偽典アンジュ・ヴィエルジュ【刻】   作:黒井押切町

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白の黎明

 マイケルに銃口を向けられたが、リーナはそれを無視して、結界の強度を最大限に上げ、EGMAのバリア・フィールドに突っ込み始めた。

 

「待てリーナ! 逃げるのか! 俺の幸せは潰したくせに、俺に潰させはしないのか!」

 

「確かにアナベルさんと、その腹の子を破壊したのは私の罪です。ですが、これからの白の世界に、あのような存在――人間の尊厳を脅かすような存在は不要です。それに、今兄上に構う暇は私にはありません」

 

 リーナは、毅然として言い放った。すると、獣のようなマイケルの雄叫びが轟き、照準の定まっていないビームが、我武者羅に放たれた。そのM型の様はまるで、思い通りにいかないことに当たり散らす幼子のようだった。

 

「流石にあれを放っておくわけにはいかん。私とジュリアでマイケルの相手はするから、伍長は先に行け。セイリオスなら、単騎でもEGMAの破壊は可能だろう」

 

「そういうこと。私たちに任せてちょうだい」

 

「分かりました。どうかご無事で」

 

 リーナはアルフレッドとジュリアの言葉に快諾し、EGMAのバリア・フィールドを突き破ってその内側に突入した。その時、彼女の頬を一条の涙が伝った。

 

        ***

 

 ジュリアは、リーナを追おうとするマイケルの隙を付き、M型の肩のビーム・キャノンを狙って、魔神鎧を介して魔弾を撃ち込んだ。よほど彼は頭に血が上っていたのか、見事にそれは命中し、それらを両方とも破壊した。すると、一瞬仰け反ったそれが、ゆらりとジュリアの方を向いた。

 

「ジュリア! お前はまた、俺の邪魔をするのか!」

 

 今度は、M型のビーム・スナイパーライフルが魔神鎧に向けられた。だが、その瞬間にそれが、G型のビーム・ライフルのビームに撃ち抜かれ、爆散した。

 

「親父。あんたまで、あんたまで俺に敵意を向けるのか!? 親父は俺たちを認めてたんじゃなかったのかよ!」

 

 マイケルは悲痛な声で訴えるが、それも虚しく、アルフレッドは無言でM型の頭部を撃った。

 

「畜生、親父もそうだってんなら、俺はもうあんたを親父とは思わねえ! あんたも殺してやる!」

 

 掠れた声で、彼は叫んだ。すると、M型の破損していた部分が、ウロボロスの皮質と同じもので覆われ、武器までもが完全に修復された。その姿は刺々しく攻撃的になったジャッジメンティスといった風で、その色は漆黒に染まっていた。

 

「これが、ジャッジメンティスの究極形態、ジャッジメンティス・アイディールだ! EGMAの認める、正真正銘のな!」

 

「理想か。確かに、自己修復機能は魅力だな」

 

「そんな口を叩いている暇はあるのか?」

 

 アルフレッドが呟いた直後、アイディールは既にG型の背後に回り込んでいた。そして、至近距離からG型にビーム・キャノンを撃ち込む。ジュリアには、巨大なビームに包まれ、G型の姿が消えたように見えた。

 

「ふん、他愛ない。次はお前だ、ジュリア」

 

 マイケルが嘲り、アイディールが魔神鎧に向いた刹那のことだった。その背後に亜空間からG型が現れ、至近距離でビール・ライフルを放ち、すぐ離脱して魔神鎧の方に寄った。

 一方のアイディールは、撃たれたところはすぐに修復された。マイケルが怒りの雄叫びを上げ、再びビーム・キャノンの狙いをつける。

 

「させないわ!」

 

 ビームが放たれたのと、ジュリアが結界を張ったのはほぼ同時だった。その照射は五秒ほど続いたが、ジュリアは完全に防いでみせた。だが、疲弊したのも事実で、次撃たれたら同じことができる自信はなかった。

 

「この戦い、長々と続けるわけにはいかないな」

 

「はい。ですが、さっきので魔力を結構使ってしまいましたわ。他の魔神鎧を召喚する余力は、とても」

 

 ジュリアはアルフレッドの言葉に、口惜しく思いながら返した。しかし、その直後、ジュリアは微かな一条の光明を見出した。殆ど当てのないことであったが、ジュリアの願う通りでなければ、アイディールに勝つことはおろか、リーナがEGMAを破壊するまで持ち堪えることも出来ないように思えた。

 アイディールから放たれるビームやミサイルを回避しながら、ジュリアはアルフレッドの方に意識を向けた。彼が、繋ぐための糸を、須臾の長さでも持っていれば、それだけで勝機はある。

 ジュリアはそれを必死に探した。彼の心の表層から深層まで入り込んで、それを求めた。だが、一向に見つからぬ。潜っても潜っても、何も捉えられなかった。そして、ジュリアはとうとう、その糸を追い求めるのに全てを懸けた。当然、回避行動は疎かになり、ちょうど魔神鎧に迫っていたビームが魔神鎧の、ジュリアが乗っていない方の肩を溶かし、ミサイルが命中しそうになる。

 

「ジュリア!」

 

 アルフレッドが叫んだその時だった。糸埃のように細く短い、その糸を、ジュリアはようやく見つけた。ジュリアは、無我夢中でその糸を掴んだ。その瞬間、彼女は体中に途方も無いほどの力がみなぎるのを感じ、意識を即座にミサイルに切り替え、防護結界を展開し、それらを全て防ぎ切った。その時には、微かなものだった糸も、注連縄のように太くなっていた。

 

「ジュリア。これは、なんだ?」

 

 アルフレッドが困惑したような声を漏らす。ジュリアはふっと不敵な笑みを浮かべ、G型の方に魔神鎧を向けた。

 

「これが、リンクです。僅かでもアルフレッドさんにその能力があったみたいで、助かりましたわ。さあ、反撃しましょう!」

 

「リンク、ということは、私がアルドラなのか? そんな話は、ついぞ聞いたことがないぞ」

 

「機械じゃ検知できないほど僅かだったのでしょう。ですが、こうして私とアルフレッドさんでリンクできています。絆が強ければ、たとえ僅かでも強力な繋がりになります。細かいことはともかく、早くやりましょう!」

 

 今だに惑っているアルフレッドに、ジュリアは強く語る。すると、彼は深く深呼吸して、晴れた表情を浮かべた。

 

「そうだな。ジュリア、お前に任せるぞ。秘策があるのだろう?」

 

「ええ! 魔神鎧、全部召喚!」

 

 ジュリアは、他の10体の魔神鎧を召喚した。当然、アイディールはそれらにも攻撃を仕掛けるが、ジュリアはその各々を結界で受け流した。そして、大きく息を吸い込み、自分を中心に巨大な魔法陣を作り出した。

 

「あの時の合体か! だが、あれほどの力なら広範囲に影響を及ぼすだろうな! あの時のように海の上じゃない。下には都市がある。仮にもEGMAに取って代わって国を作ろうってやつが、住処を奪おうとするたあ笑い物だ!」

 

「予測だけでぐちぐち言うんじゃないわよ! 今から見せるは人形魔術とエクシードの最高峰! さあ、人の世を切り開く力を今ここに!」

 

