【完結】Why will the hardship take me?   作:雷電p

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―――誰も、不幸と言う名の魔物からは逃げられない―――





Finis~終端~

 

 

 蛍光灯がチカチカと点滅する通路は、どことなく黒い深みに沈んでいるようだ。

 外から入ってくる光があるから比較的に明るいとは言える。―――が、視覚的な暗さがある一方で、直感的に訴えてくる暗さがそこには存在した。

 

 

 この通路は何かがおかしい―――

 

 不快な雰囲気に包まれるその中を“生気”みなぎる男がひとり駆けていく。

 

 

『明弘さん、蒼一さんがあの男と接触を果たしました!』

「チィッ! 遅かったか!」

『それでもまだ時間はあると思います。今のところ相手からの増援はなさそうですね。いざとなれば、情報網の遮断を敢行しますので合図を頼みます!』

 

 モニターを見ながら双方の状況を監視し続ける洋子は、現状連絡可能な明弘からの次の指示を待っていた。というのも、先程から蒼一に連絡を行うものの音信不通が続いている。きっと機器の故障なのだろうとは考えているが、実際そうなのか怪しい。

 そのため、明弘とのやりとりが彼女にとっての連絡手段となる。

 

 しかし、明瞭なる声で語りかける洋子に対し、肝心の明弘はと言うと暗然とした返しをする。

 

 

「いや……その必要はなさそうかもな……」

『……ん? どういうことです?』

 

 歯切れの悪いその声にいささか違和感を覚える洋子は、眉をひそませながら返す。すると、彼の目に映る現状が語られ始める――――

 

 

「いいか、洋子。落ち着いて聞いてくれ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここの職員らしき人間が通路で血まみれになって倒れていやがるんだ……」

『なっ―――?!』

 

 明弘が話した通り、彼が駆けるこの通路には数十人もの黒服の男たちが血を流して倒れていた。その多くは全身を強打したことによる吐血や肌が擦り切れたことで生じたものばかり。骨が折れ、酷く曲がった腕や脚を持つ者も少なくなかった。

 

 

 その光景は、まさに死屍累々―――

 

 

 瞬間、彼女の目が飛び出そうになるくらい見開く。彼女の想像の範疇を越えることに頭が追い付かなかったからだ。そのため、クラッと頭から倒れそうになるが、片手で押さえてことなきを得る。

 貧血のような突発的頭痛に悩まされつつも洋子は現状を知ろうと問いかける。

 

 

『いったいどういうことなのですか? 職員たちが血まみれって、そんな……』

「どうと言われても目に映ってるんだから仕方ないだろ……。さっきまで駆け上がってきた階もそうだったが、どの通路にも屍のように転がるそれしか見えねぇんだからさ……。まるで、サイボーグ忍者にやられた感じだなぁこりゃあ……。けど、生きてはいる―――虫の息だがな」

『なんていう……まさか、これすべて蒼一さんが……?』

「やりかねないな……。ああ見えて蒼一は俺を遥かに凌ぐ力を持っている。雷神である俺よりも風神の蒼一の方が素早くかつ強力だ。下手すりゃあ、死人が出てもおかしくない……」

『だとしたら……ま、まずいですよ明弘さん!! いま理事長のカメラから見える蒼一さんから、ただならぬ殺気が感じられますよ!! このままでは、あの男を本当に殺してしまいますよ!!!』

「くっ……蒼一ならやりかねぇからなぁ……。なにせ、あの事件を引き起こし、蒼一の人生を狂わせやがったんだからな……」

『えっ……? いま、なにを……?』

 

 一瞬、明弘の口から気になる言葉が聞こえたのだが、彼は彼女の質問に答えることはなかった。それが彼女を悶々とさせてしまうのだが、それよりも何よりも優先しなくてはならないことがあることに集中しなくてはいけなかった。

 

 

「この男と蒼一さんにどんな因縁が……?」

 

 答えを見出せない中で、彼女はモニターに映る2人の男の成り行きを眺めるほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

 粉砕された扉の上に立つ男は、膝を屈ませた小木曽を見る―――いや、見下すと言った方がいいのだろう。男を捉える瞳からは正気が失せていた。光を失い、混沌とした深い闇が覆ったような瞳孔(どうこう)だけが映るのみなのだ。

 

 全身は返り血を浴びたような赤いシミをあちこちに見せ、見るからにまともではない。下手から見上げる小木曽さえもひきつった表情を見せるほどなのだから………。

 まさに、悪鬼。見たモノすべてを射殺してしまいそうな双眼。彼と共にするこの空間にいるだけでも息苦しく感じられてしまうほど耐えがたかった。

 

 

 しかしながら、そうした雰囲気を生じさせているのは、何を隠そう――蒼一なのだ。

 

 

「何の用だね……?」

 

 下半身の緩みを締め直す小木曽は、自分を凝視するその男に聞く。それに間髪入れることなく強い口調が返ってくる。

 

「何の用……? それはこっちの台詞だ。てめぇはいま、何をしようとしていやがった……?」

 

 飛び出てきそうな眼球をギロリと転がし、穏やかではない表情で言葉返しをする。先行して口にした小木曽だったが、蒼一から向けられる殺意の前では(おく)してしまう。だが、決して愚かではないため、下手なことを口にすることはしない。

 

 

