目の前に立つドーパントの姿を見て、フィリップはすぐにそのメモリの名前に辿り着く。
『翔太郎、恐らく奴のメモリはメガロドンだ』
「ん、なんだそりゃ?」
聞き慣れない名前に疑問を浮かべる。
『新生代に生息していた巨大な鮫だ。恐らく水中の戦闘が得意だろうから…』
「水辺には近づけるな、ってことだな」
フィリップが伝えようとしている言葉をすぐさま理解した翔太郎は、そのままメガロドン・ドーパントへ向かっていく。
「おらあっ!!」
―ガギィン―
そして勢いよく拳を振りぬくが、その一撃は金属音に似た音と共に防がれる。
「はっ、仮面ライダーとはその程度かっ!!」
こんどはWの一撃をその体で受け止めたドーパントが鋭利な右腕の鰭で斬りかかろうとするものの、Wはすぐさまその場から飛び退き避ける。
「こいつ、硬え!!」
『なるほど。奴の防御力は並じゃないようだ』
冷静にドーパントを分析すると、フィリップは右腕を動かし別のメモリを取り出す。
『それなら、これでいこうか』
〈HEAT〉
そしてドライバーの右のスロットに差し込むと、右半身が鮮やかな赤に変化する。
〈HEAT〉
〈JOKER〉
変化が完了すると共に、その右腕が炎に包まれた。
『これでも』
「喰らいやがれっ!!」
二人の息が合い、高熱の拳がメガロドン・ドーパントの腹部を狙い撃つ。先程はその頑強な体によって防がれた。しかし今度は攻撃力を増大させるヒートメモリの力を使っている。その威力はサイクロンメモリを使用していた時の倍。
「ぐあっ!!」
さすがにこの一撃を防ぐことは出来ず、思わずうめき声を上げて後退した。
「ちっ、私の邪魔をするな!」
メガロドン・ドーパントが威勢よく叫ぶと、両腕の鰭がさらに巨大化し、刃ともいえる形状へと変化する。
『気をつけろ、翔太郎!』
「ああ、分かってる!」
見るからに近接戦を狙ってきているメガロドン・ドーパントに対抗するように、Wは左腕で銀色のメモリを取り出し、スロットに挿入する。
〈HEAT〉
〈METAL〉
ドライバーから音声が流れると、左側が金属特有の輝きに包まれ、基本形態の中で最も攻撃力と防御力に優れたヒートメタルへと変化する。
そして向かってくるメガロドン・ドーパントの鰭を、手にした棍―メタルシャフトで防ぐも、その力は予想以上で耐えきれずに膝をつく。
「くっ、なんて馬鹿力だよ!?」
『こいつのパワー、予想以上だっ…』
さらにメガロドン・ドーパントの胴体にある鮫の口が開き、メタルシャフトに咬みかかる。
「『なっ!?』」
二人は驚き、思わずメタルシャフトから手を放してしまう。
「ふん。不味いな」
そのままメタルシャフトはまるで駄菓子のようにバリバリという音を立てて噛み砕かれた。
「まじかよ…」
目を疑う光景に呆然としてしまう。
「さあ、次はお前の番だ!」
そう言って再び走り出すメガロドン・ドーパント。さすがにメタルシャフトが無い以上、メタルメモリの力は十全に発揮することは不可能だ。そのためすぐさま左側のメモリを運動能力に優れたジョーカーに戻し、ギリギリのところで攻撃を躱す。
ここまで様子を見た限り、メガロドン・ドーパントの防御力、そして攻撃力がかなり高いことは分かった。その防御力を突破するにはヒートメモリでなければ難しい。しかしヒートジョーカーではダメージを与えられても決め手にはならず、ヒートメタルは先程破られた。残るはただ一つ。
〈HEAT〉
〈TRIGGER〉
W最大の火力を誇る射撃形態、ヒートトリガー。それ故に不安定かつ危険な形態でもあり、近くに人が居れば巻き込みかねないほどのパワーがある。幸い、今ここに居るのはWとメガロドン・ドーパントのみであるが。
「いくぜっ!!」
そう言って手にした拳銃―トリガーマグナムから炸裂弾が放たれる。
「喰らうかあっ!!」
しかしメガロドン・ドーパントは両腕をアスファルトに突き立てると、そのまま巨大な塊の形に抉り取りWに向かって投げつける。
「まじかよっ!?」
投げられたアスファルトの塊はWの弾丸とぶつかり合い、粉々に砕けるも弾丸を相殺することに成功した。
『さすがのパワーだ。これは危険だね』
「冷静に言ってる場合かよ!?」
睨み合う仮面ライダーとメガロドン・ドーパント。しかし、ドーパントは何かを思い出したかのような素振りを見せた。
「ちっ。さすがにずっとお前の相手をする時間は無いんでな…」
「何だと?」
「もし、まだ私の理想を邪魔するようなつもりなら容赦はしない!」
そう言って背を見せ逃げるようとするメガロドン・ドーパントに弾丸を撃ち込もうとするものの、突如として左半身に大きな衝撃を受け、そのまま体勢を崩す。
「くっ!?」
辺りを見渡すが、そこには誰も居らず、メガロドン・ドーパントも姿を消していた。
『一体、何だったんだ?』
「分からねえ。だけど、前にも似たようなことがあったような…?」
記憶を探るが思い出せない。
