赤コーナー、シャア・アズナブル選手の入場です 作:山田キートン門左衛門
原作:ガンダム
タグ:逆襲のシャア エキサイトプロレス 鋼鉄ジーグ 懐かしのプロレスネタ ガンダムXオープニング もうどうなってもいいや GQuuuuuuX
かつて、一大抗争があった。
一つの団体の革命宣言に端を発した団体間抗争が、宇宙世紀プロレス界全域を巻き込む全面抗争となったのだ。
抗争が膠着状態となって八ヶ月。
プロレスリングジオンは、リングと会場に甚大な被害をもたらす必殺技「コロニー落とし」を切札に、EFP(地球連邦プロレス)に対して敗北宣言を迫った。
これに対して連邦は、極秘に開発していたサイボーグ戦士「鋼鉄ジーグ」をリングイン。徹底抗戦の構えを取った。
だが、この一撃が、プロレス史上最大の悲劇の引金となった。
勝利を焦ったジオンはコロニー落としを強行。連邦も一歩も退くことなくビルドアップ。
抗争は泥沼となり、遂には人類全てのリングである地球に、致命的なダメージを与えてしまった。
地球圏における連邦一強の時代は終わりを迎え、最早抗争に勝ちも負けもなかった。
そして月日が流れ。
「プロレスを格闘技に」を合言葉としたティターンズ、また「過激なセンメンタリズム」を謳ったエゥーゴに分裂した連邦が再合併を果たし、腐敗こそ進んだものの安定しつつある頃。
ーー赤い彗星がリングから姿を消して既に数年が経過していた。
移動式リング型小惑星フィフス・ルナの表面で、二人の男が取っ組み合っている。
一人は、すっきりとした金の短髪を靡かせる屈強な男。赤いショートタイツ一丁に身を包んだこれ以上ないほど男らしいスタイルだ。
宇宙空間においてそれは紛れもなく自殺行為である。筈なのだが、平然と鍛え上げられた恵体を晒している。
「宇宙空間の異常な温度は?」
「無酸素状態で人が生身で居られるのか?」
疑問は尽きることなく浮上するが、そんなものはこの筋骨隆々逞しい美丈夫にとってなんの価値すらもない。
何故ならば、この男はプロレスラーだからだ。宇宙世紀においてプロレスラーとは、宇宙空間に適応した人々に他ならない。
その名はシャア・アズナブル。
かつて赤い彗星と呼ばれた男。
「そんな情けないファイトで私に挑もうとはな!見損なったぞアムロ!」
対するのは、かつて赤い彗星と死闘を繰り広げた生きる伝説にして、連邦に長いこと飼い殺しにされていた男。
その名はアムロ・レイ。
又の名を鋼鉄ジーグといった。
「ちぃっ」
真空に近い宇宙空間を生身で跳び回るシャアの両手から緑の闘気が数条放たれる。
どうして宇宙空間にも関わらず声が届くのかは、残念ながら未だ解明されていない。だが、宇宙に出たプロレスラー達は特有の超感覚の為かそれが可能である。
人類が宇宙に住むようになってまだ一世紀も経っていない中、プロレスラー達は宇宙空間に適応し遠近両用のファイトを実現するため、闘気の扱いを身に付けていた。
シャアが放った一撃も闘気の応用であり、広大な宇宙空間をそのままリングとして扱うプロレスラーにとっては必須の技術であった。
一方これを必要以上に大きな動きで避けたアムロは、数年のブランクにより自分の勘がどうしようもなく鈍っているのを自覚した。
アムロ・レイ。
かつて、抗争の時代において、ジオンの名選手「青い巨星」ことランバ・ラルに大敗を喫した。失意の中で己のレスラー像を見失いかけたアムロは、一時所属チーム「ホワイト・ベース」を離れる。単身砂漠を宛てもなくふらつき、そしてその内に一時消息を絶った。
その時何があったかは公式には残されていない。しかし実の所砂漠の中を放浪する最中、酸素欠乏症にかかっていた父親テム・レイ博士と遭遇。
そして。
気が付いたらサイボーグ戦士・鋼鉄ジーグに改造されていたのである。
久々に再開したと思えば催眠薬から手術台のコンボを一身に受け、為すすべなくサイボーグと化したのだ。
これには目が覚めたら体が縮んでいた経験のある江戸川少年もびっくりである。
それからアムロ・レイはファイトスタイルを一新。荒々しい口調となり、情け容赦のない残虐ファイトで人気を博すと、当時マスクに素顔を隠していたシャアと何度も死闘を繰り広げ、一躍アムロ対シャアのチケットはドル箱と化した。
しかしジオンの団体消滅を機にその力を身内であるはずの連邦フロント陣に危険視されたアムロは、半ば幽閉に近い措置をとられ、それまでと異なりロートルの体でのファイトを余儀なくされる。一時期宇宙世紀プロレスに適応した新人類である「ニュータイプ」では無いかとまで言われた鋭い勘は失われていった。
「そんな情けない体でどうするというのだ、アムロ!」
「言われなくとも分かってるぜ!」
情けない機体呼ばわりされた哀れなアムロの今の体は、リガズィタイプ。
ジオンの消滅で決着した連邦が分離した内の一つ、「エゥーゴ」で開発・建造された「Zタイプ」の廉価版とでもいうべき代物である。
元々Zタイプは大気圏内外両方での運用を可能とするべく、高い機動性を実現する可変機構を採用していた。
