響け!全国へ!   作:rockyshocora

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みなさんあけましておめでとうございます!
年末年始のうちに頑張って執筆しようと思っていたのですが色々と予定入ってしまって結構遅くなってしまいました...すみません。
これからは2週間に1本投稿出来ればいいかなって程度の更新になりますのでご了承ください。

今回は第三章と一応リンクしています。


番外編 北宇治高校吹奏楽部の記録その2

◆北宇治高校吹奏楽部部長吉川優子の1日

 GW初日

朝8時、目が覚める。普段、朝練がある日は5時には起床するが今日は部活が休みなのでこの時間に目覚ましをセットして起き上がる。朝ご飯を食べ、着替えて支度する。今日は部活はないがサンフェスが目前に迫っているので部長として情けないところをみんなに見せない様、自主練をするため、学校へ向かう。

 

 AM9:30

音楽室に近づくとオーボエの音が聴こえてき、優子はため息をつく。今日は休みだと言うのに練習している部員が…いや、姿を確認しなくても分かる、この音は鎧塚みぞれだ。

優子は音楽室の扉を開け、「おはよう」と声を出す。音楽室には演奏していた鎧塚みぞれと今さっき来たであろう高坂麗奈がいた。

「アンタら部活休みやのにこんなところで何してんの?暇なん?」

「優子先輩その言葉そのまま返してもいいですか?」麗奈が呆れたように言葉を返す。

「あかん」ちっ…と舌打ちをしていつもの座席に荷物を置く。

「先輩、今日はサンフェスの練習ですか?」麗奈が優子のジャージ姿を見て質問した。

「もう言うてる間に本番やしな」優子は部長と同時にドラムメジャーも担当している。

「アタシもご一緒しましょうか?演奏が付いてる方が先輩もやりやすいでしょうし」

「私もやる」2人のやりとりを聞いてみぞれが短く口に出す。

「じゃあお願いしよかな」そう言って優子が微笑む。

GWということもあり生徒数は少なく、みぞれのオーボエのことを考慮して練習場所は屋根がついているピロティの近くでやることにした。

3人でピロティに向かい、練習を開始する。

優子は高い位置で髪をひとつに縛り練習の準備をする、この練習をするときはいつもこの形を取っている。

今年のサンフェスで演奏する曲である「アイ・ウォント・ユー・バック」の音色が流れ、音に合わせて投げたバトンは透明な空気を裂くように白いバトンがくるくると回転しながら落下する。練習用のバトンは、ドラムメジャーために用意されたものだった。ドラムメジャーという役職はマーチングバンドの指揮者の呼称で行進の際には先頭を歩きバトンによって隊列に指示を出すものだ。

休憩を挟みつつ12時まで練習を行うと優子が切り出す。

「アンタら昼ご飯はどうすんの?」

「アタシはお弁当持ってきてますけど」

「私も」

「1日中練習するつもりなんかい…」優子は呆れたように呟き、さらに続ける。

「うち、昼で帰るつもりやったからお弁当持ってきてへんけどせっかくやし一緒に食堂でなんか食べるか」

学校の食堂は年末年始とお盆以外基本開いている。

「優子先輩昼から何か予定でもあるんですか?」

「まぁ…ちょっとな」

優子はそのまま食堂に向かい麗奈とみぞれは一旦楽器を置くのと弁当を取りに行くために音楽室へ戻る。

 