「取り込み中だと言うのに、ノックも無しに入るとは物騒だな。私は彼女からの誘いを受けていると言うのに……」

「嘘を言うんじゃねぇ……それはてめぇが無理矢理そうしたんだろうが……」

「人聞きの悪いことを……彼女からの同意は得ている。キミがとやかく言うことじゃない」

「減らず口しか言えないようだな、その穴は……。いっそのこと、縫い繋いで一生開かないようにしてやろうか……?」

「おもしろい、やれるものならやって見るがいいさ」

 

 劣らぬ口調をもって対峙する小木曽。臆することはあっても動じる様子を伺わせないのが彼のやり手口だ。優位に立つのはいつだって自分なのだと言いきるのだ。

 

 2人の壮烈な掛け合いの最中、小木曽の最も近くに横たわるいずみの意識がかすかに目覚める。

 

「うっ……そ、そういち……くん………」

 

 身体中をまさぐられ気力を失いかけていたいずみは、目の前に立つ友人の息子を見て思わず声にする。気を留めなければ聞き流してしまいそうなほんの小さな声に、彼は一瞬だけ視線を彼女に向けた。彼は、彼女がまだ奪われていないことを知ると、視線をあの男に戻した。彼の目付きがさらに鋭利なモノへと変化していく。

 

「そういち……? ほぉぅ、キミがあの宗方蒼一か……」

「……だからなんだ?」

「なぜこんな無謀なことをするのか気になってはいましたが……なるほど、そう言うことならば合点がいきますね。ちょうどいい、私の計画にはキミは邪魔だ。ここで消えろ―――」

 

 

 その声を合図に部屋の奥から5人の男らが入り込んでくる。見るに硬く盛り上がった筋肉は一種の強烈な兵器だ。あの腕で殴られでもすれば並の人間は死を覚悟しなくてはならない。それも5人もだ。これまで数多くの修羅場を乗り越えてきた蒼一でもどうなるかわからないだろう。

 

 

「この男たちは私が雇い入れた専属のボディーガードだよ。私の言うことを忠実に聞く最高の部下だよ」

「そんなヤツらを引きつけておかなければならないとはね……いったい、どんな汚いことをしてきたのやら……」

「フッ、キミのようなガキにはわからないことだよ。それと言い忘れていたが、この男たちは性欲が人一倍強くてね……キミを始末した後にこの女の遊び相手になってもらうつもりだよ。もっとも、商品価値として利用できなくなってしまうかもだが……」

「……下衆が……」

 

 

 瞬間、小木曽の本性とも呼べる黒い部分が垣間見えた。それまでひた隠しにしてきた彼の暗部は、自分でも気が付かないほど膨れ上がり顔を出す。それは彼が今日を迎えるまでどれだけの悪行を積み重ね、浸り続けてきたのかと言うことを示していた。

 冷やかな嘲笑にも似た顔で彼は男たちに命じた。

 

 

「さあ、やれ。あの男を八つ裂きにし、メス共の前に晒すようにするんだ。息があるかないかは問わない。必ず仕留めてみせろ」

 

 小木曽の振りかざした手が蒼一に向けられる。

 同時に、待機していた男たちは、音が鳴るよりも早く行動する。

 1人目が蒼一に向けて拳を振るう。正面を走る腕は一ミリもブレない正確さで彼の顔に打ち当てようとする。不意を突かれるものの、彼はわずかに身体をずらすだけで攻撃を逸らす。―――が、それは初手に過ぎない。

 

 2、3人目と猛威を振るう拳が回避する蒼一に間髪入れずに飛び交う。

 

 空を掻き切る剛腕――

 音さえ引き裂く手刀――

 

 達人の域に達する数多の技がたったひとりの男に向かって繰り出される。蒼一は、それらをほんのわずかな動きで辛うじて避けようとする。少し間違えれば直撃、脳天を撒き散らすことになりかねなかったのだ。

 まさに、紙一重。

 まさに、針の穴を通す気持ちだ。

 

「………!」

 

 背後からの殺気――!

 それに気が付くと身体を小さくさせて側転。背後を獲った残りの2人が仕留めようとする瞬間だった。間一髪だ。神経を極限にまで研ぎ澄ませていなければ蒼一は殺られていただろう。しかし、蒼一は生きている。しかも、あろうことか息がひとつたりとも乱れていなかったのだ。

 

 

 それを見ていた小木曽は舌打ち、苛立ち(いらだ)たせていた。

 

「いつまで遊んでいる……たったひとりのガキを殺るだけに時間を掛けるな………」

 

 この男の苛立(いらだ)ちは激しくなる一方だ。無理もない、目の前で闘うあの5人はこれまで多くの人間を一瞬で屈服させ、殺めてきた者たちだ。ただ壊すことだけを生業(なりわい)として生きてきた連中。表社会では決して生きることはできない彼らを、この男が拾いあげた。

 雇われたとは聞こえはいいが、実際はただの奴隷。この男の刃物となり、凶弾となりと成り果てていた。穢ればかりを一心に受け、自我さえも乏しくなり正も義も理解できない、命令されたことを遂行する駒―――いや、傀儡(かいらい)でしかなかったのだ。

 

 そんな傀儡(かいらい)が手こずる様子がこの男にとって不快なのだ。

 

 

