仮面ライダーW メイドはU   作:雪見柚餅子

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初投稿から1年。やっとここまで来れました。
新しいオリジナルドーパントが登場します。

今回からしばらくは三人称視点で話が進みますのでご了承ください。



21話 暴かれるM/狙われた探偵 前編

 それはある昼下がりの事。園崎邸では若菜がいつもに増して苛立った様子を見せていた。

 数週間前、ガイアプログレッサーと呼ばれる物体を体内に取り込み、エクストリームの力を得た彼女は『地球(ほし)の本棚』にアクセスした。実の弟でありミュージアムの目的である『ガイアインパクト』の鍵となる園咲来人(フィリップ)を連れ戻すためだ。

 来人以上の『地球の本棚』とのシンクロ率を手に入れ、内部でも変身できるようになった。この力なら強引にでも連れ戻すことが出来る。そう思っていたものの、来人自身がシンクロ率を下げることでお互いに干渉できないようにするという奇策によって失敗した彼女の機嫌は急降下していた。

 

「全く…、来人っ!!」

 

 その彼女の姿を見つめる一人の老人。この園崎邸の主にして風都で起きているガイアメモリ事件の元凶である園咲琉兵衛。彼は荒れる若菜の様子を見て溜息を吐く。

 

「…まあ、若菜の気持ちは分からないでも無い。後は来人さえ揃えば、全ては完了する…」

 

 そう言ってゆっくり振り向く。

 

「というわけだ。私と若菜は少々忙しくなるから、君に迎えに行って欲しい」

 

 その言葉に近くに佇んでいた無表情なメイド、二宮初は静かに礼をすることで返した。

 

 

 

 

 

 場所は変わり、風都の一角にある小学校。その体育館のステージでは風都イレギュラーズの一員であるクイーンとエリザベスが持ち前の歌唱力を披露していた。そして舞台袖には翔太郎と亜樹子、そして他の風都イレギュラーズの面々もいる。

 

 何故、このようなことをしているか。話は一週間前に遡る。

 

「催し物の手伝い?」

 

 翔太郎は事務所のソファに腰掛ける壮年の男性、御堂雄吾と眼鏡を掛けた女性、間口静香からの依頼を聞き返す。

 

「はい、実は…」

 

 御堂は町内会長をやっているらしいが、夏になると子供たちのためにちょっとした催し物を毎年行っているらしい。今年は劇団を呼び、間口が勤める町内の小学校で劇を行ってもらおうとしたのだがその劇団が諸事情で来れなくなった。劇団が来ない以上、中止も考えたが、この日を楽しみにしている子供たちもいる。どうしようか悩んでいると、この探偵事務所の噂を聞き、何か手伝ってもらえないかと相談しに来たとのことだった。

 

「それで、日程は来週の日曜日なんですが…」

「来週の日曜日!?」

 

 期間は短く、かなり逼迫しているようだ。

 

「内容はお任せしますが、子供たちが喜ぶような出し物が出来る人を探していただきたいんです。どうか、助けていただけませんか!?」

「分かりました、お受けします!!」

 

 切羽詰まった表情を見せる間口の懇願に対し、翔太郎が口を開くよりも先に亜樹子が答える。ただでさえ赤字ギリギリなのだ。報酬が出るなら大抵のことは受ける。

 

「おいおい、簡単に受けるなよ」

「良いじゃない。人材の紹介。これも探偵の仕事よ」

 

 いや、それはどうなのだろうか。と翔太郎は言いたくなる。自分がイメージするハードボイルドとはだいぶ異なるのだが。

 しかし、受けてしまった以上は仕方ない。目の前の男性にやっぱり無理だというのも気が引けるし、出来ませんでしたというのもプライドが許さない。

 

 そのような理由で、ここ一週間は誰か芸が出来るものが居ないか聞き込みに明け暮れた。最初に見つかったのは風都イレギュラーズの一員であるクイーンとエリザベス。歌番組のオーディションに合格しアイドルになった二人組だ。頼んでみたら二つ返事でOKしてくれたのが助かった。

 次に同じく風都イレギュラーズであるサンタちゃん。普段からおもちゃ屋のバイトで子供たちと触れ合っており、地元ではかなり有名だ。今回は彼には司会を頼むことにした。

 3組目は風花高校の生徒である稲本弾吾と星野千鶴。二人はカリスマストリートダンサーであり、その界隈では有名人だ。かつて解決した事件で関わった二人だが、連絡を取ってみると少し迷ったみたいだが、事件を解決してくれたお礼として手伝ってもらえることになった。

 同じく事件を解決するうえで知り合ったマジシャンのフランク白銀とリリィ白銀も参加してくれるとのこと。

 そして亜樹子からの命令により翔太郎とフィリップも仮面シンガーとして参加することに…。最初は拒否したが、所長命令という強引な一言で仕方なくやる羽目になった。

 

 当日は催し物の内容が変わったことに対する不満がちらほらと聞こえたが、最初にダンサー二人が登場すると空気は一変し、一気に場を盛り上げる。

 次にフランク白銀とリリィ白銀のマジックショーでは、以前はガイアメモリを利用することでしか成功できなかった瞬間移動マジックを、道具を変化させたことによって自力で成功させた姿を見て、翔太郎は笑みを浮かべる。

