気まぐれ屋の君へ   作:長串望

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君の瞳の向く先は

 恥ずかしいことながら、私はかなり口下手な方で、人とお喋りするのが得意ではない。嫌いと言うわけではない。賑やかなお喋りの中で聞き役として混ざるのは楽しいし、心の中では相槌も打つし、話したいこともふわふわとわいてくる。しかしいざ自分の言葉を紡ごうとすると、私の口は途端に意味のない音をもらすだけの無様な器官となり果てるのだった。

 幸いにも今のところ、この口下手が原因で致命的なすれ違いを引き起こしたことはないけれど、それでもなかなか苦労するし、困りもする。

 その日も散々困り果てた後に、仕方がなしに迷惑を承知で彼女のもとを赴いたのだった。

「はいはい、どちらさんでーって加賀やんやんか。どないしたん」

 昼食も終えて気の抜けた頃合いに部屋を訪った私を、加賀やん、と気さくに呼んで出迎えてくれたのは軽空母の龍驤だった。

 この龍驤は、私と同室の瑞鶴と同じく古参の艦娘で、なりこそ駆逐艦のように愛らしいけれど、建造されてそれほど長くない私と比べると、ずっと人間じみてきているし、貫録の様なものもあるような気がする。

 龍驤は私に座布団を勧め、手馴れた様子でほうじ茶を淹れて振る舞ってくれた。ちゃぶ台の上を見れば、束になって積まれた紙と、年期の入った鋏、それに作りかけの式神が並んでいた。整備中だったのか。

 今更だけれどお邪魔だったかしらと慌てて言ってはみたが、案の定、ほんまに今更やなと苦笑いをされてしまった。

「まあ手慰みみたいなもんや。気にしなんな」

 陽気に笑いながらほうじ茶をすする龍驤。彼女は私の口下手も気にせず、実に懐の深い艦娘で、情けないことに私は何度も迷惑を承知で今日のように相談に乗ってもらっているのだった。

 龍驤は実際、稼働年数が長いからという理由だけではなく、根っこの部分から心が広いように思われた。彼女が怒っている所を私は一度も見たことがないし、記憶が長く持たない瑞鶴をしてきっちり昔なじみとしてそのように記憶しているくらいには、昔からそうであったらしい。

 わかりやすい例を挙げると、胸の話がいいだろう。

 空母仲間の中では実に小柄で平坦な龍驤モデルが、胸のサイズのことで揶揄われるのはもはや伝統芸と言っていいほど昔からのことらしい。個体によって気にする気にしないに程度の差はあるけれど、この龍驤は全く気にしないどころか、自分から胸の話題を出して笑いに持ち出すほど寛容だった。

 胸の発育で悩む駆逐艦に、うちなんかまな板に梅干しのっかったようなもんやからな、などとカラカラ笑ったり、逆に胸が大きくて肩こりが酷いとあてつけがましいことを言った重巡には、暖かいものを振る舞って肩を揉んでやり、却って反省させるくらいのことは平気でしている。

 コンプレックスに思ったりしないのかなどと失礼極まりない質問を真正面からぶつけてきた戦艦に、にっかり笑って、胸のサイズは人それぞれ、大きいもんには大きいもんの喜びも悩みもあるし、ちんまいのもそうや、僻んだり羨んだりするより、お互い尊重した方が気持ちええ、と全く大人の対応であったそうだ。

 そういう誰彼へだてない気さくな態度に、大きな胸に悩んでいた艦娘などが懐いていまやそういった連中とつるむことの方が多く、見た目にはお姉さんたちに小さな娘がくっついて行っているようで、その実その小さな娘に大きな子供連中が子犬のように懐いているのだから全く意味が分からない。

 ともあれ、そのように心の広い龍驤の事だから、私の口下手にも根気強く付き合ってくれるのだ。

「今日はどないしたん」

 式神を片付けながらそう尋ねてくる龍驤に、私は少しの間、言葉を探した。私がこうして悩んで迷ってなかなか言葉に出せないときも、龍驤は決して急かしたりしない。目を見られると焦ってしまうのが分かっているのか、顔をまっすぐ見つめるようなことはなく、ちょっとうつむきがちに視線をぼかして、のんびりと私を待ってくれる。そういう態度を知っているからこそ、私もしっかり落ち着いて言葉をまとめることができる。

「瑞鶴の事なのだけれど」

「ほう、フラミンゴがどないしたん」

 相談というのは同室の瑞鶴の事だった。この瑞鶴は古参の艦娘で、新参の私よりも先輩にあたる。昔の戦闘で重傷を負い片腕を失ったものの、足と右手で強弓を引き、誰よりも強い矢を射る空母として今も前線で活躍している。その片足立ちの射法と、火炎のごとき苛烈さから、フラミンゴとあだ名されている。年期の入った艦娘は大抵同モデルの艦娘と区別するためにも二つ名がつくけれど、このフラミンゴほどしっくりきて、そして格好の良い二つ名は他に知らない。

