【完結】Why will the hardship take me? 作:雷電p
―――四肢を掴まれ、切り離されることから果して逃れられると言えるだろうか―――
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[ 某所 ]
ここは、とある雑居ビルの一室。その中では数人の女性とそれを遥かに上回る男たちが入り交じっていた。
一見、ここまでは他と何も変わらないように思える。だが、閉ざされた釜の蓋を取って覗いてみると、その実態を知ることとなる。
肌を打ちつける瑞々しい音。
人の汗が蒸発し、むさ苦しくなる熱気。
女性たちの喘ぐ声―――
普通の会社では見ることのない光景だろう。だがしかし、ここだけは違った。異質とも言えるこの空間に収まる人々は、一般人でも普通の会社員でもない。
彼らはとある人物によって招待され、悦楽的な催しにその身を投じ酔いしれていた。彼らの視線と興味はある一点に集中する。その先にあるのは―――
衣服を投げ捨てられ、淫らに男たちの欲求発散の道具と成り下がった哀れな女性たち。歳は10代近くの学生だと見られる。若干の初心な部分を残した姿と、瑞々しい乙女の肌をした彼女たちは、汗まみれで薄汚くドス黒い感情に包まれた男たちに弄ばれる。
彼女たちの恥部と言う恥部をくまなく荒らされ、聖域と呼ばれる部分ですら躊躇のかけらもなく犯し捨てる。
彼らに抵抗しようと、身体をあらゆる方向に捻じらせる子もいた。が、そんな子に限ってどの子よりも激しくいたぶり屈服させようとする。乳白な肌が真っ赤になるまで叩き付けられ、激痛のあまりに涙する者もいた。
ここには法もなければ、秩序もない。いわゆる無法地帯とも呼べる空間が広がるばかり。そこに投げ捨てられるかのように置かれた彼女たちは、まさに獰猛な野獣どもの格好の餌。彼女たちの持つ肉体、精神、そして希望さえもが彼らの糧となり呑みこんでいく。彼らにとって、希望を抱いた女性は最高の餌である。そんな彼女たちから希望を取り去り、絶望しきって堕落していく様子を眺めることこそ至福の一時と思えている。
現に、絶望を抱き喘ぎ叫ぶ1人の女性を眺めて、男たちはせせら笑った。また、それを眺めて性的興奮を向上させていく者さえいる。
この光景こそ、まさに地獄。
果てしなく続く絶望の谷間に引かれていく哀れな女性たちの断頭台。肉体的な死ではなく、精神的な死を植えつけられる苦痛な場所。一度くぐれば、二度と日の目を見ることのできない生き地獄。
この門をくぐり、転落人生を送った者たちも少なくない。いまでも、ことあらば男たちの手に掛かり、完膚無きままに犯され搾取し続ける。たとえ、彼女たちが幸福な人生に戻ったとしても、だ。
彼女たちは一度はめられたその枷を自分で外すことができず、ひた隠しにしたとしても、枷にまた鎖が繋がれ奴隷的人生を繰り返す。どう足掻こうとも抜け出すことのできないアリ地獄そのものだった。
その光景をまるでひとつの見せモノのように眺める1人の男。この男こそ、男たちを自在に操り、彼女たちを突き落とした張本人。不気味な笑みを浮かばせてその様子を眺める姿は、まさに悪魔。奈落の底のように冷たく突き刺す瞳からは熱を一切感じられない。あれは、人を人として見ていない目、家畜かそれ以下にしか捉えないのだろう。
故に、このような非道を平然と行う。
冷酷な支配者はせせら笑い、眼前の光景を遊楽の一種として愉悦する。
TLLL……
「私だ―――」
悦楽な一時に水を差すかのようになる電話。雑音でしかないそれに不愉快になり小さく舌打ちつつも電話を取る。部屋の中で反響する淫猥な声をBGMに彼は躊躇わず話をする。
『私です、本部長』
「そうか、キミか―――。で、次の獲物は決まったか?」
『はい、NO.12943です』
「確認する―――ほぉぅ……悪くない……」
『下情報はお持ちの資料に記載されているかと』
「把握してる。なるほど、なかなか優秀そうな逸材がいるようだ……」
『人気上昇中で大方本選に入ると思われます』
