響け!全国へ!   作:rockyshocora

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番外編を書いてみました。
番外編は様々な視点からの本編の合間合間のお話になるので読まなくても別段本編に支障をきたすことはないですが読んでいただけると嬉しいです。


番外編 北宇治高校吹奏楽部の記録その1

◆始まりの日

入学式当日

「やばいやばいこのままじゃ遅刻だよ~」

久美子は慌てて家を出て、走って駅に向かい電車に乗る。

なんとか時間には間に合いそう…。ふぅ…と息をつき電車に揺られ北宇治高校を目指す。電車を降り、駅から学校まで再び走る。

4月になりだんだんと暖かくなってきて、ちょっと走るとじんわりと額に汗が伝ってしまう。通学路の桜並木は新入生を祝うかのようにちょうど満開を迎えている。

学校にもうすぐ着くであろうというところで久美子は一瞬立ち止まる。

そこはちょうど1年前、そして1ヶ月前にできた大切な思い出の場所である中庭へと続く階段だ。

1年前、久美子たちの入学式に初めて北宇治高校吹奏楽部の決して上手とは言えない先輩たちの演奏を聴いた場所、久美子にとっての始まりと先輩たちとの出会いの場所だ。

1ヶ月前、先輩たちの卒業式、あすかの新しい門出を見送り、そして大切な想いの篭ったノート「響け!ユーフォニアム」を託された場所だ。

いつのころか斎藤葵が言っていたことを思い出す。

「高校の3年間なんて本当に一瞬の出来事だ」

久美子は改めてその言葉を胸に刻んだ。

まだ1年しか経っていないが間違いなく今まで生きてきた中で1番密度が濃く、あっという間の1年だった。まるで昨日の出来事かのように鮮明に情景を思い浮かべる。

在校生は昨日が始業式で本来今日は入学式のため休みなのだが校門を抜けると部活動に所属している在校生の人たちがそこらじゅうで勧誘活動の準備を行っている姿が見える。

ちなみに吹奏楽部はこれから演奏が控えているため勧誘活動は入学式が終わってからになる。

去年は中庭でのゲリラ演奏を行っていた吹奏楽部だが全国大会に出場という実績を得て今年からは学校側からの頼みで入学式で演奏することとなった。これはかなりの昇進だろう。

昇降口を目指すとそこには既に新入生を迎えるため3年生、各クラスの代表2人ずつがスタンバイしていた。

「久美子じゃん、どうしたの?」

声をかけてきたのは新入生を迎える準備をしていた夏紀だった。

「おはようございます。夏紀先輩、いえちょっと寝坊してしまいまして…」

「はぁ~相変わらずキモ座ってんな、今日から先輩になるんやで?」

呆れたように夏紀が笑う。

「すみません…じゃあ先に行ってるのでまたあとで」

「あ、うちのユーフォはもうチューニング済まして体育館に置いてあるから気にせんでええよ」

「分かりました」

「はいよ~」

手をヒラヒラと振って久美子を見送る。

音楽室に着いたのは7時50分だった。はぁはぁと息を漏らして教室に入る。

「黄前、おはよう、ギリギリやで」

教室に入るなり部長である優子に言われる。

「優子先輩、おはようございます。すみません…」

頭を下げる。

「まあええわ、自分の荷物置いて楽器持ってき、もうすぐしたらミーティングするからその後は体育館行ってチューニングするんやで」

そう、優子に言われ楽器室に自分の楽器を取りに行こうと向かうと麗奈が楽器室から出てきた。

「あ、久美子遅かったやん、寝坊?」

「あ、うん…麗奈と一緒に行かない日に限ってこれだよ…」

「今度から毎朝モーニングコールしよか?愛情たっぷり篭ったの」

意地悪そうな笑みを向けてくる。

「それは勘弁して…」

楽器を棚から取り出しながら麗奈の冗談半分の申し出を断る。

音楽室に戻るとすぐに簡単なミーティングが始まる。

「皆さんおはようございます」

部長の挨拶に部員全員が挨拶する。

「えーと、今日は入学式です。私たち3年生は最上級生、2年生は高校初めての先輩になります、そのことを各自しっかりと自覚するように!」

優子の話し方はキビキビしていてよく通り、聞き取りやすい声をしている

一旦言葉をとぎってコホンと咳払いをひとつして再び口を開く。

「このあと体育館に行って各自チューニングなど準備をしてください。その後は昨日も連絡したようにリハーサルをしながら新入生が入場してくるのを待ちます。入学式が終わったらすぐに楽器を音楽室まで片付けてください。14時からいつもどおり練習を開始しますのでそれまで2年生と3年生二手に分かれて勧誘活動と昼食を交代で行ってください。そして最後に…今日は新入生の皆さんに興味を持ってもらえるように今の私たちの全力を新入生たちにぶつけましょう!では、解散!」

