オリジナル設定と独自解釈まみれになります。
本作品は〝艦娘が実際に現実世界で運用されるとしたらどうなるか〟という毒にも薬にもならない妄想の産物です。
著者は世界史の成績も悪く歴史に詳しいわけでもないので、時代考証はなるべく行うつもりですが、その辺りは寛大な心で見逃していただきたく存じます。科学的、軍事的描写に関しても同様に、手の届く範囲での取材と考証の域を出ない知識となりますのでご注意ください。
また、原作『艦隊これくしょん』に含まれる要素、設定から、どうしても現実世界に反映が難しいものは、本作品の設定上では割愛または改変されております。例として、「妖精」に関する設定は本作では〝呼称、愛称〟の類として存在しますが実在はしていない事とします。
それらを考慮していただいた上で、大きな注意点がございます。
本作品はその性質上、実際の戦争を想定しての重い描写が含まれます。
残酷な外傷の他、PTSDのような精神障害に類する症状の描写など、艦娘ファンには嫌悪感を与えてしまう可能性のある作品であることをご容赦ください。
以上の諸注意を踏まえたうえでお読みいただくようお願い致します。
一九四五年。
第二次世界大戦終結直後、全世界の海域で謎の生命体による攻撃が始まった。
あまりにも唐突で、この上なく強大な侵略者たちによる侵攻は、戦争により疲弊していた各国に甚大な被害をもたらした。
敗戦国、戦勝国の区別なく降り注いだ破壊。各国は戦争により生じた国際的な亀裂を、無理やりにでも埋め合わせざるをえなかった。互いに向けられていた兵器の矛先を、人類共通の敵へ向けることを余儀なくされた。
大日本帝国は、当初米国の統治下にあった。主要な兵器運用を停止された状況であったが、米国海軍が独力で日本の領海を防衛することはかなわず、帝国の軍事活動を容認する運びとなる。
こうして口火を切られた三度目の世界大戦は、謎の生命体の圧倒的な力と物量を前に惨憺たる歴史を積み重ねていった。
反抗戦線が徐々に押し崩されゆく中、謎の生命体は〝深海棲艦〟と名付けられる。その理由は、発生源が海底深くの未踏の地にあると考えられること。そして、その生命体の能力にある。
なぜ名称に〝艦〟を配するのか。
まるでそれは、軍艦だったのだ。
あるものは大口径の砲塔を備え、あるものは水中を掻き進む榴筒を放ち、あるものは小型の飛行物体を射出して自在に操った。
その様相も、機能も、威力も、まさしく軍艦であった。
人類の保有する軍艦を、威力はそのままに縮小した存在。統率力を持ち、時間差のない意思疎通を行う。殺戮と破壊のためだけに。
そして、発生源と憶測された海域は、最も攻撃の激しい日本の領海にあると結論付けられた。
否応なしに大日本帝国は、反抗戦線の矢面に立たされることとなる。名ばかりの国際連盟は日本に対し、深海棲艦への抜本的な対策活動を迫った。
戦後復興もままならない状況ではあったものの、各国からの惜しみない軍事的、科学的支援が、日本の背中を押し続けた。
こうした中で再編された海軍省は、四方八方の海域から攻めてくる深海棲艦から本土を守るため、あらゆる海上戦力を費やした。しかし人類が当時運用していた兵器では、敵の上陸を阻止するのが精いっぱいだった。深海棲艦の侵略は、既に日本の領海はもとより国民の生活圏の喉元まで迫っていた。
全力の時間稼ぎの中、どうにか鹵獲できた深海棲艦や座礁した残骸をかき集めて手本にし、ようやく編み出された対抗計画が〝人造生体式艦艇兵装〟。
それが〝艦娘〟である。
敵は大量破壊兵器と同等の威力を、変幻自在の機動力と統率的な戦略行動をもって振るう。通常の軍艦が相手取るにはあまりに相手が小さく、速く、頑丈すぎた。
今まで人類が想像もできなかった敵に、既存の戦術や兵器ではとうてい対抗しえなかった。毒ガスや放射性物質のような化学兵器すらも。
深海棲艦を研究する過程で、あらゆる戦術を模索した。結果、深海棲艦と同じ土俵に立つことで、彼らの戦術的優位性を打ち消すことを選んだ。
すなわち、人体を極限まで補強し、彼らと同じ武装を運用するのだ。
なぜ、それは女性でなければならなかったのか。それは艤装と呼ばれる、深海棲艦の技術を流用して作られた武装にある。
単純な大口径の銃器や無人機の類ではない。
深海棲艦の攻撃手段としての砲塔や魚雷等は、まるで筋肉のように脳器官からの信号で機能している。だが、その信号の伝達方法は、これまでの生物の常識の外にあった。脳機能を保持する本体と物理的な繋がりを持たず、いわゆるテレパシーのような形で操っていた。
それだけではない。その武装の最も恐るべきは、武器器官そのものにも脳のような自律制御機能が備わっていることである。
射撃行動であれば、かなり高度な管制制御を武装そのものが自律的に行う。本体が定めた標的に対し、本体の五感から得た距離や風速、標的の移動速度等の情報を独自に計算し、標的へ狙いを定める補助を行うのだ。
様々な国の研究機関の協力を得て、日本はその発見と模倣技術を編み出した。
深海棲艦の武装を鉄と電子回路で再現し、人間の脳に外科的手段でもって機械を埋め込むことで、深海棲艦と同じ能力を得ることに成功した。砲弾、魚雷、無人航空機に関しても、深海棲艦のもたらした技術は兵器の常識を塗り替えた。破壊力はそのままに、人が単身で運用可能なレベルの小型化に成功した。
しかし大きな問題もあった。この革新的な有機的無線武装管制制御機構は、女性の脳でなければ運用できなかったのだ。深海棲艦が全て女性であるため、その性差まで模倣したのではないか。と憶測はされているものの、実態は明らかにされていない。
不可解な面が多いまま、政府は藁にも縋る思いでこの計画を推し進めた。可及的速やかに、確かな打撃力を確保する必要があった。たとえ、何百人の年端もいかぬ女子を実験体にしてでも。
客観的に見れば、人道にもとる狂気の沙汰であることは誰にでも理解できたはずだ。
しかしこの時代は、誰もが怯えていた。正体も動機も不明、ただひたすら憎悪のままに襲い来る侵略者たちに。
結果、些細な道徳観念にかまって歩みを止める者はいなかった。ある意味、あの時の人類は狂っていた。
計画が実戦段階に移行した頃には、深海棲艦が攻撃を開始してから五年の歳月が経過していた。資源も兵力も、もはや風前の灯だった。
全世界が足並みをそろえてなお狭まり続けていた防衛戦線は、艦娘が実戦に投入されて一年を待たずに初めて硬直する。
予測よりはるかに大きな成果をもたらした艦娘計画は、さらに加速した。日本のみならず、戦況が逆転するまで世界は少女を戦線に送り込み続けた。
やがてこの戦争は、今年で二十一年目を迎えた。