 食堂 PM12:00

GWと言えど食堂には部活動している生徒たちがちらほらといた。

優子は席を確保して食堂のおばさんにうどんとコロッケパンを注文する。

優子は遅れてやってきた麗奈とみぞれが食堂に入ってきたのを視界で捉えるとこっちこっちと手を振って呼び寄せる。2人が席に座ると同時に男子生徒が優子に話しかけてきた。

「あれ?吉川、今日って部活あったん?」

「あ~いや、今日は自主練で来てんねん」

「へ~部長も大変やな~」

「それはお互い様やろ」

「そりゃあそうだ…んじゃ行くわ」ヘラヘラと笑い、手を振って去って行く。

その会話を見ていた麗奈が気になり優子に問いかける。

「あの人知り合いなんですか?」

「まあな、中学校から一緒で同じクラスでお互い部長やから」

「そうなんですか…実は優子先輩に気があったりして」

挑発するような笑みを浮かべる。

「ないない、あいつには彼女おるし…それに前から言ってるやろ?うちは当分吹奏楽が恋人やって、今誰かと付き合う気はないよ」

そう言いながら注文したうどんを食べながら答えると、そうですか。と冷めたように麗奈が呟く。

麗奈は優子が異性からモテることは結構前から知っていた。自分のクラスでもたまに優子の話題が耳に入ったり、2ヶ月前の卒業式の時に告白されているところを偶然目撃してしまったこともあった。

隣のみぞれをチラッと覗き見ると興味がないのか黙々と持参した弁当を食べている。そんなことを考えていると優子がニヤっとして聞いてきた。

「人のことよりアンタの方はなんか進展あったん?」

「え?い、いえ…」カッーと顔を赤くする。

麗奈の想い人のことは去年の全国大会の麗奈の大胆な告白以来吹部の1年生以外全員が知っている、ただ1人滝先生本人を除いて…いや、もしかしたら気づいているのかもしれないが立場上気づいていないフリをしているだけかもしれない。

「はぁ~、あんた楽器や演奏のことになるとイケイケやのにこの時だけはヘタレやな」

「ほっといてくださいよ」

「高坂さん誰か好きな人いるの?」

興味を示したのかみぞれが横から会話に入ってくる。

「え!?みぞれ知らんかったん?」

「うん…なんで優子は知ってるの?」

それを聞いて優子は頭を抱えてしまった。全員知っていることだと思っていたのにこんな身近なところに知らない人がいた。

「みぞれはもっと周りを見るべきやな…。あ、ちなみに滝先生のことやで」

「おーーーーーい!優子先輩、しれっとバラさないでくださいよ」

バンっと机を叩き大きな声を出してしまったので周りの生徒から注目を浴びてしまう。

「高坂、近所迷惑やで」

麗奈はフッと我に戻り、一息ついて優子を睨む。

「誰の所為だと思ってるんですか!」

当の優子はにやにやしている。

「高坂さんは滝先生のどこを好きになったの?」

「みぞれ先輩もうその話は終わりにしましょう」

「そう?残念……」

みぞれはあっさりと身を引いた。

「それより優子先輩またコロッケパンですか?」

麗奈は慌てて話題を変えようと視界に入ったコロッケパンをターゲットにした。

「えらい雑な話題の切り替え方やな…別にええやん好きなんやから」

「優子と夏紀が敬遠の仲って言われ始めたきっかけの食べ物だもんね」

「ちょ、みぞれさん!?」

思いもよらぬ方向からの攻撃に優子の声が裏返った。

「それ、なんですか?みぞれ先輩」

「高坂食いつきすぎちゃう?みぞれも教えんでええで、っていうか関係ないで」

「優子先輩はちょっと黙っててください」

「あん?」

すごい形相になっている。

「分かりました…今は引きましょう、今はね」

ふふっと余裕の笑みを浮かべている。みぞれの一言で優子と麗奈の形勢が逆転した。

それからはいつものように優子と麗奈が口論するように舌をまくし立てながら話していた。周りの知らない人が見ると喧嘩しているようにも見えるが吹部の中では日常茶飯事なのでみぞれはたいして気にしていない。

優子は時計を見ると現在13時を既に回っていた。

「そろそろうち、帰るわ」

そう言ってお盆を持って立ち上がる。

「そうですか、お疲れ様です。みぞれ先輩、アタシたちも音楽室戻りましょうか」

みぞれはコクリと頷く。

優子がお盆を返している内に麗奈がみぞれに小さく告げる。

「みぞれ先輩、さっきの敬遠の仲の件、後で聞かせてくださいね」

みぞれは声には出さず首だけを縦に振った。

そして、3人は食堂を後にした。

 

 ファミレス前

時間は17時半前、優子は練習から帰宅して3時間ほど家で過ごし、集合場所であるファミレス前で人を待っていた。スマホをいじっていると、ごめん待った?と声がして、その声の方に顔を上げると加部友恵が走ってやってきた。

