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なお、今回は原作27,28話分。少し短めな前編です。
「あ、二宮さん!」
それはある休日の夜。夕食に近所の中華レストランに向かったのが始まりだった。
「どうしたんだ、亜樹子。知り合いか?」
入口で出会ったのは、見慣れた三人組。一人を除いてまともに顔を合わせたことも無いが。
「前に園咲家で働いてた時に会ったのよ」
その中で唯一の女性が、笑顔を向けてくる。
「もしかして二宮さんもここに食べに来たの?」
ああ。なんというか、この人は別に問題は無いけれど、後ろの二人が不味い。
どうしてここに
話は昨日の夕方に巻き戻る。
数日前から若菜様の調子がどこかおかしい。その前は何かのテレビ番組を見て騒いでおり、しばらく夢を見ているかのように呆けていることもあったが、それが嘘のようにイライラすることが多くなった。
対する冴子様も、最近は家を空けることが多くなり、あまり顔を合わせる機会はない。しかし、たまに帰ってくると、どこか思いつめた表情を見せることが多い気がする。
そんな中、いつものように仕事を終え帰る準備をしていた私に、同僚の城塚さんが話しかけてきた。
「ねえ。ちょっと聞きたいんだけど、これいらない?」
そう言って差し出してきたのは、近所の中華料理店の無料券。
話を聞くと、結構前に福引で当てたらしいが、なかなか行く機会がなく、気が付けば期限が明日までになっていた。しかし、自分は明日も仕事。だったらこのままごみにするよりは、知り合いに譲ろうと思った、とのことだ。
別に断る理由も無いので、その無料券はありがたく貰った。あの時の、どこか未練がましそうな城塚さんの目が印象的だった。
そして現在、夕食に来た私と同じテーブルで、何故仮面ライダーたちも食事をしているのだろうか。
「何で照井もここに居るんだ?」
先程、遅れてやってきた男を見ながら青年―左翔太郎さんが言う。
この男―照井竜さんも確か仮面ライダーの一人。最近増えた、あの赤いののはずだ。
「良いじゃない。貰ったタダ券は四人分なんだし、いつも力を貸してくれるでしょ」
タダで、と笑いながら亜樹子さんが言うと、照井さんが「今度から金を取ろうか?」と冗談を言う。
そして残った一人―フィリップさんは何をやっているのか分からないが、設計図のようなものを見てにやけている。
…なんか食事なのに胃が痛い。
もし私の正体がばれたら、それこそ命の危機だ。あのバッタ女かミックか、はたまた琉兵衛様自身が私の命を奪いに来る。
…とりあえず、ここは穏便に、さっさと食事を終わらせて帰ることにしよう、なんてことを考えていると、突然周囲から拍手が鳴り響いた。
何事かと辺りを見回すと、ステージの上に白のタキシードを着た老年の男性と、レオタードとタキシードを組み合わせたような衣装を着た女性が立っていた。どうやらマジックショーが始まるらしい。
「さーて、皆さん。私が人生をささげたマジック、消える大魔術。密閉空間からの危険なる脱出に、孫娘が初挑戦します!」
そう言ってマジシャンである男性は、女性が入ったガラスケースに布を掛ける。
「それでは、ワン、ツー、スリー!」
掛け声とともに布が外されると、ガラスケースの中からは人の姿が消えていた。周囲の観客と共に亜樹子さんも歓声を上げる。
だが、何かの手違いが起きたのか、マジシャンの男性は周囲を見回している。
「何か起こったようだね」
先程まで設計図を見ていたフィリップさんも気付いたらしい。そして、照井さんはどこか厳しい表情をしながら呟いた。
「彼女…、マジシャンと呼ぶにはまだ早いな」
そしてリリィ白銀が姿を現すことはなく、そのステージは終了した。
翌日。この日はシフトが入っており、いつも通り仕事をしていた私に、突然琉兵衛様からの呼び出しがあった
「井坂深紅郎…ですか?」
「そうだ。彼にこれを渡してきて欲しい」
ミックを膝に乗せながらそう言った琉兵衛様が差し出したのは、一通の封筒。曰く、お茶会への招待状らしい。
しかし、琉兵衛様は表情はにこやかだが、目は全く笑っていない。思わず震えが出るほど冷たい空気を感じる。
「彼とは少し話をしなければならないからね…」
口を開くたびに、どんどんと威圧感が高まっている気がする。一体、何をしたのだろうか、この井坂という人は。
とりあえず、早くこの場から離れたい。黙って一礼し、急いで部屋から出ていく。
そんな私に向かって、琉兵衛様は最後に一言、
「何があろうと、必ず彼を連れてきて欲しい」
その言葉はとても重く感じられた。
【琉兵衛視点】
若菜に手を出すとは、何を企んでいるのか。
もし下らない理由で、この家に手を出そうものなら、許すわけにはいかない。勿論、彼に手を貸しているだろう冴子にも、相応の罰を与える必要はあるだろう。
それにしても、初君はなかなかの逸材だ。それこそ、霧彦君とは比べ物にならないほどに。
彼女の持つあのメモリ。誰も使いこなすことが出来ず、その力に飲まれ発狂していく呪われたメモリ。故に地下室に隠していたのだが…。最初に彼女があのメモリを見つけた時はただ迷い込んだだけの娘と思い、僅かでもデータが取れれば良い方だと考えてあのメモリを入れたのだが、結果は予想を遥かに超えた。彼女はその力に飲みこまれることなく、それどころかメモリの副作用も特に見せずに適合してみせた。おかげで今までほとんど集めることが出来なかった数多くのデータをミュージアムにもたらしてくれる、まさに理想の実験台だ。
そして今も、彼女の力は進化の一途を辿っている。このまま行けば、ゴールドメモリと同等の力を得る日も近いかもしれない。
なぜかは知らないが、ミックも彼女を気に入っているようだし、このまま彼女には最期までミュージアムに貢献してもらいたいものだ。
「ふむ…」
さて、彼女はちゃんと彼を連れてくることは出来るだろうか。まあ、彼女のメモリの力なら後れを取ることはないだろうが…。
そんなことを思いながら、どこか機嫌が悪そうなミックを宥めた。
なお、フィリップはメモリガジェットの設計に夢中で、主人公には興味が向いてませんでした。