東方聖杯戦   作:鯉月 月(ゆえ)

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ちょっと書き方を変えました。
個人的にこっちの方がやりやすいので今後この形になると思います。


開幕を告げる願望機

「今日も特にいうことはない。気をつけて帰れよ」

 山田先生のやる気のないHRで学園での一日が終わった。

赤夜(せきや)、今日はどうする?」

 昇降口に向かっている途中で修人(しゅうと)が尋ねてくる。

「あー、今日は夕飯作らないとだからパスだわ」

「あいよ。しかし飯作らないといけないって大変だよなぁ」

「なれれば楽よ」

「すげぇなぁ」

 修人とくだらないことを話しながら学園を出て商店街の方へ向かう。

「それじゃ、また明日な」

「おう、また明日」

 商店街の近くにある修人の家の前で修人と別れ、今日は何を作ろうかと考えながら商店街で買い物を済ませて家へと向かう。

「ん? あの人は……」

 先日、家の前にいた女性が湖の近くで何かをしていた。

「観光じゃなくて研究とかそっちの人だったのかなぁ」

 別段気にすることでもなかったので家へ入り、買ったものを冷蔵庫にしまい部屋に戻った。

 

 

 

「みたせ、みたせ、みたせ、みたせ、みたせ………………」

 湖のそばで傘を差した女性が何かを呟きながら手に持った杯で湖の水をすくった。

 すくい、流し、すくい、流す。

「…………告げる…………」

 水の入った杯を地面に置き、また何かを呟き始める。

 杯の中の水が黒く変色を始め、怪しく光を放つ。

「…………ふふふ、これで準備はできたかしらね」

 杯をどこかにしまい込み森の奥へと歩いていく。

「今夜、始まるかしらね……ふふ」

 

 

 

 夕飯を食べ終え自室のベッドに寝ころんでいるうちに眠ってしまっていたようで風の音で目が覚めた。

「ん? あれ? 窓開けてたっけか」

 窓を閉めようと体を起こし、周りを見回して硬直した。

 周りには何もなく、地平線が見えるほど続く草原。ふと上を見上げれば赤らんだ空に赤い月が浮かび、こちらを照らしている。

 明らかにおかしい世界が広がっていた。

「なんだ、ここ」

 わけがわからず呆然としていると何かがこちらに向かってくるのが見えた。

「なんだ……」

 身を隠す場所もないので諦めてその場で待機する。

 近づいてくるにつれて何かの姿が見えてくる。

 10歳くらいの少女だろうか。帽子をかぶり、ピンク色のドレスのようなものを着ている。

 背中には、作り物なのか大きな羽が広げられていた。

「あら、何かと思って見に来てみれば人間じゃない」

 こちらに近づいてきた少女が俺を見てがっかりしたような顔をする。

「一応聞いておくけど、あなたここがどこなのかわかる?」

「……ごめん、わからない」

「はぁ、やっぱりね」

 さらにがっかりしたような顔をして少女が深いため息をつく。

 改めて少女を見てみると、帽子で見えなかった髪は青みがかった銀髪、整った顔に深紅の瞳、立ち振る舞いからにじみ出る育ちの良さ、大きな家の令嬢と言われれば納得するレベルだろう。

 しかし、その背中から生えている大きな羽、こればかりは普通の人間にはないモノだ。

 作り物のようにも見えたが、近づいてみるとそれは作り物ではなく本当に体の一部なのではないかと思うほどに生々しく少女の呼吸に合わせて僅かに揺れていた。

「……だとすると……、……が言ってたことは……」

 少女がこちらを向いた。

「あなた、名前は?」

「え、あ、く、(くれない)赤夜、です」

「そう。……、赤夜、手を出しなさい」

「え? あ、はい」

 少女に言われるがまま右手を差し出す。

「――――」

 少女が何かを呟きながら俺の手の甲を撫でる。

「いっ!?」

 撫でられた手の甲に激痛が走り、手を引っ込めようとしたが少女に握られた手はびくともしなかった。

「少しは我慢しなさい。……、これでいいかしら」

 少女が俺の手を放す。

「これで契約完了ね」

「は?」

 何を言っているのかわからず首をかしげる。

「ふふ、まぁいずれわかるわ」

 少女が俺から離る。

「じゃあね、マスター。また会いましょう」

 少女が羽を広げ飛び立つと同時に、草原だった場所が赤く染められていく。

「……マスターって……」

 少女の言葉を理解する前に俺の視界は真っ赤に染まった。

 

