【竜視点】
「はっ!!」
高い跳躍力とスピードで跳び回るドーパント。奴を追って辿り着いたのは、郊外の森の開けた場所。突如としてここまで来た奴は逃げるのを止め、俺に対峙する。
俺としても人気のないここならば周囲の被害を気にせず戦える。だが気になることが一つ、何故こいつがこんなところに来たのか。山城博士も行方不明だ。嫌な予感がする。
とりあえずここは、こいつを倒して早く山城博士を探し出す!
そう決めて、俺はトライアルのスピードでドーパントに攻撃する。奴も同じようにこちらに向かってくる。
そして拳が、蹴りが何度もぶつかり合い、火花を散らす。奴と俺のスピードは互角だろう。だが、俺は負けるわけにはいかない。もう二度と、俺の目の前で誰かの命を奪われてたまるものかっ!!
「中々やるわね」
そう言って奴は今まで以上に高く跳躍する。なるほど、これで決めるという訳か。だが、俺は負けんっ!!
ドライバーからトライアルメモリを取り出し、スイッチを押そうとしたが…
―シャーッ!!―
「何っ!!」
突如として横から別のドーパントが襲われ、躱しきることが出来ずに爪の一撃を喰らってしまう。
確かこいつは以前にも会ったことがある。こいつもミュージアムの関係者であるはずだが…、その実力はよく知っている。2対1だが、どうするか…。
「終わったみたいね…」
だが奴らはこちらを一瞥すると、そのまま退散した。
奴らを野放しにするわけにはいかないが、先程の一撃によるダメージが思いのほか大きく、変身が解除されてしまう。
仕方ない。とりあえず、刃野刑事達に山城博士を探すように連絡しよう。そう思っていると、向こうから着信が来ており、通話状態にする。だが、そこから入った情報に思わず耳を疑った。
【若菜視点】
あれから数時間後、私は風都駅の前に居た。
お父様と一緒にいる限り、私に本当の自由なんてない。だから私は、唯一信頼できるフィリップ君と二人でこの街を出て、知らないところで暮らすことに決めて、この場所で待つと電話した。
勿論、フィリップ君には彼の事情があるから、必ず来てくれるとは限らない。でも…
「きっと…、きっと来てくれるよね」
ただの願望かもしれないけど、きっと来てくれるという確信のようなものを感じていた。
けど、私の前に現れたのは彼では無かった。
「やっと見つけましたよお、若菜様!」
姿を見せたのは、スーツ姿に眼鏡を掛けた男。見覚えが無いけど、私のことを様付けで呼ぶということは、きっと組織の人間…。何でこんな時に…っ!!
「若菜様。どこの馬の骨とも知れぬ奴より、私の方が貴女の事を思っています…。さあ、私と共に行きましょう!」
そう言って男はこちらに手を伸ばしてくる。
くっ…。どうすれば…。
ガイアメモリは家に置いて来た。あれは私を園咲家という場所に留めるための鎖のようなもの…。だからこそ園咲家から離れるという決意として置いて来た。それにフィリップ君にあれを見られたくないというのもある。でもその決断が、今の私を窮地に陥れていた。
やっぱりここはどこかから他の人を呼ぶ? とりあえず大声を出せば人が集まるだろう。それに一応私は顔も名前もこの街では広まってるから、それを利用して騒ぎを起こして、その隙に離れればっ…。
私は意を決して思い切り息を吸い込もうとした…、
だけど、不意に足が沈む感覚…。
足元を見ると、いつの間にか黒い沼のようなものが広がり、そして聞き覚えのある笑い声が聞こえる。
「さあ、若菜。一緒に来なさい」
言い聞かせるような口調でお父様は腕を広げる。
嫌だ…っ。私はフィリップ君と…。
「そうそう。そこの君も分不相応なことは考えず、さっさと仕事に戻り給え」
そんな思いとは裏腹に体は少しずつ沈んでいき、私の姿は駅から消え去った。
【翔太郎視点】
山城博士が襲われた。
フィリップを見送るために駅まで来ていた俺に届いた亜樹子からの連絡に、思わず耳を疑った。
