響け!全国へ!   作:rockyshocora

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第十章 ダークホース

 リハーサル室

 本番直前、最後の音出しを許されたリハーサル室は、扉を開くと会場にそのまま繋がっていた。

電話で宗人に呼ばれた俺はホールの出入り口に向かうと今ではすっかり顔なじみになった軽音部の3人が宗人と一緒にいた。

元々、3人は気を遣って俺たちには知らせず応援に来ていたみたいなのだが偶然トイレで宗人と小野が鉢合わせたらしくそれで合流したようだ。応援も兼ねてコラボバンドの時に何かプラスになることがあればと参考にするらしい。

小松さんと水瀬さんにも連絡をしているみたいなのだが携帯を既に鞄にしまってしまい気づいていないのか返信がないようだ。

リハーサルまであまり時間もないので5分ほど雑談して解散し、俺と宗人は持ち場へと戻った。

音出し、チューニング、出だしの確認。いつもの行程を踏み、滝先生が指揮を振る手を止める。俺はその場で深呼吸をする。深く息を吸い込みそれからゆっくりと時間をかけて吐き出す。強張っていた肩の力が抜け、楽器を持つ腕の重さを改めて感じる。落ち着いたところで俺は改めて滝先生へと向き直る。真っ白なタキシードを身に纏う先生は、穏やかな眼差しを部員たちに向けていた。こんな格好が似合う人もそうそういないだろう。

「ついにこの日がやってきましたね。私が北宇治高校吹奏楽部の顧問としてこの場に立つのはこれで2回目となります。課題曲、自由曲が決まって以降皆さんは今日までずっと努力してきました楽譜が配られた時に比べて演奏の完成度もどんどんと高くなってきていました。ですが、私は皆さんとならさらにクオリティの高い音楽を作り上げられると考えています。次の演奏の機会に繋げられるように今日は全力を尽くし音楽を楽しみましょう」

「はい!」

一丸となった部員の返答に滝先生は満足そうな笑みを浮かべ頷いた。

そして視線が、隣に立つ吉川部長へと向けられる。それが合図となり部長は一歩前へと踏み出す。閉じられた瞼が力強く跳ね上がる。その目には燃えたぎる太陽のような意志の強さを感じた。

「今日は、ちゃんとこうしてメンバーが揃っていることを嬉しく思います。怪我も病気もなかった。当たり前に思えてすごく大変で大事なことやと思います。うちはこのメンバーでやれば怖いものなんてないって知ってる。いつもどおりの力を出せば絶対に次へと進めると信じています。……………。12分間の舞台、本気で楽しみましょう!」

「はい!」

「では、いつものやります!みんな準備オッケー?」

吉川部長が天に向かって腕を突き出す。

「北宇治ファイトー!」

「オー!!!」

揃った声がリハーサル室に大きく反響した。

俺たち1年生にとって初めてのコンクール、もちろん緊張していないわけがない。だが、それ以上に演奏が楽しみなのだ。

俺は突き上げた拳をそのまま下ろして改めて固く握り直しゴクリと唾を飲み込んだ。

それと同時にリハーサル室の扉が開きスタッフがやってくる。

「北宇治高校の皆さん、お時間です。準備をしてください」

案内係のスタッフさんに付いて行き舞台袖に移動する。

北宇治高校の2組先の高校の演奏がたった今終わり1つ前の高校がスタンバイする。演奏が終わるまでの数分間、俺たちはここで待機することになっている。

部員たちは友達同士で集まったり、楽器ごとに集まったりと自由に過ごす。俺たちユーフォ組は夏紀先輩から招集をかけられ4人が集まる。

「悪いな集まってもらって。これ、3人に渡そうと思ってな」

そう言って夏紀先輩はスカートのポケットから3人分のミサンガを取り出した。

「これ、ミサンガですか?」

受け取ったミサンガを見て久美子先輩が問いかけた。

「そうそう、お守りの意味も込めて今日のために作ってきてん、4人でお揃いやで」

自身の左腕を差し出し照れくさそうに言った。

それぞれ受け取ったミサンガを手首に付けて4人が拳を軽くぶつけ合い微笑み合う。

「絶対に関西…いや、全国行くよ」

「はい!」

そして、ついに時間がやってきた。薄暗い通路から湿気混じりに薄暗い沈黙が流れる。

吉川部長は先頭に立ち、深呼吸をするとその一歩を踏み出す。セーラー服に包まれた部長の背中がひどく頼もしかった。

さぁ…決戦の時がやってきた。

いよいよ本番、舞台に上がるとスポットライトが俺たちを迎える。光が満ち溢れた舞台で俺たちはいつもの場所に座る。アナウンスが流れやがてパチパチと拍手が雨のように観客から降り注いだ。