 ただ、頭部に負った怪我の為に、一晩寝ると前日のことをほとんど忘れてしまい、習慣化したこと以外は覚えていられないという障害もあり、同室の私としては苦労も多い。

「先日から、あの娘と交換日記を初めて」

「はあ、そらまた」

 交換日記は、瑞鶴の記憶障害に対する一つの対策だった。自分で日記を書いても何だか他人の日記を読んでいるようで嫌だという瑞鶴に、ではこういうかたちならどうだろうかと提案したのが交換日記という形だった。面倒くさそうにしながらもなんだかんだ律儀にやってくれるし、その甲斐もあってか私も同室の空母と言うだけでなく、それなりに個人として記憶されつつある。

 のだけれど。

「少しは、仲良くなれたと思うのだけれど、最近避けられているようで」

「避けるなあ。まああの瑞鶴やし、距離感取りかねとるんかもしれんな」

 距離感。駆逐艦たちと違和感なくまじりあって遊んでいる瑞鶴を思い出して小首を傾げたけれど、龍驤は気にした風もない。まあ彼女は私より瑞鶴と付き合いが長い。何かしら思うところがあるのだろう。

「そら、すこしは加賀やんのことも覚えてきてはいるんやろうけど、なんしろほとんどは覚えていられひん。考えてみいや。朝起きたら部屋に誰ぞ知らんのがおったら嫌やろ」

「それは、そうかもしれないわね」

「せやろ。近頃は少しは覚えてきたかも知れへんけど、多分まだどんな態度取ったらええのんかわからんのやで。日記読み直して、それでぼんやりこんなもんやろかーってなるくらいや。どっしり構えてまったりや」

 成程もっともだった。

 私には瑞鶴の記憶障害がどのようなものなのか体感で分かっているわけではないし、自分の感覚で考えすぎたかもしれない。

 しかしそうわかっていても、距離を取られると辛いものがあるのだ。

「実は、最近気づいたら彼女を見ていて」

「ほ」

 暇さえあれば、瑞鶴の短くカットされた作務衣から除く白い足に目をやってしまって、気づけば冷たい目で見られていることもざらだ。仕方がないだろう。あれだけ美しいものがあったら誰だって見る。私だって見る。寧ろ惜しげもなく晒している方が悪いのではないだろうか。目に毒だ。隠されたら困るから言わないが。

「何かしていても、ふと見かけたらつい目で追ってしまって」

「ははーん」

 最近では瑞鶴が射場に入ると私はもう弓を引くどころではなく、屈みこむようにして仰ぎ見る姿勢で瑞鶴のおみあしと暗がりをガン見している始末だ。部屋で読書をしている時に瑞鶴がゴロゴロと暇を持て余したりしていたらもうたまったものではない。本の内容は全く頭に入らず、気づけば瑞鶴の足の指がまるで違う生き物のように器用にわきわきと動いているのを凝視していたりする。

「何気ないしぐさや、ふとした拍子に、ドキッとしてしまって」

「ほほーん」

 最近気づいたのだけれど、床に新聞紙を広げて足の爪を切っている時の体勢が個人的にかなりグッとくる。床に座り込んで、膝を胸にあてるようにして、顎をその膝の上に乗せて、小さく縮こまって器用に爪を切るのだけれど、こうすると生足が折りたたまれてしなやかな筋肉が浮き上がり、そして表面のうっすらとした脂肪が柔らかくゆがむのだ。股座のくらがりは縮こまった体全体に隠されるのだけれど、却ってそのことが暗がりをより神秘めいた暗がりとして存在感を持たせるのだった。

 左足の爪を切るときはそれで済むのだけれど、右足の爪が問題だ。右足も同じようにして膝を胸にあてるようにするのだけれど、何しろ右手で切らないといけないから、左腕のない瑞鶴ではバランスがとりづらい。だから左足を横に広げて伸ばしてバランスをとるのだけれど、その惜しげもなく広げられたおみあしの何と言う神々しさか。そしてまたもはや暗がりから解き放たれた中心部は恐ろしいまでの引力を発揮する。じっと見つめている最中に、裾からちらりと下着が見えたときなどは年甲斐もなくガッツポーズなどしてしまっていぶかしげに見られてしまった。

 龍驤は飴色の煙草盆を寄せて、煙管を軽く咥えた。咥えるばかりで葉も詰めないのは、私がたばこのにおいが苦手だということを知っているからだろう。ひこひこと小さく煙管を揺らして、龍驤は少しの間考えていた。

「フムン。せやな。これはもしかすると繊細な問題かも知れへんな」

 どきりとした。確かにこれは繊細な問題だ。ただでさえ距離を置かれて瑞鶴の足を間近で楽しむ機会が減ったのだ。性癖というものは大っぴらにはできないが、しかし思わず語りたくなるようなこだわりがあるものなのだ。

「よし、加賀やん。ちょっと想像してみいや」

「想像」

「せや。瑞鶴のな、顔を思い浮かべるんや。ほんで、それがキミに近づいて、唇が触れ合う。キスやな」

 困った。まず第一段階でつまずいた。

 顔……?