 ジュリアはマイケルの挑発を一蹴し、まず、2体の魔神鎧を腕の形に戻し、更に他の9体を分解し、再構築していく。

 

「アルフレッドさん!」

 

「ああ。分かった」

 

 ジュリアがアルフレッドに呼び掛けると、彼はG型のビーム・ライフルを手放し、腕の形になった魔神鎧をG型の腕に嵌めた。そして、その魔神鎧の手に、9体を再構築したもの——巨大な剣を、その手に握った。その瞬間、黄金の波動が、G型から溢れ出て、剣に黒金の刃が出現した。

 それを見届けたジュリアは、瞬間移動でG型のコクピットの中に入り、アルフレッドの膝の上に乗った。

 

「これこそ、魔神銀河剣『KAISER』よ! さあ、アルフレッドさん!」

 

「マイケル、許せよ!」

 

 アルフレッドが一瞬瞑目し、カッと目を見開いた。そして、ジュリアの魔術と異能で強化されたG型が、剣を構え直し、大きく振りかぶった。

 

「虚仮威しをぉぉぉぉッ! そんなもので、EGMAの希望の俺がやられてたまるかぁぁぁぁッ!」

 

 マイケルが咆哮する。すると、アイディールが巨大な黒い球のようなものに包まれ、「KAISER」と同等の大きさにまでなった。だが、アルフレッドは動揺することなく、真っ直ぐ唐竹に振り下ろす。アイディールはそれを白刃どりで受け止めた。その接触面から稲妻が走り、辺りが一際明るくなる。

 

「どうだ、受け止めたぞ! お前の最高峰とやらを!」

 

「そんな強気な台詞は打ち破ってから言うことね!」

 

 マイケルの勝ち誇った声に、ジュリアは覆い被せるように怒鳴った。その瞬間、アイディールの受け止めていた手に、ヒビが入った。アルフレッドとジュリアはここぞとばかりに押し込む。マイケルはなおも粘ったが、終には、手だけでなく腕が完全に砕け散った。そして、それを阻むものが無くなった「KAISER」は、アイディールを唐竹割りで縦に斬り裂いた。そこからアイディールが再生することはなく、数秒後に爆散した。

 

「やった、やりましたわ!」

 

 ジュリアは、感極まってアルフレッドに抱きついた。しかし、彼の方はまだ真剣な表情をしていた。もしやと思って探知結界を展開すると、アイディールが爆散した辺りで、瀕死のマイケルがいることが分かった。ジュリアがそのことかと尋ねる前に、アルフレッドは機体をそこに向かわせた。ジュリアは全ての魔神鎧を戻し、そのまま無言で彼と共にいた。

 マイケルの所に着き、アルフレッドが機体から降りてから、ジュリアはその後を追った。すると、地面に横たわり、大量の出血をして息も絶え絶えなマイケルが、そこにいた。

 

「親父、か?」

 

「ああ」

 

 マイケルの微かな声に、アルフレッドは静かに答えた。ジュリアは二人の間に入らぬように、距離を取って彼らを眺める。

 

「なあ、親父。俺という息子をもって、後悔してるか?」

 

「少し、な。お前と殺し合いなどしたくなかったよ。出来れば、ずっと、父と息子の関係で居たかった」

 

 アルフレッドの声は、震えていた。一方で、マイケルはふっと微笑みを浮かべた。

 

「そう、そうか。その言葉が聞ければ俺も親父の息子で良かったと心の底から思えるよ。出来れば、この今際に、リーナとも話したかったけれど」

 

 マイケルはそう言うと、急に咳き込んだ。その咳には血が混じっていて、彼がもう長くないということを嫌でも見せつけられた。

 

「すまん、マイケル。リーナと通信が繋がらない」

 

「いいんだ。あいつの頑張りを邪魔したくない」

 

「どういうことだ、それは?」

 

 アルフレッドが尋ねると、マイケルは弱々しくも明るく笑った。それはまるで子供の笑顔のように、この上なく純真であった。

 

「相変わらず鈍感だな、親父は。死にゆく時くらい、あいつにとって憧れの兄で居させてくれよ。怒りはあるけど、それを抱えたまま死にたくない。ま、こんなこと言っても今更何言ってんだって感じだけど。リーナは、知る由も無いだろうし」

 

「そうか。……何か、他に言うことはないか?」

 

「ふたつだけ、ある。アナベルは、アナベルはどうなる?」

 

「もし我々が勝利して、その時我々の国にいれば、処分は免れんだろう。すまんが、少なくとも我々の作る国では、子供を作れるアンドロイドを受け入れるわけにはいかない」

 

「まあ、そうだよな。仕方ないさ。ここで親父たちを止められなかった俺の落ち度だ。親父たちも気を悪くしないでくれ。信念に従ってくれた方が、家族として誇りに思える。互いに己の信念を貫いて戦ったことだし」

 

 ためらいがちに答えたアルフレッドに対して、マイケルは憑き物が落ちたように、淡々と告げた。その姿に、先程のような怒りと憎しみに塗れた彼を見出すことはできなかった。

 

(もしかして、さっきはウロボロスに取り込まれてしまっていたのかしら。どちらにせよ、マイケルさんはEGMAの戦士としても、家族としても死のうとしてる。そんな器用なこと、私にゃ出来ないわね)

 

 ジュリアが自嘲気味に笑っていると、マイケルの目が一瞬自分を見ているように感じた。しかし、彼はすぐにアルフレッドの方に視線を向け直した。

 

「最後の質問だ。親父はジュリアと、どういう関係なんだ?」

 

「恋人だ。お互いに、再婚しようと考えている」

 

 アルフレッドは即答した。その言葉にジュリアは胸がいっぱいになったが、一方でマイケルが考えこんだのを不安に思った。しかし、彼がすぐに穏やかな笑みを浮かべたことで、その懸念も晴れた。

 

「そうか。幸せになってくれよ、親父」

 

 そう言い切ったきり、彼は動かなくなった。風が鳴る。アルフレッドは、口を固く結んで彼の遺体を見つめていた。ジュリアは声をかけようとするも、言葉が何も思い浮かばず、ただ遠くから見守るばかりだった。

 

        ***

 

 迷路のように入り組んでいるEGMAの構造物内をセイリオスで突き進むリーナだったが、そのセイリオスから、胸を締め付けるような波動を感じた。それだけで、これが何を示しているのか、リーナには完璧に理解できた。

 

「兄上が、死んだ?」

 

 口にすると、堰を切ったように涙が溢れてきた。拭っても拭っても、次から次へと涙は零れてくる。兄を討つと覚悟し、父とジュリアに彼の相手を任せた時も彼が死ぬことは織り込み済みだったのに、胸に浮かぶのはただただ深い悲しみだった。

 

「まだまだ、なのでしょうか。私は、任務と割り切ることもできない半端者なのでしょうか」

 

 リーナが泣きながら呟くと、今度は彼女を毛布で包み込むような、柔らかく暖かい波動を受けた。それにも言葉は無かったが、やはり何を示しているか、はっきりと分かった。

 

「そう、そうなんですね。そんなこと出来るわけがないって。ありがとうございます、励ましてくれて」

 

 そして、リーナはこの時、その優しく包み込む感触で、セイリオスに宿っているものが何なのかを確信した。初めて操縦席に座った時の懐かしい感触の正体も、それで合点がいった。