そして同時にフィリップの過去に関する情報があるらしい。フィリップは少し迷いながらも、自らのルーツを知るために病院に行くことに決めた。
だが、病院で俺たちが見たのは予想を上回る光景だった。
「君達…、すまない。誰だったか…分からないんだ」
山城博士がいる病室に入ると、思いのほか元気そうだった。これといったけがもなく、無事に見える。
だが、俺達がこの人に話を聞こうとした時に、口から出たのは俺達が誰か分からないという言葉だった。
「おい、どういうことだよ照井?」
「…俺に質問するな。俺にも良く分からないんだ」
照井曰く、元々は署で保護していたのだが、組織からの刺客が襲撃してきたため博士は逃げ出し、行方不明に。そして照井が刺客と戦っている間に、公園の一角で倒れている博士を見つけた近所の住人が通報した。そして病院で目が覚めると、このようになっていたということだ。
「どうやら記憶自体が無くなっているわけでは無く、その中の詳しい情報が塗りつぶされている…、といった状態のようだ」
つまり博士は俺達にあったということは覚えているが、俺達が何者なのかという情報が抜け落ちているらしい。そして組織についても、どのような研究をしていたのか、どこで研究していたのか。そう言った情報は一つ残らず消えていた。
ただし、残っていた情報もある。一つは博士が最も大事にしていた家族に関するもの。そしてもう一つ、彼自身の頭からは消えていたが、代わりの形にすることで残っていた物。
「これが博士が持っていたメモ帳だ」
そう言って照井が差し出した1枚のメモ。ポケットに入っていたらしく、かなりくしゃくしゃになっているが、そこにある文字は問題なく読むことが出来る。
「園咲…来人?」
「これってもしかして…」
そこに書かれていたのは、「君の本当の名前は園咲来人だ」と書かれた文章。恐らく自分の身に何かがあった時のために残していたのだろう。
「僕は…園咲来人…」
フィリップの呟きだけが静かに響いた。
【初視点】
「お仕事お疲れ様ぁ」
粘着質な声を出すバッタ女。いつも通り差し出されるイナゴを拒みながら、琉兵衛様に報告をする為に書斎へ向かう。
琉兵衛様と取引先の会談の最中に、若菜様が不審な動きをしているので静かについて行くと、電話で駆け落ちのような話をしていたときは唖然とした。
これについては琉兵衛様に報告すると、琉兵衛様は少し不機嫌な表情を浮かべ、「そうか…」と呟いた。
そしていつの間にか姿を消していた若菜様を追うべきかと考えていたが、琉兵衛様から命じられたのは全く別の事。逃亡した山城博士の持つあらゆる情報の抹消。未だに進化する私のメモリが手に入れた力。それを試す場として博士から情報を抹消するようにとのことだ。若菜様については、琉兵衛様が直々に説得するらしい。
そして私はバッタ女が仮面ライダーを引き付けている間に、山城博士に接触し、能力で情報を抹消した。ただ、彼の家族に関する情報は別に組織と関係ある情報では無いため残しておいたが。
それにしても分からない。何故あそこまで家族に会いたがっていたのか…。そこまで大事なものなのだろうか? 自分の命の方がよっぽど大事であるはずなのに。
まあ、考えても分からないことは分からないし。それにもう関係ないことだ。
そんなことを考えながら、廊下を歩いていると、
「あら、お疲れ様」
どこか朝とは違い自信に満ち溢れた様子の若菜様がいた。一体、何があったのだろうか。
そしてこちらを見つめると一言。
「これからは私の指示に従うこと。良いわね?」
有無を言わせないその瞳。思わず黙って礼をすると、若菜様はそのままどこかへ歩いて行った。
…これからどうなるのか。不安を感じながら心の中で溜息を吐いた。
そんなわけで、まさかのホッパー&博士生存。
元々イナゴの女を生存させるつもりはありませんでしたが、今まで所々で話の中に出ていたのに退場させるのはもったいなかったので、こうなりました。
そして初のメモリのさらなる能力。今回の能力は大分核心に迫るものです。