閣螳螂は娯楽を求める 作:白月
人間&動物&機械
多分、王道ファンタジー
私が歩く。
斜め後ろからアンドロイドがついてくる。
私が立ち止まると、彼女も立ち止まる。
再び歩くと同じ速度でついてくる。
とても違和感が強い。
気を許してないが故に起こっているのだろうが、一から組み立てたり、糸で操作してる訳では無いのだからしょうがない。
「敵影補足。対象ラージャン。排除しますか?」
「攻撃してきても回避だけにしろ。この塔のモンスターは攻撃するな。」
「了解しました。」
プログラムであるのは理解している……が、どうにも戦闘狂に見える。
っと、ここだ。ウイルスで筒抜けだが、同時に奴らも気づいた様だ。
指し示して命令する。
「この一帯のスライムを殲滅しろ。」
「了解しました。」
ジェンシーの腕が変形し、細く長い鉄が伸びる。
重々しい音とは反対に、直ぐ地面と並行に構える。
「殲滅を開始します。」
その間に暗闇から若干の煙を上げながら緑色の物体がズルズルと近づいてくる。
カチリという音が微かに聞こえ、その後青い炎が放たれた。
……スライムはこんなに燃えるのか。知らなかった。
蠢きながら燃えている様子は新鮮だ。
見える範囲のスライムは黒く粘つく物体となった。
ジェンシーは索敵の為に飛びさろうとしている。
「撃ち方やめ。」
「了解しました。状況判断、修復を開始します。」
出し続けていた小さな炎が消える。
そしてジェンシーは使った兵器に少しの間だけ青い光を纏った。
「それはなんだ?」
「私の火炎放射器の寿命は3000秒です。また、ナパーム弾に切り替えた際は800発となります。万全を期す為に常に戦闘後は龍脈を使い修復を行います。」
「そうか。」
「今上げた二つの兵装の詳細を聞かれますか?」
正直どのようか説明がされるか分からない。
時間の無駄かもしれないが……
「……あぁ、よろしく。」
「了解しました。」
青い光が消え、ガチャリという音と共に火炎放射器が振り上げられた際に内側から見た時、鏡の様に光を反射する鉄の塊はジェンシーの腕から生えて手首に固定されているのが分かった。
「貯蓄部は縦30、横15、銃部は縦30、横が最大10となっています。
大きく二種の放出方法があり、『集中放射』その中でも粘性液体酸素を含む3000度の青い炎を放つ『焼却放射』が一番威力が高くなっています。
威力を保持した状態での有効射程は60m。最大射程距離は500mです。焼却放射は最も損傷が激しく、継続して使えば3000秒しか持ちません。
次に――」
「他のスライムが居る所が分かるから歩きながら喋ってくれるか?」
「了解しました。」
共に歩きだす。
飛んだ方が速いのは明白だが、喋っている間に目的地に到着しても面倒だ。
「次に『拡散放射』ですが――」
再び振り上げられ、ノズルが五つに分かれた。
微かに青い粉の様な光が舞う。
「20°ずつの間隔で5本、計100°の面での制圧を行います。先程の焼却放射の場合30秒しか持たず、『火炎放射』の運用が主となります。
1500度の炎を放ち、有効射程は120m。最大射程は400mとなってます。損傷は少ないですが、必要量が多く600秒ごとに20秒の貯蓄時間を必要とし、合計80回、48000秒の放出が可能です。」
なるほど、応用はあるが基本的な運用の形を紹介した所か。
だとしたら命令は一つ。
「拡散であのスライム共を殺せ。」
「了解しました。」
暗がりの向こうに見える半固体状の怪物。
そいつらの殺傷命令を出すだけだ。
橙色の光を羽から出してスライムに飛んで近づき、火炎放射器をスライムに向ける。
五つの炎が上から下になぎ払われ、火の海と化した。
ドロドロのスライムの中から全く燃えてないスライムが飛び上がる。
ジェンシーは放出を止めた火炎放射器で突進を弾き、いつの間にかもう一つの腕に装着していた機関銃を向けて放つ。
爆音がとても細かく鳴り続け、スライムは空中で粉々になった。
落下した薬莢が青い光に包まれ、消える。
「サーチ中……掃討完了を確認。索敵体勢に移行。」
「だが……」
その時点での掃討を確認した。
次の瞬間に新たなポータルが現れる。
縦長で、水色の渦巻きのソレ。
奥からは甲冑の様な音。
「戦闘体勢に移行。音から敵兵装を予測し、換装します。」
火炎放射器の銃部が収納され、しばらく唸った後に新たな銃が出てくる。
私も元の姿に戻り、天井に飛んで留まる。
「よし、侵入出来たな。」
いつも通り奇妙な色をした装備を纏った人間が出てくる。
中には杖を持ってる女もいた。
「警告。当該範囲に入る権限をあなた方は持っていません。」
ジェンシーが侵入者に警告を発しながら近づく。
不思議そうな顔をして人間はジェンシーを見る。
「ほら、この許可証を感知出来ないのか?」
「こちら側への事前のコンタクトが無い為、去らない場合は侵入者として扱います。」
ジェンシーの態度が段々強くなる。
その雰囲気を人間は感じ取った様だ。
「あらら、反逆かしら……」
「分かった、今、連絡とるから待ってくれ。」
人間はジェンシーに警戒しながら何かを取り出し、会話を始めた。
訝しげにジェンシーを見て頷き、ソレをしまう。
そして――
「炎の――」
攻撃しようと口を開いた女が粉々になって飛び散る。
ジェンシーは微かに青い煙をあげる機関銃の照準を次の人間に合わせた。
「あなた方を侵入者とします。最終勧告。現時点を持って侵入者の殺害を開始します。」
「アデ――」
「破か――」
真っ先に呪文を唱えようとした人間が骨ごと砕かれ、赤い雨となる。
逃げようと踵を返した人間もまずは脳、次に体、と粉々になる。
「プロテクト!」
「……」
何も言わずに、何の感情も抱かずに、ジェンシーは換装した兵器の照準を合わせる。
光が収束する。
「リフレクト!」
更に防壁が張られた。
同時に兵器から青い光が放たれる。
キィィィィン!