 瑞鶴の顔はどんなのだっただろうか。

 勿論、見間違えることはないのだけれど、何しろ普段足しか見ていないから、くるぶしの形で他と見分けがつくのは間違いがないにしても、顔がどんなのだったかは思い出せなかった。ぼやっとは出てくるのだけれど。

 私の頭の中で、ぼんやりとした靄に包まれた顔が近づいてきて、多分キスしてきたのだろうけれど、お鍋のふたを開けたら湯気が顔に直撃したという感じの何だかあいまいでよくわからない始末だった。

 龍驤には申し訳ないけれど、設問が悪い。これが足の裏とか指先とかくるぶしとかひかがみとかだったら私だって精細に思い浮かべてむしろこちらから口づけたいところだったが、顔ってなんだ顔って。口下手でひとづき合いの苦手な私が顔なんて言うパーツ思い浮かべられるわけないだろう。

 そうやってもんもん悩んでいると、龍驤は爽やかに笑った。

「せや。それがキミの気持ちや」

 これがか。このもやっとしたのがか。

「自分の気持ちに素直になってみるのもええと思うで」

 ほなお帰りと背中を押され、なんとも釈然としないままに部屋を出る。

 しかし、なにしろ龍驤の言うことだ。何かしら深い意味があるのだろう。私は自分の気持ちに素直になるということを考えながら、廊下を歩き始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 私はあんまり人づきあいが上手な方じゃない。前からそうだったのか、いまの私になってからそうなってしまったのかは思い出せないけど、昔なじみの連中の反応を見る限り、ぶっきらぼうで気紛れなのは昔からだったみたいだ。

 あたしが昔なじみだって自信を持っている連中はそんなに多くない。提督さんに、秘書艦の叢雲、金剛モデルの背の高い方、それに龍驤さん。龍驤さんは私が来るよりも前からいた先輩、だったと思う。私が配属された当時は、空母が全然いなくて、殆ど私と龍驤さんがローテーションを組んでやってた。軽空母と正規空母だから、もちろん性能には大分違いがあるんだけれど、あの人には練度と経験があった。いまでこそ私はフラミンゴなんて二つ名を頂いているけれど、当時の私はただの瑞鶴で、そして龍驤さんはそのころからすでに根こそぎの龍驤なんて二つ名を、気負いもなしに背負っていた。

 苛烈で、徹底的で、そして何よりも合理的で無駄のない戦い方はいまでも尊敬している。とてもそんな冷徹な戦い方を思わせない人柄のせいか、ぼんやり煙管をふかしている所なんてすっかり楽隠居の域だけれど。

 私が手土産のどら焼きを手に顔を出した時も、龍驤さんはぷかぷかと煙管で一服している所だった。

「なんや、キミか。今日は千客万来やな」

 どうも私の前にも誰か来ていたらしい。まあ龍驤さんは私とは違って愛想もいいし面倒見もいいし、空母寮なのに懐いた重巡が入り浸っていたりするからいつものことだろうけれど。

 勧められた座布団に腰を下ろし、ほうじ茶を頂いて一息。

「で、どないしたん」

「ちょっと相談がありまして」

 土産のどら焼きをすすめるとからりとした笑顔で嬉しそうに頬張る。実に子供っぽい笑顔だけれど、龍驤さんに言わせれば、感情を素直に出しても損なんてあらへんし、隠して格好つくわけでもあらひんさかい、気持ちよう笑った方がなんぼかよろしい、ということだ。私は別に格好つけているわけではないけれど、そうそう気持ちよく笑うというのがなかなかできない。人間力の違いかもしれない。

 長い付き合いでもあるし、面倒な前置きはやめにして、さっさと切り出すことにした。

「新しく来た加賀さんの事なんだけど」

「おーおー、加賀やんな」

 艦娘としては後輩だし、私から見ればまだまだひよっこだから呼び捨てでもいいのだけれど、瑞鶴モデルに染み付いた癖なのか、それとも奴の妙に圧迫感のある鉄面皮に対する恐れなのか、口調こそざっくばらんとしてはいるけれど、不思議に自然とさん付けしてしまう。

 この加賀さんは、まあ、優秀な方だと思う。まだ練度は低いけれど仕事は丁寧だ。向上心があるし、地味な反復作業にも倦むことがない。無口で不愛想で何を考えているかさっぱりわからないけれど、行動においてはきちんと協調性がある。

 と、できるだけ客観性を意識したらしい文章が日記には書いてあったけれど、まあ今日も見ている限りそんな感じではあった。

「交換日記してるんやて? 青春やな」

「……誰から聞いたんです?」

「加賀やん」

 別に隠しているわけではないが、吹聴するものでもないだろうに。交換日記という響きの持つなんとも言えない気恥ずかしさに唇をへの字にゆがめると、案の定龍驤さんは可笑しそうに笑って煙管を煙草盆にこんと叩き付けて灰を落とした。

