閣螳螂は娯楽を求める   作:白月

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「……ふっ、やはりか。」
「ん?…ボフッ!?」
「おい、驚いたからと言って菓子パン吹き出すんじゃねぇ。」
「ん、ん、グググ!」
「ほら水だ。」
「――ふぅ、なんか光の柱が見えましたね……」
「依頼されてもアイツの相手はしたくないな。」
「よほどの事が無い限り白統虫の討伐依頼なんて出ないですよー。」
「……フラグか?」
「もし出たならドンドルマの滅亡を意味しますね。」


宝を腐らせない

体の節々が痛む。やはり依存の様になるが笛は必需品だな。自分の居場所に戻るまできっと闘争に生きるだろうから短期間で怪我を治すには絶対必要だ。

……ランゴスタが三匹に増えている。この闘技場は管理がずさん……

と言いたいが、明らかに故意だからクイーンランゴスタが指令してると考えた方がいいか。

しかし、指令するという事は外からつけていたのか?それとも連絡手段を持っているのか。……面白い。女王は私を監視しようという思慮がある。またそれを理解する下僕。全体的に賢いな。そして昔の――

 

 

「おいアトラルぅ?そろそろティガレックスだぞ。」

ん?あぁ、もうそんな時間か。

 

午前の試合……警戒すべきはティガレックスは無理やり起こされて興奮しているとかだろう。

なんとなくだが全身の痛みはひいた様に思える。さっさとティガレックスを処理してその後に備えなければ。

……そうか。私は短期間に大量のモンスターを殺す実力を持つ事が出来た……いや、四種じゃないか。ラングロトラ、ハンター、リオレウス、アルセルタス。……あ、ケチャワチャ。

三種は群れていた訳だからまだ実力は無いかもしれない。落ち着いて、尚且つ迅速に殺す思考でいこう。

 

 

闘技場の扉が開く。

タイミングを合わせて走って入ったものの、既にティガレックスは突進してきている。

ざっと確認。

広大な円形、壁あり、蔦あり。二層か。

糸を放ち自分を引き上げる。ネルスキュラも確かそういう行動のはずだ。見た事はないが……

 

ティガレックスもこっちを見ながら豪快に上に登ってくる。

その体に糸を張り付け引っこ抜く。そのまま振り下ろす。

 

ダァン!

 

「アトラル!なんと先制はアトラルだぁ!」

 

蔦は壊れないのか。おそらく面の衝撃には強いのだろう。

そのまま振り回す。……駄目か、ティガレックスが抵抗して動かない。

 

顔を切りつける。周りを確かめて考える。すると不思議な筒の形をした物が目に着く。

 

「ァァァァッ!」

 

ぐっ、唐突な咆哮で体が引きちぎれるような感覚と共に吹っ飛ばされる。だが距離は縮まった、とりあえず下に降りて確かめよう。

スイッチがある。

ティガレックスがこっちに突進してきそうだ…押してみよう。

 

「グァァッ!」

 

何も起きない時のために構える。

 

カラカラカラカラ……

 

何の音――!?

 

バァン!!

 

「ァァァッ、グアッ!!」

 

……槍が出てきた!?ティガレックスは掠りだが大きく怯み倒れる。

槍の回転が止まっていき段々収納されていく。

それを見て体が動く。意図を理解し、抑える事はしない。

 

糸を巻き付ける。ダウンしているティガレックスを他所にひたすら引っ張る。

しかし流石に難しい……収納に抵抗出来ているぐらいだ。

槍が少しずつ収納されていく。歯車が軋む音が鳴り響く。ティガレックスが起き上がる。

 

 

ガッガッガッ――バキィッ!!!!

 

 

轟音と共に撃龍槍が抜ける。抜けた勢いで再びティガレックスを刺す。

 

「グルァッ!ガァッ!」

 

………しばらく動けない傷を負ったティガレックスの腕から槍を抜き背中に乗せる。非常に重いが動く事は出来る。

まずは試しにティガレックスの頭に槍を叩きつける。

 

頭が凹む。

 

ふむ。……いいなこれは。人の所にはたくさんこれがあるのだろうか。

扉の鍵が開く音がする。勝利したから迎えに来たか。……いや、私はもう帰らない。ここで抵抗しながら『凄いこと』を待とう。手に入れた槍を人に向けたらどうなるだろうか。

 

 

「し、勝者はアトラル――おや!?ハプニング、ハプニングです!」

 

「ゴォォォォッ!!」

 

……!?振り向くと、全体的に黒ずんだティガレックスが立ち上がっていた。嫌な音を立てながら腕が治り、頭からはとめどなくドス黒い血が溢れる。

背後で扉の鍵が閉められた音がする。

 

……まさか、狂竜化か。

 

しかし痙攣とかの不審な行動は無かった。つまり……体力回復の為に代謝が促進されるとウイルスに大量の栄養を与える事になり短時間で狂竜化するという事か。仮定だが……

 

飛んできた岩を避ける。

恐れないといけない事は殺される事と感染する事。

 

槍を叩きつけて距離をとるが、ティガレックスは腕で跳ね除けそのまま突進してくる。頭と腕に糸を放ち、引っ張り転倒を誘うがものともしない。

横に跳んで避ける…っ!?