しかしエゥーゴに「ティターンズ」という直接的な脅威が存在していた時代ならまだしも、今のような平和な時代ーー尤もそれは薄氷の上に過ぎない物だがーーにおいては予算を馬鹿食いする倉庫の肥やしに過ぎない。
おかげで折角の可変機構は簡略化され、リガズィは使い捨てのサブフライトユニットでお茶を濁すのが精一杯であった。
シャアの「情けない体」呼ばわりも、無理のない話である。
「ここは臆せず攻める!」
急加速したアムロは、宙空に構えるシャアに向かって前方に拳を組み突撃を仕掛ける。
「ジーグランサー!」
分離したサブフライトユニットを囮に一直線に突っ込む。
大抗争時代に数多のジオンレスラーを沈めてきた必殺のフィニッシュホールド。直線的な速度と破壊力に富んだ鋼鉄ジーグの象徴である。
特に「黒い三連星」との三対一という変則マッチで見せた、敵をそのまま足場にして放ったジーグランサーは今でも語り継がれる伝説の一撃であった。
必殺の三位一体の一撃だった「ジェットストリームアタック」。その先鋒を務めるガイアが咄嗟に口走った「俺を踏み台にした!?」の一言はあまりにも有名である。
しかしシャアも甘くはない。的確に囮を闘気で沈めると、すぐさま反転しアムロの一撃を鋭角に近い機動で躱し逆に背後を取った。
「プロレスラー同士の闘いとは、こうするのだ、アムロ!」
一転攻勢。シャアのドロップキックが無防備な背中に突き刺さった。
ドロップキック。
プロレスラーがマットの上に垂直に跳躍し、そのまま水平に二本の足を揃えて放つキックである。美しく決める事の出来るレスラーは自身のテクニックを雄弁に示す事となる為、レスラーの良し悪しを見極める基準として未だプロレス界に君臨し続ける技だ。
シャア・アズナブルという男は、その華麗なハイスピードプロレスに反して派手な持ち技のないレスラーである。
寧ろ彼の売りは丁寧に鍛え上げたレスリング技や、基本に忠実な、ともすれば地味と評価されがちな技の数々である。キャラクター性で売っているレスラーと並べてみればその技のキレが一目瞭然であり、特にドロップキックについては初代タイガーマスクこと佐山聡と並び、「最も美しい」と評価されるほどである。
(ちぃ!体が遅い!)
背中に受けた衝撃に思わず目を白黒させながらもなんとか体制を立て直したアムロ。
しかし、振り返ると其処にはシャアがいない。
「アムロッ。そんな事では私を止める事など出来ん!」
四方八方からシャアの声が聞こえ、アムロは思わず硬直した。
この展開こそハイスピードプロレスの真骨頂。
かつてA.C1980年代に活躍したスタン・ハンセンに端を発するハイスピードプロレスは、元々無尽蔵のスタミナに物を言わせ大小様々な技を相手に繰り出し続けるスピーディなファイトスタイルである。
王道的なプロレスの「技を受け、返す」リズムと相反する為最初期には忌避されたが、後に刺激を求めたプロレスファン達に支持されるようになった、という経緯を持つ。
付け加えるとシャア・アズナブルの「ハイスピードプロレス」はそれとはまた異なる領域にあり、シャア以外には決して不可能と言われている。
それは、トップロープを自在に飛び回り反動を駆使し高速機動を実現するもの。
通常こんな事をすれば途中で体勢を崩しかねないばかりか、体への急激な負担が後遺症とさえなり兼ねない危険な技である。
しかしシャアは天才的な空間把握能力と鍛え上げた肉体による身体操作でそれを実現しているのだ。
更に極め付きは宇宙空間でのファイト時に見せる、「己の闘気やデブリを足場にする」機動である。
かつてEFPに所属しシャアと闘った歴戦のレスラー、パオロがこの機動を見て「通常の三倍のスピード」と称したのは余りにも有名である。
そしてこれこそが赤い彗星と呼ばれた所以でもあるのだ。
一方のアムロもようやく体が馴染んできた事で、少しずつシャアの機動に反応しつつある。
(このままではジリ貧だぜ)
アムロの脳裏に電流が走る。往年のニュータイプたる勘を一瞬取り戻したアムロはすかさずシャアに向かう。
「パーンサロイド・ミサイル!」
リガズィの腕部ミサイルランチャーを放ち、その影に入り突っ込んだ。
重荷を外し軽くなった右手に闘気を集中させると、ミサイルを迎撃した瞬間のシャアに斬りかかった。
「えぇい!」
シャアの闘気を纏ったチョップがアムロの逆水平チョップを迎撃する。
激しいチョップの応酬。闘気の本流が宇宙を明るく染め上げた。
「なんでこんなものを地球に落とす!これでは、リングが寒くなってプロレスファンが来れなくなる!プロレスの冬が来るぞ」
地球が滅びる事そのものが問題なのではない。
かつて「プロレス界のド真ん中を行った」男、長州力がこう言った。
「今、プロレスに非常ベルが鳴っている」
これと同じ事が宇宙世紀プロレス界についても言えよう。
「私、シャア・アズナブルが粛清しようというのだ、アムロ!」
「粛清だと。プロレスラーがプロレスを粛正すると言うのか?
