今回は原作31、32話に当たる話となります。
また私情により、次回の投稿は9月以降になる可能性が高いです。
申し訳ありませんが、どうかお待ちください。
街の一角にあるバー。ピアノの音が響くその店内で、一人の小太りの男が酒を飲んでいた。
「警察め…。嗅ぎまわりやがって。ひと暴れしてやるか?」
「落ち着いて。警察にも仮面ライダーがいるのよ」
顔を歪めながら一人で呟く彼に、背後のソファに腰かけていた冴子様が声を掛ける。隣にはパフェをおいしそうに食べる若菜様もいる。
「組織の女共だな。何だ? けだものに興味でもあんのか?」
そう言って男は冴子様と若菜様、そして傍に立っていた私にも視線を向けてくる。そんな男に対し、心底嫌そうな表情を見せる若菜様。
「無いわよ、そんなもの。ったく、ろくな男に会わないわ、この仕事」
「何いっ!!」
「貴方に興味があるのはあの人よ」
若菜様と男のやり取りに呆れながら、冴子様はピアノのある方に視線を向ける。
そして演奏が止むと共に、ピアノを弾いていた男―井坂深紅郎が立ち上がり、こちらに向かってくる。
「誰だてめえ?」
不愛想な態度を取る男に対し、井坂は気持ち悪い笑みを浮かべる。
「貴方の体の真の力が見たい。代わりにやってあげましょうか? 熊狩りを…」
そう言って奴は舌なめずりをする。
そして、その『熊狩り』とやらには私も一緒に行かなきゃならないんだろうな、と思うと、気が重くなった。
その翌日、私は風吹山の中を井坂と共に歩いていた。なぜこんなところにいるのかというと、あの男曰くその『熊』とやらは木彫りの熊の事らしく、詳しい理由は不明だがそれがあれば自分達は完璧になれるのだという。言っていることが不明瞭なうえ、怪しいことこの上ないが、何故か井坂はこの件についてかなり乗り気だ。単にあの男のメモリの力を見たいだけなのか、それとも…。
それはともかく、その木彫り熊は鳴海荘吉という探偵が持って行ったらしい。鳴海という苗字と探偵という職業。その二つで真っ先に亜樹子さん達のことを思い出した。
「俺のところに来た探偵連中。そいつらがどうやら熊の場所を知っているようだ」
その言葉を基に、朝から探偵事務所に張り込んでいると、左さんと亜樹子さん、そして見知らぬ男性が出てきた。そしてそれを気付かれないように尾行し、ここまで辿り着いたのだ。
左さん達が山中にひっそりとたたずむコテージに入るのを見届けると、井坂が話しかけてくる。
「さて、私は彼らが熊を見つけ次第奪いに行きますが、貴方はどうしますか?」
そう言ってメモリを取り出す井坂に、私は黙って首を横に振る。
「そうですか」と井坂は苦笑すると、メモリを起動させる。
【WEATHER】
そしてメモリを挿入すると、強風が巻き起こりその姿を変貌させた。
「それでは、しばらく待っていてください」
その言葉に頷くと、井坂はそのままコテージのある方向へと向かっていく。
私は双眼鏡を取り出すと、コテージに目を向ける。今、ちょうど井坂がベランダに出てきた左さんと亜樹子さん、そして男性を襲撃したところだ。
そして左さんが懐からドライバーを取り出すが、なぜか変身しようとしない。それを疑問に思っていると、突然視界をを何かが横切った。あれは…
「何?」
それはまるで鳥のような機械。一体何なのか。私は思わず井坂から目を逸らし、それに視線を向けていた。そう言えば、前に井坂が言っていた。「鳥の形をしたガイアメモリ」を見たと。そしてそれを聞いた琉兵衛様が呟いた『エクストリームのメモリ』という言葉。まさかあれ…?
