仮面ライダーW メイドはU   作:雪見柚餅子

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今回は原作39話に当たる話です。
少し短めなのでご了承ください。


20話

【冴子視点】

 

 お父様に反旗を翻し、井坂先生に付いた私に待っていたのは裏切り者としての烙印と惨めな生活だった。井坂先生は仮面ライダーに倒され、私のメモリもミックに奪われた。

 そして今私は、財団Xの使者である加頭順によってホテルの一室に匿われていた。

 この男が言うには、私のことが好きだかららしいが信用できない。何度か取引でも接したことがあるが、この男の目には何も映っていないように思える。

 この男はあくまで個人の意思で私を守るなんて言っているが、そんなことは私自身が耐えられない。

 私は私自身の価値を見せつけてやらねばならない。お父様に、若菜に、仮面ライダーに、そしてこの男に…。

 だけど、そのための力が今の私には無い。メモリは奪われ、ドライバーも破壊された。だけど、私には奥の手がある。あの人から奪った後、秘かに隠し続けたあれが…。

 だけど、それがあるのはディガルコーポレーションの社長室…。ミュージアムの本陣ともいえる場所だ。普通に入って行けば、間違いなく命はない。だけど、今の私にはそれが必要だ。それを手に入れるためであれば、私はどんな恥辱も受け入れよう。

 

 そして私は清掃員のふりをして、会社内に潜入した。出来るだけ顔を見られないように帽子は目深に被り、そしてあえて堂々と歩くことで不自然さを消した。これならば気付かれる心配は無いだろう。だけど、気を付けなければならない。一人にでも気付かれてしまえば、その時点で終わりなのだから…。

 

 

 

 

 

 私は焦らず社内を進み、ついに目指していた場所へ辿り着いた。中では若菜が喚いているようだ。

 …ここが正念場だ。私は静かにドアを開けると、若菜が社員を睨みつけていた。そして私に視線を向けると、速足で近づいてくる。

 

 …まさか、気付かれた?

 

 思わず体が固まる。メモリが無い私では、若菜に抗うすべはない。どうすれば…。

 しかし若菜はそのまま近づいてくると、「邪魔よ!」の一言と共に、掃除用のカートを押しのける。そして私の方を睨むと、

 

「会議が終わるまでに済ませておきなさい」

 

 そう言って部屋から出ていく。社員達も若菜の後を追い、部屋に残ったのは私だけ。

 肝を冷やしたけど、どうにかここまで来ることが出来た。

 …それにしても、若菜のあの態度…。全てを見下すあの目つき…。気に食わない。私が力を取り戻したら、本来の立場というものを思い知らせてやらなければ…。

 

 私は決意を新たにすると、部屋の壁に隠していた金庫に隠し持っていたカードキーを差し込む。そしてその扉がゆっくりと開く。

 

「あった…」

 

 既にこの金庫の存在が気付かれていたら、という危機感もあったが、それは変わらずそこに置いてあった。かつて私が選んだ男。しかし園咲家にも、そして私自身にとっても相応しくなかった男。彼が使用していた『ナスカ』のメモリを私は手に取った。

 このメモリはゴールドクラスのもの。特にこのナスカメモリの毒性は遥かに高く、ドライバーを介して使用したとしても、体を蝕み続けるという危険なもの。だけどその力は未知数。今の私が縋れるのはこれしかない。絶対に使いこなして見せる…。

 私は改めてメモリを強く握る。

 この時私は、メモリを手に入れた安堵からこの部屋に近づいてくる足音に気付くのが遅れた。

 

「…っ!?」

 

 部屋の扉が開く音。反射的に目をそちらに向ける。

 

「冴子様…?」

 

 そこに居たのはよく見慣れたメイドの姿だった。

 まさか、こいつにこんなところで見つかるなんて…。

 

「一体、何故ここに?」

 

 一瞬驚きは見せたものの、すぐに元の無表情に戻りこちらを見つめてくる。

 まずいわね。こいつのメモリの能力は私には効かないけど、それでも生身でドーパントの相手をするのはさすがに無理がある。今手にしているナスカメモリを使おうにも、コネクタを作るための機械がここには無い…。コネクタ無しで使うのはさすがに危険すぎる…。

 どうする…。そう私が思案していると、目の前のこいつが予想もしない言葉を放った。

 

「私は何も見ていない…、それで良いですか?」

 

 …………は?