エゴだよそれは!」
「だとしても誰かがやらねばならん!さもなくば地球に住むプロレスファン達は、母なるリングである地球をも食いつぶすだろう。プロレスが保たん時が来ているのだ」
「そんな事!」
「ならば貴様はプロレスラーとしてこの私を止めてみせろ。そんな体でなく!」
シャアが怒りと共に吐き出した声がアムロを強かに打つ。
EFPに飼い殺しにされ、不自由な体しか扱えない今の自分の姿を省みると、情けないという言葉がこれ以上なく当てはまると自認し、思わず苦笑してしまった。
だが今はファイト中。そんな一瞬の油断が命取りである。
アムロの右手を鋭いシャアのチョップがあっさりと切り落としたのだ。
「ちぃっ!」
同時刻。
二人がファイトを続けるフィフス・ルナ宙域を少し離れた所に、ロンド・ベルの巡業用艦隊がネオ・ジオン率いる艦隊と闘気の撃ち合いをしていた。艦橋に立つ屈強なレスラー達が、湧き上がる闘気を雄叫びと共に敵に向け放ち合う。
何処までも黒い背景に極彩色で無秩序な線を描いているのだ。
その最中旗艦ラーカイラム中枢部、即ちブリッジにてロンド・ベルの長ブライト・ノアが指揮をとっていた。
「!?……アムロがやられた」
「確認しました。アムロ大尉、右腕を損傷!」
一瞬の躊躇いを見せるも、すぐに動き出す。
「一旦出るぞ。……メラン、此処は任せる」
「はっ」
遠く離れたフィフス・ルナでのシャアの一撃をプロレスラーが標準装備する超感覚で捉えたブライトは、そのままブリッジを単身飛び出すとそのままラーカイラムの艦橋に立つ。
敵味方の闘気の奔流に生身を晒すことになるがそれを機にも留めず、自身の纏っていたマントをその手に抱えた。
そしてブライトの姿が露わになる。黒のロングタイツとこれまた黒いリストバンド。
何を隠そう、ブライト・ノアこそ宇宙世紀プロレス界に覇を唱える一人。
「黒目のカリスマ」その人である。
衝撃的なヒールターンを経て、俺様キャラでじわじわとのし上がり今ではロンド・ベルのトップを担うまでになった。ここ数年は、「笑ってはいけない24時」シリーズに毎度出演し闘魂注入ビンタを放つ事で、大晦日の顔としてもお茶の間に広く親しまれている。
そんな彼は積み上げたレスラー経験故に乱闘の経験も多い。無秩序な闘気の群れに晒される事など日常茶飯事なのだ。
「ガッデェム!アムロ!帰投しろ!」
ブライトはその手に持ったマントを大きく振りかぶり、そして鍛え上げられた豪腕で投げた。時速千キロを超える圧倒的速度で一直線に向かうのは、フィフス・ルナ宙域。
即ち、タオルが投げ入れられたのである。
「……ブライト。タオル!」
咄嗟に後退するとアムロは左手から大量のデコイを投射する。
だが、残虐ファイトで売ったのがアムロ・レイという男である。ただでやられてすごすごと帰るのは気に食わなかった。
「隙だらけだぜ!ジーグビーム!」
損傷を免れた左手から放たれた闘気が、不意打ちの形でシャアに直撃した。
それを確認する事なく一目散に逃げるアムロは、その実「一発決めてやったぜ」と成果を誇っていた。
フィフス・ルナの地球投下を阻止する、という目標を達成できなかった為作戦は失敗なのだが、それはそれである。
後でブライトと話し合う事であって、今くよくよ考えるべきことではないのだ。
「それでこそアムロ。最後に魅せるか……」
ヘルメットを着けていなかったため、直撃したジーグビームによって赤いショートタイツが焼け、惜しげも無くその芸術的な裸体を星々に晒しながらも。
シャアは感慨深げにそう呟いた。
「だが、これではまだプロレスとは言えない。ガッチリと組み合い、肉体と肉体をぶつけ合う事こそ真のプロレス。まだまだ私のレスリング殺法には先があるのだ。……アムロ、私に追いついてみせろ」
フィフス・ルナから迫り来る地球がよく見えた。
両雄再びぶつかり合う日は、そう遠くない。
この後Hi -νジーグに換装したアムロと落下中のアクシズ表層でなぐり合い宇宙します