 そしてクイーンとエリザベスのアイドルユニット。特に年上の兄弟がいる子供達にとっては聞き慣れた曲であるらしく、一緒に歌おうとする姿も見られる。そして途中で翔太郎とフィリップも仮面を被って参加し、4人組として見事に歌いきってステージは終了した。

 

 ショーが終わって舞台袖に戻ると、翔太郎は仮面を取って笑みを浮かべる。

 

「…やっぱり良いもんだよな。子供の笑顔ってのは」

「ふふっ。なんだかんだでやっぱりノリノリだったんじゃん」

 

 亜樹子に指摘され、少し顔を赤らめる。

 そして閉会の挨拶をサンタちゃんが言うと同時に、子供たちは迎えに来た親の元に一斉に駆け出す。だが、その中で一人だけ全く動かず俯く少年の姿があった。

 

「あれ、どうしたんだろ?」

 

 亜樹子に言われ、翔太郎も気付く。

 

「とりあえず、行ってみようか」

 

 考えるよりも先に行動するタイプである亜樹子はすぐさま少年のところに向かう。

 

「ねえ君、どうしたのかな? お母さんとかは?」

 

 そして子供の目線に合うようにしゃがみ声を掛ける。しかし、少年の口から出たのは思いもよらぬ一言。

 

「うっさい、オバサン」

「おっ、おば…!?」

 

 いきなりの事に思わず口をパクパクと開かせて固まってしまう。

 そんな亜樹子を一瞥した少年は黙って立ち上がり、その場から離れようとするが、出口からその少年に向かって声を掛ける人影が見えた。

 

「ごめんね、誠君。待った!?」

 

 駆け足で近づいてくる、熟年の女性。少年は掛けられた言葉に鼻を鳴らして返す。

 女性は固まっている亜樹子に気付くと、申し訳なさそうに口を開く

 

「もしかして、誠君が何か失礼なことをしてしまいましたか?」

「…え、ああ、ちょっと…はい」

 

 言うべきか否か迷う。少し態度は気に食わないが、あの年頃の子供からしたら私はオバサンなのだろうか。という疑念が生まれる。

 そんなことを考えていると、少年は女性に声もかけず、黙って出口の方に走り出す。

 

「あ、ちょっと待って誠君!」

 

 女性も慌てて追いかける。そして亜樹子一人がその場に残された。

 

「何だったんだろ?」

 

 思わず呟く亜樹子の背後にいつの間にか翔太郎が立っていた。

 

「さてな。それにしてもオバサ…ぷっ」

「ちょっと!! 今笑ったでしょ!? ってか聞いてたの!?」

 

 怒り出す亜樹子と揶揄う翔太郎。その二人に間口が近づいて来た。

 

「申し訳ありません。あの子は少し周りを傷つけてしまうことが多く…。まあちょっと事情が…」

「…何か知ってるんですか?」

 

 少し気になり、亜樹子はつい聞き返す。

 

「あの子は親から虐待されてたんですよ…」

 

 

 

 

 

 話を聞くとあの男の子、大葉誠は、1年ほど前に親元から引き離されて現在は近所の児童養護施設『みかづき』で生活しているらしい。詳しいことは不明だが、耳に入って来た噂を聞く限りどうやら母親から育児放棄されていたとのこと。

 たびたび彼は他の人に心無い言葉を投げかけたり、人の話を無視するなどで一部の人からは嫌われており、PTAや町内会でも話題になることは少なくない。勿論、育児放棄されていたとはいえ親元から離されたストレスはあるのだろうが、それでも他人に迷惑を掛けていいというわけでは無い。しかし、どうすればいいのか困るというのが実情だ。

 

 

 

 

 

「そうなんですね…」

 

 自分も父親と離れて暮らしていたが、それでも親が居るのと居ないのとでは大違いであることは亜樹子も分かる。

 一体、どのような思いで暮らしているのだろうか。

 

「あんまり、首を突っ込みすぎんなよ。こういうのは当事者の問題なんだからよ」

「いや、分かるけど…」

 

 もやもやした思いが亜樹子の中で燻る。

 

「それに最近は不審者とかもあって、少し不安なんですよ」

「不審者?」

 

 その言葉に気になった翔太郎が、情報を聞き出す。

 

「数か月前から地域内で不審者に襲われるって事件がありまして…、結構大きな怪我を負っている人もいるんですよね。襲われた人は一様に『怪物に襲われた』って言ってるんですが…。探偵さん、出来れば調べてもらえませんか?」

 

 怪物…。その言葉に思わず身構える。

 恐らくドーパント絡みだ。

 

 

 

 

 

 そして翌日。慣れないことをしたからか、一週間分の疲れが残っているが、それでも事務所は開店している。

 しかし、その日来た新たな依頼人は予想外の人物であった。




今回からの新キャラクター

御堂雄吾(みどうゆうご)
●40歳の男性。
●風都のとある地区で町内会長として活動している。
●中肉中背。髪は薄く、髭は剃っている。

間口静香(まぐちしずか)
●34歳の女性。
●小学校の教諭。眼鏡を掛けている。
●身長はやや低め。髪は肩までの長さ。

大葉(おおば)(まこと)
●小学4年生の少年。
●母親から育児放棄され、児童養護施設『みかづき』で保護された。
●身長は同年代に比べ低め。

(もり)加奈子(かなこ)
●51歳の女性。今回、誠を迎えに来ている女性である。
●児童養護施設『みかづき』に勤務している。
●中太りの体型で髪は短い。

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