昨日、部活が終わった後、友恵に誘われていたのだ。

「おっす!いや、5分ぐらい、とりあえず店の中入ろ」

「せやな」

店内に入り席に着きお互い料理とドリンクバーを注文する。

GWなのか店内はたくさんの人で賑わっていた。

「せっかくの休みやのに呼び出してごめんな~」

「全然ええよ暇やったし」

そう言って優子はドリンクバーで淹れてきたオレンジジュースを一気に飲み干す。

「それやったらよかったわ、ずっと家におったん?」

「いや、昼まで学校でサンフェスの自主練しとった」

「え~!?練習行ってたん?流石やな…敵わんわ」

「まぁ…別に家おってもやることないし……。ほんで音楽室行ったら高坂とみぞれも来ててビックリやったわ」

「まさに練習の鬼やな…」友恵は呆れて苦笑いになっていた。

「あの2人下手したらまだ練習してるかも……」

「違いないな…」

自然と笑いがこみ上げてくる。

「黄前とは上手いこと出来てる?」

「黄前ちゃんよくやってくれてるよ、めっちゃ真面目な子やで、まぁただ人前で話すのはまだ慣れてないかな?まだ1ヶ月しか経ってへんからしゃーないんやけどね」

「そっかそっか」

「優子は黄前ちゃんを次の部長にするつもりなんやろ?」

「うーん、まあな~。そのために教育係に指名したもんやし、あくまでも候補扱いやけど」

「黄前相談所なんてもんも勝手に作ったぐらいやしな」

「あの子、そういうの得意やからな」

そう言って優子は飲み物のおかわりに行こうと立ち上がり友恵の空になったグラスを見て言う。

「飲み物淹れてくるけど何がいい?」

「あ、じゃあメロンソーダ!」

「はいよ~」

「お願いしまーす」

優子は2つのグラスを持って歩き出す。飲み物を淹れながら優子は考えていた。

昨日からずっと引っかかっていることがあったのだ。普段プライベートだと夏紀も呼ぶことがほとんどなのに何故今回呼んでいないのかが気になっていた。

たまたまなのかそれとも何か理由があるのか……。

優子はひとつため息をついて席に戻る。

「なぁ、友恵、うちの考えすぎやったら悪いんやけど、もしかしてなんか相談とかあったりする?」

そう優子が問うと友恵は一瞬顔を強張らせて観念したようにへにゃりと力無く笑った。

「バレてたか~言おう言おう思っててんけどなかなか言い出せんくてな…」

「それで…どしたん?まぁ…無理には聞かへんけど」

「ううん、話すよ…今話さないとタイミング逃しちゃう気がするし」

友恵はふぅ…と大きく深呼吸して言葉を放つ。普段の友恵とは違うことを思わせる態度に優子も真剣な面持ちで構える。

「正確には相談じゃなくて報告って感じなんやけどな…うち、トランペット奏者を辞めることにした」

「……………え?」

想像以上の言葉に優子は絶句してしまった。

わずかな沈黙のあと優子は恐る恐る声に出す。

「な、なんで?今になってそんなこと…やっと、うちらの代やってのに!次はA入ってコンクール出るって夏紀と一緒に張り切ってたやん」

それを聞いて友恵はバツが悪そうな顔をする。

「うん…実はちょっと前からここに違和感を覚えててな…」

そう言いながら自分の左頬の部分をさすった。

「ほっぺた…?」

「そう、それで病院で診てもらったら顎関節症って言われてまぁ見事にドクターストップ」

顎関節症、詳しい症状はよくわからないが名前ぐらいは聞いたことがある。

「そんな…なんとかならへんの?」

優子の縋るようなその言葉に友恵は黙って首を横に振る。

「一昨日、先生に相談したときもな、パーカスに転向してオーディションに挑むことも出来ますよ?って提案されたけどそれも断った。そんなたった1ヶ月ちょっと練習してAに入れるなんて思わんしそれに今まで頑張って練習してたパーカスのみんなにも悪いやろ?だからうちは奏者を辞める。うちは自分がAに入ってコンクールで演奏するよりも北宇治が全国で金賞取るとこの方が見たいねん、今の吹部が大好きやから…!だからうちはみんなを影から支える役になろうと思ってマネージャーにさせてください!って先生に頼んだの」

