仮面ライダーW メイドはU   作:雪見柚餅子

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本日2話目。
後編は近いうちに投稿します。


22話 暴かれるM/狙われた探偵 中編

「お母さんを探してほしい?」

 

 事務所に姿を現した小柄な人影。それは昨日であった少年、大葉誠であった。どうやら今日は午前授業で学校が終わって、直接ここまで来たそうだ。

 

「きっとお母さんは僕のことを待ってるから…。だから探して」

 

 その言葉に翔太郎と亜樹子は悩む。

 話を聞くと、父親は誠が物心つく前に姿を消し、母親はそんな誠を一人で育ててきたらしい。育児放棄と周りは言ってたが、きっと自分のために頑張ってたんだ。それが誠の主観であり、母親と引き離した周りの人間は信頼できないとのことだ。

 

 だがそれはあくまで誠から見ただけのもの。実際はどうであったかは二人には分からない。誠自身が傷つく可能性も大いにあるし、本来関わるべきでは無いことだ。

 そのため、この場では「とりあえず調査だけはしてみる」とだけ言っておく。

 

「とりあえず、いったん施設まで送ってってやるよ。さすがに子供一人だけ行かせるのもな…」

 

 そう言って外出の準備をする翔太郎に亜樹子が静かに近づき耳打ちする。

 

「どうするの、翔太郎君?」

「…さすがにこういうのはな。とりあえず、あいつに気付かれないように、施設の職員の人に伝えておく」

 

 気付かれないようにこっそりと言うと、翔太郎は誠と共に事務所から出る。

 それを見送った亜樹子は瞳を伏せながら、フィリップが居るガレージへと入る。

 

「どうしたんだい、亜樹ちゃん?」

 

 亜樹子はどこか言いにくそうにしながらも、ある頼みをフィリップに告げる。

 

「…まあ、構わないけど、君はそれでどうするつもりなんだい?」

「分かんないよ。でも、何か出来るかもしれないし…」

「そうかい。まあ、検索してみるよ」

「ありがとね、フィリップ君」

 

 そしてフィリップが検索している間、事務所は沈黙に包まれた。

 

 

 

 

 

「すみません! もう、誠君。勝手にどこかに行っちゃ駄目でしょう?」

 

 どこか古いながらも暖かな雰囲気を感じる建物。ここが誠が現在暮らしている児童養護施設みかづきである。

 バイクで誠を送り届けると、庭掃除をしていた女性―昨日、誠を迎えに来ていた人と同一人物である―、森加奈子が頭を下げながら、誠のことを叱る。

 しかし誠は不愛想な表情のまま、すぐに建物の中に入る。

 

「…もしかして、誠君が何か失礼なこととかしましたか?」

「いや、特には…。ただ、ちょっと…」

 

 翔太郎は誠が近くに居ないことを再確認して、加奈子に事務所で有ったことを静かに話す。

 

「そうですか…」

 

 そして加奈子は俯く。

 

「やっぱり難しいんですよね…。あの子たちの心に寄り添うのは…」

 

 その姿に少し躊躇いを覚えるが、ここに来た目的の一つを忘れてはいない。

 

「あの子の事とは違うんですが、今調べていることがありまして。時間は大丈夫ですか?」

「えっと、それは他の子どもたちの事ですか?」

「いや、ここ最近、不審者が出ていると聞きまして…」

「そうですか…。でも不審者と言われても特に思い当たることは…。ただ、学校の方からもそう言った話があったので、子供達には注意するように言っているんですが」

 

 どうやら詳しい情報は持っていないようだ。しかし、些細な情報でも時に大きな手掛かりになる。

 

「最近変わったこととか、噂話とかを聞いたことは…」

「…そう言えば、一部の子供たちが近くの公園にある池で大きな影を見たって言ってたんです」

「大きな影?」

「はい。確か2か月ほど前だったはずです。小学校の帰りで寄り道した子供達がそのように…。その時は誰かがペットの魚でも逃がしたのかと思ったんですが、不審者が目撃されているのもその公園が多いようで、もしかしたら関係しているのかも…」

「おや、どうしたんですか?」

 

 翔太郎を背後から誰かが呼んだ。

 振り向いた先に居たのは、この地域の町内会長である御堂雄吾。

 

「昨日ぶりですね、探偵さん」

「あ、御堂さん。不審者の噂って知っていますか?」

 

 にこやかな笑みを浮かべ近づいてくる御堂に加奈子が声を掛ける。

 

「不審者?」

 

 疑問を浮かべる彼に、翔太郎が説明する。

 

「そうですか…。ああ、そう言えばこの間、不審な人物を見たんです」

「何っ!?」

 

 思わぬ情報に声を上げる。

 

「確か2週間ほど前ですかね…。私も不審者が出たという話は聞いていたので、自発的に夜回りをしていたんです。それで公園の近くを通ったら、誰かが池の前に立ちすくんでいたんですよ」

「そいつの特徴とかは?」

「…すみません。懐中電灯は持っていたんですが、遠目からしか見てなくて…。それにすぐに居なくなってしまったので詳しい姿については…」

「そうか…」

 

 重要な情報だが、これでは不審者が公園に寄ったことしか分からない。せめて何か…。

 

「ただ、女性ぽかったような気がします…」

「っどういうことだ?」

 

 さらにここで出た情報に食いつく。

 

「その人影なんですが、髪が結構長かったように見えたんです。少なくとも肩まではあったはずです。それに、身長も男にしては低かったような…。すみません、曖昧な情報で」

「いや、十分な手がかりだ。ありがとよ!」

 

 そう言って翔太郎は加奈子と御堂に別れを告げ、さらなる手掛かりを求めバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