豆腐に爪楊枝を刺す様に、光は防壁も人も貫いた。
残り一人、その人間は目に見えて装備や体を硬化してジェンシーに突撃する。
「敵勢力の排除を確認。索敵体勢に移行します。」
人間の体は破片となり、飛び散った。
煙をあげる機関銃とレーザー銃に青い光を纏わせ始め、空を飛ぶ。
「みんな大丈夫か!?」
「警告。事前の――」
ジェンシーはポータルから出てきた人間に再び警告を始める。
待つ時間が面倒くさい、だから私が撃龍槍で潰す。
ポータルは閉じた。
「状況判断、アトラル様、20秒間の修復時間を頂きたいと思います。」
「キィ(賛同)」
「ありがとうございます。」
モンスターの鳴き声。それを判別するとはどのような仕組みなのだろうか。糸を出しながら疑問に思った。
私の場合、ほぼ創作の様な言語もあるが通用するのだろうか……
人間の姿に変わり、撃龍槍についた血をを糸で拭きながらしばらく待つ。
「修復完了。自己修復不可能損傷無し。」
報告と共にレーザー銃が火炎放射器に変わる。
「ジェンシー、後は私についてくるだけでいい。」
「了解しました。」
今日の残りの怪物は水銀で潰し回った。
時折ジェンシーが機関銃で撃ち殺し、青い光を纏って修復する。
―――パネルを出して確認する。
緊急性のある場所は無い、今日の見回りでの討ち残しは無い。
上出来だ、王女の所に戻ろう。
焦げ臭さを感じながら王女の家に近づくと、そこに王女は居なかった。
臭いのする方向へ向かう。
王女は息を切らして倒れていた。
正面には左腕の取れた案山子が立っており、燃えている。
「……何をやってんだ?」
「……魔法じゃよ、魔法。近接格闘しながらの魔法じゃ。」
「そうか。」
「王女様。魔法使用の基礎講習データがありますが受講されますか?」
「お?アトラル、しばらく借りてもいいかのう?」
「構わない。」
「了解しました。私の肩をお使い下さい。」
ジェンシーは王女をほとんど担ぎ上げるように支え、案山子を担いで何処かに歩いていった。
……私はいつも通りネセトを磨こう。
ジェンシーの普段の扱い方を考えなければ。
――最終勧告。排除を開始する。
ジェンシーの武装について
「――警告。既に射程内。」
機関銃 秒間10~800発から選べ、60発辺りから再装填の時間が発生。800発の場合は10秒撃ち、25秒のリロードが必要となる。
「――通告。抵抗は無意味。」
レーザーガン 対策無しの80cmの金属を一瞬で突き通す。400秒撃った後、20秒のチャージが必要で、撃つ前に溜める動作が必要。
「――報告。殲滅を開始しました。」
火炎放射器 アトラルの聞いた通り。ただし、地球製以上に弾速が速いため見てから避けるのは困難。
「――強制通信。退避せよ。」
核榴弾 手榴弾の様な大きさだが、爆発半径は200m、衝撃波は3000mまで脅威となる。五発ずつ連射可能、リロードは5秒、二十五発の再構成は90分。普通の爆弾はレーザーで間に合っている為に無い。
「――条件等の制約は、基礎を除いて感情によって生じる無自覚な思い込みである。」
演算魔法 銃部が8つに開き、必要な色に光る。自分は時間対効果を考慮した呪文を唱える。ただし、魔法より魔力そのものをぶっぱなす雑な行動をしやすい。