【完結】Why will the hardship take me? 作:雷電p
―――あぁ、この身体はあなただけのものだったはずなのに―――
[ ビル最上階 ]
エレベーターの到着音が通路に響く。
鉄の扉がゆっくりと開きだすと、そこには黒服の男2人に挟まれて立つ音ノ木坂学院理事長、南いずみの姿があった。
彼女は両端の男たちに連れられてこの場所に来た。そして、これからこの先で待っているあの男と話をする、それを目的として彼女はここに立っていた。
だが、それは彼女が望んだことではない。すべてあの男が無理矢理つくらせたシュチュエーションである。それも脅迫と言う下衆な手段を用いて、だ。
だとしても、彼女は逃げることなどできない。すでに、あの男の手中に収まったも同然の状況に陥っているのだから足掻くには無理がある。あの男が用意した場所、あの男の部下と思わしき男たちが廊下に複数人立っている。身体的にも劣る彼女には、到底覆すことができない状況なのだと嫌でも理解させられる。
まるで彼女は籠の中の鳥―――。
この意味が何を示すのか、彼女もまた知るよしもなかった。
彼女たちは黙って通路を真っ直ぐ進み、一度左に回ると目の前に扉が現れる。
本部長室。このフロアに、ただひとつだけある部屋の扉。ここにあの男がいるのだと直感し、身震いさせる。
「本部長、お連れしました」
隣の男が部屋をノックし、声をかける。それに時間をかける間もなく、部屋から『入りたまえ』とあの若くも老いも感じさせる中堅な男の声が聞こえてくる。
ビクッと、また身震いを起こす。
彼女の緊張がはちきれんばかりに胸を叩く。焦りと恐怖が織り混ざったこの感触に寿命が縮まりそうな気持ちに駆られる。脚が太ももから脚先にかけてまで小刻みに震えさせるが、靴先は向きが変わることはない。彼女の首に繋がれた見えない鎖が自由を奪い、引っ張られてしまう。
その鎖の向こう側は、扉の向こう側に――――
扉が開く――――
ギシッと、金属同士の接触音に刺激されるも扉は変わらぬ動きで開いてみせる。「入れ」と黒服に言われて、彼女は覚束ない脚で中に入る。彼女が入ったのを見届けると、黒服は扉を閉め、2人揃って扉の前に立ち構えた。
一方、彼女は部屋の中にただひとり入り込むと、広々とした空間に佇むこととなる。男の趣味趣向なのか、そうしたモノがそれとなくな感じで配置、装飾されている。その先に、外を一望できる天井から床まである窓が部屋の端から端まで伸ばしていた。そして、その窓の前を特等席のように仕事机を構え、イスにもたれるこの人物が例の男だ。
「これはこれは南理事長。よくぞお越しくださいました」
「………っ! どの口がそう言うのよ……!」
「おやおや、怒る表情もなかなかに美しいですねぇ……やはり、こうして生で見ると一層魅力的に思えますよ」
男は何食わぬ表情で彼女に近付き始め出すと、そんな彼にいずみは顔をしかませて威嚇する。が、彼にとってそれはただの余興に過ぎなかった。彼が頭の中に潜ませているこれからのことを考えると……だ……。
「自己紹介させていただきますね。私は、ここラブライブ実行委員会の本部長を務めてます、
からからと音が鳴りそうな声で話し、歪んだ表情から見せる狂気的笑みは何とも不気味でしかなかった。
―
――
―――
――――
[ ビル内 ]
「――ここも異常なし。明弘、そっちはどうだ?」
「問題ねぇ、ここら辺の警備は割と手薄のようだぜ」
ビルの裏手から侵入を図った蒼一と明弘は、すでにビル中階にまで足を運ばせていた。エレベーターでの移動を危うくしたため非常階段を伝って昇ったためここの社員とは出くわすことはなかった。それでも、2人の警戒態勢は常に厳重なモノで、例え遭遇しても瞬時に息の根を止めることが可能だった。
『――蒼一さん、明弘さん。その階には、このビルの制御管理室があるみたいです。一旦そこに入ってもらってもよろしいですか?』
「了解した。距離が近ければすぐに潜入できるはずだ」
「けどよぉ、そんなところに入って何をするって言うんだ? とっとと、いずみさんのところに駆け付けていった方がいいんじゃねぇか?」
『確かに、それが目的ですからね。ですが、いくら助けだしたとしても帰れなければ意味がありませんし、それに仲間を呼ばれるようなことがあればもっと混沌となります』