「まあ、その日記を見る限り、そこそこうまくはやれてるみたいなんですけど」

「ですけど?」

「視線が、ちょっと気になって」

「ははーん」

 私が自意識過剰なのでなければ、あの加賀さんはしょっちゅう私のことを見てくる。最初は私の隻腕とか、片腕で着飾るのが面倒くさくってずぼらになってしまった服装とか、幻肢痛を誤魔化すために始めたらすっかり習慣になってしまったカップ酒とか、そういうのが物珍しくて見ているのだろうと思ったのだけれど、どうもそういう色ではない。というか視線のむく先が低い。

 そして日記に書かれたことと、実際の奴の視線をたどるに、どうもあの加賀さんは私というよりも私の足を見ていやがることに気付いたのだった。

 私には左腕がない。もともと右利きだったからそこまで苦労はしなかったけれど、弓を持つために左足を鍛えようと思って何でもかんでも足でするようになって以来、むしろ左足の方が器用になっていまでは無理をすれば箸だって持てる。その左足を動かしやすいようにと私の服の左裾はかなり短めにしているのだけれど、どうもその晒された足に視線が集中している気がする。気がするというか、奴自身交換日記でそんなことばかり書いていて気持ちが悪い。

 多少みられるくらいはまあ、他の連中も見るには見るし仕方がないけれど、何しろあの加賀さんはあの鉄面皮でガン見してくるから怖い。何を考えているのかさっぱりわからない。そのくせ日記帳では足についてやたら細かく書いてあって怖い。

 それで、できるだけ距離を取ったり行動圏をずらそうとしているのだけれど、正直そんなこといちいち覚えていられないし、何が普通で何が普通じゃないかの記憶自体が当てにならないので、やっぱり視線から逃げられない。

「ふとした時に目が合ったりして、何だか気まずくて」

「ほほーん」

 いや、目が合っているというべきなのだろうか。視線を感じて振り向いたらこちらの足をガン見している鉄面皮がいて、なんだこいつという目で見ていたら向こうがようやく気付いて顔を上げて目が合い、ゴーレムかガーゴイルかというくらいの無表情でそっと離れていくという、そんなろくでもない感じだ。

「真剣な顔してたり、いつも真面目でがんばってるのはわかるんですけど」

「成程な」

 ただの変質者でないのはわかる。ただものではない変質者だ、という軽口はともかくとして、加賀さんは本質的にまじめだ。射場で私が射ている時も、彼女は異質な射法から多くを学び取ろうと積極的に見に回る。漫然と見ているわけではなく、私の筋肉の張り方や骨の構え方まで見通すように、恐ろしく真剣に息さえひそめて見つめている。そうなると私も下手な射はできないから自然と気合が入るから、悪いことばかりではないのだけれど、やはり視線が気にならないわけではない。しかし、私の射るのをじっくりと観察した後、恐ろしく射法が乱れたかと思えば、不意にただ中てるだけでなく恐ろしく綺麗に中てる瞬間があって、糧になっているのは確かのようだからやめろとも言えない。

「嫌なんか?」

「え?」

「加賀やんに見られるんは、嫌なんか?」

 そう聞かれると私も困った。それは、視線が気になりはするし、ちょっと不気味ではあるけど、しかし嫌なのかと言われるとそこまで積極的に不快というわけでもないのだ。

 というのも、普段は無口で不愛想で何を考えているかわからないあの加賀さんだけど、日記帳では恐ろしく雄弁なのだ。それもほとんど私の足のことについて書いてある。それがちょっと気持ち悪くはあるのだけれど、しかし、意外なことに加賀さんの文章にはいやらしさというものがないのだった。私の脚がどうとか、股座がどうのとか書いてはあるのだけれど、そこに性的なニュアンスを持ち込んでこないのだ。ただ見たいとか、素晴らしいとか、そういうことばかりなのだ。興が乗ってくるとある種文学的と言っていいほど語彙力と表現を駆使して私の脚について書き連ねてくる。それこそ、単語を変えてしまったら花か何かを詩的に語っているとしか思えないようなこともある。

 だから、まあ、

「嫌、ではないと思います」

 くすぐったくはあるが、やめろと言わないくらいには、不快ではない。

「せやったら先輩として受け入れてやる懐の広さも大事やな」

「懐の広さ、ですか」

「せや。あんまり度が過ぎたら叱った方がええかもしれんけど、ちょっと見てくる程度可愛いもんやないか。そのうち距離感も取れてくる」

「はあ、そんなもんですかね」

「そんなもんやて」

 なんだか釈然としないけれど、しかし龍驤さんの言うことだ。あの加賀さんも、別に変なことをしてくるわけではないし、少しばかり変なくらいは、大目に見てやるべきなのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 うちがこの鎮守府に配属されたとき、先におったのは秘書艦の叢雲と駆逐艦が何隻か、それに軽巡洋艦が二隻くらい。空母はうちだけやった。あの頃はまあ、敵さんも戦い方を模索しよるところがあって、軽空母でも空母は空母やさかい、ちまちました対空砲火さえ気ぃ付ければ楽なもんやった。だんだん敵さんも強ぅなってきて、うちの方でも戦い方気ぃつけるようになって、死なんように傷付かんように疲れんように、やりやすいようにやっとったらいつの間にか根こそぎなんちゅう二つ名ついて、後輩空母にもの教えるようになっとった。