 それに、男はさっきから何かを危惧するかのようなものに駆られている。それが何なのかわからない……しかし、それを紛らわしいものなのだと一蹴りし、この苛立(いらだ)ちと共に悪口を発する。

 

 

「殺れ!! 一気に畳みかけろ!!!」

 

『…………!』

 

 

 小木曽の怒号が合図となった。

 男たちは自身を抑えていた殻のようなモノをかち割り、解放する。獰猛な獅子が繋がれた鎖から解き放たれ、殺意に満ちた牙を獲物に差し向け駆け出す。一度捉えたら逃がさない鷹の目で、一撃で仕留める熊の剛腕とが兼ね備えられたかのような男たちが、一斉に蒼一目掛けて襲いかかる。

 個人(ワンマン)双方(ダブル)では殺れないと理解した彼らは、蒼一を取り囲み逃げ場など与えないよう一気に詰め寄った。四方――いや、()()をすべての逃げ場を失った蒼一は、詰め寄ってくる男たちに何も出来ぬまま立ち尽くすだけだった。

 完全に詰んだ、と仕留めようする5人の男たちと、それを眺める小木曽は確信した。

 

 

――刹那、男たちの剛腕が蒼一に振りかざされ、落とされる。

 

 爆弾が炸裂したかのような破壊音とともに部屋が縦に大きく揺れた。地震が来たと感じさせたその揺れは下階にいる人たち全員に感じられ、こちらに向かっている明弘にも伝わっていた。

 音ともに砂埃が立ち上る。大方、力余る男たちが蒼一と共に石床を砕き、そこから生じたものなのだろう。男たちの全身を覆い隠すほどなのだ、どれほどの勢いがあったのか考えずともわかる。

 

 

「ふふっ……くぅぅぅっっっくっくっくっく……殺ったぁ♪」

 

 ようやく死んだか、と確信した小木曽は下衆な声を漏らしながらほくそ笑む。この男にとって、人が殺される瞬間でさえも1つの演目でしかなく、愉悦の一時なのだ。人の命はこんなにも脆く、儚く消えていく様が楽しかったのだ。これが自分の生を強く実感する瞬間であり、生きていることに誇りを持てる瞬間でもあるのだ。それが楽しくて、愉しくてたまらずにいた。

 

 

 これが、人の皮を被ったバケモノの素顔なのだ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だ――――

 

 

 

 

 

 

「お前たちは、“風神”って知ってるか―――?」

 

 

 どこからか聞こえてくる

 

 

「空気を操り、その流れを司る神様のことだ―――」

 

 

 異様に透き通った声は男たちの耳に入る

 

 

「その称号を持つ男がいると言うことも知っているか―――?」

 

 

 安心しきった男たちは芯から動揺しだす

 

 

「風のように舞い、風のように駆け、すべてを薙ぎ払ってしまう男を―――」

 

 

 どこから聞こえるのか、辺りを見回す男たち

 

 

「ただその姿はどこにもなく、気が付いたらみな地に伏していた―――」

 

 

 1人の男が上を見上げる

 

 

「風は誰にも知られず、誰にも見られず―――」

 

 

 それに呼応するように5人全員が上を見上げた

 

 

「ただ―――」

 

 

 砂埃が晴れたと同時に目にするのは

 

 

 

 

 

 

「―――壊すのみだ」

 

 

 もう1人の破壊者の素顔だった

 

 

 

 中空から振り降ろされる鉄槌が男たちの拳に着弾する。重くどっしりと内臓を揺らすような鈍い音が男たちの腕を通じて床を響かせた。

 一瞬、男たちは我が身に何が起きたのか想像もつかなかった。そこにいたはずの男に拳を振り降ろしたと思いきや、その男は宙を舞い、収めていた刃を抜き放たせたのだ。するとどうだろう、男たちの身体からゆっくりと痛みが生じ始め、次第にそれは激痛に早変わりする。

 

『―――――っっっっっ!!!?』

 

 自らが放った拳の行方を見た時、男たちは一斉に声にならない悲鳴を上げ出す。さっきまで感覚としては無自覚であった。が、視覚情報が加わることで現実を知る。

―――自分らの腕が、肘より先が見るも無残な角度に折れ曲がり砕けていたのだと言うことに

 骨の芯まで折られてしまったのだろう、腕と言うには残酷な形となったそれは、鍛えられた筋肉で支えられるただの肉片と化っしてしまったのだ。

 男たちが初めて味わうこととなる本物の恐怖――それを見せつけるのは親でも、そこにいる雇い主でもない。決して勝つことができないのだと無理矢理教え付けられる破壊神―――いや、鬼神にだ。

 

 

「何も知ることなく―――逝ね」

 

 

 膨大な殺気を解き放った男、蒼一は、呆気を取られる男の顎を砕くが如く蹴り上げ、身体ごと天上へ打ち付けさせた。――と同時に、高く蹴り上げたのを反動に身体を後ろに一回転させて後方にいた男の後頭部に着地。そのまま全体重を持って、価値の無い頭を地面に叩きつけさせた。

 

 3秒だ。たった3秒という一瞬とも呼べる時間の中で、悪鬼の如き男を2人も倒してしまったのだ。

 ありえないことだ、と男たちに動揺が走る。だが、心の中で思うよりも早く、そのまたもう1人の男は彼の接近を許してしまい、気付いた時には壁に打ちつけられ口から濃い赤の吐血を流す己を知ることとなる。