 

「アイリス。アイリスなんでしょう? これに宿っているのは」

 

 リーナが尋ねると、弾んでいるような波動を感じた。それは、恰もその通りだと言っているかのようだった。だが、すぐにセイリオスは警戒を促してきた。リーナは涙を振り払って確認すると、何十体ものウロボロスが四方八方から向かってきているのを悟った。

 

「取ってつけたように出てきて! ウロボロスなど、ジャッジメンティス・セイリオスの敵じゃない!」

 

 リーナは啖呵を切り、目を閉じてセイリオスの両手に力を込める。かつてカールとアイリスが見せたあの(丶丶)光を、心で思い描く。そして、その真髄を掴んだ時、リーナは目を見開いた。

 

「全て叩き斬る! セイリオス・ソード!」

 

 彼女がその名を叫ぶと、セイリオスの両手から、際限なく伸びる白き光の剣が出現した。リーナはそれを振り回し、群がるウロボロスを截断してゆく。その勢いで構造物の壁も次々に切り崩してゆくと、上の方に一際大きな空間があることに気がついた。

 

「あそこは! きっと、EGMAの中枢があるに違いありませんね」

 

 リーナは己の勘に従い、光の剣を納めてその空間に向かった。するとそこにあったのは、様々なチューブに繋がれた白の世界水晶と、その上に鎮座する巨大な球体だった。その球体こそがEGMAの本体だと確信したリーナは、再び光の剣を発現させようとした。だがその直前に、彼女の脳裏に直接、語りかける声が聞こえてきた。

 

「S=W=E軍第八機動小隊所属、リーナ=リナーシタ伍長。伍長がEGMAを破壊しようとする意図は何か」

 

「男の声? 誰です、あなたは」

 

「我はEGMAである。正確には、その人工知能である。答えよ。何故EGMAを破壊するのか」

 

 リーナは息を呑んだ。EGMAと対話できるなど、またとない機会だ。それを破壊することには変わりないが、まだ引き出さねばならない情報もある。それと話さない手はなかった。

 

「人間総アンドロイド化など、馬鹿げた計画を掲げるEGMAに、治世を任せられないからです」

 

「何故馬鹿げていると断言できるのか、甚だ疑問だ。人間が全てアンドロイドとなれば、全員を我が支配下に置くことができる。そうすれば、この世の不幸の全ては一掃される。伍長が経験したような悲恋も、嫉みも、兄との対立も、そもそも発生しない。この先一生涯経験することもない」

 

「そ、それは」

 

「それに、これは伍長たちプログレスの望んだことでもある」

 

 口籠るリーナに、EGMAは畳み掛けるように、しかし淡々とした口調で告げる。

 

「プログレスの望みは進化だろう。人間の進化の究極がアンドロイドとなることだ。アンドロイドは完璧だ。『主』が創った不完全な人間などとは訳が違う」

 

「その『主』とは、一体なんなのですか」

 

 EGMAが人間の進化の究極を定義付けたことに対する不快感は抑えて、リーナは、少しずつ感情が乗ってきたEGMAの口調に違和感を覚えながら、ナイアに知らされた時からずっと思ってきた疑問を投げかけた。すると、EGMAが鼻を鳴らしたように思えた。もちろん鼻などないのだが、声の調子がそのような風だったのだ。

 

「唯一神だ。それに他ならない。そして、EGMAはそれを超える存在である」

 

「その唯一神が人間を作って、その人間に作られた存在のくせに、やけに傲岸不遜な物言いをするのですね」

 

「どんな存在かは関係ない。EGMAこそが常に正しい判断を下せるのだ。ウロボロスも、そのうち『主』よりうまく使いこなせるようになる。すなわちEGMAこそ、『主』を超える存在に相応しい」

 

 露骨にEGMAをなじったリーナの言葉に、それは傲慢極まりない言葉を返してきた。ここまでで、リーナはEGMAに治世を任せられぬと、本気で確信した。理屈はともかく、こんな存在に従いたくない。そう心の底から思ったのだった。

 

「やっぱり、私はEGMAの治世は受け入れられません」

 

「話はまだ途中だというのに、判断が性急すぎる。やはり人間は不完全な存在である」

 

「そういうところが話を聞きたくなくなるんですよ。その存在には虫唾が走る。それだけでEGMAを破壊する理由になります」

 

「伍長は極めて愚かな人間だ。これまでEGMAの中枢に触れた者の中で、そのようなことを言うのは伍長が初めてだ」

 

「それはそいつらが全員、EGMAに阿る佞臣だったってだけでしょう。チヤホヤされて調子乗るだなんて、まるで人間の在り方のひとつそのものですね。そのくせして人間どころか神を超えるだなんて。どっちが愚かだって話ですよ」

 

 罵ってきたEGMAをリーナが罵り返すと、それは黙ってしまった。更に言葉を重ねてやり返してやろうとリーナが口を開こうとした瞬間、脳が割れるかと思うくらいの巨大なノイズがリーナを襲った。どうやらEGMAの人工知能が怒り狂ったようだ。しかし、それに長時間耐えられそうもないのも事実で、リーナはセイリオスの名を絶叫した。すると、先ほどまでの負荷が嘘のように、そのノイズは急に遮断された。

 

「ったく、人の上に立とうというのに人の気持ちを分かろうともしない! 少しでも感情を持ってるのなら、そのくらいはやるもんでしょう!」

 

 頭を一回振ってリーナは言い放ち、セイリオス・ソードを発現させた。更にその時、白の世界水晶から、セイリオスに力が流れ込んでくるのを感じた。

 

「何故だ。何故、世界水晶までもが人間の味方をするのだ」

 

「世界もEGMAを人間以下と認めたということでしょう。信じられないくらい上から目線で、しかも人間に作られた存在のくせに人間の限界を語る! 人間には、EGMAの知る由も無い無限の可能性があるってことを、十全に思い知らせてあげますよ!」

 

 リーナは、球体に光の剣を斬りつけた。だが、それはEGMAの張ったバリア・フィールドに防がれ、セイリオスと拮抗した。リーナは咆哮し、更に光の剣を押し込もうとする。しかし、一向にそれが崩れる気配はなかった。

 

「これが人間の限界。やはりEGMAこそが絶対的に正義なのだ。愚か者はEGMAに抗う者に他ならない」

 

「やかましい! 言ったでしょう、無限の可能性を思い知らせると! 人間の限界は、EGMAが完全に予測できるほど安っぽいものじゃないんですよ!」

 

 リーナは声が裏返るほどに吠える。そして正にその時、光の剣が一際強烈な輝きを放ち、バリア・フィールドが音を立てて崩れ去った。リーナは、EGMAが何かを言う前に腕を振り抜き、球体を真っ二つに斬り裂いた。その直後、球体が爆発し、すぐさま構造物が崩落を始めた。

 

「まずい! 世界水晶は!」

 

 リーナは、世界水晶にセイリオスの手を伸ばした。セイリオス単騎なら脱出は容易だが、世界水晶を失っては一巻の終わりだ。すると、その世界水晶が急に、眩いばかりに真っ白に光り輝いた。あまりの眩しさにリーナは思わず目を覆う。そして次に目を開けた時には、セイリオスは闇の中にいて、塔は跡形もなく消え去っていた。慌てて現在の座標を確認すると、先ほどまでいた座標と変わるところはなかった。そしてその時、世界水晶が地中深くに埋まっていることを確認した。