「つまり、敵の情報連絡網を一時遮断させて、あっちだけが混沌に落ちるよう仕向けるってことか。わかりやすい」
「俺はどっちでもいいんだけどなぁ。敵が多かろうと強かろうと、ただブッ潰せばいい簡単な御仕事だからなぁ」
2人は静かな殺気を立たせ、洋子の話に耳を貸した。当然、2人はそれに同意、瞬時に実行できるよう姿勢を改めるのだった。
「正面2人。一発で仕留めるぞ、明弘」
「了解♪」
視界に入った2人の黒服を捉えると、物音立てず背後に忍び寄る。
ドスッ――――
「「――――っ!?」」
「兄弟、ここがそうらしいぜ」
先行した明弘が制御室の場所を特定すると、気絶した男たちを隠す処理を行った蒼一は、一足遅く合流する。それを確認すると、明弘から中に入り人数を把握する。
空間は左程広くはないが、巨大な機材のせいでかなり狭く感じられる。そこを男たちが数人、モニターに集中したり、歩きまわったりとまちまちだ。ただ、彼らにとっては何も気にすることなど無かった。
雑音を立たせないよう、ジェスチャーを用いて互いに意思疎通を図る。指で敵の人数を報告、そのまま互いがどちらの方向で何人潰すのかを指示しあった。そして、お互いの意見が合致したのを見計らって行動を仕掛ける。不意を突かれた男たちは、抵抗することさえできないまま倒れるのだった。
「室内クリア。洋子、これでいいか?」
『上々ですよ、蒼一さん。では、早速遠隔操作を行うので、そこのサーバーIDをこちらに送ってください』
「わかった、写真を送信する」
洋子に指示された通り、パソコンサーバーと呼ばれる機械の側面に書かれたIDを撮り、それを送信した。受け取ったのを確認したのか、インカム越しの洋子は行動を起こす。しばらく洋子からの爽快なタイプを耳にすると、モニター上に映し出されたモノが切り替わり始める。
『――サーバーのハックに成功しました。これでいつでもサーバーダウンを起こすことができます。それと現状ならば、パスなしですべてのファイルが閲覧可能状態にもなりましたので必要ならば…』
「サンキュ、洋子。それじゃあ、時間があるだけ確認させてもらうぜ」
そう言うと、明弘は早速、立ち上がっているパソコンのひとつを操作し始める。モニター内のフォルダーをいじってみると、たくさんの報告書らしきものが、ずらりと並ぶ。しかも、表示された名前を見ると怪しげな感じしか抱けないモノばかりだ。
「『対象商品報告書No.7』か……嫌な感じしかねェな……」
明弘は目に留まったフォルダーを開き、確認しだす。
すると、1つの書面のファイルと100を超える写真が表示される。写真サムネが見えないままにあったため、パッと見ではどんな写真なのか把握できなかった。そのため、写真をクリックし拡大させた。
「―――――ッッッ?!!! な、なんなんだ、これはッ!!!?」
表示された写真に向かって荒げた声を上げる明弘。そこには、彼の範疇を越えるものばかりが映し出されていたのだ。
「な……なんでこんなっ……! くっ……クソがっ!!」
次々と表示される写真に激を吐き散らす。彼が見たモノ……それは、年端もいかない女の子たちが男たちに犯されているモノだった。
身体中を舐めつくすように触られ、身に纏う服を引き千切り、そこから露出される瑞々しい肌を愛撫される。そして、華奢な身体に向かって卑劣な肉弾が突き付け可憐な華を散らさせた。
様々な角度、体位、趣向が尽くされたやり方で彼女たちの身体はみるみる壊れていく。新しく買われたぬいぐるみが、雨降る街中に落とされ、行き交う人の脚に踏み蹴られ何度も地面を這いずり回され壊れていく。美しく着飾られたのに、次見た時には、ゴミ同然のようなみすぼらしい姿になっている……。穢し尽くされ、傷付き果てたそれに、もはやぬいぐるみとしての価値はない。
それと同じように、この写真に写された女の子たちも穢し尽くされていく。弄り、痛め尽くされた身体は、本来の女性のそれとは到底言えぬもの。女としての誇り、美しき肢体を玩具以下の扱いで穢されたのだ。