 

 

 3人目―――

 

 カウントされる仲間たちの成れの果て。次は自分が、と焦りを滲ませた残る2人は一斉に襲い掛かる。もう片方の腕を出し、力の限りをつくした一撃を解き放たせた。

 しかし、この一撃はとうとう彼に届くことはない。欠損した四肢を抱え、尚且つ男たちに伝染してしまった本物の恐怖が心を蝕み犯していたからだ。本来のスタンスを失ってしまった男たちは、もはや強烈なる兵器とは程遠く、錘のように邪魔な肉弾を抱える雑魚でしかなかったのだ。

 

 

 4人目―――

 

 男に苛烈極まる剛撃を何度も味あわせられると、まだ意識があるうちにカウントされる。それに異を唱えるが如く男は彼に迫るのだが、彼のカウントに間違いなど無かった。男が踏み出した瞬間、男の体内から風船が破裂するかのような音が聞こえると同時に男は倒れた。

 そして、気付く。すでに決着が付いていたのだと。

 

 最後の1人となったその男は、それまで無残に倒れていった仲間の様子を見て慎重になる。下手にすれば同じようになるだろう、長年の勘がそう告げる。そのためか、男は襲うことよりも身を守る防衛に切り替えて臨もうとする。隙を一切見せない鉄壁のガード。これならばやられることはないだろうと確信する。

 本来ならば、それが正解といえるはずだった。

 

 

 だが、男が対峙する彼には無関係だった。

 

 

「…………!?」

 

 男が守りを固めていると蒼一が視界からいなくなる。ほんのわずか、男の注意が自分の身に置かれたその隙を突かれたのだ。また不意を突かれてしまう、そう危惧した男は守りを維持したまま辺りを見回す。天井も見上げ、また振って来ないかと注意するが見つからない。

 焦燥感に駆られた男は、畏怖される存在が逆に恐怖に(おのの)き、戦慄した。すでに、4人の仲間がやられた。瞬殺。しかも、たったひとりの男に。男がこれまで見てきた、闘ってきたのとは圧倒的に桁が違っていた。

 その瞬間、男の脳裏に“勝利”の二文字が消える。あるのは、真逆の二文字ともう一文字。ずっと忘れていたその二つの言葉が脳を過る度に肩から吐きだす息が荒れた。

 

 

 

「―――おい、どこを見ていやがる」

 

 冷徹な言葉が男の背後から聞こえた。

 後ろを取られたのだと思った男は冷汗を流しつつ、後方に攻撃を放つ。が、しかし、空振り。ただ空気を揺らしただけの無味なことに終わってしまう。

 

 では、彼はどこに―――?

 

 その答えを知る前に、男の身体が背中に向かって大きく傾けられた。その時、男は自分の身に何が起きたのかわからなかった。視界が何故かだんだん上を向き、同時に地に足が立っている感覚さえ失ったのだ。

 まさか……! と男は脚先に神経を送ると、なんということか、(すね)から先の感覚がまったくないことに気付く。その時、ようやく男は知った。自分が倒れそうになっている理由が――――

 

 

「いくら防御が硬くても、土台の軸を折ってしまえばすべて壊れるだろ―――?」

「―――ッッッ!!!?!」

 

 頭が地に着く前に、ようやく彼が後ろで立っているのを見つけた。

 そして、理解した。

 折られたのだ……この男が自分の脚を折ったのだと言うことを――――

 

 

「―――これで最後だ」

 

 男が最後に目にしたのは―――、

 

 

 漆黒の瞳孔をギラつかせた鬼の目を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 5人目―――

 

 背中から倒れた男の顔に、彼のかかとがめり込む。彼のかかとは男の鼻骨を砕くとともに、その顔面全体にヒビをつけて破壊した。つい先程の人間らしい表情はもう見られない。砕けた後の姿は卑しいほどにグロテスクなことになる。なんともおぞましい姿……。

 それを表情ひとつ変えることなくやってしまった彼もまた、おぞましく映るのだろう。それら一部始終を見ていたあの男には………

 

 

 

「……なっ……そんな……バカなっ……!? わ、私の……駒が……!!」

 

 転がる5人の男たちを見た小木曽は全身を震撼させた。小木曽にとってもこうした結果になったことに驚きを隠せず、その現実を直視することができなかった。

 これまですべてのことが小木曽の手の内にあり、自在に操る立場にあると考えていた。この手を持ってして不可能なことはないとまで豪語してきたが、それが一瞬にして砕け散ってしまったことに愕然とする。

 完全に追い詰められてしまったのだと、その貧相な脳みそが語りかけるのだった。

 

 蒼一の悪鬼に満ちた視線が小木曽に向けられると、軟弱な悲鳴を上げながら奥に供えられた部屋に駆けこんでいく。逃げ場などあるはずもないのに……

 

 

 蒼一はその後をゆっくりと追っていこうとするが、その前に倒れたまま気絶してしまったいずみの傍により、乱れた服を直し始める。正気はまだあるのだと、白くなった頬に触れると若干ながらも穏やかな顔を見せた。さっきとは大きく違う表情、言わずともこっちが本来の彼の素顔なのだと傍から見てもよくわかる。