そして滝先生が指揮台に上がり軽く腕を振り上げる、白い指揮棒がしなやかに揺れる。全員が楽器を構え、集中する。先生が息を吸い込む。そしてその瞬間、部員たちの息使いがベルを通して会場を、世界を揺らし始めた。

視界には既に何度も目を通し、何度も確認し、暗譜してしまったたくさんの文字で埋め尽くされている楽譜と指揮台に立つ滝先生の姿を捉えている。

演奏が始まり極限まで集中する。次第に今どこを吹いているのかも判別がつかないほど頭の中は空っぽになっていく。だが、時間の経過は異様に遅く感じてしまい指の動きもクリアな状態。これが所謂スポーツ選手などごく一部が踏み入れることの許される領域「ゾーン」というやつなのだろうか…?そんなことを他人事のように思いながら演奏を続けた。

久美子先輩のユーフォのソロ、高坂先輩のトランペットのソロ、そして自由曲「リズと青い鳥」の目玉である鎧塚先輩と傘木先輩の2人による掛け合い、その出来、どれもが今までの練習の成果を語っていた。

 

 演奏から数分後

演奏が終わり、舞台袖へと捌けると俺は小さく息を吐き緊張から解放される、すると背中から軽い衝撃がやってきた。

「お疲れさん」

宗人が俺の背中を軽く叩いて言った。

「おう…タカもお疲れ」

宗人の隣にいたタカにも声をかける。

「あ~緊張した~まじで立ってるのも危うかったわ、足ガクついてたもん」

パーカッションのタカは複数の楽器を扱うため常に立って移動しなければならない。

「そうそう、俺も椅子に座ってユーフォ構えたところまでは覚えてるけどそこからほとんど記憶ないもん」

「やんな~宗人はどうやったん?」

「俺か?俺は別にいつもどおりかな~ちょっとは緊張したけど別に記憶飛んでないし、オーディションの時の方がよっぽど緊張したわ」

「こいつ本番とかでもいつも平然としてるからな」

「いや~鋼メンタルってやつですかね、ガハハ」

3人で話しながら舞台袖から予め説明されていた所定の場所へと向かい楽器を戻す。

残りの演奏する高校はあと3校、それまではホールで演奏を聴くなり外で過ごしたりと自由な時間が設けられている。

楽器を戻したあと、休憩がてら自動販売機を探し通路を歩いているとチラリと設置されているディスプレイが目に入る。

画面に映し出されているのは先ほどまでの北宇治高校の本番の様子を俯瞰で撮られていた映像だった。吹奏楽コンクールではこのように演奏中の姿を撮影し、その映像を販売している。

自動販売機を見つけ、3人が各々飲料を購入し隣に設置されているベンチに座り缶のフタを開けて中身を一気に飲む、炭酸が身体中に染み渡るのを感じる。

「あ~生き返る~」

「ぷは~最高~!」

「あ~大人たちが言う仕事終わりのビールってこんな感じなんかな~」

3人がそれぞれ感想を口にした。

「このあとどうする?俺はトリの龍聖だけ見ようと思うんやけど」

俺はポケットの中から今日のプログラムを取り出して2人に尋ねた。

「閉会式まで動きたくな~い」

「右に同じく」

「………。じゃあ1人で行くわ」

2人とも冷たいやつだ…。

「緑、またいっぱいパンフレット買ってるん?そんないる?」

「何言うてんの!保管用と観賞用で2つはいるやんか!あ、葉月ちゃんもほしい?」

「いやいや、もう全部の学校の演奏終わるのに、今さらパンフレットもらっても困るわ」

俺たちが座っているベンチの向かい側の通路の端で、川島先輩と加藤先輩が会話しているのが聞こえてきた。そこから目線をずらすと「吹奏楽コンクール大会記念グッズ」という看板が立てかけている。

「相変わらず拓海のとこの川島先輩は元気やな~今の今まで演奏してたのに」

「俺のとこのってなんやねん…」

「そういや、拓のところの川島先輩って中学は確か聖女やろ?エスカレーター式でお嬢様学校やのになんでわざわざ北宇治来てんやろ?今年ならまだ分かるにしても去年なんて話題にすらあがってなくない?」