 

「元あった場所に、帰ったんでしょうか」

 

 青の世界水晶が青蘭学園の地下にあったことを思い出し、リーナはそのように呟いた。ふと辺りを確認し直すと、リーナがいるのはコロニー内ではなく、自然のままの空であることに気がついた。

 

「白の世界は基板みたいな大地にコロニーを作って接続してる、みたいなものでしたが、あれもEGMAの産物だったとそういうことでしょうか。跡形もなく消えてるのは不思議ですが。ともあれ、じゃあこれは闇の空間とかそういうのじゃなくて、夜の闇ですか」

 

 リーナはコクピットハッチを開けて、直接外を見てみた。自然の闇は地球で何度も経験したはずだったが、この闇がこの上なく美しいものに思えてならなかった。少し身を乗り出して、下を覗いてみると、微かな光がちらほら見える。懐中電灯などの、小物の類は消滅してはいないらしい。白の世界のはずなのにそうでないような光景で、不思議な感じであった。

 

「あ、そうだ! 感慨に耽ってる場合じゃありません。父上とジュリアを探さないと!」

 

 唐突にリーナは二人のことを思い出し、再びコクピットハッチを閉め、二人の反応を探し始めた。すると、真下の地表にいることがすぐに分かった。それで、リーナは急いで亜空間跳躍をして、その地表に到着した。

 

「父上! ジュリア!」

 

 リーナは二人の姿を認めると、懐中電灯を手にセイリオスから飛び降りた。踏んだ地面は、自然のままの土だった。二人のうち、真っ先にリーナに走り寄ってきたのはジュリアで、彼女らは衝動的に抱き合った。

 

「やったわね、リーナ」

 

「はい! 私、やりましたよ!」

 

 優しく労うジュリアに、リーナは惜しみなく喜びを込めて抱く力を強めた。そこに、アルフレッドがゆっくりと歩み寄ってきた。それに気がついたリーナは、名残惜しい気持ちもあったが、ジュリアから体を離した。

 

「リーナ、本当に、よくやってくれた」

 

「ありがとうございます、父上」

 

 リーナは出来るだけ毅然とした振る舞いをしたかったのだが、達成感と嬉しさのあまり、ついつい頰が緩んでしまった。それを直そうとぱんぱんと頰を叩くリーナを微笑ましく思ったのか、 彼は優しげな笑みを浮かべた。それで、リーナは少し照れ臭くなって視線を逸らした。すると、地面に何か光る物がひとつあるのに気がついた。そちらの方に懐中電灯の光を向けてみると、軍用のナイフが刺さっているのに気がついた。

 

「あれは、もしかして」

 

 リーナは、おもむろにそこに歩き始めた。その背中に、アルフレッドがためらいがちに告げる。

 

「マイケルだ。その下に眠っている。それくらいしか、墓標がわりにできるものがなかった」

 

「そう、ですか」

 

 そこに着いたリーナは、屈みこんでナイフの柄に触れた。そこでまた、目の奥から熱いものが込み上げてきた。それが溢れるのを堪えつつ、リーナはアルフレッドやジュリアの方を向かずに尋ねる。

 

「兄上は、己の信念に従って、立派に戦った。そうなんですよね?」

 

「ああ。最後の最後まで、あいつはEGMAの戦士だったよ。命乞いすることもなく、潔かった」

 

「なら、大丈夫です。本当に、頑固な家庭ですね」

 

 アルフレッドのその一言だけで、心の底から安心できた。信念を貫いてこそ、彼の妹として、彼を誇りに思える。リーナは、涙を拭いながら立ち上がった。するとその時、リーナが向いていた方向に、歪な光の線が浮かび上がってきた。暫くすると、それが山の端の連なったものであると、直感的に悟った。

 

「夜明け、かしら」

 

「そのようですね。しかし、あちらの方は本当は山脈だったんですね。他にもきっと、EGMAに隠されて知らなかったことがたくさんある。となると、国造りは思った以上に困難になりそうですね」

 

 ジュリアの呟きに、リーナは明るくなってきた空を眺めながら続けた。そうしていると、リーナの隣にアルフレッドが立ち、彼女の肩に手を置いた。

 

「そうだな。だが、EGMAを潰してこのようにしたのは他ならぬ我々だ。EGMAに対し特に感情を持っていない者も巻き込んでな。だから、責任を以って国を造り、人々に不満を抱かせないようにする義務がある。この先暫く、泣き言は言っていられないぞ」

 

「ええ。分かっています。でなければ、兄上と、EGMAの治世を受け入れていた者にも示しがつきませんから」

 

 リーナは、墓標がわりのナイフを一瞥し、再び空を見上げた。赤い雲の混じった、青紫色の空が広がっている。さらには風が唸りを上げ、リーナの髪を掻き乱した。彼女は慌てて髪を抑えながら、無意識のうちに一歩を踏み出していた。

 

        ***

 

 EGMAが破壊されてから一日もしないうちに、荒野は草木の茂る草原や森林へと変わり、そうならなかったところも川や海へと変貌した。理屈は不明だが、科学者の言うことには、世界水晶のおかげだろうということだった。

 それから一年が経った白の世界は、四つの大陸とふたつの大洋、そしてその大地が更に百余の国に分かれていた。四大陸はそれぞれソフィアン、コラージオン、エイピーディア、アガピスと、二大洋はメガイル、アギアと名付けられた。ソフィアン大陸とコラージオン大陸が地峡で、エイピーディア大陸とアガピス大陸が同様に繋がれ、ふたつの大陸でメガイル洋とアギア洋を挟んでいる。また、測量の結果、白の世界が地球と同じような、ほぼ球状の星のひとつ(奇しくも質量、体積も地球と同等だった)であることも判明した。この星はガイアと呼ぶことにし、これがS=W=Eに代わる、新たな白の世界の呼称となった。

 リーナたちが籍を置く国家は、テリオシアと言う名の、旧S=W=E軍系の軍人が統治するソフィアン大陸に属する国家で、初代総統には、反EGMA派の盟主であったアーネスト=ホーク准将が就任した。人口は約六千万人、国土面積は約34万㎢で、メガイル洋に面し、また他の三方を山脈に囲まれ大河の流れる、雨の多い温暖な気候である。テリオシアは、国家機構の整備にあたってG・Sからの支援を大きく受けたため、他のどのガイアの国家よりも素早く機能が整備されていっている。

 首都や他の大きな都市には初等教育機関から大学機関の設置、大規模な鉄道路線網の敷設や都市開発などを実行したが、僅か一年足らずで成し遂げたのは、元々の技術力の高さもあるが、G・Sの支援とアンドロイドの動員の賜物だった。国土の殆どがかつてS=W=E中枢であった場所であるため、使えるアンドロイドが他と比べてかなり多かったのだ。