 艦載数の違いもあるし、正規空母の練度も上がって、うちが後ろにひくようになっても、龍驤さん龍驤さん言うて持ち上げて貰うてまあ悪い気はせえへんな。

 あんまり出張らんようになって、整備やら事務仕事の方が多くなっても、古株はうちのこと重う見てくれたし、若い子らも何やかんや付き合うていく内になついてくれて、まあ可愛えもんやな。

 ただ困ったのが、みぃんなしてうちの事、頼りになる心の広い龍驤さんちゅう目で見るさかい、なんでんかんでん相談事持ち寄られるのは参ったな。なんしい秘書艦の叢雲かて困ったら相談しに来よるし、提督はんまで来らすとまあ、他の連中にお前らは来るなとは言えへんからな。

 大体なんでうちの心が広いなんて話ができたんか。

 うち割と心狭いと思うけどな。

 そらまあ、なんやかや言うてそれなりに長いことやっとるさかい、ちっさなことで今更怒ったりせえへんけど、多分アレやな、お乳の話が悪かったんやろな。

 前に新入りの愛宕が、まあ前んとこでは大きな顔しよったみたいで、碌に出張りもせんのによいしょされとるうちの事が気に食わんかったんやろなあ、イチャモン付けてきたことがあってな。なんやったかな。ちっこくてまな板やから駆逐艦かと思ったわ、これで空母かいな笑かすなあ、こっちは胸が大きくて肩がこるさかい羨ましなあみたいなこと言いよったんやったな。龍驤モデルは自分の体にコンプレックスもってるのが多いさかいな。愛宕もそれでうちが凹むか怒るか、期待したんやろな。

 うちに懐いてくれとった連中は怒ってくれたけど、うちは全然気にせんかった。

 だってな、あれやで。

 目の前で生ぱんぱかぱーんしてくれたんやで。怒るどころやないわ。拝みそうになったわ。

 わかるか?

 あのきっちり襟元までしまった制服に包まれたたわわが、両腕を大きく持ち上げることで、勢いで揺れるだけやのうて制服自体に持ち上げられ、ほんで生地にぎゅっと締め上げられるようにしわ寄せながら上に突き出るんやで。おまけに若干背ぇが反るから、なおさら前に突き出されるんや。背のちっこいうちからやともはや顔が半分しか見えへんねん。お乳が頭上でたわわに実ってんねやぞ。

 ほんで、手ぇ下ろしたらどうなると思う。制服に締め上げられるように上向いとったのが、ゆさっと降りてきて、ほんでその弾力でゆさっと揺れるんや。お乳が空から落ちてくるかと思うたわ。親方ー! 空からお乳がー! て叫ばへんかった自分をほめたいわ。

 やからもう、演技でも大人の余裕でもなく、心底うれしゅうて仏の笑みやで。解脱するかと思うた。このお乳がこんな下らん意地張りで他から嫌われでもしたらうちはとてもやないけど耐えられへんかった。せやからやんわり窘めて、却って優しくしてやったんや。

 ほーかほーか、そら大変やな。女として見栄えもするけど、辛いこともあるさかいにな。肩凝るんは辛いもんな。凝らんもんにはわからんのや。どれ、あったかいもんいれたるさかい、それ飲んで落ち着いてな、楽になるマッサージでもしたるさかい、な、な、な、お布団しこか、な。

 うちが新入りに媚売ってるように見えたんか最初は不満もあったみたいやし、愛宕も天狗になっとったけど、これでもうち年期が入った艦娘やからな。自主整備の一環もあってマッサージは得意やねん。部屋に入ってお茶飲ませてリラーックスさせてTシャツに着替えさせて布団に寝かせて、あとはもう三十分もあれば陥落や。年寄りの口車なめたらあかんで。

 ほんで終わったら、肩が軽い痛くない言うて大喜びでぱんぱかぱーんする愛宕にうちもにっこりや。体が大きい相手やさかい疲れたけど、今度はノーブラ白Tシャツの生ぱんぱかぱーんやぞ。さっきのはゆさっゆさっちゅう感じやったけど、今度は押さえるもんのないばるんばるんや。お乳打ち付けられて痛いやろうに、それ以上に嬉しかったんやろうな。健康な笑顔と健康なお乳。最高やな。

 それ以来、愛宕も新しい鎮守府で気ぃ張っとったのが一気にほどけてな、うちにもなついて、みんなにもちゃあんと謝ってな。しかもそのおかげでお乳が重くて困っとる連中にも話が伝わって龍驤ちゃんマッサージ大繁盛や。お代は取らん。こっちが払いたいくらいや。

