波濤の彼方~炎の中の戦闘録~   作:ヨシ ヒロ

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6 骨董品軍団

 艦娘がその典型であるように、深海棲艦に有効な打撃を与えられる兵器は、第二次世界大戦当時のものに限られている。

 そしてそれは陸の上でも同じ話であった。

 現在、各国の陸軍は深海棲艦に対抗するためにわざわざ第二次世界大戦時の旧式の兵器を生産、装備し、新しいタイプの部隊を創設していた。

 それは、『骨董品軍団』とも揶揄される、ちぐはぐで、奇妙な軍隊であった。

 

 

「まずそうだねぇ、拳銃くらいは持って行った方がいい。」

「はぁ。」

 

 高橋のアドバイスに鶴岡が頷きながら返した。

 

「そうそう、君が拳銃で応戦しなくちゃいけないような事態になった時には、きっとその辺に持ち主のいない小銃がたくさん転がってるだろうから、まぁ当座をしのげるくらいの武装は持って行った方がいいってこと。」

「はぁ・・・しかし、それってどのような・・・」

 

 鶴岡がそこまで言いかけると、吉野と高橋が顔を見合わせた。

 

「あるんだな、それが。」

 

 吉野が言ったのと同じくして、彼の背後から足柄の「ツモ!」という声が響いた。吉野はこれに、「そのままやってていいよ」と返した。

 

「いいかい、鶴岡君。」

 

 吉野は改めて鶴岡を見ながら前のめりになって話した。

 

「これは本物の戦争だ。ゲームでも机上演習でもない。相手は本気で殺しにかかってくる。君と君の艦娘達を。」

 

 鶴岡はただただ目を逸らせずに黙って聞いていた。いよいよ自分も後戻りできない所にまで来てしまったのか、と心中で静かに反芻した。

 

「まかり間違えば、君の”クビ”が派手に飛ぶことになる。お仕事のクビかもしれないし、本物のクビかもしれない。・・・実際僕も飛びかけた。」

「どちらのです?」

「それはもちろん・・・リアルな方だよ。」

「リアルの・・・」

 

鶴岡は生唾を飲んだ。それを見た吉野と高橋は、頬を緩め何とも言えない表情で笑った。

 

「思い出したくもないよ。フィリピンでそれはもう酷い目にあった。」

「酷い目・・・?」

「あぁ、だけどまぁこれは追々ってことで・・・ところで、銃の扱い方は、分かるよね?」

「ええ、たぶん。」

「ほーん・・・ちょっとエアで小銃構えてみ?」

 

 鶴岡は言われるままに見えない小銃を構えた。小銃なんてもう何年も持ってすらいなかった。

 するとたちまち吉野と高橋の指導が入った。「指を引き金にかけるな」、「脇を締めろ」やらと次々と注文が入った。

 

「あーあ、鶴岡くんいじめられてかわいそー。」

 

 見ていた鈴谷が茶々を入れた。

 すると吉野は茶々を入れた鈴谷の方を向き、指を指した。

 

「ほら見ろ、そこに敵がいるぞ!!小銃を持った敵陸戦部隊だ!さあどうする?」

「え、う、撃ちます。」

「どうやって?」

「こう・・・引き金を引いて。」

「じゃあやってみな、バーン!って。」

「バ、バーン・・・」

 

 鶴岡は見えない銃の引き金を引いた。

 すると吉野は鈴谷へと視線を向けた。

 

「う・・・や、ヤラレター。」

 

 視線があった鈴谷は戸惑いながらも倒れる敵を演じきった。

 

「・・・これで終わり?」

「は、はい。」

「うーん、ダメダメ!いいか・・・」

 

 吉野は鶴岡にダメ出しをすると、自らも見えない小銃を構えた。

 

「奴らはそんなもんじゃ倒れない。死に物狂いで襲い掛かってくるぞ。まずは胸に2発。それでも向かって来たら頭に1発撃ちこむ。いい?胸に2発と頭に1発だ。」

 

 そう言うと、吉野は「バンバーン」と高橋に向かって見えない引き金を引いた。

 

「こうやるんだ。バンバーンって。」

「はぁ・・・」

「よし、ほら鈴谷立って。見ろ!敵が来たぞ!どうする?」

「バ、バンバーン・・・」

「ねぇ、僕の部下を的にするのやめてくれない?」

 

 高橋が苦言を呈した。周りを見ると何人かの艦娘達がクスクスと笑っていた。傍から見ればかなり奇妙な寸劇が突然始まったのだから、無理もない。

 

「いいかい、バカバカしい練習だと思うだろうけどね、ベトナム戦争の時にはサイゴンのアメリカ大使館が前線になったこともあるんだよ?68年のテト攻勢の時のことだけどね・・・」

 

 と、この後も延々と吉野中佐の講義が続いた。途中で数え切れないほど話を脱線させながら、海軍士官には到底必要がないであろう雑学や知識を教えられたのだった。

 

 

 この後、鶴岡は秘書艦の由良と一緒にある一室に来た。厳重なロックを解除してその部屋の扉を開けると、まず油の臭いが鼻をついた。

 部屋の中には窓もないようで、月明かりも一切入らず真っ暗だ。

 由良が灯りを付けると、その部屋は正体を現した。それはとても物々しく、鶴岡にはこの一室だけやたら空気が重く感じられた。

 

「ここが銃器室です。司令の”もの”も、もうあると思いますが・・・。」

 

 鶴岡は、拳銃がずらっと並べられた棚の中に、自分の認識番号のラベルが貼られた所を見つけた。そこに置いてあるものが、彼の拳銃であった。

 鶴岡はそっと自分の拳銃を手に取った。こうして手に取って持つのは久しぶりのことだ。彼が手に取ったFNハイパワーは妙に重く感じた。

 

