仮面ライダーW メイドはU   作:雪見柚餅子

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お久しぶりです。お待たせして申し訳ありませんでした。

今回の話は時間軸としては原作33、34話に当たりますが、中身は全くのオリジナルです。


15話

 園崎家の使用人には二種類の人間がいる。

 一つはガイアメモリの事を知らない一般人。園咲家についても古くからの富豪の家としか捉えてない人達である。使用人の大半がこれである。

 二つ目がミュージアムの一員として園咲家に仕えている者。どのような経緯かは知らないが、園咲家に対して崇拝にも似た感情を持つものが多く、表面的には他の使用人と変わらず仕事をしているが、裏ではガイアメモリの取引や、ミュージアムについて嗅ぎまわっている者の始末などを行っている。

 

 何故、このような説明をしているのか…。

 

「どうか! 僕にもガイアメモリを頂けるよう琉兵衛様にお願いしていただけますでしょうかっ!」

 

 それは私の目の前で頭を下げるこの男がいるからだ。

 

 

 

 

 

 ちょうどこの日は冴子様が「風都の未来を語る」と題した講演会が行われ、若菜様もそれに付いて行き、ミックもどこか出かけている。そのため、屋敷には使用人と琉兵衛様しかいない。

 そしていつも通り花壇の世話をしていた私に近づいてきたのがこの男。痩せ気味で黒ぶち眼鏡を掛けている。この顔には覚えがある。

 いつだったか、休みの日に突然起きた偽仮面ライダー騒動。折角の休日で羽を伸ばそうとしていたところに突然現れ、襲われたあの出来事はよく覚えている。その際に冴子様から命令を受けた私を迎えに来た黒バンを運転していたのが、たしかこの男だったはずだ。

 そんな彼が私に対して「離れに来てくれないか。少しお願いしたいことがあるんだ」と声を掛けてきた。彼もまた園咲家の裏側、ミュージアムについて知っている人間。であれば、お願いしたいこととはガイアメモリ関係の事だろう。そう思って付いて行った。

 そして離れの中に入ると、突然男は頭を下げて、ガイアメモリを頂けないか琉兵衛様にお願いしてほしいなどと言い出したのだ。

 

「…なんで私にそのようなことを?」

 

 正直、意味が分からない。私はただのメイドだぞ?

 そう思っていると、彼は顔を上げ、不思議そうな表情でこちらを見つめる。

 

「だって貴方はミュージアムの幹部なのでしょう?」

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はい?

 

 今、彼は何と言った?

 私がミュージアムの幹部? いや、あり得ない。一体、どういうことなのか…。

 呆然としていると、彼は興奮したように口を開く。

 

「貴方の事は知っているのですよ! 琉兵衛様から直々にシルバーのメモリを与えられ、影で数々の任務をこなす通称『U』の女!」

 

 我々の中では有名人ですよ、と彼が語るが、正直一切身に覚えが無い…。

 私がこのメモリを与えられたのは、ただの偶然…いや事故だし、数々の任務をこなしているといっても、琉兵衛様から脅されて雑用を受けてるに過ぎない。そしてその通称。ただ私のメモリの頭文字を付けただけでしょ…。

 

「どうかメモリを頂けるよう、琉兵衛様に口利きしていただけませんか!」

 

 いやいやいや。そんなことしたら私の命が無くなる。

 大体、ミュージアムの構成員には一応『マスカレイド』のメモリが与えられているはず……自爆機能付きだけど。

 それを指摘すると俯く。

 

「それでは駄目なのです…」

 

 …どういうことだ?

 

「…それでは、若菜様に振り向いて貰えないっ!!」

 

 …ああ、この人もそっちの人か。

 若菜様はアイドルとして有名らしい。無論、それは組織内でも同様。いや、むしろ実際に関わる機会がある分、恋愛感情を持つ者は多い。実際、命知らずがよく若菜様へ告白することがあるが、運が悪いとそのまま若菜様によって文字通り消されることとなる。正直な話、アイドルとして活動している時とは異なる素の若菜様を見る機会もあるのに、何故恋愛感情なんて持てるのか分からない。

 まあ、とりあえず彼もそのような命知らずの一人であるということだろう。悪いが彼には諦めてもらおう。私も命が惜しい…。

 そんなことを思っていると、入口の扉が突然開く。私と彼がそちらに視線を向けると…

 

「おやおや、面白い現場に立ち会いましたね」

 

 そこに居たのは最悪の男、井坂深紅郎。

 てっきり冴子様に付いて行ったと思っていたが、まさかいるとは。そして偶然を装っているが、どうせどこかで見ていたのだろう。

 そんなことを考えていると、井坂は微笑んで使用人の男に近づく。

 

「話は聞かせてもらいましたよ。ここで会えたのも何かの縁。私があなたに合うメモリを見繕いたいと思うのですが、どうでしょう?」

 

 …話だけ聞けばただの親切に思える。だがこの男の事だ。どうせ自分が使う予定のメモリの実験をしたいだけだろう。

 もちろん、井坂がこういう人間であることは大抵のミュージアムの人間は知っている。この場に居る男も、どこか半信半疑といった表情だ。

 

「私に任せていただければ、きっと若菜様の心も射止めることが出来るでしょう…きっとね」

 

 しかし井坂の言葉に男は揺らぐ。

 そして葛藤の果てに、男は井坂が差し出した手を握った。

 

「勘違いしないでいただきたい。僕はあくまであなたを利用させてもらうだけです。僕自身の目的のために…」

「ええ、構いません。私も貴方に期待しておりますよ」

 

 …さて、そろそろ戻っていいだろうか。

 

 

 

 

 

【使用人視点】

 

 あれから五日。あの男の診察を受けた上で与えられた一つのメモリ。何度か使ってみたが、思いのほか心地よい。体に溢れる気力、幸福感。これがあれば何でもできそうだ。

 さすがにシルバーのメモリは望めなかったが、それでも『マスカレイド』のような量産品と比べれば遥かに良い。

 これを使えばきっと若菜様も僕に振り向いてくれる。そう、若菜様の為であれば僕はなんだってしよう…。

 

「全て、若菜様のために…。そしていつかは…」

 

 そう、僕こそがこの世界で最も若菜様を愛しているのだから…。

 

 

 

 

 

【井坂視点】

 

 診察室から出ていく彼の背を見送り溜息を吐く。

 冴子さんの治療と並行しながら、彼の体質に合ったメモリを見繕った。残念ながら彼は、私が望む過剰適合者では無かったため適当なメモリを与えたが、せっかくなのでメモリを改造してやった。いわゆるサービスというやつだ。これで本来以上の力を発揮できるだろう。まあ、それまで彼の体と精神が持つかどうかだが…。自滅したら回収しておくことにしよう。

 それにしても彼は良い情報を与えてくれた。まさか園咲琉兵衛がメモリを隠している場所を知っていたとは。

 きっと、あの『テラー』に匹敵するメモリもあるだろう。

 

「ああ、楽しみだ」

 

 手に入るであろう力を想像し、思わず舌なめずりをした。


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