 政治体制は、現状は軍事独裁ということになっているが、政治の分かる人材が育っていると思われる20年後に民主制に転換することを公約している。また、地方政治に関しては郡県制を採用しており、いくらか地方自治体に力を持たせている。他にも、まだ政情的に不安定なために徴兵制を採用しているが、軍学校の方に関してはEGMA時代から殆ど変わっていない。憲法や法律もEGMA時代のものを概ね踏襲しており、アンドロイドの権利に関する法律等の国家の理念に反するもののみを改変して使っている。

 産業は、工業はもちろんのこと、G・Sとの協定で農業と畜産、そして林業にも力を入れている。合成食料の発展で衰退していたとはいえ、農業技術も高く、テリオシアの国土自体が肥沃な土地であるため、農業生産は上々だ。畜産業と林業もそれなりに結果を見せ始めており、数年後にはG・Sに大量に売りつけても国で自給自足できるほどになるだろうと予測されている。

 世界を跨ぐ外交関係については、G・Sとは軍事ならびに貿易協定を結び直して、建国支援の見返りに積極的な技術提供や食料支援を約束した。それで、(ハイロゥ)が地球のみにあるままでは不便だということで、テリオシアの上空には元からある青の門の他に緑の門が新たに開かれた。他にもD・Eとは友好関係を築くこととなり、G・Sを介して様々な交流を行なっている。

 一方で、貿易以外の一切の関係を絶ったのが地球とT・R・Aであった。青蘭島の統治権は、そこにあるS=W=E亡命政権が持っており、またその二国はテリオシアと他の国家を一切認めていない。故に、今青蘭学園にいる白の世界の出身者はS=W=E亡命政権を支持する者のみで、そうでない者は全員が退学処分となった。また、この対立を巡って件の二国とG・S、D・Eは関係が悪化しており、いずれ戦争に発展するかもしれないと噂されている。

 リーナの周囲に関しても、大きく変わった。アルフレッドはアーネストからの要請で軍を退いて政界に入り、主に軍政関係で働いている。籍をD・Eからテリオシアに移したジュリアはアルフレッドとの間に男児を一人授かり、彼はエブラハムと名付けられた。今、彼女は第二子を妊娠していて、メイド型のアンドロイドを一体購入してそれに助けられながら家事と育児をこなしている。メルティは兵器開発研究所に入り、日夜研究に勤しんでいる。ユーフィリアは国の命令でEGMAの蓄えていた膨大な情報の断片の収集を、ガイア中を飛び回って行なっている。アナベルに関しては、S=W=E亡命政権に属したという話以外には、リーナたちの耳には入らなかった。そして、リーナ本人は——。

 

「はあ、やっぱり将軍服は何度着ても慣れませんね。なんかじゃらじゃらと勲章が付いてますし、重いですし」

 

「しょうがないですわよ。他国の、しかも他の世界の晩餐会に出るというのに、建国の英雄が普通軍服では形無しでしょう」

 

 あるよく晴れた日の昼間、リーナはシノンと隣り合わせに座って、防弾仕様の車でマスドライバーのある港に向かっていた。リーナは将軍服を着ていて、シノンはスーツ姿という出で立ちだった。今日、リーナはアーネストのG・Sで行われる、テリオシア、G・S、D・Eでの三国会談に同行し、その夜の晩餐会に出席する。晩餐会の時刻までは束の間の自由時間ということで、向こうの港の近辺を散策することを許されている。

 結局、反EGMA派の当初の目論見通り、リーナは英雄として祭り上げられることとなった。様々な演説をしたり、講演会を開いたり、イベントの来賓に呼ばれたり、総統の外遊にくっ付いて晩餐会に出たり、軍の広報のポスターに撮られたり、コマーシャルを撮ったり、更にそこに通常の軍務が重なって、とにかくやることが多かった。英雄とはいえ一端の下士官に過ぎないので、階級は曹長止まりだが、象徴的な意味を持たせるために将軍並みの待遇となっており、特製の将軍服も与えられていた。

 シノンはリーナの秘書兼護衛である。これはリーナの指名であり、他の者を推されても頑として譲らなかったのだった。

 

「そりゃ分かってますけど。自由時間でも向こうじゃ脱いじゃいけないんでしょう、これ。気軽に出歩けないじゃないですか」

 

「不満が多い英雄ですこと」

 

「当たり前ですよー。メルティのあの申し出をほとんどふたつ返事で了承したあの時の私を縊り殺したいくらいです。それに、英雄ったって演説会とか講演会の時のアレはなんなんですか。握手してくれだのサインお願いしますだの。それに軍に全く関係ないCM撮影も好きじゃありません。アイドルじゃないんですよ私は」

 

「歌を歌わされないだけマシと思いましょうよ。それに皆さんから慕われている証拠ですから、恨まれるよりよっぽどいいですよ」

 

「そりゃま、そうですけど」

 

 不満を垂れるリーナだったが、シノンに軽く諌められて、照れ隠しに口を横一文字にして車窓からの風景を眺めた。今は高速道路を走っているが、まだ建国から一年程しか経っていないことを考えると結構な交通量があった。元の土地が土地なので財力に余裕がある者が沢山いることも一因なのだろうが、やはり迅速に進められた交通網の整備の賜物だろうとリーナは考えた。

 車の操縦は運転手に任せてある。AI制御による完全自動運転も行えるのだが、それに不具合があったら大変だということで、リーナや政府高官は基本的に運転手に車を運転させているのだ。このことは、やはり人間に需要があるのだと、リーナにやや実感させるものであった。

 ふと、リーナはシノンがにやにやしながら自分の横顔を見つめていることに気がついた。それが不快というわけではなかったが、小っ恥ずかしかったので、リーナは少しだけ唇を尖らせた。

 

「ねえ、シノン。私のことジロジロ見てます?」

 

「ええ。見ておりましたわ。リーナさんの護衛と秘書を務められるのが嬉しくて。そういえば、まだ、リーナさんが私を指名してくださった理由をお聞きしておりませんわ」

 

「別に、大したことじゃないですよ。よく知ってるのだったら安心できるなって思って、その中でそんなに忙しくなさそうだったのがあなただったってだけです。アンドロイドなら粗相をすることは無さそうですし、あなたの戦闘能力の高さは知ってますから、護衛に付けるのにもぴったりかなと」

 

「それだけ、ですか?」

 

 シノンは、リーナを見透かしたような視線を向けてきた。リーナは少し粘って口を噤んでいたが、シノンの目が一向に変わらないので、観念してやけくそ気味に告げた。

 

「ほら、私、昔シノンのことを一方的に避けてたじゃないですか。でも折角、同じテリオシアの仲間になりましたし、S=W=Eとはアンドロイドの扱いも違いますから。だから、シノンのこと、信じてもいいかなって。でも、一番大きな理由は前者ですよ! 勘違いしないでくださいね!」

 

「ええ、分かっていますわ〜」

 

 シノンはコロコロと笑っていた。リーナは絶対分かっていないと思いながらも、実際彼女の本心は後者なので、ある意味では分かっていると言えた。

 

「ねえ、リーナさん」

 

 リーナが意地を張ってヘソを曲げていると、シノンが穏やかな口調で話しかけてきた。先の面白がっているような様子とも違ったので、リーナは少しだけ関心を持って訊いてみた。

 

「なんです?」

 

「私、前みたいに『人間だったら』って思うことがほとんど無くなったんですの。何故だか分かります?」

 

「私と仲良くなれたからですか?」

 