女の子たちは抵抗もできないまま男たちのいいなりになり、彼らの欲求のままに壊され続けられた。そんな彼女たちの理性は壊滅していることだろう。写真に写る男たちが行った恥辱、屈辱、凌辱の限りのそれに女の子たちの表情が崩れ落ちていた。撮影時間を見る限りでは、半日以上もの時間を要して行われたらしい。ボロ雑巾のように打ち捨てられたような最後の写真が、この惨劇のすべてを物語っているようだった。
明弘は我慢ならない気持ちでいっぱいとなる。沸々と湧き上がったこの怒りをこの機械にぶつけてしまおうかと思うほどに、だ。彼のような人ほど心を圧迫させてしまうこのおぞましい光景。それが現実に行われていたことが腹立たしくてならなかったからだ。
しかも、それだけじゃない。さっき彼が見たフォルダーには、このファイル以外にも数多くのものが置かれてあったのだ。とすると、ここに映された女の子たちの他に被害を受けた子たちがいる、そう考えれば考えるほど激痛に変わっていくのだった。
『明弘さん……この女の子たち、みんな学生らしいです……。しかも、スクールアイドルを行っている子たちが半分以上いるとのことです……』
「なん……だとっ……!?」
『経緯はいろいろあるようなのですが、辿ってみればどれも同じようなモノばかり……。人の弱みに付け込んだ汚いやり方ですよ……』
「くそっ……! なんてヤツらだ……女は……女ってのは、己の欲望を発散させる道具じゃねぇ……愛でるもんなんだ……。それがわかんねぇなんてのは、ケダモノ以外の何物でもねェんだよ!!」
ダンッ―――!
鈍器のような重い残響が部屋を揺らす。明弘の振り下ろした腕が台を強打したからだ。部屋に残響するこの鈍い音が彼の怒りの数値を表しているようにも思える。
彼にとって、写真に写された異性が悲惨な目にあうことを嫌悪すべきことと捉えている。絶対拒絶とも言ってもいい。それこそ彼は、これまで多くの理不尽に立ち向かってきた。己の信念を曲げることなく、この身を懸けてまでも貫いてきたことなのだ。
だからなのだ。彼がこうして憤怒するというのは、つまりそう言うことなのである。
『どのファイルも確認をしてみましたが、写真と共に添えられていますどの報告書の中にも「小木曽勤」の名前が記載されています……とどのつまり、これらすべてはあの男の仕業……』
「くっ………小木曽のやろぉ……あんな澄ました顔の奥に、こんな腹黒いものを隠しやがって……赦さねぇ……見つけだしたら叩き潰してやらぁ!!」
明弘の憤怒は頂点に達しようとしていた。これらすべてがあの男の仕業なのだとハッキリしたことからさらに強くなりだす。
というのも、彼はあの男を知っている。それも顔見知りと言うほどではなく、かなり親しい仲にあったのだということが伺える。その関係性に気付く洋子なのだが、怒る彼から聞くことはできないと軽い唇を封じたのだった。
「――ん? そういやぁ、兄弟の声が聞こえないが……おい、兄弟。どこだ?」
ふと、自分の相方の様子が分からないことに気付いくと、辺りを見回し始めた。だが、どこを見ても蒼一の姿はなかったため、不思議に思い始め出したのだ。
『そういえば、確認してませんでしたね。サーチします』
「おう、頼む。兄弟のヤツ、どこに……ん?」
相方の現在地を洋子に任せていると、さっきまで使用されていた形跡のあるパソコンを見つける。何かあるのだろうかと、近寄ってその内容を見た。
「――――ッ?!! こ、これはっ!!?」
目に映り込んだそれに思わず声を上げる明弘。
そこに表示されていたのは、なんと全国のスクールアイドルの一覧だった。全国レベルの実力者、A-RISEなどの名もあれば、無名のグループまでのすべてがそこにあったのだ。だが、それだけじゃない。それと共に書かれてあったのは、『ターゲット』の文字。つまりそれは、先程見たとあるスクールアイドルたちが犯される、と言うモノだった。
「まさか……ここに付けられているすべてが対象だと言うのか…?!」
彼はその内容を見返し、戦慄を際立たせていく。『ターゲット』と付けられたアイドルたちは、どれも魅力的な姿をした女の子たちばかり。しかも、その一覧の中には、A-RISEとμ’sの名前もハッキリ付けられていた。
そして、彼を酷く震わせたのは次の項目だったのだ。
「なに……『次の目標:μ’s』……んなっ?! なんだって!!!?」