優子の号令に従い部員たちは各自せわしなく動き出した。新体制になって数ヶ月、優子の部長としての振る舞いもかなり板についてきたようだ。

「おはよう、久美子。今日からうちらも先輩やで!わくわくするな~」

「久美子ちゃん、おはよう。今日から緑たち先輩なんやね、どんな部員が入ってきてくれるのかめっちゃ楽しみ!」

葉月と輝緑が久美子のところにやってくる。

「そうだね、たくさん入部してくれるとありがたいんだけど…」

「大丈夫やできっと…なんたって去年全国出場してるもん緑は信じてるよ」

「みんな体育館へ急ご!時間ないで」

麗奈の声に4人は体育館へと足を運んだ。

 

 

◆新生北宇治高校吹奏楽部始動 小日向夢編

 新入生正式入部当日

「はい、注目!」

黒板の前で優子が大きい声を出した。

入部を決めた1年生たちがぎゅうぎゅうになって列を形成させていた。

「皆さん、こんにちは」

「こんにちは」

優子の声に1年生が一斉に挨拶をする。

「うちの吹奏楽部に入部してくれて本当にありがとう!私はめちゃくちゃ嬉しいです!しかも今年は48人も新入部員がいるようでビックリです、大豊作です!」

と言い放ち笑顔を振りまく。そこで1年生の緊張は少し解かれていった。

それから部長、副部長の簡単な紹介を済ませる。

「では、次に楽器の紹介です。初心者の人たちもいると思うのでひとつずつ紹介していきます。その後皆さんにはそれぞれ楽器を決めてもらいます。既に説明は受けていると思いますが楽器には限りがあるので全員が第一希望というわけにはいかないと思いますがご理解ください。じゃあまずトランペットの方よろしく!」

と声をかけると「はい!」という麗奈の返事が返ってくる。

夢は憧れの先輩である麗奈の楽器紹介に真剣な表情で耳を傾けていた。

トランペットを皮切りに様々な楽器が紹介されていき、楽器決めのため一旦解散となる。

夢は真っ先にトランペットのブースにいる麗奈の方へと足を歩めた。

「あれ、夢ちゃん?もしかして小日向夢ちゃんじゃない?」

驚いたことに先に麗奈の方から夢に話しかけてきた。

「え…あ、あの…お久しぶりです高坂先輩!私のこと覚えててくれたんですか?」

驚きのあまり声が上擦ってしまう。

「やっぱり夢ちゃんやった、久しぶり!そりゃ覚えてるよ、トランペット希望?」

「は、はい!」

「多分希望者多くてオーディションになると思うけど夢ちゃんなら大丈夫そうやな」

髪を耳にかけ微笑みかける。

「お!もしかして高坂さんの知り合い?」

「加部先輩、はい、中学の時の後輩の小日向夢ちゃんです」

「よろしく~」

友恵はヒラヒラと笑顔で手を振る。夢は慌てて友恵にお辞儀した。

「高坂さんの後輩やったらぜひトランペット入ってもらいたいな~、もうすぐオーディションするからこっち並んどいてくれる?」

友恵はにこやかに話しかける。

「じゃあ、夢ちゃん頑張ってや」

そう言って麗奈は拳を突き出す。

「はい!」

夢は弱々しくも力強い返事をした。

 

 

◆新生北宇治高校吹奏楽部始動 櫻井宗人編

 新入生正式入部当日

楽器の紹介が終わり、新入生たちがワラワラと自由に動き出す。

「じゃあまたあとでな」

拓海がそう告げるとまっすぐユーフォニアムの久美子の元へと向かっていくのを確認し宗人はトロンボーンブースの秀一の元へ向かう。

「お!来たか宗人」

「うっす、秀一君、高校でもよろしくお願いします」

秀一、久美子とは小学校から付き合いのある幼馴染で、小学校の頃はタメ語で友達のようにずっと話していたが中学校からは部活という先輩後輩関係の環境に入って自然と敬語で話すようになっていた。

