【完結】Why will the hardship take me? 作:雷電p
―――正義は悪だ。真っ当な正義などこの世に存在しない―――
『ギヤアアアアアアアアアアア!!?!!!?』
「なっ?! なんだ!!?」
な、何事でしょう………?
意識が飛び掛かった瞬間に聞こえてくる悲鳴。 それも1人ではなく、複数の声が……何かが近付いてきている……それを残った神経で感じとるのでした。
そして、この男から殺気が薄らいでいくような気がしました。 何でしょう……つい先程までの余裕がまったく感じられないでいる……一体何が………!!
「……ふざけるな……ここは俺の縄張りだぞ?! それを知ってここに……!!」
『ナワバリ? ソレハ、一体ドコノドイツガ決メタコトダ?』
ゾワッ―――――!!
『ッ…………!!!!』
声が……聞こえてきました………。 それも、なんと荘厳な声をなのでしょう……! その言葉がこの場一体の空気が震撼していることを、無意識の深層にありながら嫌でも意識せざるを得なくなるような威圧が全身に掛かるのです!!
男の周りにいた者たちが震えだしています。 そして、この男もまた冷や汗のようなモノを額から流し出しているのを見てしまったのです。
すると―――――
ビュン――――――!!!!
疾風が走り抜け、砂塵が吹き荒れ始める。 男たちはそれぞれ身を固めようと構えだしました。 私は、地面の上でボロボロになったままなので何もできません………一体どうなってしまうのでしょうか………?
ビリリッ――――――!!!!
『ぎやあああぁぁぁぁぁ!!!!』
そんな時です。
私に雷のような光が襲いかかってきたのです! それは同時に、私の身体に触れていたモノたちを消し飛ばしたのです! 私は構える間もなく、怖くなって眼を瞑ってしまいました。
けれど、痛みなど感じませんでした。 いえ、むしろ私の身体を熱く包み込んでくれる……そんな気分を味わうこととなるのです………!
恐る恐る私は眼を開きだしました……
すると、目の前にありましたのは………稲妻の模様が描かれた群青色のパーカーを被った人物が、私を抱きあげていたのです……!
一体何が起こっているのか分かりません。 しかし、今私に分かることは……このパーカーの人は、あの噂の……雷神であると言うことでした!!
『大丈夫カ?』
「……はっ……! はいっ………!」
少し高めでよく通った声が私に臨んだので、咄嗟に返事をしてしまいました。 まさか、伝説の人物に助けられるだなんて……思いもしませんでしたから、戸惑いもあったのです。
喜んでいるのでしょうか? マスクで覆われた顔から垣間見える朗らかな表情が現れたのです。 それを見て、ようやくです……心が落ち着いたのは……。 思わず、ホッと一息ついてしまったのです。
『コンナニ傷ツイテ……辛カッタダロウ………』
「………は……い………!!」
やさしく囁いてくる言葉が、張り詰めていた心情を柔らかせるので、思わず差し迫ってきていた感情を流してしまいそうになりました。 多分、瞳は潤んでいるのでしょう……。 しかし、そうなるくらいに恐怖に襲われ負けてしまいそうだったからなの……。
咽び泣きそうになる口元を押さえ留めようとしました。
『ダカラ、
「………えっ………?」
すると、思わぬ言葉が飛び出てきたことに目が見開いたのです!
注意した…? この人が私に……?
私は耳を疑ってしまいました。 どうしてこの人はそのようなことを言えるのか、不思議でなりませんでした。 私とこの人とでは、生きる世界が違い過ぎる……なのに、どうして関わることが出来るのでしょうか?
すると、この人は私のことをジッと見つめだしたのです。 そして………
『コレホドマデ、一緒ニイタッテ言ウノニソリャアネェゼ。 マダワカラナイノカ………
………洋子?』
「ッ………!!……ま、まさか……!!」
彼が私の名前を読んだ瞬間、ピリリッと脳に電流が走り抜けていくような感覚に陥りました! そええを合図に、眠っていた感覚が蘇ってくるのです! あの時、私を抱えて助け出してくれた……あの温もりを……!!!