 けど、それはほんの束の間にすぎない。

 彼にはまだ、最後の仕事が残っている―――

 

 

 

 

―――清算せねばならない因縁が―――

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

「くそっ……! こんなはずでは……! こんなはずでは……!!」

 

 先程の部屋から隣の部屋に移った小木曽は荒れ狂いながらうろついていた。ジッとして落ち着いてもいられるわけもなく、ここから逃げる手段さえないのだから仕方ない。ただ、彼がここまで血相を欠いてしまうとは思いもよらなかった。

 

 彼の計画は順調に進んでいた。単純に、いずみを自分の手の中に堕とすだけのことに過ぎなかった。それが、何故こうなってしまったのか……。小木曽自身も彼女のために誰かが助けに駆け付けてくるだろうと予想していた。大方、ひ弱なガキが来るモノだと高をくくっていたのだ。

 しかしどうだろう。彼の目の前に現れたのは、ひ弱とは大きくかけ離れた男。屈強な部下たちを次々と倒し、彼の自慢のボディーガードたちさえも倒してしまった男。彼の想像を遥かに超える悪鬼のようなその男に、彼は負けたのだ。

 

 この負けたと言うことが彼にとっての最大の屈辱。どうしても認めたくない事実だったのだ。

 

 

「せ、せめて……このデータだけは抜き取ってしまおう……捕まるのも時間の問題だ、なるべく不利になるものはすべて消し去ってくれる……!!」

 

 ちょうど、そこの机の上に予備PCが設置されていたので、早速そこから必要なデータの抜き取りを行うが……

 

「くっ……まだか、まだなのか……?!」

 

 かなりの膨大な量であったため、そのすべてを抜きとるには時間を要してしまう。刻一刻と時間が過ぎていく度に、寿命が縮まりそうな思いに駆られる。早くしなくては、あの男にやられてしまうと恐れたからだ。

 

 

「よ、よし……あともう少し……あともう少しなんだ……!」

 

 あと、数十秒。この数十秒で何とかなるだろうと、安堵しようとした―――

 

 

―――その時、彼の前にまたもや爆音とともに扉が四散する様子が目に映った。

 

 彼はそれに身体を震撼させていると、おもむろに姿を表すその男を目にするのだった。小木曽は思わず小さな悲鳴を上げるのだが、そんなことに気を留めることなくやってくる彼は小木曽を掴みあげ床に放り投げた。

 強く投げられたからか、小木曽は受け身を取れる状態ではなく、肩から床に接触し転がっていく。その時、当たり所が悪かったのか、肩の関節が抜け柄にもない(うめ)き声をあげる。それが余程痛かったらしく、堪らず床の上で苦しみ悶えた。

 

 だがそれで終わることはなかった。

 

 今度は、首根っこを掴まれ、そのまま壁に打ち付けられる。衝撃が脊髄にもろに伝わったため、口から赤みを混じらせた体液を吐きだしてしまう。

 この尋常とは言えない行為を行う彼の圧力は凄まじく、小木曽の神経を震え上がらせ、心身共に疲弊させたのだった。

 

 

「こ、こんなことをしても……何も変わりはしない……」

「変わる、変わらないなどの問題ではない。これは、俺と貴様とのただの因縁だ。貴様に下す俺からの罰だ」

「ハッ……何の因縁なのやら……知ったことではないな……うっ!!」

「おしゃべりが過ぎる口だな……いっそのこと永遠と開かないようにしてやりたいくらいだ……」

 

 不利にあってもなお煽る小木曽に腹を立てたのだろう。蒼一は首元にかける手の力を強め、息の根を止めかけようとする。しかし、彼はそうしなかった。なぜなら彼は、この薄汚いドブの中でさえも忌み嫌われるこの男から聞かなければならないことがあったのだ……。

 

 

「おい、なぜ貴様は年端もいかない女ばかりを狙う……? 目的は何だ? 金か? それとも女か?」

「フッ……ふくくくく………なんだ、そんな話か……。どうせ助からないこの身だ、教えてやろう……」

 

不気味な笑いを鼻で鳴らすと、小木曽は冥土の土産と言わんがばかりに話しだす。

 

 

「女を狙うのは、ただビジネスを行うためだ……。女は金になる、いつの時代だってそうだ。富を得るのは男、その男たちが欲するのは、己の肉欲性欲を満たしてくれる器――それが、女だ。特に、瑞々しいうら若き女にはかなりの需要がある。それを犯し、しゃぶり尽くす快感、優越感! それが堪らず心を潤すのだ……。

 中でも、アイドルの需要はなお高い……。一般的にテレビに出てくるような品には(あずか)れないが、地下アイドルになら手が出る。が、それでは足りない……物足りないのだ……至高の快楽を得るには、それではない……。だから、選んだのだ……スクールアイドルを……」

 

 小木曽は、せせら笑う。笑いシワと呼ばれる口元のシワが異様に深まり、そこにドス黒い影が入り込む。取り乱していたさっきとは裏腹に、その本性が垣間見えてくる表情になったのだ。

 

「彼女たちはいい……素人の身体で子供らしい初々しさもありながら、大人としての魅力もある。素材にピッタリだったのだよ……しかも、利用しやすい。ラブライブというシステムをうまく利用し、私の権限も用いれば、多くの情報も得られる。扱いやすく、周囲からの反対も押し退けやすく、手駒にできる……。思った以上に簡単だったよ、その身体を手に入れるのも……。