その物体はしばらくコテージの上を旋回し続けていたが、突然地鳴りのような音が響いたと思ったら、その音がした方へと向かっていった。
気が付くと井坂達の姿も見えなくなっている。
…とりあえず、さっきのについては一応琉兵衛様に報告するとして、今は井坂達を探すことにしよう。
【井坂視点】
目の前に倒れ伏す二人の探偵。
先程まで戦っていた二人組の仮面ライダーだが、その動きは以前と比べぎこちなく、その上突然変身が解けてしまっていた。
思わず笑いが込み上げる。以前はあの照井竜と共に私を圧倒した者が、ここまで無様な姿を見せるとは。
「ハハハハっ。笑わせてくれたお礼に、派手に消してあげましょう!」
そして私は止めを刺すために、手を伸ばし雷を放った。
「くっ!!」
そして雷が彼らを貫こうとした時、聞き慣れたエンジン音が響く。
現れたそれは、探偵たちを守るように、私の前に立ちふさがり、雷を防いだ。
巨大な砲台を身に付けた真紅のバイク…、いや変形を解き立ち上がるその男の名を、探偵の片割れが叫んだ。
「照井竜!」
私と因縁深い男。まさかここでも出会うとは。
「復讐鬼君の登場ですか」
「井坂!!」
彼は剣を構え、こちらに向かってくる。だが、所詮はドライバーに頼るだけでメモリの真の力も引き出せない出来損ないでしかない。
私の攻撃に少しずつ奴は傷ついていく。正直、復讐に燃える彼は見てる分には面白い。だが、それも飽きた。そろそろ退場してもらうことにしよう。
「照井竜!」
そう思っていると、突然外野が何かを照井竜へと投げる。それは緑色のメモリ。まさかあれは…。
奴はそれを剣に挿入し、トリガーを引く。
〈CYCLONE MAXIMUM DRIVE〉
すると剣を中心に強力な風が生まれる。
「なんてパワーだ…」
発動した彼自身も戸惑うほどの強力なエネルギー。私も思わず動きが止まる。その隙を狙って、奴の剣が振られた。
「振り切るぜ!」
「ぐあっ!!」
その一撃に吹き飛ばされ、思わず持っていた木彫りの熊を崖に落としてしまった。
「なんということをっ!!」
あれには私が求めるものが隠されているというのに!!
だが、今は少々分が悪い。ここはいったん引くべきか…。
無論、奴がそれを許すはずもなく、再び風を纏った剣を構えこちらに走り出した…が、奴と私を遮るように爆発が起きる。
「なっ!!」
近いところで爆風を受けた奴は体勢を崩す。
思わず背後を見ると、そこに居たのはドーパントに姿を変えた彼女。これは有難い。私は奴が体勢を立て直す前に、その場から離れた。
そして、彼女と共に麓まで戻った時、彼女に質問した。
「何故、私を助けたのですか?」
彼女は私にいい印象を持っていなかったはず。それなのに何故?
すると彼女は無表情のまま答える。
「まだ貴方は利用価値があるというのが、琉兵衛様のお考えですので」
…なるほど。あくまで園咲琉兵衛の意見という訳か。
やはり彼女は私や冴子さんとは異なり、自分が勝てないと思った存在に従うタイプの人間だ。そうすることで、自分の身を守るために…。
逆に言えば、私が園咲琉兵衛よりも強大な力を得れば、彼女もまた私の下に付くだろう。
「ふふふっ」
さて、あの熊はどうしようか。とりあえず、食事してから考えることにしよう。
【×××××視点】
エクストリームメモリから届けられた映像。そこに映っていた一人の若い女。その彼女から発せられる一つのメモリの気配に、私は思わず緊張した。
まさかあのメモリの適合者が現れるなんて。
先程、井坂と共に行動していたところを見ると、やはりミュージアムに属する人間なのだろう。
これはかなり危険だ。あのメモリの能力に関しては私ですら把握しきれていない。私が知る限り、あのメモリを使った人間は、いずれも一週間と保たずに正気を失っていった。それゆえ、呪われたメモリとして、秘かに保管されていたはずのあのメモリが、どうして今になって表に現れたのか。
いや、それよりも大きな問題がある。あのメモリは来人でも太刀打ちできない可能性が高い。
やはり、来人と照井竜の二人が揃うことで完成する究極のダブル…。園咲琉兵衛を倒すためにも、それを完成させなければ…。
そして私は鳴海探偵事務所から静かに出て行った。