なんということか、まさか自分たちがその対象になっていたとは思いもしなかった。さすがの彼もこれには言葉を失ったのだった。
『それだけじゃなさそうですね……どうやら、学校自体を呑みこもうと企んでいるようですね……』
「……っ?! どういうことだ?」
『これを見ている限りでは、経営が傾きかけている音ノ木坂をあえて手助けする名目で資金を流す計画が練られていたようです。しかも、その見返りに……』
「通っている生徒をいけにえにするってか……外道がッ!!!」
溜まった怒りがまた爆発する。
彼が今まで見てきた中でも、最低最悪なやり方であったからで、しかもそれが自分たちの支えている学校にあるということにこの怒りを抑えきれなかったのだ。
『明弘さん……憶測かもしれませんが、アキバで起きた一連の出来事と言うのは、もしや……』
「もしやじゃねぇな……これは間違いなくコイツらが仕組んだことだ。コイツらが暴漢どもを操り襲わせている。そして、蓮花ちゃんのようないたいけな少女たちをモノのようにしてきやがったわけだ……」
『目的は……目的はなんなのでしょう……? こんなことをしても意味なんかないはず……』
「わからん。けど、ひとつだけわかるのは……これらすべてを統括しているあの男を必ず消さなければならねぇってことだ……」
収まりきらない怒りは、憎しみとなって顔に浮かび出る。彼の思想とは真逆のところにあるあの男とこの組織にただならぬモノを抱いているようだった。彼は全身に力を込め出し、いまにも握りしめたその拳を振り降ろさんとしていたのだ。
「……ん、なんだこれは?」
明弘は、ふと、モニターに映るもうひとつの開かれたファイルに目がいった。先程のファイルに重なって、すぐには見えるものではなかったが、どうしてかいまはハッキリと見えたのだ。まるで、見ろと言わんがばかりに……
「『プロジェクト・ロンギネス』……? 神殺しのあの槍のことか?」
何とも意味ありげな名称を持ったそのファイルに、彼の意識が注視される。彼はそのまま、数十ページにも及ぶ書面に目を通し始める……すると、そこには………
「……なん……だ……と………?! そうか……そうかだから! だから神殺しなんざ奇妙な名称だったのかよ……」
『明弘さん? どうしたのですか?』
「ようやくだ……ようやく見つけたぞ……因縁の相手を……!!」
その刹那、部屋の中の空気が激しくブレ始め出す。痺れるような電流が飛び交うみたいな、緊迫感が最大圧縮されるようなプレッシャーに覆われたのだ。それもみな、すべて彼から出てきたもの。彼から言葉では言い表せないプレッシャーがこの場の空気を変えたのだった。
その場に居合わせない洋子にも緊迫した雰囲気に呑みこまれそうになっていた。
その刹那、殺気と共にもうひとつの違和感が彼を取り巻き始める。初めは左程心配するようなことではないと考えていたようだが、目の前のファイルを見ていると、段々気が逸り始め出してくる。
なにか大きな見落としをしてしまっていると勘付きだしたのだ。
「いや待て……これらのファイルが開かれてあったとなると、これを蒼一が……ッ!! ま、まずい!!」
『ど、どうしたのです明弘さん!?』
「洋子! 兄弟は?! 蒼一は今どこにいるって言うんだ!?」
『お、落ち着いて下さい! い、今探しているところで……あっ、見つけました!』
「どこだ?」
『そ、それが……明弘さんよりも上の階に……しかも、恐ろしいほどの速さで駆け抜けて……』
「くっ……! あの男のことよりも蒼一の方をなんとかしなくちゃあならねぇじゃんかよ!!」
明弘は、台をもう一度叩くと、そのままここを素早くあとにする。通路を駆け抜け、階段を昇り始める彼の表情からはただならぬ焦りがあった。それがどういう意味を含ませているのか、その様子を伺う彼女にも理解することはなかった。
―
――
―――
――――
「――さて、理事長。話の内容は理解していただけましたよね?」
「くっ……あなたの目的は何? いったい、なにをするつもりなの……?」
「ふふっ、そこはあなたが気にするところではありませんよ。あなたはただこの契約を了承するか選択しか与えられてませんからね……」