すると、彼はニヤリと笑い出して、マスクを少しずらしたのです。 そして現れましたのは………!
「あっ……あきひろ………さん……!?」
口元に指を立て、不敵に笑うその姿こそ、あの明弘さんだったのです!
「おっと、これ以上の詮索も名前も大きく口にしないでくれよ? これでも、隠れてやっているんだからよぉ…」
「どう……して……?」
どうして彼がここにいるのかという疑問が湧き起こると、それを咄嗟に口に出してしまいました。 そんな私に対して、私の身体をギュッと力を込めて抱き締めると、こう言ったのです!
「目の前に傷付いている女がいる……それを護るのに、理由なんかいらねぇよなぁ……?」
「……ッ!!! い、いえ……充分ですっ……!」
その言葉を聞いた瞬間、息が詰まりそうになるくらいに泣き出しそうでした。 どうしてこの人は、私が助けてほしいと願った時に現れてくれるのですか……心が折れかかっていたあの時だって、私の許に駆け付けて助け出してくれました。 あまつさえ、私の盾にさえなろうとしてくださいました……!
あなたという人は……そこまで……!
「オイ、ウィンド」
「
明弘さんから呼びかけられると、私の背後から白のロングコートを身に纏った男が……! それも顔全体を覆い隠す異様な模様の仮面を付けて現れました。 手には黒のグローブ。 コートの内側の上下の服装も黒一色で固められていた。 近くで見るその姿に、凄まじいほどの威圧感を抱いたのです!
その男は、コツコツとあの男たちの方に向かって歩いていく。
一定の規則に基づいた足取り。 剣のように空に伸びる背筋。 塵と灰を舞い上がらせるほどの威圧。 全体から感じられるその迫力にただ委縮してしまいそうになる。
けれど、無茶です……! 相手は十何人もいると言うのに、たった1人で挑んで行こうだなんて……正気の沙汰ではありません!!
「……だ…だめっ……1人ではだめっ……ですっ……!」
広い背中を見せながら遠ざかっていくその男に声を発しますが、聞く耳もたずです。 このままでは、なぶり殺しにされますよ……!
声を張り叫べない私は、ただ悲愴な思いで見るほかありませんでした。
しかし――――
「大丈夫だ、洋子。
「きょう……だい……? ま、まさかっ……?!」
ハッと気が付くと、その男の後ろ姿をもう一度見てしまいました。 あの出で立ちとこの感じ……心をざわめかせる嵐のような雰囲気。 そして、どことなく落ち着きを抱かせるような気配が私の感覚に刺激を与えました。
あの姿……間違い無いのですか……? あれが蒼一さんだとでも言うのですか……?
姿かたち、それらすべてが変わり尽くされたその様子に、ぶるっと背筋が震え上がりました。
ザッ――!!
地面を踏みつけるように固く立つ蒼一さん(?)は男たちを前にして立ち止まった。 急に足を止めるので、男たちはギョッと目を見開いて一歩後退した。 彼がこの後どんなことをするのか、気が気でならない様子だ。 それもそうです。 ついさっき、この男たちの数人を一瞬にして吹き飛ばしたのですから。
「オイ―――」
腹の奥底から唸りのような声が空気を震撼させる。 たった二言発しただけでも目の前に居る男たちは身を震わせていた。 そんな彼は、左腕を彼らの前に突き出すと、くるりと手の平を空に向けて返す。 すると、人差し指と中指をクイックイッと折り曲げてこう言い放った――――
「オイ、ド三流。 貴様ラノヨウナションベン臭イクソガキハ、トットト家二帰ッテ泣キナガラママノオッパイデモ啜ッテ寝テナ。 刃向ウトイウノナラ、容赦ハシナイガナ………」
行動と言葉が混じった挑発――――あまりにも安っぽく、心を逆撫でるその言葉に線が切れるような音が聞こえた。
「なんだとぉ……! 貴様のようなヤツが……この俺を見下すのかぁぁぁ?!!!」
言を発したのは、言うまでもなく私を踏み蹴ったあの男だ。 その男は眉間に深いシワを寄せ、血管を剥き出しにするほど顔を真っ赤にして激怒していた。 挑発されたことがかなり気に障ったのだろう、その怒りは尋常ではなかった。
「殺れっ!!! あのドブネズミのような汚らわしい男を直ちに排除しろぉぉぉ!!! これは命令だ!! この人数で一気に畳み掛けてしまえば一瞬で終わる!! 手段は問わない!! さっさと、殺せッ!!!」
男は震える男たちを叱咤し、イキリ立たせる。 すると、その言葉に自信を持ったのか、男たちは止めていた足をじわりじわりと踏み出し始める。それに彼らの手には光る得物も見受けられます!
