ラブライブ!サンシャイン!!息抜きカップリングss集! 作:がんもどきもどき
至高のようりこ
BUMP OF CHICKEN「車輪の唄」より
錆びついた車輪、悲鳴を上げ、僕らの体を運んで行く。明け方の駅へと―――
いつだったか、そんな歌を聴いたような―――。
―――ギコギコ、ギコギコ
ペダルを漕ぐ度に、悲鳴のように錆びついた鉄同士が擦れ合う音が鳴る。二人乗りしながらこんな坂道を登っているのだ。使い続けて5年間手入れも何もしてない自転車からしたらたまったもんじゃ無いだろう。
ごめんね。帰ったらちゃんと整備してあげるから、もうちょっとだけ頑張って。
心の中で愛車にエールを送る。それは軽い現実逃避。後ろに乗る彼女自身は決して重くはない。けれど、その膝に抱える一昨日一緒に買いに行った鞄にはそこそこの荷物が入っているようで、自転車よりも私の太ももの方が悲鳴を上げそう……。毎日果南ちゃんと走っててよかったと、この時ほど思ったことはなかった。
「ほら、曜ちゃん頑張って!あと少しだよ!」
「よーしっ!ぜんそくぜんしーんっ!」
楽しそうな梨子ちゃんの声にこっちも自然と笑顔になる。まだ早朝と呼ぶには少し早すぎる時間に、二人とも深夜テンションみたいにハイになっている。
いや、もしかしたら本当は、数十分後に来てしまう別れの時のことを考えたくなくって、テンションで誤魔化していたのかもしれない。
「……なんだか、世界中に二人だけみたいだね」
ポツリ、と。梨子ちゃんが小さくこぼす。車輪の音と私たちの声しか聞こえないこの時間は、本当に世界に私たちしかいないかのように静かで、静かすぎて。そう思ったら、背中から伝わる梨子ちゃんの温もりが、より一層あたたかく感じた。
あぁ、神様。永遠なんて贅沢は言いません。せめてこの時間が、少しでも長く、あと、ほんのちょっとだけ―――。
けれど、どれだけ願っても、どれだけ祈っても、時間は冷酷に当たり前のように過ぎていく。気づけば坂も登り終わり、私たちは駅に到着した。到着して、しまった。
なんとなく、二人で駅の入り口で立ち尽くす。電車の来る時間までまだ少し時間があるけど、二人の間で会話は無い。
(なにか、何か言わなきゃいけないのに……!)
そんなこと、わかっているのに。今喋り出したら、私はきっと―――。
フワッと。
それまで冷たかった空気が、後ろから急に暖かみを帯びた気がした。それは気のせいではなくって、振り返ってみると、水平線の向こうからとても眩しくて暖かい光が、私たちを街ごと飲み込んだ。
「わぁ……」
思わず、感嘆の声が漏れてしまう。
思えば初日の出の時以外に見る機会なんてなかったように思う。高いところから見えるそれはあまりにも綺麗過ぎて―――。
後ろにいる梨子ちゃんは、笑っているんだろうなって思う。朝焼けに照らされる彼女の顔はきっと凄く綺麗で、その姿を目に焼き付けたかったけれど、私は振り返ることは出来なかった。
きっとこの日この瞬間のこの景色は、世界一、いや宇宙一、人を感動させるほど綺麗な景色に違いない。
だって、そうじゃなかったら。
私が今泣いている理由に説明がつかないから―――
――――――
券売機で梨子ちゃんは切符を買う。この駅で買える、1番高い切符。対して私が買ったのは1番安い入場券。値段の差が、そのまま距離に反映されているようで、いや実際そうなんだけど、それを考えるとまた寂しさが込み上げてくる。梨子ちゃんが切符を買っている間、私はすぐに使う入場券を、宝物をしまうように、ポケットにしまった。
電車が来るまであと二、三分。未だ私たちの間に会話は無い。梨子ちゃんの鞄が改札に引っかけて通れなかった時も、私は目も合わせずに引っかかる紐を外しただけ。駅のホームに並んで立つ二人の間に吹く風が、やけに寒々しく感じる。