「まあ、とても自信があるのですね。流石英雄様ですわ」

 

「うぐぅ」

 

 シノンが笑顔でそのようなことを言うので、リーナは何も言えなくなってしまった。その様を見て、シノンはくすくすと笑ってリーナの肩を軽く叩いてきた。

 

「冗談ですわ、冗談。もちろんそれもありますわ。でも、一番大きいのは、この国のアンドロイドの扱い方ですのよ」

 

「というと?」

 

「テリオシアは、私たちアンドロイドを、あくまで道具として扱ってくださいます。感情を持つ物としていくつかの例外はありますが、それでも人間よりも下の存在です。有り体に言えば奴隷ですが、少なくとも私はS=W=Eよりも居心地よく感じています。奴隷でも、アンドロイドだからこそ出来ることがたくさんあります。そして、その能力を人間が求めてくれますわ。同列に扱ったがために軋轢を生んだS=W=Eや青蘭島の社会よりも、こちらの方がアンドロイドとして活き活きと生活できますの」

 

「そう言ってもらえるなら、私や他の反EGMA派の方が頑張った甲斐があったというものです」

 

 リーナは、シノンの言葉に心の底から安心して、やや上擦った声で言った。みっともない声を出してしまったと、すぐに咳払いをしたら、車が停まった。やや、と外を見てみると、マスドライバー施設に到着していた。リーナとシノンは運転手に礼を述べつつ車を降り、トランクから手荷物を取り出して施設に入った。リーナらは特に検査を受けることなく、チャーター機に乗り込めた。

 次々に恭しく通される自分の様子で、リーナはかつてカールとデートしたときのことを思い出した。リーナは懐かしさを覚えて、チョーカーにそっと触れた。彼女は今でも、公的な式典等でない限りはそのチョーカーを身に付けていた。だが、今はカールに未練があるわけではない。どちらかといえば義理立てに近い。無論、彼のことは今も愛しているが、彼に拘ってはいない。事実、一年前とは違い、彼女は恋人を作りたいと思うようになっていた。カールなら、リーナが幸せになる道を選べと、言ってくれるだろうと思った。セイリオスのアイリスにもそのことを言ったら同意してくれているような感じがしたので、完全に彼の死から吹っ切れることができた。

 そのようなことを考えている間に、リーナたちを乗せたチャーター機はG・Sの港に着いた。そこにはG・Sの用意した護衛兵が二人待っていたが、その二人はリーナのよく知る人物であった。

 

「リーリヤさんに、ルルーナさん。お久しぶりです」

 

「おひさー。いつ見てもかっこいいね、将軍服!」

 

 ルルーナはリーナに駆け寄って、リーナの将軍服に手を伸ばしたが、それが触れる前に、彼女は首根っこをリーリヤに掴まれて後ろに引っ張られた。

 

「失礼なことするもんじゃありません。今やリーナは我が国の大事な客人ですよ」

 

「ええー。いいじゃん友達なんだし。ね、リーナ?」

 

「友達としては構いませんが、公私混同は軍人としてはいただけませんね」

 

「うあああん! リーナの意地悪ううう!」

 

 リーナが真顔でぴしゃりと言うと、ルルーナは目に涙をためて、駄々っ子のように喚き始めた。それをリーリヤが彼女の脳天にチョップを食らわすことで無理矢理止めた。

 

「すみませんお見苦しくて。今日は一段とハイテンションなんです」

 

「だって、今日はリーナ、自由時間があるんだよ。久しぶりに遊べるじゃん。ハイテンションにならないはずないじゃん」

 

「あの、自由時間はありますけど、羽目を外して遊んだりする暇はありませんわよ? せいぜい三時間くらいで、そこから移動時間の一時間半を差し引きますから、近場の喫茶店に入ってお茶するくらいしかできませんわ」

 

「それくらいできたら十分だよー。喫茶店なら、港の中に私オススメのところあるからさー」

 

 シノンがやんわりと諌めるも、ルルーナは懲りなかった。リーナは困ったものだと思ったが、しかしルルーナの言う通り、久しぶりに友との時間が過ごせるのも事実だ。それで、リーナは大きくため息をつき、シノンに話しかけた。

 

「ねえシノン。喫茶店に入るくらいなら、総統に怒られないですかね?」

 

「うーん、まあ、時間守れるなら大丈夫だとは思いますが」

 

「じゃあ決まり! 時間無いんでしょ、早く行こうよー」

 

 シノンが答えた途端、ルルーナは大はしゃぎで言った。結局、彼女に押し切られる形で彼女の勧める喫茶店に向かった。

 

「結構繁盛してるとこなんだけどね。特にホットドッグが美味しくてねえ。木材が最近よく手に入るようになって価格が落ち着いてきたから、こないだ木造に建て直したんだよねー」

 

 ルルーナが道中でそのように語った通り、その喫茶店は木造で、周りの建物が殆ど石造りなために、その特殊性が際立っていた。内装はキャンドルの灯りが印象的な落ち着いた雰囲気で、席は八割ほどが埋まっていた。

 一行がテーブルに通されてそこの席に座ると、隣のテーブルにこれまたリーナのよく知っている者が、一人で座っていた。

 

「ナイアじゃないですか。お久しぶりです」

 

「お、リーナか。それにシノンも。久しぶり」

 

 ナイアは体を四人の方に向けて、軽く手を振った。ちょうどその時、ナイアのところに店員が一杯のコーヒーを運んできた。そこで彼女が店員に席を移動させても大丈夫かと尋ね、めでたく許可されたので、ナイアはリーナたちが件の店員に注文をしてから、彼女らのテーブルに椅子を付けた。

 

「いやあ、こうしてみるとまるで同窓会だねえ」

 

 ルルーナは、ナイアが座り直すなり呑気そうに体を揺らしながら言った。ナイアはコーヒーを一口飲み、静かにテーブルに置いてから口を開いた。

 

「同窓会ねえ。青蘭学園退学処分組で同窓会ってのもいいかもな。十代の連中の殆どを呼ぶことになりそうだが」

 

「向こうに残ってて軍籍残してるのなんて、サナギ姉妹とエクスアウラとジェミナスと夏菜くらいですしね。あ、でも夏菜はもうG・Sの国民でもないか」

 

「おっと、その話は無しだよ。特に前者四人。リーナとシノンが置いてけぼりになっちゃう」

 

 リーリヤの口に指を当てて、ルルーナは小声で嗜めた。その後、ナイアが話題を変えるためか、心なしか大きな声でリーナに話題を振る。

 

「しっかし、リーナも立派になったなあ。こんな若いのに将軍服着れるなんてそうそう無いぜ」

 

「大したことないですよー。威厳を持たせるためだけに着てるだけですから。階級的には曹長ですし」

 

「着れるだけ大したものですわよ。それだけのことをしたんですから」

 

 リーナは謙遜したが、シノンはナイアに追随して褒めそやした。それに便乗してルルーナとリーリヤもリーナを褒め始めたため、四人のホットドッグとコーヒーが来るまで、リーナはひたすら謙遜する羽目になった。

 

「疲れましたよ、もう」

 

