受付にて、登録し終えた俺と宗人はみんなに報告するため戻ろうと歩いていると先ほどのナンパ2人組と目が合ってしまった。
「「あ…」」
俺とその2人は同時に声を漏らす。
「どうしたん?」
1人状況が把握できていない宗人が俺に問いかけてきた。
「あ、いや…ちょっとな」
「もしかして大会に出ちゃったりするん?」
そのまま何事もなかったかのように通り過ぎようとするが向こうから声をかけてきた。
「はい、そうですけど…」
「嘘?まじ!?AかBどっち?」
めっちゃ話しかけてくるじゃん。
「Bです」
「あ~俺らAやから当たることないな~残念。どうせ1回戦、2回戦ぐらいで負けるやろ?」
先ほどの仕返しなのか明らかに煽ってきているのが分かる。
「俺ら優勝する予定なんですけど?」
我慢できなくなったのか横から宗人が割って入ってきた。
「へ~そんなに自信あるってことはバレー部とか?」
「いえ、吹奏楽部です」
「ははっ…おもろいギャグやな、吹部が優勝ってウケるんですけどー!」
「まぁ…せいぜい頑張ってくれよな、こっちは元バレー部がいるから優勝は俺らで確定やけどな」
2人がケラケラと笑っている。
「勝手にウケといて下さい、決勝戦楽しみにしてますよ、行こ拓海」
「おう」
こりゃ完全にキレてるな。
2人と別れて歩いていると宗人はブツブツ文句を垂れている。
「絶対泣かす絶対泣かす絶対泣かす、そもそもあのいかにもアホそうなアイツら何?」
「さっき久石をナンパしてた人たち。それを俺が邪魔したから根に持ってるんでしょ」
「なにそれ、ダッサ。将来あぁはなりたくないね」
俺と宗人は決勝まであがってあのチームにギャフンと言わせることを目標に設定して闘志を燃やした。
俺と宗人はブルーシートを敷いてみんなの荷物をまとめてある場所へと戻る。
「どうやった?」
一番初めに声をかけてきたのは高坂先輩だった。
俺と宗人は互いに顔を見合わせてドヤ顔を見せつつ右手の親指をグッと上げる。
「いいね」
高坂先輩もニヤっとする。
「お、まじか!」
「うわっ、なんか緊張してきたな~」
夏紀先輩は少し驚いた様子を見せ、傘木先輩は両手で二の腕を摩りながら自信無さそうにしていた。
「ちなみに僕たちはBブロックなのでタイムテーブルによると開始時間は大体12時頃だと思います」
「そうと決まればさっそく作戦会議やな」
高坂先輩の声に5人が円になって座りポジション、役割、簡単な作戦の話し合いを行う。
「ザッとこんなもんかな?あんまり詰め込みすぎても意味ないしこれで十分やろ」
軽く打合せして夏紀先輩はパンッと手打ちし、作戦会議がお開きになる。
「打ち合わせしてる間に用意しといたから食べるで!って言っても男子の分は想定してなかったから量は少なくなってしまうけど」
吉川部長に声をかけられると隣には色とりどりの弁当が配置されていた。
「うわーすげー!」
宗人が声を大にして感動している。
「女子の手作りやで~大事に大事に頂きや?」
「なんで夏紀が誇らしげやねん、これ作ったん、うちと黄前、高坂、久石やで?」
「はいはい、すいませーん…お、奏!これ美味いわ!」
吉川部長の話を聞き流し夏紀先輩は卵焼きを1つ摘んで口に放り込む。
「コラーーー!」
「ええやん、ええやん減るもんじゃなし」
「減っとるわ!」
「さて、いつものことやからあの2人はほっといてうちらも食べよ、時間もあんま無いしな」
傘木先輩はみんなにお箸を配りながら言った。
「なぁ…俺、今日死んでもええわ」
俺の左隣に座ったタカが涙を流しながらほうばっている。
せめて、全国大会終わるまで生きてくれ…。
「あはは…中村君って面白いね」
「1ミリも思ってないことよくもまぁ口に出せるな」
「やだなぁ~ほんまのことやで?」
右隣に座っている剣崎さんが俺の背中をバンッバンッとかなりの音を立てて叩いてくる。
あの、剣崎さん?痛いです痛い、背中の骨全部砕け散りますよ?
