キーンコーンカーンコーン。
東藤蘭高校の終業のチャイムが鳴った。
いつもと変わらず、学校が終わる。
そして、学校が終わると決まっているかのように学生が群れになり、なにやら流行の話でもしているんだろうか、少し大きめの声でヘラヘラと喋っている。
そんな中、その群れを切り裂くかのように通り過ぎる人影2人。
その2人とは、藤堂蓮と龍坂尚弘。
藤堂は、168㎝と小柄なものの校内屈指の美男子として有名だ。
普段の日常生活はおとなしく真面目で、喋りかけてくる相手には気さくに喋り、大人な心遣いが出来る好青年である。
だが、これは悪魔でも表の顔だ。
表の顔あるなら裏の顔は確実に存在するであろう。
問題は、裏の顔だ。
彼の裏の顔を一言で言えば黒い、いやそんなもんじゃない。彼の心の中は一寸先は闇である。ともかく、腹黒い。自分が決めた正義はどんな手を使っても成し遂げる、そういう狡猾な人間である。
もう1人、龍坂尚弘。見た目は、不良そのものである。
短髪で、182㎝と恵まれた体格、首にはネックレス。
中2からヤンキーで喧嘩も強かった。今も不良グループのボスであり喧嘩はひっきりなしである。
蓮と違い表も裏もく本当は素直で正義感溢れる優しい男子高校生。
そして、蓮の幼少期を知る唯一の人物で理解者だ。
そんな2人が、下校途中の公園のベンチで座っていた。
「なあ、尚弘。最近、美波さんとどう?」
蓮はそう聞いた、少し微笑み、何か話したそうな顔をして。
「遥とか?順調だよ」
尚弘は、思い出すかのようにふと笑みをこぼして答えた。
「そっか…」
蓮は、少しホッとしたような顔をして、呟くように言った。
「そういうお前は…、彼女作らねーの?」
「僕?作りたいけど、作れないな…」
「噓をこくな。蓮、知ってるか、一回どっかの女子から聞いた事あんだけどよ。お前、気になる男子No. 1にランクインしてたぜ」
少し、むっとしながら尚弘は答える。
「何?気になる男子って」
多分、蓮は元々女に疎いせいかあまり色恋沙汰の用語は知らないらしい。
そのせいか蓮はキョトンとしている。
「ん、まあ、分かりやすく言えばどの男子がモテるかランキングー、的な」
「あぁ、そういうことか。くだらないな」
少し、鼻で笑うかのように答えた。
「くだらないって…、彼女作りたいんじゃないのかよ」
「作りたいよ、でも僕は本当に自分が好きになって、相手も僕のことを好きになってくれるそういう彼女が欲しいから」
そう、蓮は真顔で答えるのだ。
この言葉は至って普通そうに聞こえるがお互いを好きになる、そのことは非常に難しい。
「それ、作れないってか、恋してないから作るも何もねーな」
「恋はしたことあるよ…」
蓮は先程とは打って変わって表情は悲しそうなものに変わっていた。
「あっ…、今日だな」
尚弘も暗い顔をして俯く。
「そう、9月3日、今日が真凛の命日」
蓮が言っているのは板野真凛。真凛は小学生の頃の蓮や尚弘の幼馴染で同時に蓮の初恋の相手であった。
真凛の方も蓮のことが大好きで、小5の時に告白した。
彼らは本当に仲良く、キスまでする仲だった。
彼らは順調に愛を育みあうかと思われた。
しかし、そんな彼らに闇の手が迫ってしまった。
真凛は小学生だった当時、クラス中の男子や周囲の大人が目を見張るほど美少女だった。
しかし、それが仇となって、中学に入りたてた頃、中年の男に誘拐されて行方不明となった。
そして、去年のこの日真凛の遺体が発見されそのまま帰らぬ人となってしまった。
犯人は未だ見つかっておらずこの事件は未解決のままとなっている。