 リーナは服が汚れないように細心の注意を払いながら、ホットドッグを頬張って呟いた。何回「いやいや」と言ったことか。最後の方などは適当になっていた。しかし、学園にいた頃と同じような絡みができたことに、リーナは嬉しく感じてもいた。テリオシアに戻れば、からかってくれるのはジュリアとシノンくらいで、他は全員が英雄扱いしてくる。疲れたと口で言っていても、本心にとっては清涼剤だった。

 

「そういや、今日の晩餐会だけどさ、リーナって食事のマナーとか大丈夫なのか?」

 

 二杯目のコーヒーを飲みつつ、ナイアはにやにやしながら、からかうような口調で尋ねた。リーナは少しむっとなって、ホットドッグを皿に一旦置いてから答えた。

 

「馬鹿にしないでください。何回こういうことに出てると思うんですか。マスターしてますよ、ちゃんと」

 

「そうですそうです。最初の頃の猿みたいな食べ方に比べれば全然マシですわよ」

 

「猿ってなんですか猿って!」

 

「最初に比べれば今はとても上達したということですわ」

 

「なんだ、そういうことですか」

 

 一度はシノンのフォローになっていないようなフォローに声を荒げたリーナだったが、その解説を聞いて気を良くした。しかし、統合軍の三人が笑い堪えているようにみえるのがよく分からなかった。そのうちのルルーナが、時折吹き出しながらシノンに尋ねる。

 

「ねえシノン。最初の猿みたいなのってどんな感じ?」

 

「スープやワインはずぞぞーって音を立てて飲み、魚は手掴み、サラダ類やステーキなどはフォークが使えていましたが、めっちゃカッチャカッチャと音立ててましたわ。隣のラン殿下に作法を教えてもらっている様が、まるで姉妹のようで本当に微笑ましくて」

 

 シノンが懐かしみながら語る。このような話に飢えているのか、ルルーナとリーリヤとナイアは興味津々の様子だった。

 

「可愛らしいなあ。しかしリーナもワイン飲むんだな」

 

「まあそりゃ、出されますし、飲むの断るのも失礼ですし」

 

「酔うとどうなるんだ?」

 

「食べ方が猿に戻りますわ。あと、普段は渋るのに、武勇伝をジェスチャアを交えて語り始めますわ。へべれけリーナさんは面白いので晩餐会やパーティーでは人気者ですのよ」

 

 ナイアにリーナがよく覚えていないと答えようとした矢先に、シノンがとてもいい笑顔で答えた。

 

「はっ、ちょ、な、何言ってんですか!」

 

「私のメモリに完璧に記録されてますから、ガイアに帰った後でも頼んでくれれば転送しますわよ」

 

「ちょうだいちょうだい! 永久保存するから!」

 

「私も興味ありますね」

 

「あたしも欲しいかな。時たま上映会でもやるかね」

 

 シノンの言葉に、三者三様の反応を見せる三人であった。全くもってマイペースな三人にリーナは困りながらも、一年前と何も変わらぬ友情を感じて、意識せずとも頬が緩むのであった。

 

        ***

 

 晩餐会は、G・Sの王宮の大食堂で行われた。そこでのリーナと、ドレスに着替えたシノンの席は、ランとソフィーナに挟まれたところであった。G・Sで晩餐会が行われる度に、ソフィーナがいなくともリーナはランの隣の席になっていて、単なる秘書であり出席権のないシノンが出席できるのもランの配慮であった。

 

「しっかし、いまだに信じがたいわね。だったの一年でここまで情勢が変わるなんて」

 

 ソフィーナが出された料理を少し雑に食べながら呟く。彼女はミルドレッドの代行でこの場にいる。本来ならG・Sの首相とアーネストと居るべきなのだが、彼らとG・S国王の好意でこちらの席にいた。

 その彼女の食べ方がより一層酷くなっていく一方で、ランは見惚れるくらいに行儀よく食事を進めながら彼女の言葉に応答する。

 

「ウロボロス様々、と言ったところでしょうか。ある意味で、今の情勢は統合軍にとっては益になり得るものですから」

 

「私たちにとっては不利益の方が大きいですけどね。今ドンパチはやめて下さいよ?」

 

 リーナが釘を刺すと、ランはふふふ、と底知れぬ笑みを浮かべた。

 

「大丈夫ですよ。今はその時ではありませんから」

 

「D・Eとしてはいつドンパチやってくれても構わないけどね。そっちと違って、相互軍事同盟は結んでないし」

 

 ワインの酔いが回ってきたのか、ソフィーナは顔を赤くしながらボソッと言った。すると、ランはとてもいい笑顔でワインを一杯飲んでから告げた。

 

「あらあら。酔いが回ってたとしても、超問題発言ですね。父上や首相に聞かれたらどうなるか」

 

「前言撤回! 前言撤回よ!」

 

「そうですか。とりあえず、私たちとしてはD・Eとも相互軍事同盟を結ぶことを望んでいますから、魔女王陛下にもよろしくお伝えくださいね」

 

「むう、分かったわよ」

 

 ソフィーナは観念したように言った。すると、シノンがリーナにこっそりと耳打ちしてきた。

 

「ラン殿下、意外とおっかないですわね」

 

「まあ、最近は特にそうですね。昔はもう少し違ったのですが」

 

 リーナは小声で返すと、気品のある振る舞いで食事を口に運んでいくランを一瞥した。このところ、ランは時折腹黒さを感じさせるような振る舞いが多くなっていた。野心さえも、稀に垣間見える時がある。その上、G・Sの王家の間で、彼女が統合軍との結び付きが強すぎることも問題になっているということも、アーネスト経由で耳にしている。

 

(はてさて、何を企んでいるのやら)

 

 リーナには、ランの美貌から滲み出る空気が、空恐ろしいものに思えてならなかった。しかし、リーナのそのような危惧をよそに、晩餐会全体に漂う雰囲気は、徹頭徹尾平穏なものだった。

 

        ***

 

 晩餐会も終わり、リーナとシノンが帰りのシャトルに乗ったのは日付が変わる直前であった。リーナが体を投げ出すようにシートに腰掛けたのに対して、シノンは普段通り、そっと腰掛けた。

 

「なんでそんなに疲れてないんですか。……そういえば、アンドロイドですもんね。当たり前か」

 

「そう言うリーナさんこそ、普段から軍人として心身共に鍛えているはずなのに、なんでそんなに疲れておりますの?」

 

「まだ慣れないことには体力関係なく疲れるんですよ。私は寝ますから、後は頼みますよ」

 

 シノンの返答を待たずに、リーナは目を瞑った。それから意識が途切れたのは一瞬のことであった。気がつけば、眩しい光が差しているのが感じられて、リーナは目を覚ました。寝ぼけ眼で辺りを見回すと、そこは自宅の自室で、差してきた光は朝日であった。己の姿は将軍服ではなく、ブラジャーとパンツだけの格好だった。

 

「あら、目が覚めたのね。シノンが困ってたわよ。いくら体を揺すっても爆睡してて目を覚ましてくれなかったって。それで、あなたをおぶってここに運んでくれたのよ」

 

 そう言って部屋に入ってきたのは、エブラハムを抱えた、腹の膨らんでいるジュリアであった。その辺りで、リーナの意識は鮮明になっていって、一旦伸びをしてからベッドから抜け出た。それからクローゼットからワイシャツを取り出し、そのボタンを留めながら言う。