「そうっすね…」
俺は苦笑いしながらハンバーグと口に入れる。
「あ、それ奏が作ったやつやで!どう?」
「ちょっと梨々花!いちいち聞かなくていいよ」
剣崎さんの右隣に座っている久石が抗議している。
「うん?普通に美味しいわ、久石料理も出来るんやな」
「変ですか?」
「いや、全然変じゃないよ。勉強も運動もできて料理もできるなんてすげーなと思って」
「.........。ありがとうございます」
「あ、奏、顔赤くなってる!」
「なってないよ!」
総勢14人で食べるご飯はワイワイとかなり賑やかになっており危うく時間を忘れてしまうほどの和やかで楽しい時間を過ごした。
時刻は15時、16組あったチームも今では残り2組にまで絞られていた。
決勝戦が始まる5分前、俺たちは水着の上からパーカーまたはTシャツを着てその上からチームゼッケンを着て各々ストレッチを開始する。
今まで10点マッチとはいえ、ここまで3戦、試合ごとにインターバルはあったもののそれなりに疲労は蓄積されていた。
だが、残り1戦、あと1つ勝てば念願の優勝だ。みんなの集中力は切れるどころか高まってきているとすら感じられる。
即席で作ったチームだがこれまでの3試合で連携もかなり形になったと思っている。特に初戦が中学生っぽい人たちのチームだったのが幸運だった。
2戦目は俺たちと同じ高校生たちのチームだったが総合的な運動能力も勝っておりバレー経験者もいなく特に苦戦することなく勝利した。
3戦目、同じく高校生たちのチームだったが準決勝ということもあり全員の運動能力が高く苦戦を強いられヒヤヒヤしたが勝利を収めることができた。
あれ…?このチーム本当に吹奏楽部なのか?普通に強くね?
決勝戦間近、最後にサインや連携の確認を行っているとネットを挟んだ向こう側から声が聞こえてくる。
「あれ?あのときのチビじゃね?」
「おい、拓海言われてるで?」
宗人が男たちに気づいてわざわざ俺に報告してきた。聞こえているけど無視していたのに。
「は?チビって誰がやねん」
「おまえ」
キレそーーーーー!
両チームがコートに入る。
「まさかホンマに決勝まで来るとは思ってなかったわ」
「それはお互い様で」
俺は相手の顔を見ず答えた。
「なんや、この人たちがさっき言ってた高校生の?」
「そうそう」
「ふ~ん」
宗人よりも背の高い1人の男が目を細めてこちらを見てきた。
「なんですか?」
宗人が突っかかるように問いかけた。
「あ、いや…君たち吹奏楽部なんでしょ?決勝まで来るなんてすごいなと思ってさ」
初めて話しかけてきた人は2人組と違って敵意もなく愛想の良い青年に思えた。
おそらくあの人が先ほど言っていた元バレー部の人だろう。
「どうも…」
「俺、東野って言うねん、よろしく」
そう言って手を差し伸べて握手を要求してきた。なんだかペースが乱れてしまう。
「神木です…よろしくお願いします」
「じゃ、楽しみにしてるで」
そう言って持ち場へと戻っていった。
「さてと、俺らもそろそろスタンバイしますか!」
それでは試合開始!!
「「お願いしまーす!」」
審判のコールと共に両チームの挨拶で決勝戦が開始された。
コートの広さは全長18mの幅9mでネットの高さはおそらく中学生を基準にした2m30cmで、使うボールのサイズは4号だろう。
普通、バレーは6人でやるものだが今回は5人ということで初めの方はいささかコート内が広く感じられていたが今ではすっかりその違和感も無くなっている。
決勝戦ということもあってか周りのギャラリーは中々に集まってきている。
決勝戦のみマッチポイントは15点で行われる。
先行サーブはこちらから、まずは宗人からだ。
「1本、1本」
夏紀先輩が声を上げる。
「宗人―!初球しっかり頼むよー!」
俺は後頭部を両手で覆って宗人に声をかける。だってこうしてないと当たりそうで怖いんだもん。
いつもどおり、強力なジャンプサーブをやってのけ、軽々とネットを超えて相手陣地に攻め込む。レシーブしようとした相手は手に掠ることなくボールは地面に叩きつけられた。
『0-1』
「ナイッサー」
「櫻井君いいよー!」
サービスエースだ。
宗人のサーブは野球やバスケなど球技に慣れているかバレー経験者ではない限り初見で拾うのはかなり難しいだろう。
「おいおい、なにやってんねん、ダセぇぞー」
「悪い悪い、思ってたより速かったわ」
こちらの得点なので続けて宗人がサーブを打つ。
「もう1本、頼むよー」
先ほどと同じフォームでサーブを打つが、1球目のジャンプサーブとは違いスピードは遅く、回転がかかっていない状態、所謂ジャンプフローターサーブだ。
これが宗人の1番の武器だ。タダでさえ難易度が高いサーブをほとんど同じフォームからジャンプサーブとジャンプフローターサーブを使い分けることができる。