さっきまで永遠に続いて欲しいと願った時間。どんなに息苦しい沈黙が続くだけでも、その思いは変わってなくて。そんな私の心を嘲笑うかのように、終わりの時間を伝える音が、最後を告げるベルが、ホームに響き渡った。
ガタンゴトン。重い音で空気を揺らしながら、電車が近づいてきて、丁度私たちの前に扉を置くように止まる。
コツンッ
電車のモーターの音で騒がしいはずなのに、梨子ちゃんが一歩踏み出した音はやけに響いて聞こえてきた。たった一歩分の距離。けれど、それは何万歩よりも距離がある気がして。電車の中と外では、まるで別の世界の様。
お互い無言のまま見つめ合う。もう後数秒も時間が無い。言いたい事、伝えたい事は山ほどあるのに、私は馬鹿みたいに口を開いては閉じてを繰り返すだけ。「要領が良い」なんて、飛んだお笑い種だ。どんなに何かを出来たところで、いざって時に、大切な人に伝えるべき言葉を見つける事ができない。
「曜ちゃん」
そんな私の心中を察してか、梨子ちゃんが口を開いた。いつも聞いてきた、美しく透き通った海の様な声。でも今はその声を聞くのが辛い。あるいは触れれば壊れてしまいそうな彼女の表情が、そう思わせるのかもしれない。
「また会おうね。いつの日か、必ず……約束、だよ―――」
――――――
「梨子ちゃんの声、震えてたな……」
ぼーっと電車を見送りながら、私の口から間抜けな声が漏れる。きっと梨子ちゃんも、精一杯我慢していたんだろう。それなのに、私は、返事をすることなく、俯いて手を振るだけ。何処までも自分のことばっかり、最後の最後で、彼女を悲しませてしまった……。
「最後……?」
彼女は私にまた会おうと伝えてくれた。約束だよと、言ってくれた。けど、彼女の本気に、本当の言葉に応えられなかった私に、彼女に会いに行く資格があるとでも言うのだろうか?
「あるわけ、無いじゃんっ……!」
想いを口に出すと、それは体の中で一気に広がって。気付いたら私は走り出していた。
今ならまだ間に合う。
伝えなきゃ、いけない。
バカで、弱虫で、ヘタレで、ダメダメな私だけど。きっと今ここで諦めたら、私は私を許せない。見せてくれた梨子ちゃんの「本気」に、私も「本気」をぶつけなきゃ。未来を走る権利なんて、得られやしない!
自転車に飛び乗って、線路沿いの下り坂を全力で降りる。ブレーキなんて最初から付いてないかのように、ハンドルだけ握ってペダルを漕ぐ、漕ぐ。もっと、もっと早く、早く。ただひたすら前に、前に。追いつくように―――
でも、すでに発車している電車に、自転車で追いつくなんて不可能だ。だから私はハンドルを右に切って、整備されてない砂利だらけの道を下る。この電車は大きく弧を描くように曲がっているから、直線で斜めに行けば近道になる。
なんとか転けないようにバランスをとりながら、物凄い速度で下る。なんとかまた平地の道路に出て、線路目指してペダルを回す。
―――ギシギシ、ギシギシ
ペダルを漕ぐ度に、悲鳴のように軋んだ音が鳴る。
ごめんね、帰ったらピッカピカに磨いてあげるから、もうちょっとだけ力を貸して!
祈る様に自転車にお願いしながら、一心不乱に足を動かす。やがて線路沿いの道に出ると、少し後ろから電車が走ってきた。間に合った。けれど、スピードは落とさない。むしろグングンと上げて行くけれど、案の定電車は並走する私を簡単に追い抜いて行く。乳酸が溜まって固まりそうな足を必死に動かしながら、私は目を凝らして電車の窓を凝視して、梨子ちゃんを探す。
一車両目、いない。
二車両目、いない。
そもそも、私のいる側に座ってる確率はどのくらいなのだろう?
三車両目、いない。
四車両目、いない。
単純に二分の一?電車の中はガラガラだし、立っていることはないと思う。こんなことなら、数学の授業もっとちゃんと聞いとけばよかった!
