垢のように耳にこびりついたとある賛美歌。
頭の中で知らない子供達の声がらんらん、と延々に再生される。
子供達が手を繋ぎ、円を作りながら、賛美歌を口ずさむ。
中央には頭を抱えた少年がいる。
ねぇ、サンクチュアリィ、もう帰ろうか。ここは少し寒すぎるんだ。
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出来損ないのストロベリィパイ。
下手な例えがいらないというのなら、
僕がこの先どうこのガラス越しの物体を熟慮したとしても…
膨大な肉の塊だ、としか言えないだろう。
色鮮やかで極めて健康的な世界に慣らされた
僕の脳は“それ“をそう評した。
「すげぇだろうこれは、なにに見える?」
たった今考えていたことを斜め前の男に問われる。
つい数時間前に出会った男にさぁと答えるのも無礼なので、
僕が適当に廃棄肉と答えれば彼はグヒ、と厭らしく笑う。
「まァそうだよなァ……ハズレなんだけどよ」
不意に男がくい、と顎を捻らせる。
手元の1センチほどのぶ厚さの
資料が挟まれたクリップボードを見ろという指示だ。
僕は大人しくそれに従う。表紙の真っ白な紙には几帳面そうな
フォントで「Eve database of」とだけ書かれていた。
ぺらりと表紙を捲れば体が自然と拒むほどの文字列が余白を
許さないとばかりに敷き詰められており
「見やすさ」という言葉を
馬鹿にしたようなものにすら思えた。
「適当に真ン中捲ってみろ、それがアイツの正体だ」
言われた通り適当に資料を捲ってみれば、そこには
先程通りの敷き詰められた文字の羅列───に
縦に並べられた女性たちの写真だった。
1ページに四人ほどの間隔で並べられていてその横には
生年月日、氏名、職業、家族関係から性格まで彼女達の
事細かなな詳細が書かれているようだ。
それが、アレの正体?
「あの肉の塊はそこにいる200…247?だったか。
その女達をツギハギしてつくられたバケモノなんだよ」
「ここの研究所の末期のド変態がよォ…
あァここの所長でもあるんだが、それにしても
異常な性愛の持ち主でな、
『穢れない、美しい女達の集合体をつくりたい』
って言い始めたのがこのザマらしいぜ」
理解し難い、理解してはいけない
世界が次々と頭の中に入り込んでいく。
どう叩いたとしても破ることは不可能だと
見たくれだけで判断させる厳重な防弾ガラスを前に、
僕は呆然と立ち尽くしたままだ。
ガラスの向こう側は化け物がいるには相応しい
”地獄“と形容するには輝く白いタイルが
あまりにも清潔的すぎるだろう。
そして明日僕は、この防弾ガラスの中に入っているのだ。
獣のいるケージの中に入れられる恐怖とは違う。
これは得体もしれない人間に手術台に縛り付けられ、
臓物をまさぐられる、そんな気分だ。
男がなにか言っているが下卑た笑い声と混じり混じりのその言葉は
だんだんと遠のいてゆくように感じた。
ショート寸前の頭は思ったより冷静で、僕は手元の資料に目を通す。
機械的に自分の頭が目の前のそれを読み取っていく。
シャマロー州 ビアンカ…趣味は園芸…天秤座…夫と息子を持つ…
バージナル州ホワイト…14歳…学生…ピアノで何度も金賞を受賞…
…スムージー州…アクエリアス…パルレモア…カトリィヌ…
ふ、と僕の意識はそこで途絶えた。
────“彼女のゆうに高さ4m、幅5.5mを超える巨体は
被験者達約257人の肉体の集合体であり、移動や
欲求的行動は可能とされている。また発声や
被験者個々の個性や感情の乱れなども観測されている。
257の心臓とその他臓器が兼ね揃えられていて、
転がり這いずり回るといった移動方法や粗放たる
処置からほぼ皮や肉が剥がれていて
被験者の個々を確認できる顔面部分は極めて少ないとされている。
また性器や排出器官などが剥き出しなため常時排泄物が
分泌されている。
擦り切れた皮膚や継ぎ接ぎ部分の解れなどの
傷口を含め一日10ℓ以上の出血をしているため
医務班と清掃人はそれらを踏まえた上で
一日最低5回の医療的処置また清掃活動をするよう懸念してほしい”
(「Eve database of」26項 「生態分析」の一部より引用)