 FNハイパワーは戦前に設計された拳銃だ。「ハイパワー」と名付けられているが、これは弾の威力が特別強力な訳ではない。弾丸は拳銃弾としては標準的な威力である9mmパラベラム弾を利用しているが、この銃はその装弾数の多さが一番の売りなのだ。

 その数13発。自動拳銃は8発前後が標準的な装弾数であった時代においては破格の数字であるといっても良いだろう。

 おまけにその設計はとてもシンプルで合理的だ。これは部品点数が少ないという事を意味し、同時にそれは生産性が良いという事を意味し、そして何よりも戦場でとても頼れるやつだということを意味している。

 シンプルで余裕のある設計は汚れに強く、過酷な戦場でも確実に働いてくれる。前線での分解整備にも適しており、ユーザー・・・つまり軍人たちからの評判は上々だ。

 このように手堅い設計にまとまって性能の良いFNハイパワーは、深海棲艦との戦争が始まり、大戦中及び大戦前に設計された兵器が相手に有効だということが判明すると、たちまち世界中でバカ売れ状態となった。

 もちろん一番の売り先は軍隊・・・のはずであった。しかしFN社によれば、諸国からのライセンス生産契約金に勝るとも劣らない大きな収益となったのは、アメリカの民間市場での売り上げであったという。

 

 

 翌日の射撃訓練場には、陸軍の兵士たちに混じって鶴岡と由良と鬼怒の姿があった。この3人だけが海軍規格の青い迷彩服を着ていた為、緑色の迷彩服に身を固めた陸軍の兵士の中ではやたら目立っていた。

 

 国防軍内では、艦娘の中でも軽巡以上の艦娘には拳銃の射撃技能が義務付けられている。海上ではまず使う機会は無いが、陸上での待機中や、大破して陸上に漂着した際に発生する自衛戦闘において必要という名目で、義務付けられているのだ。

 一応陸上でも艤装を使っての砲撃戦はできるが、本格的な陸戦の中では不向きといっていいだろう。もし混戦の中で艦砲を撃てば、発射の瞬間に猛烈な爆風と轟音が周囲を包み込み、周辺の兵士は敵の弾に当たる前に戦闘不能になるだろう。おまけに射手の位置が一瞬にして敵に露見し、集中砲火を食らうことにもなる。

 こういう訳もあって、人類の敵である深海棲艦も、銃火器で武装した陸戦部隊を用意しているのだと考えられている。

 

 射撃訓練中の兵達の視線は、紅一点ならぬ紅二点状態の由良と鬼怒に集中した。当然のことだろう。彼女達の隣近所の者は、つい的から横に視線をずらしてしまい、それに気付いた上官にどやされた。中には由良達に視線を送ったまま射撃を続け、的に命中させる強者もいた。

 

「どお、司令?お調子いかが?」

「うーん、まずまずってところかな。」

「まずまず?あれで?」

 

 鬼怒の言葉に、鶴岡は「うっ」となった。彼女の言葉通り、彼の的に穿たれた穴は、見事なまでに的全体にばらけて分布していた。的の外にそれた弾も少なくない。

 

 しかしこれも無理はない。拳銃という武器は、案外扱いにくいものなのだ。ライフルや機関銃、短機関銃などは、基本的に右手、左手、肩を使い、グリップ、銃の本体、銃床の3点を固定して撃つ。

 しかし一方で拳銃は、片手か両手でグリップの1点のみを固定して撃たなければならないのだ。

 だから拳銃というものは、軍隊においてはよほど切羽詰まった状況にならない限り使わないものとされている。陸軍でも拳銃の射撃訓練をする機会はあまりないだろう。

 結局、鶴岡は空薬莢でバケツがいっぱいになるまで撃ちまくったが、的の風穴はまるで酔っ払いが安物の粗悪品(サタデーナイトスペシャル)で乱射した跡のような有り様であった。

 

 

 4月22日

 

 駆逐艦吹雪は遠征から帰投している途中であった。普段ならこのような任務は第3艦隊の駆逐艦の娘達が行っている仕事であるが、今日は彼女達は別の重要な任務を遂行中のため、吹雪たちが燃料と弾薬の輸送遠征を行っていたのだった。

 泊地を目前にした吹雪は、偶然マナドへ向かって出発した部隊に鉢合わせた。陸軍第5師団の兵員や、第3艦隊の指揮官らを乗せた輸送艦を艦娘達が取り囲んで護衛していた。

 護衛の艦娘達と軽く挨拶を交わす。お互いに任務中であるから本当に一瞬の挨拶である。

 そして吹雪は輸送艦の甲板の上に、着任初日に出会った将校の姿を認めた。どこか遠くを見つめているような顔からは、隠しきれない不安と恐怖がにじみ出ていた。

 

 結局陸軍の輸送に関しては輸送艦の頭数が揃えられなかったため、2回に分けて第5師団を輸送することとなった。このため、船団護衛の担当の第71海上護衛隊は弾薬の輸送も含めれば、幾度もマナドとパラオの間を往復することとなる。

 

 

第一次輸送隊

▪第71海上護衛隊 北條功大佐

 軽空母「大鷹」(旗艦)

 軽巡「天龍」「龍田」(第38水雷戦隊より分遣)

 駆逐艦「神風」「朝風」「春風」「松風」「旗風」(第38水雷戦隊より分遣)

 海防艦「占守」「国後」「択捉」「松輪」「佐渡」「対馬」

▪第5師団先遣支隊(9000人) 堤剛智中将

・第5歩兵連隊

・第5野砲兵連隊

・第5戦車大隊

・第5高射砲大隊

・第5工兵大隊

・第5通信隊

・第5偵察隊

 

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