 せや。

 うちはお乳が大好きや。

 みんなうちの胸が平坦なんを気にして話題に出してくれんかったから絡めんかったけど、うちはお乳が大好きや。銭払うても拝みたいくらい好っきやねん。風呂入るときは絶対お乳を眺めやすいポジションに陣取るし、夏にみんなで水着買おうかなんて話になったら身銭切ってでも最高のを買うたる。

 大事なんは、なんぼお乳が好きでも、一線は引くいうことや。イエスおっぱいノータッチや。勿論、巨乳連中の凝りほぐしやとか、駆逐艦連中の豊胸マッサージの時は触る。触らんとできんし、遠慮したら却ってマッサージがうまくいかんから、ありがたく触らせてもらう。ありがたく言うのが大事や。そら、やらしい気持ちもある。寧ろやらしい気持ちでいっぱいや。おっきなお乳を触るときは夢いっぱいのやらしさ。ちっこいお乳を触るときはいじらしいやらしさ。おっぱいに貴賤はあらへん。おっきなお乳もちっこいお乳も、それぞれに良さがある。大事なんは感謝の気持ちや。沢山のやらしさと、そしてやましさのない感謝の気持ちや。生まれてきてくれてありがとう、育んでくれてありがとう、見せてくれてありがとう、触らせてくれてありがとう、ほんまおおきに、今後もご贔屓に、そういう感謝の気持ちでお乳の方にも良くなってもらうんが大事や。独りよがりはあかん。

 みんなも感謝の気持ち、忘れんでな。

 乳にありがとう。バストにこんにちは。そして全てのおっぱいにおめでとう。

 ってちゃうわ。なんでおっぱいの話で盛り上がっとんねん。ちゃんわ。全然ちゃうわ。お乳の話は枕やねん。枕言うても乳枕やないぞ。なんや乳枕て。自分で言っといて気になるわ。夢いっぱいやん。

 まあええか。

 そんなこんなで心広うて仲間思いで何でも解決してくれるみんなの龍驤さんやと思われとるっちゅう話でな。

 今日も迷える艦娘が来てまた面倒くさいねん。

 うちが昼飯も済ませて、式神でも作り置きしておこうかなおもうてせっせと内職しとるときやった。

 誰か来よったから今日はどんなおっぱいかな思うて出たら、おっぱいはおっぱいでも面倒なおっぱいやった。

「はいはい、どちらさんでーって加賀やんやんか。どないしたん」

 最近うちに来た加賀やんやった。

 加賀やんは実にええお乳しとる。いつもは弓の邪魔にならんようにさらしできつめにまいとるからわからんけど、風呂場なんかで見る限りは、もう、あれやな、ぼろんや。さらし解くと、その隙間から零れ落ちるようにぼろんとまろび出る。張りはあるんやけど、柔らかさが際立つお乳や。

 けど顔があかん。

 いや、顔は加賀モデルだけあって別嬪さんなんやけど、この加賀やんほんまに顔色変わらんねん。表情変えたところ一度も見たことがあらへん。瑞鶴と一緒に駆逐艦連中に交じって遊んどった時も、楽しいのか何なのかまるで分らん無表情でやけに俊敏に動きよって、あれは不気味や。

 相方の瑞鶴がフラミンゴ言う二つ名ついてるからか、この加賀やんも早々に鳥の名前で二つ名ついてな。ハシビロコウ言うんやけど。もう、わかるー、しか言えんな。

 うちもこの加賀やんの考えとることは全然わからへん。

 座布団勧めたら素直に座るし、悪い子やないとは思うんやけど。

「今更だけれどお邪魔だったかしら」

 ちゃぶ台に広げ取った式神ちゃんセット見ながら言うんやけど、抑揚があんまりなさすぎやろ。邪魔や言うたら素直にそのまま帰りそうなくらいや。まあさすがにそんないけずはせえへんけど。

「まあ手慰みみたいなもんや。気にしなんな」

 ほうじ茶淹れたったら、これもやっぱり素直に口つける。そういえばこの加賀やんは好き嫌い言うもんがないな。空母モデルはよう食うけど、個体ごとにやっぱり好き嫌いはあってな。嫌いやから食わへん言うほどの偏食は早々おらんけど、好きなもんもようわからんのはこの加賀やんくらいやな。なに食うにしても顔色一つ変えずペースも変えず、するする飲み込むみたいやから、前に隼鷹が言っとった、なんやったか、あれや、のづちだかやかんづるだか言うのがまさにそれやな。

「今日はどないしたん」

 式神ちゃんセット片しながら聞いてみたけど、加賀やんはなかなか切り出さん。かっちゅうてなに考えてるんかわからん目でじーとこっち見とるからなんか落ち着かへん。真直ぐ見返してもなんやメンチきっとるみたいやから、女は黙ってお乳を凝視や。こつは真直ぐ見るんやのうて視線をぼやかすようにして見ることやな。そうすると相手もそんなに気にせえへんし視界全体にお乳が入って悪うない。