 

 

 

 

 

【初視点】

 

「ちょっと、部屋に会議の資料忘れたから持ってきなさい」

 

 若菜様が組織のトップになる。琉兵衛様がそうおっしゃり私の仕事はさらに増えた。今まで通り屋敷での掃除や花壇の整備に加え、若菜様のサポートもするようになった。その分給料も増えたが、それでもきついものはきつい。

 

 そして今日も私は会社で若菜様に言われるがままに社長室に向かったが、そこで私が見たのは、ガイアメモリを握りしめ床にしゃがむ清掃員の姿。いや、よく見るとその顔には覚えがある。

 

「冴子様…?」

 

 思わず目を見開く。向こうもここで私に出会ったのは予想外のようで、表情には驚きが見える。しかしすぐにこちらを睨み始める。

 

「一体、何故ここに?」

 

 冴子様は現状は組織の反逆者だ。勿論向こうもそれを理解しているはず。それなのにここにいるとはどういうことだろうか。清掃員の姿をしているけれど、さすがに雇われた…なんてことは無いだろう。あり得るのは、何らかの目的のために潜入だろうか。そしてタブーメモリはミックが回収したと言っていたけど、今の冴子様の手にはガイアメモリが握られている。もしかしてあのメモリを手に入れるために…?

 とにかくこの状況はまずい。もし冴子様がガイアメモリを持っていなければ勝てたかもしれないけれど、さすがにドーパントに変身されたら詰む。私のメモリの力は冴子様には通用しないのだから…。ここで戦闘になれば万に一つも勝ち目は無いだろう。

 だから私は一つの提案をした。

 

「私は何も見ていない…、それで良いですか?」

「…………は?」

 

 訝し気な目でこちらを見つめる冴子様。向こうからしたら反逆者である自分を捕えようとしないことが疑問なのだろう。だけど…、

 

「私は冴子様を捕まえる指示は受けていません」

 

 あくまで私は雇われた身。受けた仕事はやるが、それ以上のことを自分の身を犠牲にしてまでやろうだなんて思わない。

 

「私は戦って怪我をしたくありません。冴子様は騒ぎを起こして捕まりたくありませんよね?」

 

 私では冴子様には勝てない。だけどこの会社には組織のメンバーに加え若菜様もいる。連絡を受けさえすればバッタ女やミック、もしかしたら琉兵衛様も来るだろう。さすがにそれらを相手にするのは冴子様も御免蒙りたい筈だ。

 

「だから私と冴子様は出会わなかった。それで十分じゃないですか」

 

 さすがに近くに他の人間がいたらこんな提案は出来なかったが、ここには私と冴子様しかいない。

 冴子様は少し迷うような素振りを見せたが、すぐに清掃用のカートを持って、私の横を通る。

 

「……今回は感謝しておくわ。だけど忘れないで。もし私の邪魔をするようだったら、貴方でも容赦はしない」

 

 それだけを呟き、冴子様は部屋を出て行った。

 …冴子様はこれからどうするのだろうか。少なくとも私に危害が及ばなければそれで良いけれど。ただ、どこか私と似ているような気がしなくもない。まあ、どうでも良いけれど。

 

 さて、若菜様が言っていた会議の資料とやらはどこだろうか…。




主人公は冴子のドライバーが壊れていることは知りませんからね…。おかげで冴子は生き残れましたが。

次回は42話と43話の間に入れるオリジナルストーリーにする予定です。
とりあえず一段落してからまとめて投稿しようと思うのでお待ちください。

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