その男、小木曽は意味ありげな笑みを浮かばせ彼女に差し迫りだす。
彼の言う資金提供の話は割と充実している。資金額と言い、その援助の仕組みと言い、書類面上から見たとしてもかなりの優遇処置にも思える提示であった。
だが、それは単に表向きの話。この男の本当の狙いと言うのは、そこには無いというのは明白だった。したたかに捉えようとするその目がどこを向いていたのか、相対する彼女でさえもわかりきっていた。であるから、彼女はこの話を断りたい一心になっていたのだ。
けれど、それはできそうもない……。
この小木曽はそんなに甘い男ではない。確実に標的を定め、罠におびき出し、一度入ってしまった罠から抜け出されないよう退路を断たせる。罠の中に入り込んだ餌は抵抗するように暴れ出すが、逃げ出せるはずもなく、やがて力尽きてしまう。そこをなりふり構わず襲いかかり呑みこんでしまう、まるで狩猟のようなやり方で彼女を追い詰めたのだ。
いままでやってきたことと変わらずに……
「あなたは必ず契約を結びますよ。何故なら、あなたの学校が持つ負債は返済しきれないほど
「………っ!」
「それに、あなたがおっしゃってました支援を行ってくださるところ。それもないのでしょう?」
「……い、いいえあります……我々を支援して下さるところはちゃんと―――」
「“これから”ですよね、それは? では、“いま”はどうなんです? 現在、あなたの学校に援助している企業、銀行、融資者。さあ、どのくらいいると言うのですか?」
「……くっ……くぅっ………」
「いませんよね、“いま”のままでは? 私がそのくらいのことも知らないとでも思いましたか?」
いずみは応えられなかった。現状、学校がどんな状況に陥っているのか理解しているのは彼女。だが、それはひた隠しにされていたことで内部ならともかく、外部の者がそれを知っていること自体ありえなかった。
同時にそれは、彼女が窮地に陥ったことを宣告されたようなモノだった。
「いまのあなたは口から手が出るほど資金を欲しているはず……。廃校にならずに済む状況と言えど、学校そのもの自体が回らなくなれば本末転倒。何をせずとも廃校は免れませんよね……?」
「………っ………」
「よかったですねぇ、資金援助をすぐ行える私と会えたことに。これであなたの生徒もあなたの娘さんも、そして学校も……あなたの御主人が残してくださったすべてを守ることができるのですよ?」
「………っっっ!!」
悪魔の囁きが彼女の心をざわめかせる。同時に、彼女は愕然と肩から力が抜けたみたいに気力を失いかけた。
それは、男が彼女の最大の弱みである亡き夫のことを呟いたからだ。
当然とも言えるかもしれない。彼女のこれまでを
――が、その思いが逆手に取られてしまう
現実的困難に衝突してしまった彼女は、自身が生み出した精神的主柱に頼りがちになってしまう。そう、その主柱こそ彼女の夫である南和幸だ。亡き別れてはしまったが、それでも今に至るまでずっと、彼が彼女に贈った数々の言葉と思いがよみがえり彼女に語りかけてくる。それが彼女の支えとなっている。悲しい時、辛い時、苦しい時さえも彼女は、彼女の中にいる夫に語りかけて自分を慰めていた。そうやって彼女は自身を保たせてきた。ある意味、それは依存的に思えてしまうところ。
だが、それが彼女の最大の弱点にもなる。
現に彼女は、小木曽の口から出た夫のことに酷く動揺を示した。普通に聞けば何でもない事のように聞こえるが、彼女からすると、「あなたの夫が守ってきたこのすべてを、あなたは否定するつもりなのか」と聞こえてしまうのだ。
できるはずがない……そう差し向けられては、彼女はどうすることもできなかった。
「では、私からの資金提供を呑んでくれますよね?」
「………は……はい………」
「さすがです。それでこそ音ノ木坂学院の理事長です。そうでなくては―――」
歯がゆい気持ちを残しつつ、彼女は苦渋の決断を行ってしまう。小木曽はそれに歓迎の声を発するが、このように誘導させたのは言うまでもなくこの男。彼女に選択肢を与える隙など一切見せることはなかったのだ。すべて彼の手中にあり、操られているに過ぎなかった。
だが、彼の攻め手は緩まなかった。
「――ですが、この契約を何の見返りもなく行うわけにはいきませんよね。私にそれ相応の対価を支払ってもらわないと……」