「おう!その前に多分オーディションせなあかんけどな」

希望者の列を親指で指差して言う。

「任せてください!余裕っすよ」

「そりゃ頼もしいわ」

「じゃあ、行ってきます」

宗人は敬礼して希望者の列に混ざった。

 

◆チューバの歓迎会

PM6:30 ファミレス

練習のあと葉月の申し出によりチューバでの歓迎会を開くことになった。

しかし残念ながら卓也と梨子には今日は無理だと断られたので今ここにいるのは葉月、さつき、美玲の3人である。

サンフェスの練習中、葉月やさつきに対して怒鳴ってしまった美玲は久美子と奏の説得によりなんとか仲直りするきっかけを与えてもらい無事丸く収まることができた。

「葉月先輩にこうやってプライベートで誘ってもらえるなんて嬉しいです」

「そんなん大袈裟やん、さっちゃん、これからいろんなところ行こよ」

「じ、じゃあ今度はみんなでカラオケとかどうですか?」

「お!さっちゃんナイスアイデアやな」

「やった!夏紀先輩の洋楽とかめっちゃ聴いてみたいです」

「確かに、夏紀先輩の英語の歌詞の発音めっちゃ良かったもんな」

夏紀は普段よく洋楽を聴いているようでその歌唱力と発音は低音パートからは折り紙つきだ。

ワイワイと話している2人を見ながら美玲は少し気まずい空気を出している。いくら仲直り出来たとはいえ、ついさっき先輩にあのような態度を取ってしまったのだから当然だ。

「みっちゃんどうしたん?練習で疲れた?」

「い、いえそんなことないです…ただちょっと、先ほど先輩に失礼なことをしてしまったのに私が呼ばれて良かったんかなって」

美玲は俯いて遠慮がちにポツリと呟く。

「もうその話はナシって言ったやん、それにうちだって悪いところはあったし…うちな、先輩らしいことせなあかんってずっと焦ってたんやと思う。ほら、楽器は2人の方が上手やろ?だから技術的なことは教えられへんから他に何かできないか!ってそれがちょっと空回りしてしまったんかも知れへんな」

クシャっと葉月が少し悲しげな笑顔を作る。

その言葉に美玲とさつきは慌てて返事をする。

「い、いえ悪いのは完全に私でした…変なプライドばっかり先走ってて周りが見えてなかったから…」

「そうですよ、葉月先輩、先輩は悪くないですしうち、先輩のこと大好きですよ」

「そっか…2人ともありがとうな…さて、じゃあ暗い話はやめてパーっと楽しも!せっかくの歓迎会兼親睦会なんやから!食べるもん決めた?」

葉月の言葉に後輩2人がはい!と頷くと店員を呼びメニューを注文した。

「そういや、みっちゃんは南中に通ってたとき優子先輩たちと交流はなかったん?」

「そうですね、吉川部長とは私が1年生の入部したてのときに少しお世話になったくらいでパートも違ったのでそこまで関わりはなかったですけど傘木先輩は部長だったのでそれなりに知っていました。てっきり高校でも傘木先輩が部長だと思ってたんですけど意外でしたね、リーダーシップの取れる方だったので…」

「う~ん、実際部長、副部長は前任の部長たちによる指名、推薦みたいなもんやからな」

傘木希美が一度部活を辞めていたことは話さないでおこうと葉月は判断した。もし、希美が部活を辞めずに続けていたなら部長になっていた可能性もあっただろう。

「なるほど、指名制だったんですか」

美玲は納得して頷く。

そのまま雑談を続けていると店員が料理を運んできた。さつきは意気揚々と机に並べられた料理の写真を撮っている。

「そんなの撮ってどうするの?」

と美玲が尋ねる。

「ん?初めて先輩とみっちゃんとファミレス来た記念に!あとでSNSに上げようと思ってんねん」

エヘヘと笑いながらさつきは答える。

「2人とも冷める前に食べるで」

葉月の言葉に3人同時にいただきます!と合唱した。

 

番外編 北宇治高校吹奏楽部の記録その1 完

 

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