 人気を求めようとしていれば、うまい話を匂わせて接近して犯す。嘘の不正があると脅して、私の言うことを聞かせて犯す。そうそう、一番滑稽だったのは、学校を脅して手に入れたのを犯したことだな。学校の汚点を見つけて責任者を脅し、交換条件として生徒を売り飛ばさせる……生徒を守るべき学校が、性犯罪を助長してくれるとは腹を抱えて笑いこけたよ。まったく、哀れだよ、売った学校も……売られた者たちも……。何も知らずにただ犯されるだけの日々……かなり身に堪えただろうなぁ……。何度も身体の隅々、穴と言う穴を弄ばれ、力が尽きてもまだ犯され続ける毎日。ステージに立っていた頃よりも何倍も輝いていたよ……おまけに、人気もね……」

 

 耳が痛く、吐瀉(としゃ)してしまいそうな恐ろしい内容の数々。そのどれをとっても憤怒しか湧き起こらないことだろう。

 だが、それが当たり前だ。その感情さえ抱くことができないのであれば、あの男と同じになる。人の心を無くした憎むべき存在に……。

 それを間近で聞く彼もまた、湧き上がる憤怒に身体を熱くさせているのだろう。いまにも爆発してしまいそうだったのだ。

 

 

「それで……音ノ木坂を次のターゲットにしたのか……?」

「あぁ、そうだとも……いますぐにでも潰れる学校にアイドルがいる優良物件を押さえないわけがないだろう? 私自身もしゃぶりつくしてみたかったよ、あの身体を隅々まで……。しかし、こうなってしまうとはなぁ……まったく残念で仕方ないよ……」

 

 残念――男の口からそう語られた。だが、その男は1つたりとも残念がる様子はない。むしろ悦んでいるのだ、この状況を。これから自分の身に何が起こるのかわかるだろうに。もはや、そうした神経さえも壊れ、まともではないのだ。異常者である烙印を押されても仕方ないのだ。

 

「とても残念がっているようには見えないが……とうとう壊れたか……?」

「壊れている? 私が……? フハハハハ!! 私は正常だ! ただ自分のよくに従っただけだ! 金が欲しい……地位も名誉も女も、何もかもすべてを手に入れたいと望むことの何が悪い? それを思い返すだけで笑いが止まらないのだよ!!」

「狂人め……」

 

 首を絞められながら狂乱する彼はまともではなかった。これが、外道に落ちた人の成れの果てだとすれば、熱した頭も一瞬で冷え切るだろう。

 

 

 そして、蒼一はとうとう“あのこと”を話し始め出す―――

 

 

「小木曽、聞け。『プロジェクト・ロンギネス』とはなんだ……?」

「くはっ! あんなヤツらの話か? 久々に聞いた言葉だ、懐かしいねぇ……」

「いいから答えろ、小木曽」

「クククク……バカなヤツらだ、()()は私の計画の邪魔になる存在だった……。案の定、彼らの台頭に飽き飽きしていた連中と手を組み、実行したまでさ。時代の流れ、ビジネスの流れと言うものを理解しないからこうなるのだ……。あぁ、たくさん利用させてもらってから捨てたよ、哀れなバカどもめ……クククク……」

「ほぉぅ……なるほど……そう言うことだったんだな、小木曽」

「……さっきから小木曽、小木曽とうるさいぞ……このクソガキ……んぐっ?!」

「うるさいのはてめぇだ、小木曽。いい加減、その顔にも見飽きてきた……」

 

 小木曽の口を止め、ドスの効いた声で語り出す。

 

 

「夢を奪い、生きる楽しみを奪った貴様に、もはやこれ以上語る必要もない……」

「ぐっ……このガキ、何を言って……い、いや待て……お前のその声、どこかで聞いたことが…………ッ?!!」

 

 

―――その刹那、小木曽の身体が凍った。目の前にいるこの男を、彼は知っていたのだ。それがどんな相手だったのかもすべて……

 

 

「ようやく気が付いたか、小木曽……。随分、時間が掛かったものだな……」

「あぁ……ぁあっ………ああぁっ……お、お前だったのか……!? ばかな、お前はあのチンピラどもに始末させたはず……な、なぜっ?!」

「愚かな部下を持ったのが悪かったようだな。お前の部下は、偽装して俺たちをやったと伝えていたらしいからな……随分、手の込んだことをしてくれたなぁ、小木曽勤!!!」

「ひいぃぃっ!!!」

 

 どうしたことだろう、狂人と成り果てていたはずのこの男が、一変して全身を蒼白させる。この男は知っている、目の前にいる彼の正体を。そして、彼に対して行ってしまったことすべてを思い出したのだ。

 身の危険を察知した小木曽は、じたばたと身体を振り乱した。

 

 

「……邪魔」

 

 一言、小さく呟かれた。

 その瞬間、小木曽の右太ももに彼の膝が轟音を上げて叩き込まれる。同時に、そこの骨が折れる音も部屋中に響いたのだ。

 

「ぎいぃぃぃいやあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 断末魔が空気をつんざく―――。

 聞いたこともない声で悲鳴を上げた。

 折れた脚は垂れ下がると動かなくなり、全身が宙に浮かんでいるため一目で分かる。

 

