られたからってガン狙いせんでも良かったんじゃねぇか?」

 

「現実は非常なり」

 

 そんなことを話しながら歩いていると、修人の目的地のコンビニに着いたので修人と別れた。

 

 

 

 

 

「もう夜でも明るくなってきたなぁ」

 

 初夏のぬるい風を感じながら森を駆けていく。

 

「おぉ、風が涼しい」

 

 湖が近くなると風が涼しくなる。陸風と言ったか。湖が大きな山に囲まれているから普通よりも風が強いのだと学園の教師が言っていた記憶がある。

 

「他と比べたことないからわからんけどな」

 

 意味もなく独り言を言いながら自転車をこぎ続ける。

 

 森を抜けて湖が姿を現すのと同時に自宅が見えた。

 

「ん?」

 

 ふと、湖の上で何かが動いた気がして湖に視線を向ける。

 

「…………」

 

 しかし、そこには何もおらず水面に波紋が出来ているだけだった。

 

「魚でも跳ねたのか」

 

 たまに大きな魚が水面近くを泳いでるのを見かけるので、それが跳ねたのだろう。

 

「……、帰るか」

 

 そこまで気にすることでもなかったので自転車をこぎ始めた。

 

 

 

 

 

「あれが最後のマスターみたいですね」

 

 家に入っていく赤夜を見つめながら女が呟いた。

 

「ふむふむ。なるほど」

 

 女はぶつぶつと呟きながら手帳に何かを書き込んでいく。

 

「それじゃあ私も帰りますかね」

 

 女がそう言うと風が強くなった。風はじょじょに強くなっていき、女を中心に竜巻が起こる。

 

「さてさて、次は誰が来ることやら」

 

 竜巻は一層強くなり、穏やかな湖面が大きな波を立て、木々が軋み始める。

 

「まぁ誰が来ても面白いことになりそうですね」

 

 女が手帳をしまい、腕を一振りするとひときわ強い風が吹き抜けた。

 

 風が止み、湖面の波も落ち着く。

 

 先ほどまでそこにいたはずの女は姿を消していた。

 

 誰もいなくなった湖。その湖面には黒い羽が浮かんでいた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。