暗い路地裏でグチャグチャと咀嚼音がする。女は地べたに座って肉塊を食していた。彼女の名はリゼ。見た目は普通の人間だが、それとは似て異なる存在である。
“エモノ”を喰い散らかしたリゼは口まわりの血をハンカチで拭き取った。彼女は“食事”に対して上品さというものがないので口周りも手も血まみれだった
真っ白だったハンカチは真っ赤に染まった。それを畳んで服にしまうと何事も無かったかのように路地を出る
リゼが男を襲った理由は至極簡単だ
まず、捕食
得体の知れない土地では腹を満たしておいた方が効率がいい。いざとなって空腹では色々不都合なのだ
そして、金銭であった
どこだろうと金がなければどうにもならない
見知らぬ土地で無一文というのはとても痛い。人ではない彼女にとって金銭とはとても大事なものなのだ
リゼの容姿は整っている。それは本人も自覚していることだ。微笑み、優しい声をかければエモノがかかることを知っている。だから誑かすことができる
言葉巧みに、二人きりになれる場所へ行きましょう、なんて言えばその日の夕飯決定である。原型など残さずただの肉塊にされるのがオチだ
「宿泊できる場所探さなきゃね」
いくら喰種といえど、“住”は必要だ
喰種のホームレスなんて死んでもごめんだもの、とぼやいた。人でない彼女はいつも身の回りに危険が潜んでいた。それでも彼女が今まで生きてこれたのは絶対的な強さのおかげだった。だが、落ち着いて休息ができる場所は必要だった。彼女は強い。故に常に恨みを買っていた。
死なないために、住居は必要だった
あぁ、もう死んだんだっけ?
そう言うリゼは興味なさげに言った
「ん〜〜なんッて快適な朝なのかしら♪」
彼女の本性とはまったく似合わない真っ白な毛布に包まれたリゼは背伸びをして、笑みを浮かべた
ホテルの従業員に聞いてみたが、喰種の存在を知っている人間はいなかった
この世界に喰種は存在しない
つまり!ここには私の食事を邪魔する馬鹿はいない!
雑魚喰種共も煩わしい捜査官共も!!
なんて…なんッて素敵な場所なのかしら!!!
嗚呼、不思議。あんなにもオイシソウだった金木さんにもう興味が失せてしまった
私、よく喰べるからお父様に怒られたことがあったわ。他にも喰種達にも喰い過ぎだ、と言われたわ。
人間たちが気付くから、捜査官どもがやってくるから、あまり目立つことはするなと。
だけど、捜査官がいないなら、喰種がいないなら・・・
いくらでも喰べていいってことよねぇ?