「そうした輝く存在だからこそ、堕とし甲斐があるというものだ……あの時の彼らのように……」
『では、今回の案件も……?』
「私が引き受けよう。彼女たちだけではなく、ここの学校そのものを取り込むことまでやるとしようか……」
薄気味悪い笑みを浮かばせると、通話を遮断した。それと同じくして、弄ばれていた彼女たちが再び絶頂し、息絶え絶えに果て堕ちる。それを快感な思いで見届けると、男は資料を置いてこの場所から去ろうとする。
「今日も彼女たちの特別ライブは大盛況に幕を閉じたようだ。金を置いてく豚共のいい肥やしになったことだろう……」
冷淡な言葉で傍に控える部下にそう言うと、言伝を与える。
「彼女たちを丁重にお返ししなさい。あのように醜く卑猥な姿でも、学校では、世間では皆を魅了する――アイドルなのだから。そも、
そう言い残すと、彼は部下を置いて立ち去った。
やさしさのかけらもない言葉を吐く男の顔は、部下の目でさえもおぞましく感じさせた。同じ人間とは思えない
冷酷な姿に全身を震撼させた。だからこそ、この男には逆らえなかった。逆らえば、どのようなことになるのかを知っているからだ………。
そして、男の次の目標に捉えられたのが――――
『国立音ノ木坂学院高校』
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[ 音ノ木坂学院・広報部部室 ]
あの日から、また幾日も過ぎていった―――
私は短いながらも心に秘めていたこの想いに別れを告げ、普段と変わらない日常を送っています。おかげで、気持ちに落ち着きを取り戻すことができましたし、何よりこうして生活していられるのですから。
そうしてくれたのは、他の誰でもない明弘さん――私の大好きだった人。
別段、彼のことが嫌いになったわけではありません。あはは、変な話ですよね? 好きじゃないのに嫌いじゃない、ちょっとした矛盾のように聞こえもします。今でも私は、彼のことを好きだと思っています……良き友人として。ただ……彼に恋する気持ちを諦めた、そんな感じです。
本当なら、この気持ちを早く伝えたいと思いました。ですが、彼が私に対して抱いていた想いと言うのは違っていました。彼は私のことを恋愛対象に見てくれていませんでした。あの時私に聞かせた言葉は、私にそう告げているのだと感じたのです。
それでも、伝えたいと言う思いはありました。けど、それは彼にとっては苦しいモノにしかなりません。私がここで諦めておかなければ、いずれ私は、あの日の惨劇のように自我を失ってしまったことでしょう。不覚にも、私も同じような兆候があったのでした。
だから、と言うのもなんですが、いまの私はこうした道を進んでいると言うわけです。こんな私ですが、それでも明弘さんには苦労はかけたくない、あの人を傷つけるようなことをしたくないと思っての決断なのです。自我を失って傷つけて嫌われるようなことがあったら、それこそ私にとっての不利益。
気持ちがどう変わろうとも、好きなんですよ、私は………。
「……さて、辛気臭いのもこれくらいにして、早速準備に取り掛かりますか!」
手の平同士を、パンッ、と叩いて気持ちを改め直しまして、パソコンの電源を入れます。いまから何を行うかと言いますと………
「カメラよし! マイクよし! さて、すべてが順調に機能しているか確認開始です♪」
パソコンモニターに映る映像、セットしたイヤホンから流れる映像からの音声。それもそのすべてが校舎内を指しているのです。
そう、いまから行いますのは、いつかの小型カメラと集音マイクのチェックです!
私はこれまで学校中から様々な情報を手に入れるために、あの手この手で各所にこの2点を設置したわけです。おかげさまで、様々な情報を入手できましたし、活用もさせていただいております。それに、生徒会からも暗黙の了解として承認させていただいてますし、今回新調しましたものも生徒会から横なg…追加申請しまして手にしたものです。
ん、何も変なことはしておりませんよ? なにも……ね?