「おい…その俺のところってやつやめろよ」

「それで、拓海はなんか知らんの?」

「いや、知らんけど…」

「ふーん、そうなんや…じゃあ、川島先輩に聞いといてよ」

「え…気になるんやったら自分で聞きや」

「緑がどうしたの?」

「うおっ!?びっくりした~」

3人が同時にビクッとした。

自動販売機の影からひょっこりと久美子先輩と高坂先輩が顔を出したのだ。

久美子先輩と高坂先輩が顔を覗かせるとタカは慌てた様子で立ち上がり先輩2人に向かって勢いよく声をかける。

「先輩方お疲れ様です」

「お、お疲れ~そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ」

「でも先輩なので…い、いえ、ありがとうございます」

タカは俺たちをチラリと見て静かにベンチに座り直した。

俺と宗人は慣れ親しんでいるので普段フランクに接しているため座りながらペコリと軽く会釈するだけだったのがそれがタカには意外だったようだ。

特に意識したことはないが久美子先輩は今の1年生をまとめる指導係、高坂先輩はトランペットのソロ担当で北宇治のエースなのだから1年生にとっては大きな存在なのだろう。

「急に話しかけちゃってごめん、驚かせちゃった?」

「いえ、大丈夫です。川島先輩って不思議な人だな~と思って」

俺は購買部で2人が話している方を見ながら答えた。

「まぁ…確かに緑はちょっと変わってるところあるかもね」

「おーい!久美子ちゃーん、麗奈ちゃーん」

俺たちと話しているのに気づいたのか川島先輩が向こう側から大きく手を振って声をかけてきた。

「じゃあ私たち行くね」

「おっす!」

そう言って先輩2人は手を振って購買部の方へと向かって行った。

「じゃあそろそろ俺も行くわ」

「おう、また後でな」

俺も先輩たちと同じタイミングで龍聖の演奏を聴きにホールへと向かった。

 

 結果発表直前

「あちぃ…」

全ての高校の演奏が終わり俺たちは建物の外で待機していた。

日差しがサンサンと照らされている下、冬服で立っているのは中々に辛い。

ここ、京都大会での結果発表は受験の合格発表のように紙によって結果が記される。

宗人たちと別れたあと俺は1人で龍聖の「白磁の月の輝宮夜」の演奏を聴いていたがそれは凄まじいものだった。男子校というだけあって全員が男子生徒なので演奏の力強さは他と比べても段違いだった。

そんなことを思っていると、深緑色のブレザーに身を包んだ龍聖の集団がやってきた。男子が密集する一角はやたらと目立っていた。

その逆には統率の取れた水色の集団が待機している。明るい空色のブレザーはマーチングの王者、立華高校のトレードマークだ。

「来た…!」

唐突に誰かが囁いたのが聞こえた。それと同時に紙の束を抱えたスタッフが生徒たちの前に現れた。

「緊張しますね」

「そうだね」

近くにいた久石が久美子先輩に向かって漏らした声が聞こえた。

人差し指で唇に触れ、久石はじっと正面を凝視している。久美子先輩は両手を強く握り締めて、加藤先輩とさっちゃんは祈るように、みっちゃんは腕を組んで微動だにせずに、求君は退屈そうにボーっとしながら、後藤先輩と長瀬先輩は不安げに瞳を揺らしながら、そして川島先輩は自信満々な笑顔で………。

大きな紙が広げられるとそこには学校名が羅列されていた。

_____三十七番、京都府北宇治高等学校、金賞、京都府代表

その文字を見た瞬間、大きく息を吐いてどっと力が抜けた。

「いやあ、まじでよかった~。ここで終わるはずないと思ってたけどな」

少し前の方で夏紀先輩はでかでかと本音を漏らしている。隣に立つ吉川部長が得意げに鼻を鳴らしていた。

「うちは絶対に関西行けると思ってたけどな」

「よう言うわ、内心ビビってたくせに」

「いいえ、全く、部長としてみんなを信じてたから」

「うわ…何良いこと言ってんの」

「もともとこういう性格なんですぅ」

会話をする2人の周囲を部員が見守っている。このやりとりを見ていると今が夢ではないのだと安心してしまう。

「やりましたね」

不意に久石から声をかけられる。可愛さを凝縮したような笑みを浮かべているその笑顔はどの角度から見てもおそらく完璧なのだろう。あざとい。

「うん、まずはなんとかな」

「残りの2枠は龍聖と立華みたいですよ」

「まあ順当だよな~」

「ここで油断してるとやられますからね」

「分かってるよ、俺たちは全国に行くんやから」

視線の先には喜びを爆発させている龍聖の部員たちの姿があった。

去年の北宇治と同じだ…。ずっと銅賞だった学校が顧問が代わってわずか1年目で関西に出場することになったのだ、間違いなくダークホース、油断すると本当に飲み込まれてしまうほどの本物の圧力だと胸に刻み込んだ。

 

 第十章 決戦(後編) 完

 




やっと府大会終わりましたね笑
やること(主に仕事なのですが)がたくさんありすぎて中々執筆の進捗がよろしくないです。
誰か助けてください...。
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