案の定、相手はレシーブしようとするが無回転の変化で芯に当てることができず手に掠って地面に落としてしまう。
『0-2』
「おいおい、さっきより遅いのに何してんねん」
「すまん、急にボールが変化してん」
「いつまで、油断してるんや?高校生に負けたなんて知れたら恥ずかしいやろ?ましてや、吹奏楽部やぞ?」
背の高い人、東野さんのその言葉に一瞬で雰囲気が変わった。
「悪い、ちょっと油断してたわ…」
「確かに高校生に負けるのは恥ずいわ」
向こうの雰囲気が変わったことに宗人は小さく舌打ちをしていた。
「舐めプしてくれるのはここまでか…」
「せやな」
このままの勢いでいきたかったがどうも上手くはいかないらしい。
そして、3球目、今度もジャンプフローターサーブだ。だが、今度はきっちりと上に上げられた。そして流れるようにセッターの役割であろう人が綺麗にトスを上げ、先ほど一瞬で雰囲気を変えた人、東野さんがスパイクを放とうとする。
「せーの!」
同時に宗人と高坂先輩はネット際でスパイカーの正面にジャンプしてスパイクを止めようとする。だが、それを見切られたのか2人のブロックのないところへと軌道修正した。
元々、うちのチームに攻撃力も防御力も即席なのだから足りていないのは分かりきっている。だからブロックを突破あるいは躱されたときの対策はしていた。
「待ってました」
俺は軌道修正されたところに既に陣取ってそのスパイクをレシーブで綺麗に打ち上げる。
こちらのセッター担当は夏紀先輩だ。
夏紀先輩は俺が打ち上げたボールの真下に入りトスの体勢を取る。そのタイミングに合わせてアタックラインのコートのちょうど真ん中辺りで宗人はスパイクの体勢に入りジャンプする。それを見た相手チームは合わせるようにブロックしようとジャンプするのを確認して俺と宗人は同時にニヤっとする。夏紀先輩のトスは宗人にではなく夏紀先輩の後ろ、右サイドスレスレでジャンプしている俺のところだ。目の前にブロックする壁はなく、そのまま素直に真っ直ぐ相手コートに打ち込み地面に叩きつける。
その瞬間ドワッと歓声が広がった。
俺、完全にドヤ顔である。
『0-3』
これが囮作戦、もといハイキュー!を真似したなんちゃって変人速攻だ。当然俺らのは完全に劣化だがこの場ではこれで十分だろう。
身長的にもパワー的にもパッと見、攻撃役は宗人というのは誰が見ても分かる。そして小さい俺はリベロの役割、攻撃に参加することはないだろうと踏まえてからのこの奇襲攻撃………。誰がチビだ!!
本来、公式のルールではリベロはサーブやスパイクに参加するのは違反になるがこれはあくまで非公式、おおまかなルールはあれど細々としたルールや明確なポジションなどは存在していない。
これで、俺にも警戒をさせて他の人が攻撃しやすいように仕向ける。これで布石は打っておくことはできた。
「おいおい、あのチビさっきまで逆サイドにいたじゃねえか、どんだけ速いんだよ…それにあのジャンプ力なんやねん」
おーーーい、チビチビしつこいぞ!!しまいに泣きますよ?
「ナイススパイク」
俺が相手コートを睨み威嚇していると後ろから夏紀先輩が背中をパンっと叩いてきた。
「あざっす!先輩もトス、ドンピシャでした」
「いや~それほどでもあるよね」
夏紀先輩はニカッと笑う。
お互い持ち場に戻ると同時に宗人がサーブの準備に入る。
そして4球目、ジャンプサーブを放ち、これもサービスエース。
『0-4』
5球目、呆気なく拾われて攻撃権を与えてしまい、初めての失点を許してしまう。
『1-4』
「やっと、1点か」
「ここから、ここから」
向こうもそろそろエンジンがかかってきたようだ。流石決勝戦まで勝ち進んできたチームだ、このまますんなり進むわけがない。
相手サーブ、傘木先輩が綺麗に拾い上げ夏紀先輩がトスの体勢に入るのを見た瞬間俺は宗人とは真逆の位置へと走り出す。
思っていたとおり先ほどの攻撃が効いたのか俺にも1人マークが付き始めた。しかしこれで相手のブロックを1枚剥がせたことになる。夏紀先輩が放ったトスは高坂先輩の元へと飛んでゆく。現在高坂先輩は実質フリーの状態だ、先輩は助走して勢いよく飛び上がりスパイクを放ち地面に叩きつけることに成功する。
『1-5』
このチームは宗人と高坂先輩が主に攻め、俺と傘木先輩が拾い、夏紀先輩が状況把握という役割分担でできている。
だが、これでほぼほぼ相手に手の内を晒してしまったわけだ。ここからが本当の戦いになるだろう。
第十三章 負けられない戦い 完
プール回&バレー回まさかの3章編成になってしまいました。
こんなに長くなってしまうとは思いませんでした...。許してください。
試合後半戦も大体7割くらい完成しているので1週間後には投稿できるはず...です。
話は変わって、宇宙よりも遠い場所全話視聴しました。とても素晴らしい作品でめちゃめちゃ感動してしまいました。間違いなく1クールアニメの王者でした。