「瑞鶴の事なのだけれど」

「ほう、フラミンゴがどないしたん」

 沈黙を破って唐突に切り出されたんはフラミンゴの瑞鶴の事やった。うちの後に入ってきた空母やけど、まあ優秀な子やった。優秀で、その上頑張り屋でな、頑張りすぎて、酷い大怪我負って帰ってきよった。あんときはもうあかんかもしれへんと思うたけど、それでもあの子はいまも戦っとる。戦うことしか知らへんみたいに、いや、ちゃうな。負けたままでいるのが気に食わんのや。

「先日から、あの娘と交換日記を初めて」

「はあ、そらまた」

 交換日記と来た。何時の時代や。けどなんや初々しゅうてええな。瑞鶴はあれで気難しいところもあるし、なんしろ頭打ってちいと健忘症が酷いから、その対処言うのもあるんやろうな。なんや、ハシビロコウもこの鉄面皮で考えることは考えとるんやな。

「少しは、仲良くなれたと思うのだけれど、最近避けられているようで」

「避けるなあ。まああの瑞鶴やし、距離感取りかねとるんかもしれんな」

 瑞鶴は気難しいし、気紛れやし、ほんで真面目や。記憶が持たんようになってからあんまり人と深くかかわらんようにしとるのも、距離感間違うて気まずい思いさせたらあかん風に考えとるからや。仲良うしとったのに覚えとらん風になったら、瑞鶴も気まずいし、何より相手が悲しい。あれはそういうの考えすぎる方やからな。

 相変わらず無表情でじっと見てくるもんやから、なんや気まずぅなって、言わんでもわかるやろうけど一応付け足しとく。

「そら、すこしは加賀やんのことも覚えてきてはいるんやろうけど、なんしろほとんどは覚えていられひん。考えてみいや。朝起きたら部屋に誰ぞ知らんのがおったら嫌やろ」

「それは、そうかもしれないわね」

「せやろ。近頃は少しは覚えてきたかも知れへんけど、多分まだどんな態度取ったらええのんかわからんのやで。日記読み直して、それでぼんやりこんなもんやろかーってなるくらいや。どっしり構えてまったりや」

 一応、なんとなくやけど、納得したような空気が感じられる気もする。運営のつこてる伝達用の合成音声の方がまだなんぼか人間らしいわ。

 そんな風に思っとったら妙な不意打ちが来た。

「実は、最近気づいたら彼女を見ていて」

「ほ」

 なんやまた初々しいのが来たな。

 思い出しながら話そうとしとるんか、ちいと俯きがちに加賀やんはそんなことを言うてくる。気づいたら見てまう、なんてまたええなあ、青春やん。うちも気づいたらお乳を見てしまうもんな。

「何かしていても、ふと見かけたらつい目で追ってしまって」

「ははーん」

 わかる。わかるで。うちもついついお乳の揺れるんを目で追ってしまう。ちっこいお乳にはちっこいお乳の良さがあるけど、あの揺れはおっきいお乳だけの特権やな。

 まあそういう話でもないか。

 しっかしなんやくすぐったなる話やな。

「何気ないしぐさや、ふとした拍子に、ドキッとしてしまって」

「ほほーん」

 いよいよもってそれらしゅうなってきたやないか。

 うちは煙草盆を寄せて、煙管を取った。吸い口を軽く咥えて考える。昔鳳翔はんからもろうたもんで、考え事するときにはなんや咥えとった方がはかどるんや。つまりおっぱい吸っとったら最高にはかどると思うんよね。

「フムン。せやな。これはもしかすると繊細な問題かも知れへんな」

 はたから聞く分にはくすぐったなるような話やけど、なんしろ本人には真面目な問題やからな。外野が面白がって下手なこと言うたらあかんやろ。

 よっし。これは定番の奴やな。

「よし、加賀やん。ちょっと想像してみいや」

「想像」

「せや。瑞鶴のな、顔を思い浮かべるんや。ほんで、それがキミに近づいて、唇が触れ合う。キスやな」

 キスするんを想像して、嫌やなかったら、ちゅう奴やな。

 案の定、加賀やんは深く考え込むようにして、自分の唇そっと触れたった。

 そこに嫌そうなそぶりはあらへん。これは間違いない。恋やな。多分。恐らく。

 嫌そうどころか他に何のそぶりも見えへんけど多分それでええやろ。いまの話から他にあったらうち怒るで。

「せや。それがキミの気持ちや」

 いい加減面倒なんもあって、言い切ったる。肝心の加賀やんの本心はいまいちわからんけど、まあこういうこと言うたれば、まあなんや自分の中で勝手になんか決めてくれるやろ。

「自分の気持ちに素直になってみるのもええと思うで」

 ほなお帰りと背中を押したれば、存外素直に出ていく加賀やん。居座られたらお乳以外に救いがないからなこのハシビロコウ。

 さって妙な圧迫感の元凶も去ったし一服しようかと煙草詰めて火ぃつけたって、ぷっかりぷかぷかぼんやりふかしとると、また来客があった。

「なんや、キミか。今日は千客万来やな」

 ハシビロコウと入れ違いで顔出したんはフラミンゴやった。ちょうどいいやら面倒くさいやら。まあきたもんはしゃあなしや。座布団勧めて、ほうじ茶淹れたって、まあ昔なじみや、前置きもいらんやろ。さっくり切り出そか。

