仮面ライダーW メイドはU   作:雪見柚餅子

2 / 38
2話

 風都の一角にある教会。街の女性たちが憧れるこの場所もまた、園咲家が持つ私有地の一つ。

 そして今日は、その園咲家に新たな家族が加わるというめでたい日…のはずなのに。

 

「…なんでこんなことを」

 

 今の私はドーパントに変身した状態で、物置小屋の陰に隠れていた。

 発端は先日、琉兵衛様が放った一言。

 

「冴子が結婚するという霧彦君。確かに彼のガイアメモリの売り上げは目を見張るものがある。だが彼が、本当にこの園咲家に加わるに相応しい存在か試さなければならない」

 

 その相手をしてほしい、とにこやかな笑顔で、拒否できない威圧感をもって言われた。

 なぜ私が選ばれたのか分からない。ミックとか、せめてバッタ女にやらせたほうが良いと思う。まあ、言うだけ無駄なわけだけど。

 とりあえず、琉兵衛様の合図があればすぐに出ていけるように、今は待機中。そして当の琉兵衛様は、霧彦さんと庭園で話をしている。この距離では話の内容は聞こえないけど、状況は見える。多分、何も知らない人が見たら、和やかな光景に見えるのだろう。実際はかなり違うことが、私にはわかるけど。

 遠くからでも感じる重い雰囲気に押されながらも、その時を待つ。

 

 …………ん?

 

 ちょっと待って。あれって若菜様?

 何で変身してるの? それで何で霧彦さんに攻撃してるの? それって私の役目じゃないの?

 …なんか自分の役目が奪われてる気がするけど、これはこれで良いかもしれない。琉兵衛様は若菜様に甘いし、これなら私も態々出ていかなくて済むし。

 …あれ? 今、琉兵衛様が私を見たような…? もしかして、私の考えに気付いてる?

 そのまま琉兵衛様がゆっくりと右腕を挙げる。確かあれは、出てこいって合図…。

 ああ、そうですか。やっぱりやらなきゃ駄目ですか。

 しぶしぶ、三人の居るところに向かって歩き出す。

 あまり、こういった肉体労働はしたくないんだけど…。私は特殊能力特化タイプだから、そこまで運動能力が高いわけじゃないし、そもそもこんな物騒な仕事を肉体労働と呼ぶこと自体がおかしいし…。まあ、死にはしないだろうけど…、多分。

 やるせない気持ちになりながらも、琉兵衛様と霧彦さんの間に立つ。ちらりと琉兵衛様の方を見ると、なぜか満面の笑みで、その近くの若菜様はかなり不満げな顔をしている。

 うん。見なかったことにしよう。これが終わったら休んでいいと言われてるし、若菜様に絡まれないように、即座にアパートに戻ろう。

 そう決心しながら、私はゆっくりと右手を霧彦さんへと向けた。

 

 

 

 

 

【霧彦視点】

 

「霧彦君。婚礼を行う前に、君を一発殴らせてくれんかな?」

「ふふっ。まるでホームドラマですね」

 

 園崎琉兵衛。今日から私の義父となる人だが、その圧倒的な存在感は近くにいるだけで鳥肌が立つ。

 

「園咲家の者は、皆、我らがミュージアムの中枢。この街の…、いや、人類全ての統率者だ。君がナスカメモリの能力を極めているかどうか…。それを確かめねば、式を挙げさせられん」

 

 そう言って、さらに威圧感を高める。

 恐らく昔の…、ガイアメモリを知る前の私だったなら、真っ先に逃げ出しただろう。しかし、今の私は違う。

 ガイアメモリによる人類の進化、そして発展。この私の理想のためにも、ここで引くわけにはいかない。

 そう思いつつ、ナスカメモリを取り出そうとした時、別の声が2階から響いた。

 

「お父様。私が代わりますわ」

 

 顔を上に向けると、そこにいたのは風都では有名なアイドル。そして冴子の妹でもある、若菜ちゃんが顔を見せていた。

 若菜ちゃんは無邪気な笑顔を見せながら、ガイアドライバーを装着すると、手に持ったガイアメモリを起動させる。

 

〈CRAY DOLL〉

 

 そのままガイアメモリを空中へと投げると、彼女自身もベランダから飛び降りる。そして落下するガイアメモリが、まるで意思を持つかの如くガイアドライバーへと挿入されると、その姿は陶器のように白い体を持つ、古の人形のような姿をした『クレイドールドーパント』へと姿を変えた。

 

「気取った男のメッキを剥ぐの、私だーい好き!」

 

 そのまま若菜ちゃんは私に向かって、左腕を向ける。

 すぐさま回避すると、数秒後には私が立っていた場所に向かって、光弾が放たれていた。

 そのまま若菜ちゃんはさらに光弾を放とうとする。

 この後の式のためにも、このタキシードは汚したくないのだけれど、と思いつつ身構えていると、

 

「止めなさい、若菜」

 

 それは若菜ちゃんの背後にいたお義父さんによって、止められた。

 

「何故ですの? 力を試す役なら私が…」

「すまないが、その役は既に頼んでいるんだ。さすがに呼びつけておいて放っておくのは悪いからね。それに、今の彼女の力も確認しなければならない」

 

 そう言いつつ、彼は背後の物置へと顔を向ける。

 おそらく、あそこに隠れているんだろう。いったい誰なんだろうか。彼女と言っているのだから、女性なのは間違いないだろうが…、

 

「…っ!?」

 