「そう言えば、あのメイドの姿が見えませんわね、お父様」

 

 園崎邸。未だにイライラした様子の若菜だが、そんな彼女でも、普段は屋敷で仕事をしている初の姿が見えないことには気付いた。

 初の姿が見えない。それは組織の人間としての仕事を行っている時。そしてその仕事を言い渡しているのは、大体は父である園咲琉兵衛だ。

 

「ああ、彼女には来人を連れ戻すように頼んだ」

「…っ来人は私が連れ戻しますわ!!」

 

 自分が役立たずのように感じられ激昂する。しかし、そんな若菜に琉兵衛は優しい声を掛けた。

 

「お前には来人を捕まえる以外にも、色々と仕事があるだろう。全てやっていては、お前には負担が大きいと思ったからだ。お前は大事な私の娘なのだからね」

 

 確かに自分は組織のトップという立場上、多くの仕事を消化する必要がある。何より既に計画は最終段階へと向かっているのだ。それを完全に遂行するためには来人も必要だが、同時に自分も必要なのである。

 頭を冷やし、何とか落ち着く。

 その様子を見た琉兵衛は、さらに口を開く。

 

「彼女のメモリは特別だ。来人でも容易に正体を暴くことは出来ないだろう。だからこそ若菜、来人が彼女の正体に辿り着く前に…」

 

 その後に続く言葉を聞き、若菜は嫌々ながらも席を立った。

 

 

 

 

 

 『風麺』。丼を覆わんとするほど大きなナルトで有名な移動ラーメン屋台。

 そこに伸びた縮れ毛の髪形に無精髭というどこかうさん臭さを感じさせる男性がラーメンに舌鼓をうっていた。

 

「どうよ、ウォッチャマン」

 

 そんな彼、ウォッチャマンに声を掛けたのは、友人でもある翔太郎。後ろには合流した亜樹子もいる。

 昨日、間口から話を聞いてすぐ、翔太郎はウォッチャマンに連絡を入れ不審者の情報について調べてもらっていた。

 

「どうもねー、その不審者に襲われた人って大体が何かしらの問題を持ってたみたいよ?」

「問題?」

 

 亜樹子が聞き返すと、ウォッチャマンは麺を啜りながら話を続ける。

 

「最初に被害者が出たのが4か月前なんだけど、その被害者は地元では有名な不良らしくてさ、よく揉め事とか起こしてたらしいんだよね」

「………」

「他にもごみ捨ての日付を守らない人とか、夜中にギターで騒いでた人とかが最初は襲われてたんだよね」

 

 『最初は』というその言葉に翔太郎は引っかかりを感じる。

 

「初めの2か月はそんな感じで地元でも嫌われてた奴が襲われてたから、ネットの一部では正義の味方っぽく扱われてたんだけど、ここ最近はそれらしいことをしてない人も狙われてるみたい。1週間前は、普通に道を歩いてた高校生のグループが襲われたようでさ。幸い、けが人はいなかったみたいだけど」

「そうか…」

 

 ある程度は推測できる。元々は本人にとっても正義のつもりだったのだろうが、ガイアメモリの毒素の影響で捻じ曲げられたのだろう。

 勿論、どのような理由があろうと誰かを傷つけている以上、それを見逃すわけにはいかない。このまま放っておけば、被害はより大きくなるだけだ。

 

「ああ、そう言えば」

「ん?」

「襲われた人達は怪物に襲われたって言ってるんだけどさ、その姿が」

「こんな感じか?」

 

 ウォッチャマンが説明しようとすると、背後から誰かが声を掛けてくる。

 

「うん? ああ、そうそう、そんなかん…」

 

 振り向いた先に居たのは、がっしりとした体つきのドーパント。胴体は鮫の顔を模しており、両腕には巨大な鰭が付いている。

 

「私を嗅ぎまわろうとするな。邪魔をするようなら、噛み千切るぞ!」

「「「ひいいいいいっ!!」」」

 

 どすの利いた声に恐怖を感じる亜樹子とウォッチャマン、風麺のマスター。

 

「おい亜樹子、二人を頼んだ!」

「うっ、うん!!」

「さあ、てめえはこっちに来やがれ!」

 

 翔太郎は全員に逃げるように促すと、自分は目の前のドーパントに挑発し別の方向へ走る。

 

「待てっ!!」

 

 ドーパントに追いかけられながら、翔太郎はスタッグフォンを操作し、フィリップへ連絡する。

 

『やあ翔太郎。ちょうど検索が終わったところでね』

「検索? いや、そんなことはどうでも良い! ドーパントだ!」

『ああ、分かった。変身だね?』

 

 フィリップも翔太郎が言わんとしようとしていることをすぐに理解した。

 

「行くぜ相棒」

 

 翔太郎はダブルドライバーを装着し、ガイアメモリを起動させる。

 

〈JOKER〉

 

「「変身!!」」

 

 そしてドライバーのスロットの片方に、フィリップの下からサイクロンメモリが転送され、それと翔太郎が持つジョーカーメモリの二つがドライバーに装填された。

 

〈CYCLONE〉

〈JOKER〉

 

 そしてその姿は緑の右半身と、黒の左半身を持つ仮面ライダーWへと変わり、翔太郎を追いかけていたドーパントは、思わず声を上げる。

 

「まさか貴様っ!!」

 

 今、仮面ライダーとドーパントの戦闘が行われようとしているまさにこの時、遠くから何者かが双眼鏡でこの光景を覗いていた。




全くと言い程、初の出番が無い…。
後編にはちゃんと登場する予定ですので、お待ちください。

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