しかし、蒼一さんは腕を降ろし、その場に立ちつくしたのでした………
「ふ、ふははは………どうだぁ……これだけの数にビビっちまったかぁ~?」
「どうやらションベン垂らして泣いてんのはテメェの方じゃねぇかぁ?」
『ふひっひっひっひ………』
男たちの笑い声。 聞いているだけでおぞましく思ってしまうほどに低俗すぎる。 まるで、家畜の合唱のような声に吐き気すら催してしまうほど邪悪だ。 あんな男たちに穢されそうにされていたと考えると、尚更身体が震えてしまう。
けれど、そんなことよりも蒼一さんに身の危険がやってくるではないですか! いくら風神と呼ばれるからと言って、十数人もの男たちを相手にするなど到底できることではない。 背中を突き刺すそんな焦燥感が私を逸らせるのです!
「あっ……!!」
私が声を上げようとしたその瞬間、男たちは一斉に蒼一さん目掛けて襲いかかったのです!! もうだめっ! と思い目を逸らそうとすると、「ちゃんと見てな」と明弘さんからの声で視点を止めました。
轟く男たちの叫び声。多く重ね合った声が空気を震え始めた。 生き血を欲しようと鋭い刃物から黒く乾いた金属の光をギラリと放ち威嚇させてくる。 それが数えられないほどの殺意が彼に向かっているのだ!
あと数秒――――それが彼に与えられた最後の時間。
そう思われていた…………
「警告シタゾ、俺ハ容赦ハシナイト………寛大ナ処置トシテ見逃スコトモ選択肢ニ与エタノニモ関ワラズ無視スルトハナ………愚カナ者達ダ。 俺二刃向カッタコトヲ精々、アノ世デ後悔スルノダナ……
……モットモ、アノ世ニ直接行ケタラノ話ダガナ………」
ぞわっと身体の芯から震え上がるような声が地を這いつくばるよう耳に入る。 それが私に寒気を走らせた。
その瞬間だった―――――
ゴガッ、グシャッ―――――!!!!!
固い鈍器のようなモノで抉られた不気味な音。 それが生々しいほどに耳に残り、不気味さだけを与えた。
そんな時だ、彼に襲い掛かろうとしていた数人の男たちの姿が見えなくなったのは。 突如、視界から消えてしまった男たちをすぐには見つけられない。 まだ、男たちの攻撃は終わっていないはずからだ………
しかし、よく見ると私の視界の中で明らかな変化が堂々とした様子で現れているではないか。 気にも留めなかったのなら確実に見逃していただろう。
寡黙に、尚且つ誰にも悟られないほどに緩やかな動きで――――
ガツッ、ドシャアァァ――――!!!!!