彼の厭らしくも鋭い視線が彼女の身体に向けられる。その嫌な視線に勘付きだしたいずみは、咄嗟に両手で胸元を覆い隠し、身体を逸らした。青ざめ始め出す彼女の顔。じわりじわりと追い込まれ恐怖する彼女を見て、彼の顔から不気味なニヤつきが浮かび上がり始め出す。
彼の最後の一手が繰り出される――――
「よもや、無償で提供されるなどとお考えになりませんよね? あなたみたいな人なら……わかりますよね……?」
「…………ッ!!」
男は彼女に差し迫りだすと、背中に回りその肩に手を添えた。ビクッ、と勢いのある震えをしだし怯え始め出す彼女。青ざめた表情からは何かを察したかのようなものが垣間見えてくる。
女が男に懇願する時、女が行わなければならないことと言えば、たったひとつしか考えられなかった。そして、それを知らない彼女でもない。
すると、男は後ろからおもむろに彼女の豊満な胸を鷲掴みしだす。咄嗟の出来事に、彼女は声を上げることも忘れ、ただ無雑作に行われるその行為に戦慄した。
男のその手が動き始める。彼女のその胸よりも小さな手であるが、器用な手つきで揉み動かし始めた。ゆっくりと、じっくりと豊満な胸は左右に動かされぐりぐりと回され始める。まるで、子供がおもちゃで遊ぶような粗雑さを感じられた。
「いい胸ですねぇ……やはり、私の思った通り……いえ、それ以上ですよ。これほどまでに触り心地のよいモノに触れたのは初めてですよ。手を動かすだけで興奮が抑えられませんね……」
ねっとりとした声で彼は彼女の耳元で囁きだす。ハッキリとした声でなく、あえてそうした声を発することで彼女の神経を刺激させるのだ。大きい波長より小さく細かな波長は人間の身体に強く影響する。特に、興奮的作用が強まるのだから、現状においてその行為は強い影響を与える。
現に、彼女はそうした行為を受けたことで何度も身体を震えさせた。酷く怯えているものだと思われるが、実際には別の感情によるものが彼女の中に侵入し、彼女の神経を煽り立たせていた。抗うことのできない行為と湧き上がる感情が彼女の心情を複雑なモノとさせていた。
彼のその手は止まることをしならない。
激しく揉み回したその手は、今度は白のジャケットの開いた胸元に飛び込むと、うっすらと覗かせるシャツの隙間に潜り込む。卑しい指先は彼女の生温かいブラを見つけると、そのままそれが覆う肌に向かって直進させる。
「ひゃっ―――!!」
生々しい指の感触が自らの胸肌で感じだすと、思わず声を上げてしまう。それは、つい先程から抵抗を見せる大人としての姿ではなく、肉欲を求めようとするひとりの女の姿であった。
「ふふっ、いい声で鳴くじゃないですか、南理事長……。小鳥のさえずりよりも甘く、雌鶏のそれとも違う声……。あなたはまるで、発情期を迎えた家畜のようです」
「ち、ちがっ……ひゃぁん!!」
「ん~? どこが違うと言うのですか? あなたは見ず知らずの男にこんなにも身体を熱くさせ、厭らしい声を上げている。これを何と呼ばいいのですかねぇ、南理事長……!」
男の指責めが激しさを増す。
直の感触をさらに味わおうと、シャツのボタンだけを外し、下着と共にその豊満な胸を曝け出させる。ジャケットからもはみ出てしまっているその胸を、男は躊躇することなど一切見せずに何度も、乱暴に揉みしだく。彼の手は小さいながらも大なる彼女を翻弄させる。口から漏れ出る吐息よりも早いペースで指は変幻自在に動くことで、彼女の身体はだんだんと欲情していく。
額から、背中から滴り始める汗からは、女性らしいフェロモンが分泌。しかも、匂いの鋭い濃厚なものであったため、直で嗅ぐ男の性欲は限界値をとっくに超えようとしていたのだ。
「いい匂いですよ、南理事長。なんてメスらしい匂いなんだ……こんなにも私のことを発情させるフェロモンを出すだなんて、あなたはとんでもない女だ!!」
「い、いやっ!! ら、乱暴にしないで!!!」
「無理ですね……。あなたがこんなにも男を求める身体をしていると言うのに、どうして抑えることができるのです? 無理だ、ありえない!! あぁ、そのままあなたを犯し尽くしたい……しゃぶりつくしてみたくなってきましたよ……!」