五車両目、いない。
六車両目、、、、
いた。
その後ろ姿を、私が見間違えるはずがない。赤みがかった長い髪。普段から華奢な体だけど、心なしかその背中はいつもより小さくて寂しさが伝わってくる。
その背中を見て、確信した。やっぱり間違いじゃなかった。
ドアが閉まる寸前、あの時、梨子ちゃんは―――
――――――
―――泣いて、しまった。
絶対我慢するって決めていたのに、溢れる本当の想いは偽物の覚悟なんて簡単に打ち砕いて、気づけば私の口から言葉が次々と止まらなくて。それでも、本当に伝えたい事に限って、喉の奥に止まって出てきてはくれなかった。情けないけど、悲しいことに、あれが私の精一杯。
それでも、曜ちゃんは応えてはくれなかった。
彼女が肝心なことでヘタレてしまうのはいつもの事。それでも最後くらい、笑顔が見たかった。あんな顔、して欲しくなかったのに。
胸の中の何かが、急激に冷めて行く様な感覚がした。わかってる、曜ちゃんは何も悪くない。ただ、私が勝手に期待して、勝手に失望してしまっているだけ。ほんと、自分勝手にも程がある。そうわかっていても、私はもう、曜ちゃんの隣にいる未来が想像できない。
そのくせ、耳には曜ちゃんの声が聞こえてくる様で、ほんと、未練がましいったら―――
「――――――梨子ちゃーーーーーーーーん!!!!」
―――その声を、私が聞き間違えるはずがなかった。
弾ける様に立ち上がって、窓の外を見る。そこには曜ちゃんがいた。額に汗を浮かべて、必死に私の名前を叫んでいる。
「よう、ちゃん……!曜ちゃん!!」
その事が嬉しくて、嬉しくて。
さっきまで冷めていたものが、急激に熱を持って、爆発したかの様だった。電車の中ということも忘れて、私は彼女の名を叫ぶ。幸い電車の中に人はいない。だから良いというわけではないけど、それでも私は溢れる感情を止めることができない。
あぁ、やっぱり私、曜ちゃんの事が―――
――――――
届いた。振り向いてくれた。
電車の中の梨子ちゃんはとても驚いた顔をしている。梨子ちゃんが何かを言っている。けれど、あっちは室内という事と、電車の音で全然聞こえない。
でもいいんだ。梨子ちゃんはさっき私に伝えてくれたから。
だから今度は私の番。
伊達にスクールアイドルと水泳部を掛け持ちしていない。肺活量にはそれなりに自身があったけど、それでもあんまり長くは喋れそうにない。だから、伝えたい事だけ。要領を得ない、ただのありのままの私の気持ちを電車にぶつけるように叫ぶ。
「梨子ちゃん!!私!会いに行くから!!いつの日かじゃなくって、必ず!!絶対!絶対会いに行くから!!約束っ、だからねーー―――っ!!」
一息で、ありったけ。肺が破裂しそうなくらいたくさん吸った空気を全部つぎ込んで、喉が弾け飛びそうなぐらい思いっきり叫ぶ。
梨子ちゃんはまた驚いたような顔をして、俯く。それは、私が見たい彼女の姿ではなかった。きっと駅のホームで、梨子ちゃんも同じ気持ちだったんだろう。
それでも、梨子ちゃんは顔を上げて、最高の笑顔を見せてくれた。口元と手を震わせながら私に敬礼で返事をしてくれる。その事が嬉しくて嬉しくて、私も思わず敬礼を返した。
その時タイミング悪く、車輪が大きめの石に乗っかっちゃって、私は思いっきりバランスを崩す。慌ててハンドルを操作してなんとか脇の草むらに倒れこむ。身体中に鈍い痛みが走るけど、今はそんなの気にしてられない。
既に梨子ちゃんの顔は見えなくなってるけど、私は電車に向かって、大きく飛び跳ねながら手を振った。離れてく梨子ちゃんにも見えるように、電車が見えなくなるまで、何度も、何度も―――。
――――――
色取り取りの音たちが活動を始め、今日も街は動き出す。賑わい、騒がしくなり始めた商店街の中を自転車を押しながら歩く。不思議だ、周りに人はたくさんいるのに、自転車の鯖同士が擦れ合う音がやけに大きく聞こえる。
「なんだか、世界に一人だけみたいだなぁ……」
そんな言葉が小さく溢れた。きっと、私にとっての唯一無二の大切な人がここに、この街にもういないという事実が、そう思わせているんだろう。
それでも、不思議と寂しくはない。
会いに行くと言ったから。
必ずまた会うと、約束したから。
「っ〜〜〜………さてっと!」
商店街を抜けて、大きく伸びをする。まず家に帰ったら、今日一番頑張ってくれたこの相棒を、思いっきり磨いてやらないと!
……でも家までまだ遠いから、もうちょっとだけ乗せてってね。
労う様にサドルを撫でてから、私は自転車に乗って、視界いっぱいに広がる青空に向かって指を差す。
「天候よしっ!風よしっ!進路よしっ!」
空、海、道路と順に指差喚呼。私の進む未来に一点の曇りもない。
「全速前進!ヨーソローーー―――!」
からの、敬礼!
背中に残る微かな温もりに押されるように、私は自転車を漕ぎ出す。
心なしか、ペダルはいつもよりも軽いように感じた―――。
錆びついた車輪、悲鳴を上げ、残された僕を運んで行く、微かな温もり―――
いつだったか、そんな唄を聴いたような―――。
おわり
書けるかどうかは別として、イチャイチャよりも切ない系の方が性に合ってる気がする。
でも本当はイチャイチャが描きたい……