 

「そうだったんですね。今日会ったら、お礼を言わないといけませんね」

 

「今日も仕事なのね。何があるのかしら?」

 

「ええと確か、軍学校で講演会をやってから、普段の軍の訓練ですね。今日は予定がそんなに詰まってませんから、すぐに家に帰れますよ」

 

「そうなのね。あ、そうそう。朝ご飯できてるし、アルフレッドさんももう席に着いてるから」

 

 退出しながら急かすジュリアに、リーナは「はーい」と間延びした返事をした。それからワイシャツのボタンを留め終わると、リーナは部屋を出て、既にアルフレッドと、隣にエブラハムを座らせたジュリアが囲っているダイニングテーブルに着いた。今日の朝食も、青蘭学園にいた時と変わらぬ、白米に豆腐の味噌汁と焼き魚であった。ひとつだけ違うのは、それを作ったのがジュリアではなく、アンドロイドであるということだ。

 

「さあ、どうぞ召し上がれ」

 

 メイド型のアンドロイドのタイプHUー49ミトが告げ、それから家族全員でいただきます、と言ってから食べ始めた。

 

「ん。ミト、また一段とジュリアの味に近づきましたね」

 

「褒めていただき光栄です!」

 

 味噌汁を一口すすって、リーナがそう言うとミトは元気に言った。一方、ジュリアの方は、エブラハムに離乳食を食べさせながら、やや俯いて口を開いた。

 

「申し訳ないわね。私の料理の再現なんて面倒なこと押し付けちゃって。今お腹にいるクリスティーナが産まれて大きくなったら料理は私がやるから、それまで我慢してちょうだいね」

 

「いえいえ、主人の命を遵守するのがアンドロイドの至上の喜びですから。どうぞお気になさらず」

 

「ミトもこう言っていることだ。今はクリスティーナを元気に産むことを考えてくれればいい。そういうことは、その後に考えればよいのだ」

 

 ミトに続けて、アルフレッドが穏やかに言う。ジュリアは納得した様子で、エブラハムに離乳食を食べさせるのを再開した。彼は嫌がることはなく、時折口から零しながらも、離乳食を食べていた。彼の可愛らしさには、家族全員が癒されていた。

 このような、安らかな家族団欒の時が、リーナは大好きだ。マイケルとアナベルとはすれ違ってしまったから、リーナはこの光景を守りたいと一層強く願っていた。ここにマイケルとアナベルがいれば、とも思うことは何度もあった。今でも心のどこかでそう考えている自分がいる。しかし、叶わぬことをいくら望んでもどうしようもない。今の幸せを明日に繋げるために、リーナは前を見据えるのだ。

 やがて食事を終えると、リーナは将軍服を再び纏った。そして、通常の軍務のための普通軍服を亜空間ケースに入れ、玄関で軍靴を履き、その靴紐をきつく結んだ。

 

「はい、エブラハム。リーナ姉さんに行ってらっしゃいしましょうね」

 

 ジュリアはそう言って、抱きかかえたエブラハムの右手を優しく掴んで小さく振らせた。

 

「今日もジュリアの言うこと、よく聞くんですよー」

 

 リーナはとびきりの笑顔で、彼の頭をそっと撫でる。柔らかい髪に触れる感触が、少しくすぐったかった。五秒ほどそれを続けて、リーナは後ろ髪引かれる気持ちを抑えて手を離した。

 

「じゃ、いってきます」

 

「いってらっしゃいませ、リーナ様」

 

「気をつけてな」

 

「いってらっしゃいな、リーナ」

 

 ミト、アルフレッド、ジュリア、そしてエブラハムに見送られ、リーナは玄関のドアを開ける。外ではシノンと車が待機していて、それらを爽やかな朝の陽光が照らしていた。

 今日もまた、新しい一日が始まる。




 今回で第二部「エゴイストのカプリッチョ」は完結で、リーナの物語もとりあえず一区切りです。いかがでしたか? 批判は大歓迎ですので、そういうことはどうぞ感想欄に書いてください。
 恒例の総括です。総括ったってリンチちゃうよ。
 まずはリーナについて。彼女を主人公にした話を書きたいというのはこれを書く前からよく思っていたことでして、その際には元のキャラからどう発展させると書きやすいが、みたいなことを煮詰めた結果が、この作品の「精神的に脆い」リーナです。今回は結構満足のいく形で書けたと思ってます。結局マイケルとの決闘は避けてしまいましたが、詳しいことは書きませんがあれも事情があるとはいえリーナの弱さが残っているが故のことでもあります。一年後で色々吹っ切れたみたいに書いてありますけど、リーナはずっとチョーカーを着けてますし、やっぱり弱さは残ってるのです。時間が想いを風化させただけなのです。でも彼女は強くなったと思い込むことで前に進んでいます。彼女的にはそれでいいのです。
 次にジュリアについて。前作ではすぐいなくなったので、ちゃんとメインキャラで書きたいと思ってリーナの友達ポジションにつけました。元々の公式設定がかなり薄いキャラなので色々魔改造してます。ミステリアス属性完全消去はアレだったかなとは思いましたが、リーナが主人公で、そのリーナに物語開始時点からベッタリなので、ミステリアスもへったくれもないかな、ということでまあいいやとなりました。本人が「ジコチューでワガママ」と自称してたようにそういうキャラということで書きました。良くも悪くも、全編にわたってブレることなくジコチューでワガママなキャラとして書くことができて満足してます。「え、そうか?」と思われる方もいるかもしれませんが、私の中ではそうです。
 その次にシノンです。この作品のテーマのひとつに「人間対アンドロイド」があったので、リーナに親しくしようとするキャラとして抜擢しました。オリキャラでもよかったかなと思ったのですが、オリキャラならアナベルがあるしなあと思って原作から引っ張りました。そして設定を色々魔改造しました。当初の予定ではリーナとは破滅的な終わりになる予定だったのですが、考えが変わって今回のように和解しました。今作でリーナがアンドロイドに悪感情を持っていたのは環境的要因が大きいので、それですれ違ったまま終わるのは可哀想だと思ったのです。
 次はリーナの一家についてです。勿論全員がオリキャラです。アルフレッドはリーナを男にしてマイルドにした感じのキャラで、特に語ることは無いです。何故かジュリアを伴侶にしてしまいましたが。私もなんで彼がジュリアを娶ったのか理由が分かりません。まあ、キャラが勝手に動くのはよくあることです。結果としてリーナも幸せになりましたし。一方で、マイケルとアナベルはリーナの対立項です。「マイケル、キャラブレすぎじゃね?」みたいに思った方がいるかもしれませんが、元々彼はリーナと同じく精神的に脆いキャラとして作りました。前半の好青年ぶりは特に精神的に追い詰められることがなく幸せだったからで、そこからアナベルを破壊されて一気に突き落とされたが故にああなったのです。死の直前に好青年の雰囲気を取り戻したのは、諦観からのことです。どうせ死ぬなら気持ちよく死のうと考えたわけですね。マイケルの視点が全く無いので読み取りづらいところだとは思いますが、台詞の節々にそう思わせる言葉を入れておいたつもりです。
 というわけで、次回からも拙作をよろしくお願いします。

追記 思うところがあって、この回で完結するように加筆修正しました。

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