 

 

 強い風が外の木々を揺らす音で目が覚めた。

「……風、強いな」

 さきほど見ていた夢の影響だろうか。頭がぼーっとする。

「あれは、夢なのか?」

 体験したことが夢ではないと感じてしまうほどの痛み……

「そうだ、手の甲……」

 少女に撫でられた手の甲には不思議な赤い模様が刻まれていた。

「なんだよ、これ」

 僅かに痛みが残る手の甲を撫でてみるが、傷になっているわけではなさそうだ。

 考えたところで答えが出るはずもなく、考えるのをやめる。

「……、喉、乾いたな」

 部屋を出て階段を降りリビングへ行こうとしたとき、違和感に気づいた。

「ん? なんで玄関開いてんだ?」

 階段を下りてすぐのところにある玄関。そこにあるドアが開いており、強い風が中に吹き込んでいた。

「母さん?」

 母親が帰ってきて外で何かしてるのかと思い声をかける。

 しかし、何も返答がない。

「母さん? いるの?」

 玄関から外に出た瞬間、強い風が吹きドアを叩きつけるように閉めた。

「風強いすぎだろ」

 家の中に戻ろうとドアノブを握る。

「………………」

 開かない。

「………………」

 なんどノブを回しても開かない。

「今の風のせいでおかしくなっちまったか?」

 再度ノブを回すが開く様子がない。

「マジかよ。……はぁ、庭に回るか」

 家の裏手には小さな庭があり、そこからならリビングに入れるはずだ。

「はぁ、なんなんだほんとに」

 ため息をつきながら裏手に回ろうと踏み出そうとしたとき……

「避けなさい!!」

 どこからか声が聞こえた。

「え?」

 思わず出しかけた足を引っ込めて後ろに下がる。

 フッと風が吹いた。

「え?」

 ただそれだけなのに今まさに踏み出そうとしていた地面がパックリと割れていた。

「え? え?」

 何が起きたのか理解できずに脳がフリーズする。

「あらま。避けられちゃいましたか」

 声のした方を向くと、一人の少女が湖の水面に立っていた。

 普通の少女ではない。背中に黒いカラスを思わせる翼を広げた少女だ。

「契約は済んでいるようですが、まだサーヴァントの方が出ていないようなので仕掛けさせていただきました」

 丁寧な口調でこちらに話かけてくる少女。

 しかし口調とは裏腹にその体からにじみ出る気配は恐ろしく、油断してはダメだと身体が、本能が訴えかけてくる。

「あんた、なんだ」

「なんだと言われましても、……、そうですねぇ。今は使い魔、……でしょうか?」

 首をかしげて微笑むその姿は目を奪われるような可憐なものだった。

「まぁですので、主人の命令は忠実にこなしますよ」

 微笑みから一変、口角を吊り上げ恐怖を感じる笑みを浮かべる。

「っ!?」

 一瞬だった。

「それでは、しばらくお休みください」

 いつの間にか俺の懐に入り込んだ少女が手に持ったペンを俺の心臓に突き立てて…………

「なにしてるの! 死にたいの!?」

 声が聞こえた。どこかで聞いたことがあるような……

「ちっ」

 すぐ目の前まで来ていた少女が遠くに飛び退いた。

「まさか、もうすでに来ていたとは」

 ペンを持っていた手を抑えながらこちらを睨む。

 いや、こちらを睨んでるのではない。俺の後ろ、それも後ろの上空を睨んでいる。

「えぇ。まぁこちらに着いたのはついさっきだけれどね」

 どこかで……、あの草原で聞いた声がした。

 後ろを振り向くと、大きな羽を広げて佇む少女がいた。

 帽子をかぶり、ピンク色のドレスのようなものを着ている少女だ。

「さっきぶりねマスター? まったく、文の笑顔に(ほだ)されて負けそうになるなんて」

「き、君は、……」

 こちらに呆れたような表情を向けた後、少女は静かに着地し優雅に一礼する。

「まぁでも、安心なさい。紅魔館主である、このレミリア・スカーレットが来たのだもの」

 少女がゆっくりと顔を上げた。

「あなたの勝利を約束してあげる」

 

 

 

 その日の夜、空に浮かぶ月は、赤い、紅い月だった。

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