それを聞いて優子は何か言おうとしたが実際出てきた言葉は短いものだった。

「そっか…」

「うん…」

「友恵がそれで後悔しないって自分で決めたならうちはもう止めへんよ」

「全く後悔…しないって言うと嘘になるかもしれへんけどそれでも自分で選んだ道やから」

友恵がにこりと笑うのを見て優子も口が綻ぶ。

ちょうど会話が一区切りするとタイミングよく料理がやってきた。

優子が注文した目玉焼き乗せハンバーグを見て友恵が思い出したように聞いた。

「そういや、この前梨子ちゃんから聞いたで?優子と夏紀、目玉焼きに何かけるかっていうしょうもないことで喧嘩してたんやろ?」

「しょうもなくないやろ~夏紀がマスタードとか訳わからんこと言うから!」

「いや、優子も大概やと思うけどなぁ~ソースって…」

「え~王道やん!なんでこの美味しさが分からへんかな~?この前高坂にも馬鹿にされたんやで『舌バグってるんちゃいます?』って」

「うわ~高坂ちゃん直球やな」

それからはご飯を食べながら他愛もない女子高生同士の会話を繰り広げていると友恵が入店してきた団体を指差す。

「ねえねえ、あれウチの男子部員たちちゃう?」

優子は友恵が指さした方向に向き直る。

「げっ…そういや梨子が言ってたな、今日は男子会するって」

「あぁ~毎年恒例の」

男子たちは優子たちとは割と近い場所に案内され席に座る。まだ誰もこちらには気づいていないらしい。

まもなくして優子と友恵が帰ろうと席を立とうとしたところで少し離れたところから滝野純一の聞き捨てならない声が聞こえてきた。

「吉川なんて女子高生の皮被った鬼やぞ鬼!」

「ちょっとうち、あっちに顔出すわ」

顔は笑っていたが目は笑っていない。

「あーあ、滝野君もタイミング悪いな~もうあと1分遅かったら聞かれてなかったのに」

友恵は誰にも聞こえない程度の声で呟き優子について行く。

2人が男子たちの席に顔を出した。純一以外の人たちは優子と友恵の存在に気づいた。

「へ~誰が鬼やって?」

「だから吉川だよ吉川!どうしたんだよみんな俯いて…あっ」

「ごきげんよう、男子諸君!仲良くて何よりやなぁ?」

「どうも~」

友恵が優子の後ろからひょっこり顔を出す。

「あ、あの~い、いつからそこに…」

純一の顔は真っ青になっていた。

「あ?アンタらが店来た時からや、別にいちいち顔出すつもりなかったんやけど、どっかの誰かさんがうちの悪口言うてるのが聞こえてきたから、つい」

「今から謝ったら間に合いますか…?」

「う~ん、残念、今決めた!アンタを今後一生いびり散らかしたるってな」

「ご愁傷様」

卓也が小さい声で哀れんでいた。

「まぁええわ、滝野ちょっと顔貸し」

「え?何?俺いじめられんの?」

「ええから」

「はい…」

「悪いけど10分、20分借りるわ」

優子は男子たちにそう言ってレジで会計をし、3人でファミレスの外へ出た。

ファミレスの前で友恵が奏者を辞める理由とそのあとのことなど事情を15分ほど3人で話していた。

「わざわざ時間取らせてごめんな」

「いや、わざわざ教えてくれてありがとうな」

「じゃ、うちらは帰るから、おつかれ!」

「おつかれさん」

そう言って3人が手を振り、純一は店の中へと入っていった。

「ごめんな友恵、つい勢いでアイツに話してしまって」

「ええよ、別に…滝野君もなんだかんだ付き合い長いんやし、どっちみちサンフェス終わったらみんなに言わなあかんしな」

「でも、アイツ他の男子にベラベラ喋らへんかな?」

「流石に大丈夫やろ?」

「分からへんで?もし広めてたら鉄拳制裁やな」

「そのときはうちも手伝うわ」

こうして2人は話しながら歩いて帰路についた。

優子のGW初日はこうして幕を閉じたのだった。

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