仕方なく変身を解き、逃がした亜樹子達と再び合流することとした。
「お疲れ様です」
一仕事終えた彼女―二宮初に声を掛けたのは紺のスーツと黒ぶち眼鏡を掛けた男。
彼女は変身を解くと、男に疑問を投げかける。
「それであれを逃がしたわけですが、どうするつもりなんですか?」
先程、仮面ライダーに攻撃を加えたのは、この男の提案によるものだ。元々、
ある者は「あの事務所を襲撃すれば良いのでは?」なんて言っていたが、命令は「来人を無事に屋敷に連れてくること」であり、下手に襲撃して傷つければ、主人から何をされるか分からない。その上、彼らには『エクストリームメモリ』もある。来人の体をデータ化して取り込むことが可能なあのメモリがある以上、生身の彼を捕まえてもそれで逃げられてしまう可能性がある。
そのため初はある隙を狙って仮面ライダーの様子を観察していた時に、先程の騒動が起きたのだが、その最中に初の目の前に立っているこの男が、「あのドーパントが無事に逃げられるように出来ませんか?」と提案してきた。
意味は理解できなかったものの、とりあえずそれに乗ることにした初が変身し、仮面ライダー達に気付かれないように攻撃を加えたというのが顛末だ。
そしてこれを提案した男は、楽しそうに笑みを浮かべた。
「いえ、彼を利用してみようかと思いまして」
「まさか奴が仮面ライダーとは…」
路地裏で壁に手を吐くメガロドン・ドーパント。先程まで仮面ライダーと争っていた場所からは大分離れているため、もう大丈夫だろうがその心は焦りに包まれていた。
「私の正体に気付かれる前に奴をどうにかしなければ…」
しかし、先程戦ってみて分かったが、仮面ライダーは予想以上に強い。
私の理想にはあと少し…。だが奴らを野放しには出来ない。どうすれば…。
そんなことを考えていた彼に近づく一つの影。
「誰だっ!」
普通であればドーパントの姿を見た人間は驚き、あるいは恐怖の表情を浮かべるはず。しかし、彼に近づいて来たスーツの男は何のリアクションもせず、一台の携帯電話を差し出してきた。
「貴方と取引をしたいのですが」
「何?」
訝しむものの、目の前の男が自分がメモリを買った連中と同じ存在であることに気付き、とりあえず変身を解いて差し出された携帯電話を耳に当てた。
『もしもし?』
「取引とは何だ? 私の正体をばらすつもりか?」
恐らく連中は自分の正体を知っているはず。そのため思わず語気を荒げるが、電話先の相手は苦笑したように答える。
『そんなことはしません。ただ、貴方は仮面ライダーを知っていますね?』
「それがどうした?」
『彼らを倒すお手伝いをさせていただきたいと思いまして』
「何だと?」
確かにこの提案は自分にとってまたとないものだ。だが、何故そんなことを向こうが提案してくるのかが分からない。どうするべきか迷いつつ、重い口を開く。
「…どういうつもりだ」
『先程、貴方が仮面ライダーと戦うところを見させていただきました。そして我々としても仮面ライダーは大きな障害になる存在でして。そのため、お互いにとって敵である仮面ライダーを排除するための同盟を組みませんかというお誘いですよ』
…理由は分かった。だが連中が大きな組織であることは彼も十分理解している。それが簡単に同盟なんて言うだろうか…。信じることは出来ない。しかし、ここで手を組めば大きな力となる。
迷った果てに彼が導き出した結論は、
「…分かった、手を組む」
『ありがとうございます。今後はこの携帯電話を通してお互いに情報を交換するということで』
「ああ」
自分の理想の為、止まることは許されない。しかしそんな彼の決意が歪んだものであることには彼自身は全く気付いていないのが悲劇だろうか。
そして彼の目の前にいるスーツの男も一礼してその場から立ち去る。
「ふう…」
―カランッ―
「っ!?」
溜息を吐き、これからのことを考えようとしていた彼の耳に空き缶を蹴飛ばしたような音が届く。
その音の方向に視線を向けると、黒い影が走り去っていく。
不味い。まさか見られたのか!?
思わず追いかけるも、既にその影は人通りの多い道へと消え見失ってしまう。
どうするべきか彼が迷っていると、足元に何かを見つけた。それは近くの小学校で使われている名札。そこに書かれた見覚えのある名前を見て、彼は歪んだ笑みを浮かべた。
【次回 仮面ライダーW】
亜樹子「それじゃあ、行ってくるね…」
???「あたしにはあたしの生活があるの!!」
メガロドン・ドーパント「お前には消えてもらう!」
フィリップ『エクストリームが!?』
亜樹子「ねえ、まさか…」
暴かれるM/正体不明
これで決まりだ!
ドーパント情報
メガロドン・ドーパント
●記憶:メガロドン
●メモリのデザイン:海面から顔を出した2頭のメガロドン(M)
●姿:鮫の顔を模した胴体を持つ。両腕には鋭い鰭。
●能力:怪力。
あらゆるものを噛み砕く胴体の口。