男たちを葬っていた―――――
ある者は心中目掛けて放たれた拳によって―――
ある者は顔の側面に回し蹴りを与えられたことによって―――
ある者たちは両方から仕掛けようとするも察知され、引き寄せられると自らの頭同士を激しく打ち付け合わせたことによって―――
―――次々と視界から消えていくのでした
彼に襲い掛かる男たちが目の前から消え、その周りを見てみると………壁や地面に叩き付けられ動けないでいる男たちがいた。 死屍累々、阿鼻叫喚。 まさにその言葉通り、男たちは呻き声を上げつつも辛うじて生きている、そんな感じであった。
「な゛っ……!!?!?」
あの男は驚愕していた。 まさかあの一瞬で、十数人もの血気盛んな暴漢共を薙ぎ払うなどありえもしないことだ。 だが、現実が目の前にある。 なのに、それを受け入れられないのだ。
「サテ……貴様ハドウスルノダ……?」
彼はまだ挑発をかける。 男は目の前に転がる仲間たちを見て恐れ慄くものと見られたが、逆に感情を高ぶらせ逆鱗に走らせた。
「……貴様……貴様、貴様きさまキサマキサマキサマァァァァァァァァァァ!!!!!!!」
狂ったように彼のことを名指しすると、重くとどまっていたその足がようやく動き出す。 ダンッと地面を蹴り上げ、彼の前に到達すると、どこから取り出した得物を突き刺そうとする!
―――が、それは彼に当たることは決してなかった。
彼は男の腕を掴み取ると、二の腕を叩き割るように拳を鋭く打ち付けた!
ゴキャ――――!!!!!
「ひぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!?!?」
何かが折れだす鈍い音と共に男が悲鳴を上げる。 手にしていた得物が無雑作に地面に落ちると、その腕は二の腕の真ん中から折れ曲がると言うありえない状態を見せたのだ。
「コレデ済ムト思ワナイコトダナ……」
彼は次に、その男の太ももを踏みつけるように蹴り飛ばすと、これもまたえげつない音を立てて砕けた。 男の悲鳴はまだ大きくなるばかり。
すると、彼はその男の背後に入り、折れてない脚の膝を屈折させて腕で首を絞める。 その様子は、某ステレスミッションゲームに登場する蛇の如く。 近接戦闘術をかけてその男を羽交い絞めした。 身動きが取れないこと、息苦しくなっていることが同時に襲いかかった男は為す術なくもがいた。
満身創痍とも言える男に、彼は何かを問い詰める。
「答エヨ。 貴様、ドレダケノ女ヲ貶メタ?」
「……し、知るもんか……! どれだけヤろうが俺の勝手だ……ここに来たクソアマが悪いんだ……うぐっ?!!」
「ヤハリ貴様ハ人間ノクズトモ呼ベソウダ。 人ヲ喰イモノニシ、ソレヲ私欲ノタメニ貪ル……トンダ外道ダ」
「女なんぞ、所詮、俺たち男の道具にすぎない……! それをどう扱おうが俺たちの勝手だぁ! そもそも、あの身体が悪いんだ……俺たち男を誘うような身体をしやがって……まるで襲ってくれと言っているようなモンじゃねぇか……!
……だから、ヤった!! 嬉しそうに媚びながら快楽の虜になっていく姿を見て清々する……! 最初は嫌がって抵抗していたヤツもいたぁ!! だが、最後は失禁するほど悦びながら堕ちていったぁ!! それの何が悪い!? 所詮、女は男の肉欲に飢えているんだ! それを神である俺は解放してあげているのだ!! 人間の本性を晒させて何が悪いのだっ?!」
悪寒に障られたような震えが蘇る。 私はこんな男に囚われて、嬲られそうになったと考えると胃が重くなり吐き気すら催したくなるほどです……虫唾が走る……いえ、そんな言葉では言い表せられない憎悪が湧き上がってくるのです。
明弘さんの服をギュッと掴み、この気持ちを抑えようと努めた。
ギュゥゥゥゥ―――――
「ナルホド……貴様ノ言イ分ハワカッタ……」
「ッ~~~~~~!!!」
首が締まりだす音が強くなり始めた。 次第に、息苦しく顔を赤黒くさせている男が虫のような金切り声で叫びますが、哀れとは思えませんでした。 むしろ、そうなって当然―――そのまま、殺したって構わないとさえ思ってしまうのでした。
私を貶めようとしたことや今までに被害にあった方々のことを思うと、煮え繰り返りそうになったからだと……わずかばかりの良心が囁いたのでした。
「最後ニ聞キタイコトガアッタ……貴様、アノ男トハ誰ダ……?」
「……ぅぐっ……さ、さあな……貴様なんぞに教えてやるものか………」
「デハ、死シテアノ世ノ閻魔デモ拝ンデ来ルガイイサ……地獄ノ沙汰ハ思ウ以上ニキツカロウ……」
「……うがっ……! うぁぁ…………お、俺がやられようが……あの男は確実に貴様を殺す……それほどの男さ……ふ、ふふふ……精々、殺されるまでの間……楽しんでおくんだな………あっひゃっひゃっひゃ……!!」
「ソウカ……モハヤ、貴様ニ用ハナイ……地獄ニ堕チロ……」
ドッ、グシャァ―――――!!!!!
