仮面ライダーW メイドはU   作:雪見柚餅子

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 初めまして。雪見柚餅子です。
 今回、初投稿です。
 完結を目指しますので、よろしくお願いします。


1話

 風とエコの街、風都。

 この街で知らぬ者はいない名家、園咲家の地下の一室に一人のメイドが迷い込んでいた。

 

「なに、これ…」

 

 そのメイドの虚ろな瞳に映るのは、部屋に飾られたUSBメモリのような機械。その中でも特に彼女を引き付けるのは、壁際にある銀色のメモリ。薄暗い部屋の中では見えにくいが、それには歪んだUの字が描かれている。

 何かに導かれるかのようにそのメモリを手に取ると、どこか満たされたかのような感覚が心に溢れる。

 そのまま放心したかのように佇んでいると、突然背後から声を掛けられた。

 

「許可なくこの部屋に入るとは、悪い子だね」

 

 振り返った先にいたのは、巨大な頭部が特徴的な怪人。その足元からはどす黒い泥のようなものが溢れている。

 彼女は無意識の内に後ずさりする。それが怪人の姿を見た時から湧き出る、得体のしれない恐怖によるものであることには、まだ気付いていない。

 怪人は徐々にメイドに近づき、壁際に追い詰め、そして彼女の首に手を掛ける。

 

「さて、雇ったばかりで残念だが君にも消えてもらおうか…?」

 

 ふと怪人があることに気付き、彼女の右手首を掴んだ。

 

「そのメモリ…、まさか、それが君を呼び寄せたのか…? いや、ただの偶然とも…」

 

 その手に握りしめられた銀色のメモリを見つめる怪人。その言葉の意味を彼女は理解できず、ただなすがままになっている。

 

「ふむ。まあ仮に適合しなくとも問題は無いか…」

 

 そういって怪人は彼女からメモリを力づくで奪い取ると、机の上に置いてあった銃のような機械に装填する。

 この間、怪人が離れたことで彼女は一時的に自由となったが、怪人に対する恐怖が拭えず、壁際でただ棒立ちするしかなかった。

 

「さて、試させてもらおう」

 

 気が付くと怪人は老年の男性へと変わり、手にした機械を彼女へと向けていた。

 そして彼女の左手首にその機械を当て、引き金を引く。

 

「あ…っ!?」

 

 突然の感覚に、思わず声が零れる。まるで自分の中に別の何かが注ぎ込まれる感覚。どこかおぞましく、どこか満たされるその感覚が全身を支配する。

 

「ほう。そのメモリに適合するとは…、なかなか興味深い」

 

 徐々にメイドの体は変貌する。人型は保ちつつも、その外見はまさに怪人と言って差し支えないものに。

 

 そしてまた新たな怪人、ドーパントが風都に誕生した。

 

 

 

 

 

「…はあ~」

 

 小さな花壇の手入れをしながら、あの時のことを思い出し溜息を吐く。

 あの時、心の声に逆らって地下に行かなければ良かったなんて嘆いても仕方がないのは分かっている。そんなことはもう、この数か月で数えきれないほどやったし、今はもう諦めた。

 この家の秘密を見た私が未だにこうやってメイドをやっていられるのは、偏に私に実験体としての価値があるからだろう。

 私が適合したというあの機械―ガイアメモリは、今まで誰も使いこなせなかったらしい。話を聞くと、私の前に使った人は全員発狂したとのことだ。

 そんな危険なものに適合したというのは良いことなのか悪いことなのか…。

 少なくともそのおかげで、こうして生きていられるのだが、それと同時に、時々面倒な命令をされるのだから、一概にどちらが良かったとは言えない。

 

「はあ~」

 

 もう一度、溜息を吐きながら手入れを続ける。

 庭仕事は嫌いじゃない。むしろ好きなほうだ。だけど、こういう仕事は普通は庭師の仕事のはずなのだが、なんで私がやらなきゃならないのだろうか。別に居ないわけじゃないのだから…。

 そんなことを考えながらも黙々と作業をしていると、不意に肩に何かが乗っかってきた。

 

―ニャア―

 

 この重みに鳴き声。やっぱりかと思いながら顔を少し傾けると見える灰色の毛並み。この家で飼われている猫のミックだ。

 さらに扉が開く音が聞こえ、そちらに顔を向けると、そこにいたのは園咲家次女の若菜様だった。

 

「あら。やっぱりここにいたのね」

 

 その言葉を向けているのは私ではなく、家族の一員であるミックのほうだ。どうやら探しに来たらしい。

 若菜様は家族以外の人間をとことん見下す傾向がある上に、気に入らないことがあればすぐにキレだす。姉である冴子様とも折り合いが悪く、何かあればすぐに争いだすから手に負えない。

 まあ、機嫌が悪くなければそれなりにいい人なのだが。

 そんな若菜様が手を差し伸べるが、ミックは頑なに私の肩から降りようとしない。

 

「本当にそこが好きなのね。いったいどうしてかしら」

 

 そんなこと、私のほうが聞きたい。何故か知らないが、ミックは私に懐いているようで、ことあるごとにこうやって擦り寄って来る。

 別に嫌いではないのだが、仕事中にこうされると正直言って疲れる。

 仕方なくいつも通り、肩に乗ったミックを抱きかかえ、若菜様に渡す。

 普通のメイドがこんなことをすれば大目玉だが、なぜかミックに気に入られている私は見逃されている。というのも、初めてこうやって抱きかかえた時に、当時のメイド長から叱られたのだが、その途中でミックがメイド長に爪を立てて攻撃したのだ。それ以来、園咲家の者以外で私だけがこうやってミックに接することができるようになった。

 

「はい、ミック。そろそろご飯の時間よ」

 

 そのまま若菜様がミックを抱え、屋敷の中へと戻ろうとすると、不意に寒気が走る。

 思わず辺りを見渡すと、若菜様に近づく老年の男性が視界に入った。

 彼こそがこの園咲家の当主、園咲琉兵衛様。私の雇用主にして、私に園崎家の裏の顔を見せた人物。

 何とか平静を保つが、その顔を見ただけで、背筋に冷たい汗が流れる。

 そして琉兵衛様は朗らかな笑顔をこちらに向けると、静かに口を開いた。

 

「初君。近々、君に頼みたい仕事があるんだ」

 

 頼むと言ってはいるが、これは命令だ。

 心の中で悲鳴を上げながら、表情は変えずにゆっくりと私は頭を下げた。




オリジナルキャラクター
二宮(にのみや) (うい)
●21歳 女性
●黒髪ショートカット。身長は鳴海亜樹子よりやや低め。
●園咲家で働くメイド。9か月前に雇われた。
●6か月前に、頭の中に聞こえる呼び声のようなものに従い地下室に入り込み、ガイアメモリと出会う。そこで銀色のメモリを見つけた時に、園咲琉兵衛に見つかり始末されかけるが、持っていたメモリに適合しうる人間の可能性があったため、実験台として生かされることとなった。
●以降はメイド業務の他に、様々な厄介ごとを琉兵衛から引き受けさせられるという面倒な日常を送っている。
●常に無表情だが、感情は豊か。また、性格はどちらかというと怖がりであり、あまり物騒なことはしたくない。

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