広報部としての表向きな活動とその“裏”の姿。これこそ“裏”広報部であり、この活動を通して人の弱みなどを手にする、そんな部活なんです♪
あっ、以前にもお話いたしましたが、部員は実質私のみとなっております。ですから、やりたい放題ができるわけなんです。しかも、部長ですしね♪
「ではでは、早速各所の様子を確認といきますか!」
気合を入れた指先でキーボードを弾き、指定された場所の映像を映し出す。設置角度や解像度など基本的なモノを確認してから次の場所へ。それを何度も何度も繰り返していく流れ作業。どれひとつとして取りこぼさないようにとモニターにへばりつくこの作業が重要な仕上げなので、普段よりも神経をとがらせるのです。
「……よし。職員室も確認できましたね。あと、もう少し……」
二十数個目のカメラ、確認終了。
チェック項目に、異常なしと記載させて、また次のカメラを準備します。
今回、新規に設置しました個所は割と面倒な場所で、先程のように職員室の誰の目も届かない場所であったり、体育倉庫でしたり、はてまたや更衣室でしたり♪
あ、そうそう、理事長室にも設置したのですよ。アレは大変でしたねぇ……。常に理事長がそこに居座っていますし、ヘマを仕出かせばどうなることやら……。
しかし、夏休みに入っていて本当によかったですよ。生徒も教師も少なく、見回りが手薄になる。そんなタイミングを見計らっての行動でしたので、冷や汗ものです。
さて、では早速その理事長室の方を確認といきますか……
次の画面を表示させるため、入力を急ぎ打ち込ませます。準備中…の表示を眺めつつ確認項目の内容に目を通しておきます。今回のところも何事もなく過ぎるでしょう、そう思っていた矢先でした――――
『何なのですか、あなたはっ――――!!?』
「ひゃあっ!??」
ギンッ、と耳をつんざくような音を耳にした瞬間、思わず身体をのけ反らせてひっくり返ってしまいそうになりました。いったい何事かと乱れたイヤホンをつけ直しモニターを確認しますと、どうやら理事長が誰かと電話をしている様子で……。
それも、これまで見たこともないくらいの剣幕をしてますので、こちらにまで緊張が走ります。
「あの人をそこまでさせるなんて……ただ事じゃなさそうですね……」
ことりちゃんの母親でもある理事長は、普段から温厚そうな姿で振舞ってました。μ’sの活動やそのほかの部活動に励む我々生徒を温かく見守り、尚且つできるだけの支援を行ってくれた人。そんな人がどうしてあそこまで……?
そう思うと、自然と身体がその様子を捉えておこうと録画の準備を開始させた。それと同時に、電話の相手の声が聞こえないかとマイクを調整するのでした。
「―――ん、聞こえてきましたね……」
先程のような耳を痛めてしまう音にならないよう慎重な調節を行った結果、電話越しから漏れ出てくる声が聞こえ始めた。雑音を多く含んでしまいますが、この際仕方ありません。
ですが、そのおかげでその声を聞くことができるのです。
『―――ですから、我々があなたの学校に資金を援助致しますと言っているではありませんか。決して悪い話とは思いませんがねぇ……?』
「男の声……?」
耳元に入る若そうな男性の声。若干の渋いトーンが含まれているのを聞くと、決して若くはないと思われ、大方30代前後の相手なのだと推測。ただその人を煽り立てるよな喋り方をするため、苛立ちを隠せません。
しかしです……その男の話に神経を尖らせてしまう。
資金を出す…? 学校の現状も含めてですが、それを言いだすこと自体不自然に思えます。
すると、男の口調に嫌気をさしたのでしょうか、眉間にシワを寄せ始めた理事長はまた怒声を発しました。
『ふざけないで! いきなり電話をかけてきて、何の前置きもなく資金援助の話を持ちかけてくる相手を信用できますか?! 悪戯なら電話を切らせていただきますよ!』
『ほぉ……強情ですねぇ……。私は潰れかかっているあなたの学校を助けたいと思って、こうしてお話を持ちかけているのですがねぇ……? それに、このままどこからの支援も受けずに学校を御潰しになるおつもりですか?』
『させません。現状でも継続は可能の域にあります。それにあなたがたの他にもこの学校に支援を行ってくださるところもあります。あとは、このまま入学希望者が増えれば……』
『フフッ……確かに、あなたにとってはさぞ嬉しい話でしょうねぇ……。ですが……もし、その入学希望者がいなくなったとしたら…?』
『……っ!? な、なにを……!!?』
その刹那、理事長の表情が一変したのです。
睨みを効かせるような鋭い目付きが、一瞬にして驚愕なものに変わったのです。誰も予想しなかった言葉、まさに意表を突くかのように襲いかかってくるようです。
無論、私も思わず声に出してしまうほどでした……。
男は続けて言うのです。
『学校の評判が落ちるようなことがあっては大変ですよねぇ? たとえば……在校生が何者かに襲われてしまった、とか。そんな噂が流れたら嫌ですよねぇ? あぁ、そうそう。確か、生徒の中にはあなたの娘さんもいらっしゃいましたよねぇ? もし、そうなったらさぞ―――』