彼女からの刺激を受けると、男は獰猛な獣のように身体を貪りだす。身体が動くたびに水風船のように揺さぶられる乳房に魅せられ、手を牙のように鋭く立たせて肉を頬張る。邪魔になる下着を乱暴に引き千切り、露わになる彼女の胸元を間近で凝視する。
たわわに実った乳房。その上に蓋をするかのように膨れる乳輪。またその上に硬く立つ乳頭。どれをとっても瑞々しく、1児の娘を排出させた身体とは思えないほどに色気に満ちたモノだった。
それをまじまじと見定める男もまた、その測り知れないであろう淫乱な肢体に下鼓させてしまう。彼の絶えない性欲は、彼女の下半身にも手を伸ばした。
「ひゃあぁあん!!」
咄嗟のことにいずみは思わず嬌声を上げた。それも甘くこってりとした声で。
彼女の身体はじわじわと彼の手先と順応し始め、敏感に感じてしまう。嫌がる彼女を傍目に、身体だけは相反してきだしたのだ。
それを好機と見た男は、ここぞとばかりに乳房から移動した手で彼女の尻を揉みしだき始め出す。
「ひっ……そ、そこはだめぇっ……あぅん……んんっ!!」
「お尻を触れただけでもうこんなに吐息を漏らすだなんて……南理事長、あなたはとんでもない変態なんですねぇ……!」
「そ、そんなことっ……! ち、ちがっ……っ!!」
「おやおや、否定なさるおつもりですか? あなたの身体は私の手に触れられてとても喜んでいますよ? 教師たる者が嘘を吐くなど、おかしな話ですよ……ねっ!!」
「ひぎぃぃぃぃぃっっっ!!」
左右激しく揉みしだかれる尻を力のこもった手で握り始める。ビクンッ、と全身を痙攣させつつ仰け反らせ、見開いた瞳が天井を仰いだ。彼女の理性が槍突くように壊れ始めていく。夫にしか見せなかった身体。触れることさえも許さなかった聖域は、どこの馬の骨かもわからない男に踏み散らされる。男に見せられてしまう恥辱と身体を犯される屈辱に耐えきれないモノが表れ始めようとしている。
もし、耐えられることができなくなれば、もう………
「いいですよ、いいですよ。その声です! その声が聞きたかったのですよ!! 抗いつつも自らの欲情に耐えきれずに喘ぐその声!! 堪りませんよ、その声が!!」
男の口から歓声のような悦楽が狂い出る。愉悦に浸り始め出した男は全身を研ぎ澄まされていく。
片方の手の平でたわわな乳房を掴み、指先は先っぽの乳頭を激しく弄る。
もう片方は豊満な尻を掴んでは、乱暴にかき回す。
この未体験の領域とも呼ばれるこれらの行為に彼女は翻弄される一方となる。もはや、抵抗などということさえも忘れ、電流のように走り抜ける乱暴に翻弄される。
次第に、彼女の身体は火照り出し、抑えられていた欲情が解放されようとしていた。
「さあ、仕上げといきましょうか……」
そう言うと、彼女のスカートをたくし上げ下着を晒す。身体の火照りともうひとつのことで湯立ったその下着は、熱く蒸れていた。彼は尽かさず、尻に当てた手を彼女の股の辺りに滑り込ませ、薄っすらと見えるスジに沿って指を動かす。指先はジットリと湿り、敏感になった身体は少し動かすだけで激しく痙攣する。
男の指にまさぐられるたびに苦しげな吐息を吐き出す。
「ふふふ……滑稽な光景に見えませんか? 百数人もの生徒と数十名もの教師の上に立つ理事長が、こんなにも淫乱な御方だなんて誰が信じますかね? 厭らしい身体を弄ばれて興奮する理事長……あなたのこの姿を世間の人たちはどう思うことでしょうね……」
「い、いやぁ……い、いわないで………」
「くっくっく……しかし、素晴らしい身体だ。この身体を持ってすれば、あなたが融資を頼んだ人たちからすぐに引き出せたでしょうね……。こんなにも性欲をかき立たせてくれるのは、あなたくらいしかしませんよ、り・じ・ちょ・う♪」
身の毛もよだつ不気味な声に、いずみは全身を震撼させる。一刻も早く抜け出してしまいたいと、彼女は望んでいる……
だが、そうさせてはくれない。男の魔の手が身体に絡みつき離れることはない。ましてや、ここは男の領域、抜け出せるはずもない。だがしかし、最大の要因と言うのは、あろうことか自身の身体だった。