 男の叫びが鳴りやむことなく、彼はもう片方の足を踏み込ませた。

 

 

「さっきのは、これまで貴様が傷つけてきた女たちの分――これが、死んでいった者たちの分―――!」

 

 男の左太ももに轟音が上がる。

 

「うぎゃあああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 断末魔に、更なる断末魔が加わった。

 

 今度は、片方の腕を振りかざし―――

 

「これは、俺の仲間の分―――!!」

「うあああぁぁぁああぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 

 男の右肩を叩き割った。

 

「これが、俺の大切な者を傷つけた分―――!!!」

「ひぎゃああぁぁぁああぁぁっっっ!!!!」

 

 もう片方も砕き割ったのだった。

 

 

 なんと、おぞましい光景だろう―――

 それこそ血のりが噴き出てはいないものの、薄暗い中で痛めつけられる男の見て呉れを快くは感じられないだろう。見ているだけで擬似的な痛みを感じてしまいそうだ。

 

 四肢を垂れ下げ、気力すら残さない男に、蒼一は叫んだ。

 

「わかるか、この痛みが! 貴様がこれまで多くの人を騙し、傷付け、人の道を外されてしまった者たちの苦痛を!! 貴様だけは……貴様だけは赦すわけにはいかないッ!!!」

 

 烈火の如き憤怒を示し、その思いを叩きつける蒼一。彼の目に映るのは、いままで遭遇してきた者たちから受けた怨恨と悲愴の数々。真っ赤に染まった、まさに鬼のような目は、いまにも目の前の男を殺そうとしていた。

 それに対し、男は絶叫し続けたために体力を失い、喉も潰したために嗚咽のような呻き声しか出せなかった。いまやその男は、多くの人を苦しめ恐れられてきた存在ではなく、死に直面する下劣なウジ虫のように成り果てていた。

 

 その男に、蒼一の拳が向けられる―――

 

「これで最後だ……」

 

 その拳は大きく振り被り、男の顔に目掛けられ―――

 

 

「これが……俺からすべてを奪い尽くした、痛みだ!!!」

 

――放たれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――また、轟音が起こった。

 

 部屋を揺らし、打ち付けられた先の壁に大きなヒビが入るほどの威力だ。男の顔面は砕かれ、絶命しただろう、そう確信していた―――

 

 

 だが―――、

 

 

 

 蒼一の拳の先に、男はいなかった。

 

 よく見ると、男は突き飛ばされたかのように転がされ、気絶していた。

 蒼一の一撃は、不発に終わったのだ。

 その蒼一は、視線を横にずらし、そこに立っている男に向かって話しかける。

 

 

「なぜ……なぜ邪魔をした………明弘?」

 

 蒼一の前に颯爽と現れた明弘。

 彼は、小木曽に拳が当たる間一髪のところで、その身体を蹴り飛ばして転がせたのだ。おかげで、小木曽は息を続けることになる。

 だが、それを快く思わない蒼一は、明弘に問いかけたのだ。そして、こう返した。

 

 

「いまの蒼一の一撃なら確実に死んでただろうよ。けどな、コイツにはまだまだ聞かなくちゃならねぇことや償ってもらわなくちゃならねぇことが山積してんだ。むやみやたらに殺すのは、辞めるんだな」

「何を言っていやがる……? コイツは……この男は、すべての元凶だぞ!? コイツがいなければ、誰も傷付かなかった! 洋子も蓮花ちゃんも酷い目に逢うことはなかった!! それに、あの子も死ぬこともなかったんだ!! そして……俺たちの夢も……。それでも、アイツを生かせと言うのか?!」

「あぁ!! そうだとも!! 何が何でもあの野郎には生きてもらわなくちゃならねぇんだよ!! アイツを殺したって、何の得にもならねぇ! アイツが傷つけたみんなの傷が治るわけでも、蘇るわけでもない!! ましてや、俺たちの過去が変わることもないんだ……わかれよ、それくらいよぉ!」

 

 蒼一と明弘は怒号を怒号でもって応えた。お互いが抱く心からの叫びなのだ。互いをいがみ合うのではなく、こうして心と心を照らし合わせるこうした行動が、彼らの意思疎通でもあるのだ。

 

 すると明弘は、壁に打ち付けられた彼の拳を握ると、こう返した。

 

「お前は、この拳で人を殺めて、その手でアイツらを、穂乃果たちを抱けるのか?!」

「――――ッ?!」

 

 蒼一は息を詰まらせた。明弘のその問いに応えられないからだ。私怨のみならば、確実に殺すことをいとわなかったはず。だが、彼の中には、彼女たちに見せるもうひとつの感情があったため、応えられなかったのだ。

 

 

「蒼一。お前の身体はもう、お前1人だけのモノじゃない。そう言ったのは、蒼一じゃねぇか……。いくらこの拳が人を傷つけ、血で汚れるようなことがあっても、命だけは獲っちゃいけねぇ……。それをすれば、蒼一(おまえ)蒼一(おまえ)じゃなくなる。アイツらが愛する、宗方蒼一に戻れなくなっちまうんだよ……」

 

 それを言いきられてしまうと、蒼一は肩を深く落として、膝から崩れ落ちる。酷くうなだれながらも身に纏わせていた殺気は跡形もなく消え去ったのだ。

 