彼に背中を蹴られた男はそのまま壁に激突した。 ベットリと絡みつくような血飛沫を上げ、男の身体を真っ赤に染め上げた。 それでも、彼には意識がある。 そこら辺に転がる男たち同様、絶命などしていない様子だった。
「ライ。 後ノコトハ俺ガナントカスル。 ソノ子ヲ安全ナ場所ニ連レテ行ケ」
「
低く唸るような声で話をすると、明弘さんは私を連れてここを離れようとし始めました。
「そういt……!」
哀愁漂う広い背中を見せる彼の名前を口にしようとしました―――しかし、何故か躊躇ってしまう。 どうしてかは分かりません。 ただ、口にしてしまえば何かが変わってしまうような気がしたのです。
「…………」
すると、蒼一さんは身体を反転させて私の方に近付いてきた。 何をしてくるのだろうかと身を強張らせていると、スッと私の顔に手を伸ばしてきた。 その際、彼はわざわざはめていたグローブを外し、やや白み掛かったその手が私の頬に触れた。 しっとりと肌がくっ付くような感触と、仄かな温もりが肌を通して伝わってくる。
「……もう無理をするなよ……」
小さく呟かれた言葉を耳にして、ふと彼の顔を見上げる。 仮面に覆われ、すべての表情を捉えることはできないが、唯一捉えられる瞳が潤んで見えた。 熱くなく、燃え尽きたかのような淋しげな色をした瞳は、私の心に深く印象付けさせた。 どうしてそんな眼をするのだろうか……その答えは見出せるものではなかった。
私から手を離した彼は、そのまま瀕死体らの方に身体を向けて歩きだした。 私は明弘さんに連れられて、この場を去った。 けれど、路地を曲がるその瞬間まで、暗闇に一人たたずむ彼の後姿だけを追っていた。
―
――
―――
――――
[ 洋子・自宅 ]
明弘さんに支えられながら家に戻ってきた私は、中に入った瞬間、脚に力が入らなくなり倒れそうになりました。 しかし、明弘さんが支えてくれたおかげで、壊れそうなこの身体を床に振り落とすようなことはせずに済みました。
―――が、蓄積された身体のダメージは深刻でした。 ここに帰って来れたことに身体が安心し始めたのでしょう、緊張が解れ止まっていた痛みが蘇ってくるようでした。
「大丈夫か?!」
「はぁ……はぁ………決して大丈夫とは言えませんね……。 お腹が……千切れそうです……!」
蘇る激痛に苦悶し、お腹を抱えて縮み込んでしまう。 歯を食いしばって耐えているものの限界は近かった。 今すぐにでも泣き叫びたいくらいに辛かったのです。
「無理すんじゃねぇぞ、洋子! 辛かったら、なりふり構わず思いっきり叫ばないと痛みは収まんねぇからな!」
私の横で見守ってくれている明弘さんの励ましが、苦悶に浸る私の唯一の希望のようなモノに思えてきます。 彼と一緒ならば平気なはず……そう思っていた矢先、痛みに耐えきれなくなった私は、とうとう玄関先で座り込み小さく呻き声をあげ始めるのでした。
「そうだ…それでいいんだ! 我慢するんじゃない、ゆっくり全身の力を抜いて……吐き出して……」
「……ぁ……あぁ………」
漏れ出てくる息苦しい声――――
背後から囁かれるやさしい言葉――――
この双方を同時に身体から吐き出し、受け入れることをするため、思った以上に辛い気持ちが沈んでいます。 落ち着きます……あなたの声を聞くだけでこんなにも安らかになれるなんて……。