 

突如加速し私を腕で吹き飛ばしてきた。壁に叩きつけられ一瞬現状を理解出来なくなる。

焦点が定まらない……影が飛んでくる――!?

痛みに意識が覚醒する。しかしうつ伏せの為、背面の叫び声しか状況が分からない。

これは危険だ。噛みちぎられたら死。叩きつけなら致命傷。叫びなら助かる。……無意味な気がするが感染しない為にも息を止めておこう。

 

腹部(尻尾)に衝撃が走る。しかし私の中で一番硬い場所だ、後2発ぐらいなら耐えるはず。

 

頭を押さえるティガレックスの腕に糸を放つ。頭に爪が食い込み痛みが走るが背に腹は変えられない。

再びティガレックスが腹部を殴ろうと腕を上げる。頭を押さえる力が増す。

 

同時に頭を抑える腕を全力で引っ張る。頭が裂かれる痛みが走る……っ!

 

ティガレックスがやっと転倒する!

すかさず槍の元へ走る。頭の背面から液体が流れる感覚がある…!

……糸で槍を巻き付ける!そして叩きつける!…のは待て。

落ちつこう。誰かは分からないが助けが来るまで死ななきゃいい。

 

 

と思った矢先に見せびらかすようにランゴスタが私の笛を持ってくる。考えて見れば普通のランゴスタ1匹では、私の笛は持てない重さだ。

…つまり、『凄いこと』はクイーンランゴスタのお出ましか。ランゴスタの所に行けば安全そうだ。

 

 

 

ティガレックスを中心に地面が燃え上がる。危険を感じた観客は逃げ出す。

ティガレックスは炎に耐え、アトラルに走り出す。

次の瞬間炎の周りを氷が囲い炎が消え、氷点下より下の温度の水が氷の枠を満たしていく。

狂竜化して正常な判断が出来ないティガレックスは氷の壁を壊そうと暴れ回る。

 

電撃が水の中を駆け回り空中に放電される。

体も神経も焼き尽くす電撃に、刹那、自我を取り戻したティガレックスは歓喜の為に叫ぼうと口を開ける。足が崩れる。

喉に入るしょっぱい味と共に意識が電撃により焼き切れる。

 

 

バキッ!バシャッ!

 

地中&水中からどうも、私ですー!

ティガレックスに手こずったのですか、彼女は相当弱い方ですね。

 

(アトラルの位置報告!) 羽を鳴らす。

コチラ アトラル トモニ 返事が返ってくる。

 

うむ。端によってくれているなら暴れられます。

全属性最高出力。

そして腐食と龍を混ぜ、光でコーティングしたエネルギーを溜めます。

 

 

天変地異が所狭しに起きる。

炎の竜巻が洪水を起こす。

走る電撃が豪雨の雨粒一つ一つを縫う。

一部の地面がマグマに変わり下の階層に落ちていく。

逃げ遅れた観客やスタッフの死体はことごとくランゴスタに回収される。

 

 

 

なるほど。これが人間の概念の一つ、地獄か。

まぁそんなことより、明らかに私達の方に影響が出ないようにしてるのが分かる為、クイーンにある程度の思慮がある事が分かる。

 

クイーンが黒雷が走る光を天井に放つ。図鑑で見たオストガロアのブレスと謙遜ないな。もしかしなくても例の 化物マガラ と同類か。

 

補強されただけの遺跡がソレに耐える訳もなく地上まで貫通する。そして遺跡が崩壊を始める。

 

 

「掴まって下さいな!」

 

喋った!?いや化物にはなんでもありか。じっとして、クイーンに掴まえてもらう。槍を腹下に巻き付け、笛を抱える。

 

「2! 1! 0!」

 

カウントと共に私の体が浮き上がる。

さて、地上に戻って始めにするべきはウチケシの実を食べてから回復旋律だ。

感染したかは分からないが体内から寄生龍が食い破ってくるリスクを消すなら絶対にすべき事。

 

「地上まで後半分!」(全員帰宅!)

リョウカイ ジョオウ

 

後ろから大量の羽音が聞こえるようになる。

見ると、せり上がってくる壁の様に見える量のランゴスタがいた。

 

…やはり個々のランゴスタの羽の色には見覚えがある。つまりこのクイーンは……

 

「元気にしてました?」

 

彼の薬にやられたランゴスタか。ふふふ……彼はこの成長に喜んだのだろうな。

返事をしたいが私は喋る事が出来ない。大体どうやって喋っているのだろうか。……羽か?後で確かめよう。

 

 

……あれ、彼女は中々リアクションしませんね。まさか考えるタイプ?後でコミュ方法を考えないと。

 




音さえ消し飛ぶ衝撃が空間を揺るがす。
角と腕がぶつかる。

「ヴェァァァァ!!」
「シャァァァァ!!」

砂原は彼らの小突き合いで平坦な砂漠になった。丘も泥も谷も洞窟も消えた。

砂原から砂漠に変化した範囲の生物は居なかった。

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