 私が物置に注意していると、その陰から見慣れないドーパントがゆったりとした足取りで現れた。

 顔はフードのようなものを目深に被ることで隠され、全身には色とりどりの布が巻き付いている。その見た目からは、何の記憶が宿っているのかは全く分からない。

 若菜ちゃんがどこか不満げな表情を浮かべながらも、変身を解除して元の姿へと戻ったのを確認すると、この謎のドーパントに注目する。

 私の実力を測るために連れてこられたのなら、その実力は決して侮ることのできないはずだ。ナスカメモリには劣るだろうが、油断しないようにしなければ…。

 そのドーパントは私の前に立つと、ゆっくりとこちらに右手を向ける。

 そしてそれと同時にお義父さんが再び口を開いた。

 

「霧彦君。早くメモリを使ったほうが良い。さもないと…」

 

―パアンッ―

 

 突如として私の背後にあるオブジェの一つが砕け散った。

 

「君も粉々になるよ?」

「くっ!?」

 

〈NASCA〉

 

 素早くガイアメモリを起動させるとともに、ガイアドライバーを装着する。

 今の攻撃…、全く分からなかった。衝撃波か何かを放ったんだろうが、私には何も感じなかった。ただ、右手を伸ばしたらオブジェが突然として粉々になったのだ。

 まずい。相手の能力が分からない以上、生身で相手をするのはまずい。

 急いでナスカメモリをガイアドライバーに挿入すると私の体も、群青の体と地上絵の力を持つ『ナスカドーパント』へと変化していく。

 

「はっ!」

 

 携えた剣で斬りかかる。狙うは胴体。まずは確実にダメージを与える。

 しかし、目の前のドーパントは全く回避行動を行うことなく、棒立ちのまま。むしろ避けようとしてないようにも見えるが、私は好機と考え、そのまま振り切る。

 剣は見事ドーパントの体を捉え、吹き飛ばす…はずだった。

 

「なっ!?」

「………」

 

 思わず目を見開く。

 私の渾身の攻撃は確実に決まったはずなのに、奴はまるで何もなかったかの如く、そこに立っていた。

 思わず後ろへ跳び、距離を取る私を見て、お義父さんが満面の笑みを浮かべる。

 

「霧彦君。そんな攻撃じゃあ彼女には効かないよ」

 

 そして、今度はこちらの番だと言わんばかりに、奴が右手を伸ばすと、その体を包んでいた布の何枚かが伸び、鞭のようにこちらを襲う。

 

「くっ!」

 

 独特の軌道を描く布の一枚一枚をドーパントの身体能力を生かして避ける。まだ、ナスカメモリを使って日が浅いからか体が少し重く感じるが、大きな問題じゃ無い。

 ここまでの戦闘で、奴の能力はある程度把握した。どうやら身体能力はそれほど優れているわけでは無いようだが、耐久力は高い。そして攻撃手段は、今の布を利用しているものと、最初に使った謎の攻撃。最初の一発以外は使っていないが、もし突然使われれば避けるのは困難だ。

 全体的に考えると、おそらく能力特化型のドーパント。メモリが不明である以上、弱点や効果的な攻撃も分からないが、それでも勝てない相手じゃない!

 分析をしていると、どうやら集中が途切れてきたようで、布の動きが段々と粗くなっていく。

 絶好の好機。瞬時に布を避けつつ、剣を奴の首元に向ける。

 これで私の勝ち…。

 

「っ!?」

 

 その瞬間、私と奴の動きが止まった。

 奴の首には私の剣が、そして私の左脇腹には奴の右手が向けられていた。

 

「ふむ。まあ合格といったところか」

 

 お父さんは満足げな表情で、手を叩き終了を告げる。

 しかし今の勝負は、本当なら私の負けだ。今、奴は私に向かって攻撃を放とうとした。途中で何とか気付いたが、もしあのまま突っ込んでいたら、確実に相打ちになっていた。いや。奴の耐久力を考えると、むしろ私だけがダメージを受けていた可能性が高い。

 …まだだ。まだ私は強くならなければならない。冴子の、そして風都のためにも。

 決意を新たにし、変身を解く。

 そして目の前のドーパントに視線を向ける。奴は静かに右手を左手首に添えると、そこからガイアメモリを取り出す。そして姿を現したのは一人の若いメイド。園崎邸に入ったとき、何度か顔を合わせたことがあるが、まさか彼女もミュージアムの一員とは思わなかった。

 彼女はお義父さんに一礼した後、どこかに向かって歩いて行く。

 

「ああ。彼女は恥ずかしがり屋でね。あまり他人とは喋りたがらないんだ」

 

 その後姿に思わず見入ってしまう。あれだけの実力を持っている彼女。いったいどのようなメモリを使っていたのか確認してみたいが、時計を見ると式までもうすぐだ。

 歯噛みしながらも、最高の晴れ舞台のために準備へと戻る。

 そうだ。これからは時間もたっぷりある。きっと正体もすぐ分かるだろう。

 今後のことに思いを馳せながら、私は微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

【初視点】

 

 ぞくっ!!

 何だろう…。今、悪寒を感じた気が…。

 それにしても、怖かった…。剣で斬りかかられるなんて、普通は一生経験しないことだよ…。どうして、こんなことをお使いのノリで頼まれなきゃいけないんだろう。なんか、寿命が一気に縮んだような気がする。

 よし。今日はもう寝よう。明日も普通に仕事なんだし…。




二宮 初 ドーパント態
●使用メモリ:不明
●メモリのデザイン:歪んだU(?)
●生体コネクタ位置:左手首
●初がガイアメモリで変身したドーパント。見た目の特徴としては、全身に色とりどりの布が巻き付いており、顔はフードで隠れている。
●攻撃方法は、全身の布を伸ばして鞭のように扱うほか、見えない衝撃波のようなものを放つことが可能。
●なお、身体能力はさほど高くない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。