女神転生外典:ペルソナ   作:ユージ ラム

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冷静になり、初めて雨が止んでいたことに気づいた。



設定解説
<吉祥町>〔名詞〕
日本にある地方都市。人口の減少に悩まされているとか、地方進出してきた大型デパートに商店街が苦しめられていると言ったことのない、非常におおらかな町。若者は少なくなってきているが、移住してくる人も多くはないが居ないことはなく、なんだかんだと回っている。町の西側に大きな神宮寺である「吉祥天神社」が有り、そこから反対側の町の東端「在天川」まで神輿が練り歩く、「吉祥祭」が例大祭として催されている。

<吉祥天神社>〔名詞〕
吉祥町にある神宮寺。大国主を主祭とし、宇佐八幡、稲荷神社、大黒天、吉祥天、大自在天を祀る。

<在天川>〔名詞〕
三千世界に通ずると言われる川。吉祥町の東端に位置し、吉祥天神社から大通りが伸びている。
この川の向こう岸に大国主が現れ、吉祥天神社の境内にある磐座(いわくら)で旅の疲れを癒やしたとも、この川の底から大自在天が光り輝きながら現れ、吉祥天神社の磐座で人々に教えを一度整理させたとも言われる。
ともかく、この川は此の世ではないどこかに通ずると言われ、老人たちはこの川を敬い、また、町の人々にも親しまれている。

<市立在天高等学校>〔名詞〕
黒田悠治の通う高校(現在休学中)。「生徒の自主性を伸ばす」という名目で、ほぼ放任されている。教師が生徒の事情に積極的に首をつこむことはなく、また、生徒間の問題を感知することも殆ど無い。


It is the very moment.

 いつの間にか、窓の外が白んでいた。結局、あの後一睡もできずに、手の中にある携帯を見つめ続けていたようだ。正直、身体が凝り固まって、いつもの倍以上は痛い。

 結局、あの着信は何だったのか。正体を確かめようにも着信履歴がないのだから、判断しようがない。

 「学校に行ってれば話題にできたのかな」

 ポツリとつぶやく。つぶやいて、耳に届いて、脳に届く。そうしてようやく自分がなんと恐ろしいことを言ったのか理解する。あんな恐ろしいところに行くなんて、常識では考えられない。身震いが始まり、歯の根が合わなくなる。トラウマが再起されるが、その大半は黒く塗りつぶされて、はっきりと見えない。ただ漠然と、「恐ろしい」。ただただ恐怖の正体が恐ろしくて、知りたいとも思われない。

 「…寝よう」

 恐ろしいことは、忘れてしまったほうが、きっと良い。

 

 

 「…んあ」

 居間の音で目が覚めた。

 窓の外はすっかり暗くなっており、一日寝てしまったようだ。あの着信と、その後のトラウマ。そうとうな披露が溜まっていたようだ。

 眠い目をこすってあくびをすると、身体が伸びを要求してくる。そうして欲求に従うと、詰まっていた耳が音を拾い始める。不思議なことに、今日は居間の音がよく聞こえる。母親と兄が話している。その中に聞き慣れた単語を聞き取った。

 学級委員長の佐倉さん。

 俺が学校に行くのが嫌になっていた時に色々よくしてくれた人だ。愛想のある人で、決して不純な動機からではなく、善意、心配、学校への恐れの解消、こんな俺のために、自分もいじめの対象のようになりながらも、なんとか俺を繋ぎとめようとしてくれた。

 一瞬でフラッシュバックする学校の記憶。

 

 市立在天高校。

 吉祥町にある唯一の高校で、特に大きな野望などがなければ、この地域の中学生は、みんなここに進学する。進学校でもなければ、目立った特色もない。そもそも一地方都市の高校なので、ここ最近は入学者数が減っていることが問題だろうか。そんな高校である。

 そして、そんな高校であるから、ご多分にもれず、出る杭は教師にではなく生徒に打たれる。生来の上がり症で、入学直後の自己紹介で笑いものにされるという屈辱を味わった後、「いじられキャラ」として俺の立ち位置が確立することは想像に難しくなかった。だからこそ、反発してしまったらいじめられることも目に見えていた。

 「俺が何したっていうんだ。自己紹介でとちっただけだろ」

 目に見えていたが、我慢ならなかったのだ。

 「は?なにイキっちゃってんのこの人は。俺らはただお前がいづれえだろうな―と思って優しく接してやってんの」

 

 それから後は思い出せない。いや、その少し前からだろうか。段々と黒く塗りつぶされていって、雑音が絡んできて、何も思い出せなくなる。とにかく嫌な記憶だったということは、背中がぐっしょりと濡れていることでわかる。

 そんなものだろう。居間の話で思い出せるのはそれくらいだった。

 お腹がぐぅ、と声を漏らした。

 

 

 雨の音に目が覚めた。

 ここ最近は、五月らしい陽気が続いていたというのに、またこの大雨。昨今話題の異常気象とやらの影響だろうか。

 「…去年の今頃はこんなだったかな」

 意味のない独り言をつぶやく。時間を気にすることも忘れ、窓の外の景色を眺めることにふけっていた。

 

 

 お昼ごはん時に、居間に残された新聞をちらっと見た。本当に偶然があるもので、ちょうど、行方不明の記事が載っていた。

 『女子生徒 行方不明 きのう夜から』

 あまり気持ちの良い文面では無かったが、どうしても気になってしまい、読んでみると、どうやら一昨日の夜からうちの高校の生徒が行方不明になっているという。多分、昨日の夜に母親たちが話していたのはこの事だったのだろう。つまり、いなくなったのは我がクラスの(去年の話だが)委員長、佐倉はな。彼女がいなくなったのだ。一昨日の夜、携帯に不思議な着信があった時。

 彼女が助けを求めて俺に電話をかけてきたのだろうか。いや、彼女は知らないはずだ。というか、なぜ着信履歴が残らないのか。色々な疑問が浮かんできて、居間に突っ立ってしまった。

 「…なにやってんの」

 突然掛けられた声に驚いて見ると、兄が居た。混乱と申し訳無さと恥ずかしさでよくわからなくなり、自室に駆け込む。訝しむ兄の目が痛かった。

 

 

 夕食の為に台所へ降りる。ヤカンを火にかけ、即席ラーメンを用意する。お湯が湧くまで携帯でネットサーフィンをしていると、突然電話がかかってきた。突然のことに息がつまり、額と背中と手のひらに嫌な汗が滲み始める。赤いボタンに指を伸ばす瞬間、昼間の新聞記事がよぎった。

 『また繰り返すのか』

 あの時の兄にそう言われた気がして、振り返る。もちろん居るはずがない。しかし、急かすように鳴り続ける携帯があることは確かな現実だ。手の中で震えて今にも滑り落ちそうだ。

 『今が正にその時だぞ』

 誰かの言葉に後押しされるように、電話に出る。

 

――助けて、誰か。誰でも良い、誰か。

 

 その声に、頭が真っ白になった。




すいません、この後の展開がちょっとつまらない感じにしかかけないので投稿は遅くなります。(2017.11.19)

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