去年のこの日、蓮と尚弘は悲しみに暮れながら9月3日を真凛の命日として犯人に復讐を誓ったのだ。
「やるのか」
「やるよ、今日しかない」
犯人への復讐作戦を蓮はこの日まで考えてきた。
「犯人の目星はついたのか?」
「ついたよ、事件のパスターの似顔絵画と一致してた」
「体格とか身長もか?」
「うん、身長150㎝台後半、50歳後半、顔も全て一致している」
「それだけで、犯人ってすんのかよ」
「嫌、まだそれだけじゃないんだ。この男の写真を見てくれないか」
蓮は写真を取り出すと尚弘に見せた。
その写真に写っているのは、似顔絵画にそっくりな男だった。
「この男の名前は坂崎靖幸。現在は60歳」
「確かに、似てんな」
「坂崎は三年前、事件の捜査で重要参考人として容疑者候補に上がっていた男らしいんだ」
「でも、捕まらなかったと」
「そういうことだよ。当時、証拠が上がらずそのまま容疑者候補から外されたみたい」
「てか、その情報、どうしたんよ」
「ま、母親に穏便に尋ねただけだよ」
蓮の母親は警察官僚である。
「ふっ、穏便にって…。ただ、脅して聞いただけじゃねーか」
尚弘は苦笑した。
本当に、腹黒い奴だなと尚弘は思う。
こんな奴は中々いない。
「ま、その話は置いといて、それでね。なんで、坂崎が重要参考人になったか分かる?」
「さあ?知るかよ、そんなもん」
「坂崎は、前科があった。重要参考人に坂崎があげられた6年前、17歳の女子高生の強姦未遂で捕まってるんだ」
「そいつかもな…」
生々しい情報に、正直聞くのがつらいと尚弘は思った。
尚弘も、蓮と同様真凛を知っている。
この事件は蓮だけじゃなく尚弘の心にも残り傷になっている。
「後、決定的なのは、僕の知り合いからの情報なんだけど、坂崎が自分の友達に自分の犯行を示唆している内容を話したらしいんだ」
「決定じゃね」
「『女の子を誘拐して殺してしまったから、遺体隠すの手伝ってくれないか』みたいな内容なんだって。あっ、その友達は断ったらしいんだけどね」
「そりゃ、断るよな」
「坂崎は、大体9時頃この辺をうろついてることが多いんだ」
「じゃあ、そこで…」
その言葉を遮るように藤堂は答える。
「犯人は分かった、居場所も分かった。でもね、一つ問題があるんだ」
蓮は、困った顔をしている。
「問題って…?」
「捕獲したりするのに僕の他に尚弘が必要なんだ。でも、相手も犯罪者なんだよ」
坂崎は犯罪者なのだと自分の言葉で蓮は再認識した。
「僕は、気配を消せる。でも、尚弘は普通の人間だ。気配は消せない」
「お前みたいなやつの方が少ないわ」
尚弘は苦笑しながら言った。
多分、世界でも何人しかいないだろう、そう尚弘は思ったのだ。
「だから、坂崎に気づかれるリスクが高くなる」
「まあな」
「だからね、囮になってくれる女の子がいるとリスクが低いんだよね」
尚弘は笑ってしまった。
蓮の考えが非現実的で、無茶な策に。
「そんな、自ら、犯罪者の囮になりますってやついるのかよ。てか、精神的に嫌だろ」
そんなやつ居たら怖いと尚弘は思った。
蓮も、そんな人間はほとんどいないだろうとそう確信していた。
「そう、それが問題」
「…2人でやるしかないか」
「…」
蓮が急に無言になった。
尚弘の話ではない別のことに意識が向いているみたいだ。
少し、蓮の表情が険しくなる。
「どうした、蓮」
「いや、ね…、隠れてるの、バレてるよ。誰なの?」
そう、蓮が叫んだ。
意味がわからない、尚弘は呟く。
頭がおかしくなったのかとも思った。
しかしその時、
「あっ、バレちゃった」
と一言。
尚弘も蓮もよく知っている少女が出てきたのであった。
続きます。