彼女の身体は、ほぼすべてと言っていいほど彼の手に堕ちている。全身は抵抗できるほどの余力はなく、立っていることさえもできない。それ故か、その身体は男の身体にもたれ掛かる体制となってしまっており、事実上、全身を奪われたと言っても過言ではなかった。
だからなのだろう、男は敏感になった彼女の性感帯を激しく責めた。それに連動するかのように、彼女の身体はビクビクと痙攣し、嬌声を上げる。そんな彼女は一見、その快楽に悦んでいるようにも見えなくなかった。
「いい感じですよ、理事長……。いまのあなたはただのメス。イキ狂うだけのメスになりつつありますよ……」
「ひっ……ヒッ……ひゃぁっ……!」
「ふふふ、どうです? 久しぶりに感じる男の手の味は? ここ数年間、待ち続けていたんじゃないんですか……濃厚なオスの味を……?」
「……うっ……はっ……そ、そんなことは………」
「ない? ないと言い切れると言うのですか? あなたのここの割れ目から溢れ出るこのねっとりとした液体はどう説明してもらいましょうか?」
「そ、それは………」
「求めているんだよ、アンタは……アンタのこの身体は疼いてるんだよ、男を求めているんだと訴えかけているんだよ。この濡れたココが何よりの証拠だ。これでもまだ言うのか!?」
「んあああぁぁぁっっっ!!!」
目を見開かせた男は、その指を彼女の割れ目の中に突き刺す。瞬間、いずみはこれまで出したことのない嬌声を喘ぐように漏らしたのだ。
「いい感度だ……もうすでに出来上がってしまうとはな……なんて人妻だ。いや、未亡人、と言うべきだったな。いまの姿を先立ったご主人が見たらどんな気持ちになるのでしょうねぇ? ご主人にも見せたことのない淫乱な姿を晒しながら犯されるんだ、もっと興奮するんだ。もっと喘ぐんだ!」
「ひぎぃ!!!?」
突き刺す指が彼女の中でまさぐりだすと、乱暴にかき回し始める。非常に感度が高くなったそこをやられると、訳も分からない感じに彼女は狂い出す。何度も執拗に責め続けられるため、体力が乏しくなった彼女はいまにも倒れてしまいそうだ。
それを見かねた男は、彼女を乱暴に突き倒し床に仰向けにさせた。
すると、男は下半身のベルトを緩ませると、みなぎるそれを抜きだした。
「それじゃあ……いかせてもらうよ……」
男は膝を屈ませると、ぐったりする彼女の両足を掴んで引き寄せる。いやらしく開かれた谷間の位置を確認すると、みなぎる一矢が的を当てるかのように構えられる。
数秒後にこの男が私を犯す、そう理解出来たのはまさしく直前。恥じらいと恐怖に身を包ませていた彼女はいま、壮絶な思いで懺悔の言葉を胸に流した。夫ではない男に身体を許してしまうことに、ただただ謝るほかなかった。これは夫が残したものを守るためだとはいえ、この身を捧げることがどんなに愚かなことか彼女が理解しないはずもない。それに、皮肉にもこの身でさえも夫が残したものなのだと理解した時にはもう遅かった。故に、彼女は後悔と共に懺悔するほかなかったのだ。
「すみません……和幸さん………」
男には聞こえない、ほんのかすかな声が囁かれた。
華が、散ろうとする――――――
――刹那、閉ざされた扉が爆音を上げながら空中で四散した。
耳に入る音に何事かと振り向いた男は、粉微塵に砕かれた扉の破片が床に散らばっているのを目にする。それに、床の上にはもうひとつ―――全身をズタボロに引き裂かれ、血を流す黒服の男が転がっていた。
「っ………!!?」
男は一瞬にして背筋を凍らせる。何故なら、そこに転がる男は小木曽が雇い入れた10人力も伊達ではない屈強なボディーガードだったからだ。そんな男を瀕死状態にまで追いやったのだ、ただ者ではないことは承知だった。
ふと、廊下から小さな足音が聞こえてくると、男は突発的にそっちに顔を向けさせた。
するとどうだろう、あの恐ろしい出で立ちを………
天井に届きそうな長身に厳しく鍛え上げられた身体、全身から湧き出る殺気でこの場の空気を一気に重苦しくさせる。さらに男を恐怖させたのが、その身体に付いた血のような赤。それが全身にこびり付いているので見る者を圧倒させてしまう。次元の異なる激しい怒りに包まれたその正体は――――
「やっと……やっと見つけたぞ………小木曽ッ!!!!」
真っ赤に充血させた瞳をギラつかせる、蒼一だった――――
...Hope is there for...?