お願いです……もっと……もっと私に注いでください……! 痛いのは……イヤなんです……。
ギュッ――――――
思わず彼の手を握り締めてしまう私。 痛みで頭がぼぉーっとしているからなのでしょう。 あまり深く考えることも無く、彼の手を握ってしまっていた、ただそれだけのことなのです……。 なのに……手に力が入っていきます……。 力一杯彼の手を握り締めていて離れたくないと感じている。
「明弘さん……このまま……このままでいいですから……。 ずっと、握っていてくれませんか……?」
「……!……仕方ねぇ、洋子の気が済むまで居てやるからよ」
「あっ……ありがとう……ございまっ…す……! うぐっ……!!!」
明弘さんからの承諾を得た後の私は、彼の言葉通りになりふり構わず泣き叫びました。 ずっと噛み締めて耐え続けていたこの痛みをようやく解放することが出来る……! そう思いながら冷たい部屋の中で声を高く荒げさせるのだった―――――
―
――
―――
――――
あれからどのくらい時間が経ったのでしょうか……?
時間を計ること無く、無我夢中に叫んでいた私には分かるはずもなかった。 ただ、部屋に射し込んでいた薄暗い光が消え去り、暗闇だけが覆っていた。 何も見えることのないこの場所で、握るこの手の温もりだけが感じられるのでした。
「どうだ……? 少しは良くなったか?」
そよ風のように囁かれる声に、私は「うん」と頷くだけ。 それでも彼は「そいつぁよかった」と緩んだ声で応えてくれるのでした。 それが何だか申し訳なくって、悲しくって……気持ちを捻じ曲げてしまうのです……。
「どうして……明弘さんは私にやさしくするのですか……? こんな愚かな私のために、あなたの時間を浪費するなんてしなくてもいいじゃないですか……」
ふてくされるように、ボソッと呟いてしまう。 こんな哀れな姿を晒してしまったことが恥ずかしく、自らを卑下してしまう。
すると、彼は握るその手に改めて力を入れ直すと、微笑むような感じで言葉を紡ぎ始めた。
「バカだなぁ、おめぇも。 俺は洋子を助けるためなら時間を惜しんだって構わねぇと思ってやってんだ。 おめぇも俺たちの大事な仲間なんだ。 それに、この俺がこんな哀れになっている女を見過ごすわけがねぇだろうが……」
「………!!」
彼の直球的な言葉が私の心に深く突き刺さりました。 彼がどんな気持ちで私のこの手を握っていたのかと考えると、目頭が熱くなってくるのです。 多分、こうして私のことを思ってくれた人は、明弘さんが初めてのことかもしれません……。 その気持ちを知ると、返って涙が零れ出てくるのです……!
「すみません……もう少しだけ、私のわがままに付き合ってもらってもいいでしょうか……?」
「……構わねぇさ。 おめぇの気持ちが落ち着くまでいてやんよ」
その返答を受けた時、無意識なのかもしれませんが、一瞬頬が緩んだような気がしました。 何故だかわかりません。 けど、その一瞬だけ心が朗らかになっていたのは事実だったわけで、そのまま彼に甘える形でずっと傍にいてもらいました。
情けない姿をたくさん見せてしまいました………
でも、不思議と心は穏やかで、痛みが過ぎ去った後の状態は朝よりも良好でした。 彼が隣にいてくれてよかったと、むせび涙を浮かばせながら、白昼夢のような今日という日に終止符を打つのでした―――――
...Hope is there for...?