「で、どないしたん」

「ちょっと相談がありまして」

 言いながら土産や言うてどら焼きを出してくる。わかっとるなあ。付き合いが長うてもこういう気遣い忘れんのが瑞鶴のええとこや。その点、加賀やんは抜けとるな。視野が狭いのんかもしれへん。

 早速おいしゅう頂こか。

「新しく来た加賀さんの事なんだけど」

「おーおー、加賀やんな。交換日記してるんやて? 青春やな」

「……誰から聞いたんです?」

「加賀やん」

 加賀やんと違うて瑞鶴は顔に出やすいからええ。はっきりと嫌そうなに顔を歪めて、ええなあ、こういう素直な反応。気難しいし気紛れやけど、なんやかんや顔に出やすい。こういうのもツンデレ言うんかな。おっぱいももちろん素直や。お椀型で、こう、つん、ととがったところがまたええねんな。

 煙管の灰を落として、しゃんと話し聞こか。

「まあ、その日記を見る限り、そこそこうまくはやれてるみたいなんですけど」

「ですけど?」

「視線が、ちょっと気になって」

「ははーん」

 加賀やんの視線にちゃーんと気づいとるんやな。まああの加賀やんがそんな器用に隠せるとも思えんし、大方あのハシビロフェイスとハシビロアイでじーっと見つめよったんやろな。こわっ。

「ふとした時に目が合ったりして、何だか気まずくて」

「ほほーん」

 そらハシビロコウに見つめられてるのに気づいたらちょっとびくっとするもんな。うちかてあれに見つめられた思わず身構えるわ。

「真剣な顔してたり、いつも真面目でがんばってるのはわかるんですけど」

「成程な」

 ちゅうて、身構えるばっかりでもないみたいやな。そういう、加賀やんの見えにくいええところもちゃーんと見とるんやな。ええやん。青春やん。先輩と後輩の甘酸っぱい青春やん。

 つんとしたおっぱいとふんわりおっぱいのコラボレーション最高やん。

「嫌なんか?」

「え?」

「加賀やんに見られるんは、嫌なんか?」

 試しにちょっと突いてみれば、案の定真面目に悩む瑞鶴。せやろなあ。まだ自覚的ではないんやろな。嫌やったら、瑞鶴ははっきり拒絶する筈や。そうでないちゅうことは、なんやもやもやがあんねやろな。言葉にできない、けど振り切れないもやもやした感覚。ええやん。ロマンチックやん。うちもいつもそんな気持ちやねん。言葉にできないおっぱいへの思い、けど振り切れへんもやもやしたお乳への慕情。な? ロマンチックやん?

「嫌、ではないと思います」

「せやったら先輩として受け入れてやる懐の広さも大事やな」

「懐の広さ、ですか」

 うちみたいな似非やない。ちゃーんとした懐の広さや。表面上で受け入れるんやない。しっかり向き合って、ちゃんと見てやって、考えてやって、そういうのが受け入れるっちゅうことや。あかん、自分で言っとって自分に刺さる。

 いっつもお乳やおっぱいや言うてん、やっぱり真剣にむきあっとらんのかもしらへん。うちにも本命のおっぱいくらいある。けどやっぱり向き合うのは怖いものや。それを他のおっぱいで誤魔化しとるんかもしれへん。まあおっぱい好きなんもおっぱいに感謝しとるんもほんまやけど。

「せや。あんまり度が過ぎたら叱った方がええかもしれんけど、ちょっと見てくる程度可愛いもんやないか。そのうち距離感も取れてくる」

「はあ、そんなもんですかね」

「そんなもんやて」

 たぶんな。うちもそんなこと知らへんけど、まあ、なんや、なんかなあなあでうまくいくんやない?

 そんなええ加減な内心を隠して、うちは瑞鶴を見送った。

 うちもそろそろ真面目に考えなあかんのやろか。でも、うちの相手は難しい。遠いところにおるし、強いし。けど、後輩の恋路を適当にとはいえ応援したんや。自分がなんもせえへんやったら言い訳が立たん。

 うちはあらためて式神ちゃんセットを取り出し、入念に整備を始めた。

 なんしろ恋路には障害が多すぎる。とりあえずいま遭おう思うたらカレー洋いかなあかんもんな。

 懐かしなぁ、根こそぎの名がついた時か。敵方のお乳があんまり魅惑的で、鹵獲しよ思うて他全部根こそぎに平らげて連れて帰ろうとしたんやけど思いの外本気で嫌がられてうちはショックで放心するわ逃げられるわ提督はんにわかったような顔で肩叩かれるわ。おかげでうちはお乳への感謝の気持ちを改めて刻まれたし、いまも恋心がうちのまな板をうずかせるんや。

 久方ぶりに根こそぎの龍驤見せようか。

 全部揃えて押し並べて、根こそぎこそげて平らげて、愛しいあの子に遭いに行かな。


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