『やめて……。わかったわ、取引をしましょう……』
『さすが、理事長。話が分かる人で助かります。では早速、明日にでもお迎えに上がらせていただきますので―――』
そう言い終えると同時に通話が途切れる。
終始、嫌味ったらしい口調で、尚且つ揺さ振りかける言葉で確実に追い込んでいた。
それを表すかのように、理事長の手から受話器がすり抜け床に落とすと、両手で顔を覆い隠しうなだれた。
『あぁ……どうしたらいいの………』
指に前髪を絡ませ、ギュッと握りしめつつ苦悩する声を喉から絞り出していた。
顔面蒼白、身体も小刻みに震えており、決して良い状態とはいえません。なにせ、生徒のことを――特に、ことりちゃんのことを引き合いに出されてはどうしようもありません。
親である以上、娘を大事に思うのは当然のこと。それを正体不明の相手に知られているというのは、実質、人質にされたようなモノ。ましてや、全校生徒もその中に含まれているとなれば、自らの立場上、下手な動きはできません。
「……相手は、恐ろしいほどに狡猾……油断できませんね……」
親指の爪を噛み擦りながら、いま映るこの映像を記録させていくのでした。
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「―――と言うことがあったわけですよ」
その時の様子を振りかえるように、その時の映像を蒼一さんと明弘さんに見せるのでした。
「ほぉ……まさか、そんなことがねぇ……。典型的な脅迫を迫るだなんて、ホントふざけた野郎だなぁ……」
腕組みしながら眼前の映像を注視する明弘さんは、抑えた声で言うのです。
しかし、それは表面的な捉え方。彼が語ります言葉を注意して聞きますと、下から這い上がるような私怨が籠っていることは言わずとも理解できました。それに、目を細めて澄ました顔をするのですが、わずかばかり開いた瞼から見える黒い瞳は笑っていないのです。
冷たく突き刺す視線だけで殺されてしまいそうな、強い殺気を感じさせるのです……。
その彼の隣に立つ蒼一さんも同じく、静かなる殺気を放たせて沈黙するのです。
風神と雷神…もし、いまこの2人が暴れるようなことがあれば、誰も止めることはできないでしょう……そう予見させるのでした。
「しかしなぁ、このやり取りを聞いていると、何か他に裏がありそうな気がしてならねぇ。もしかしたら、今回も一連の事件に関係のある組織が動いてるかもしれない……」
「そ、それは、まさかっ……!」
「まだ確証はねぇさ。けど、音ノ木坂の生徒を襲うことができるほど余裕があるとなれば、自然と思い浮かんでしまうんだよ」
険しい表情の明弘さんが話す推測。過去に私を含めた生徒を襲ったケースがある、また他校の生徒も被害を受けている現状もある。だとすれば、その推測はあながちあっているのだと心の針がそちらを指すのです。
「しかし、何故このタイミングでいずみさんに電話するんだろうなぁ? 女が欲しけりゃ、道端のをとっとと襲っちまうのだと思うのだがなぁ……。なんでしない……?」
「それもそうですね……。ですが、単に金を貸し出して、一定の時を迎えたら搾取する一般的な闇金のとは違うのですかね?」
「金目的ならな……嫌な予感しかしねぇな……」
明弘さんは顎に指を添えながら考えを想い廻らせている様子。私も、この映像を見る限り、沸々と胸の辺りが痛みにあいます。もしも本当に……
けれど、すでに始まってしまったこの危険から回避することは困難と言えるでしょう。我々ならまだしも理事長ですから、自然と神経を尖らせてしまうものです。何とかならないものかと、私も考え込んでしまうのです。
その時、ふと思うことが。
「どうしたのです、蒼一さん? そんなに黙り込むなんて?」
「む、すまん、考え事をしていた」
声を掛けますと、蒼一さんは悩みから覚めたような目付きで返事をしてくれました。
さっきから、ジッと黙り込んでいるのが長く感じがしまして疑問に思ったのです。確かに、宗方さんは明弘さんと比べたら会話に口を挿む方ではありません。ですが、今回の場合は蒼一さんからも何か意見が出るはず、そう踏んでいましたので不思議に感じたまでです。
「何を考え込んでいたんだ、兄弟?」
「いやさ、この映像から聞こえる男の声に聞き覚えがあってな。ただ、それが誰だったのかがハッキリとしないんだ……」
「聞き覚えがある…? いや、俺にはわかんねぇなぁ」
「そうか……まあ、どちらにせよその男の正体を知ることになるのだから、今はいずみさんのことだ。なあ、洋子。いずみさんはまだ校舎内に?」
「いえ、すでに帰られたみたいです。とても覇気のない様子でしたね……」
「そりゃあ、そうだろうよ。あんなことを言われちゃあ気分ものらねぇよ」
「そうか、それならいい。なら、俺たちはその算段でも立てるしかないな。いいな、2人とも?」
「おうよ! とりあえず、行動あるのみだ!」
「私にできることがあれば言ってください。支援ならばお任せください」
「頼もしいな。それじゃあ、俺の考えを伝えよう―――」
...Hope is there for...?