「ここは俺に任せな。下で赤坂さんが迎えに来ていやがる。その前に、いずみさんを連れてここから脱出しな」

「……明弘はどうする?」

「俺は、コイツを引っ提げて警察に行ってくるわ。コイツが残した土産もついでに持って行かなくちゃいけねぇしよ。あとは何しようが、兄弟の勝手だ」

「……あぁ、ありがとよ……」

 

 明弘はそこに転がる小木曽を抱えると、部屋から出ていった。

 遅れて蒼一も立ち上がり、隣の部屋で気絶しているいずみを見つけ抱きあげた。

 

 そして――――、

 

 

 

 

 

 窓を突き破って、そのまま姿を眩ましたのだった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

――

――― 

―――― 

 

 

[ 音ノ木坂学院・広報部 ]

 

 

 あの日から数日が経ちました―――

 

 蒼一さんたちが突入した後、明弘さんの指示で警察の赤坂さんに連絡をとり、その後の処理が行われました。幸い、明弘さんたちにケガはなく、理事長も無事に戻ったとのことです。

 

 今回の一件―――

 とりわけ大きな問題となったのは、小木曽勤と呼ばれる男が、ラブライブ実行委員会の上層部だったと言うことでした。しかも、長いことそうした案件を起こし続けてきたことや、被害に遭った人たちや学校などが次々に出てきたことが難関だったそうです。

世間がこの事実を知れば大きく揺れることは間違いないでしょう。

 

 しかし、この問題は表沙汰になることはありませんでした。

 これは、赤坂さんの力が関わったとされる話や警察の上層部が動いたからなどの推測が立ちましたが、結局のところ何もないのが現状となっています。結果的に、被害に遭った理事長やその他の人たちが、世間から白い目で見られるようなことがない現状にホッとしていたりします。それが原因で、音ノ木坂の廃校が決まるようなことになれば大変ですからね。

 

 

 そして、この一件を終わらせた張本人である蒼一さんはと言いますと……。

 

 

 以前よりも暗く落ち込み、明るさが見えない状態にありました。

 あの日、蒼一さんは何を知ってしまったのでしょう……? 明弘さんも、そのことに口を固く締めていました。その時の録音も映像もありません。断片的な情報のみが手元に残るのみでした……。

 

 

 そして、その情報の処理がようやく終わったところなのです……。

 

 

 

「では、見させていただきましょうか―――」

 

 

 あの時、あそこのパソコンから取り出しましたデータの中の中から、断片化されたとあるファイルを見つけました。これが、蒼一さん、明弘さんのお2人が見て驚愕したデータなのです。

 

 

 そのファイルを開き、あるレポートを見始めました。

 

 

 その名は―――、

 

 

 

 

『プロジェクト・ロンギネス』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~RISER抹消計画~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スクフェスが近付こうとする夏の日、それは誰にも語られなかったわずかな一時だった―――

 

 

 

 

 

 

―― 

――― 

―――― 

 

 

 

 

 

 そこに勝者はいなかった。

 

 誰もが傷付き、それを抱えて生きるしかなかった。

 

 喜びも束の間、不幸は盗人のようにやってくる。

 

 永遠なる幸せは存在しない。

 

 幸せを蝕む魔物が近くにいる限り、苦しみを受け続けねばならない。

 

 そして、人々はこぞってこう叫ぶのだ―――

 

 

 

 

 

 

 Why will the hardship take me?(どうして私に苦難を与えるのですか?)

 

 

 

Hope is there for(そこに希望はあるのですか)…?

 

 

 

 

 

 

 と――――。

 

 

 

 

 

 

 







【小木曽勤】

 全治4カ月、及び、恐喝、売春、横領の疑いにて逮捕
(その部下も同様、共に入院と逮捕状が出される)



【ラブライブ実行委員会】
 
 小木曽の独断での行動と実行委員会発足以前から行われていたこと、委員会との関わりの証拠が出なかったため、保留。


【被害者】

 女子学生、及び女性を狙った性犯罪に巻き込まれた件数、推定300件。
(未だに把握できていないものは除く)

 また、被害にあったその学校はおよそ4件。
(主犯と関わりを持ち、助長した理事長及び役員、校長、教員などは即時役職解雇命令が下される)






【???】



――
―――
――――



「……すみません……俺がついていながら、いずみさんをこんな目に合わせてしまって……」
「いいのですよ、蒼一くん。あなたがいてくれなかったら、私はどうなっていたことか……」

「それよりも私の方こそ謝らなくては。あなたをそんな目にあわせてしまった……本当にごめんなさい……」
「いずみさん……。顔をあげてください。俺はただ……当然のことをしたまでですよ。俺は、和幸さんと約束したんですから、ことりとあなたを守ると」
「蒼一くん……。もう……あなたっていう人はどうして……」
「いずみさん。もし、まだ俺にやれることがあれば言ってください。出来る限りのことをしますよ」
「……その、いいかしら……?」
「どうぞ……」

「私を……抱きしめて……」
「……はい」

「あぁ……もっと、強く……わたしを、強く……」
「あなたはよく頑張りましたよ。俺は、あなたを誇りに思います。だからいまは、強がらなくてもいいんですよ。少しくらい、ハメを外してください……」


「俺には……コレくらいしか………」









~See You Next~
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