仮面ライダーW メイドはU   作:雪見柚餅子

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25話 暴かれるM/正体不明 中編

「…確かこの辺りだよね」

 

 電車を乗り継いで亜樹子が辿り着いたのは吹谷町。フィリップの検索の結果によると、この近くのアパートに誠の母親がいるそうだ。

 

「ここまで来たんだし、行かなきゃね…」

 

 そう決意し、歩みを進めようとした亜樹子の視界に一人の女性の姿が映る。

 

「あれ…?」

「…久しぶり」

 

 それはかつて園崎邸で出会ったメイドの一人である二宮初。会うのは実に4か月ぶりになるだろうか。服装もメイド服では無くシンプルなTシャツを着ている。

 

「久しぶり! こんなところでどうしたの?」

「仕事の関係上、こちらの方に用事があって。亜樹子さんこそどうしてここに?」

「いやあ、何というかこっちも仕事かな…。あんまり内容とかは言えないけど」

 

 そう言って頬を掻く。さすがに内容が内容であるために、他人に漏らすことは出来ない。

 

「そうですか。それじゃあ、また今度ゆっくり話しましょう」

「うん。それじゃあね」

 

 短い時間であったが、懐かしい顔を見れて先程まで感じていた緊張が緩む。

 そして再び目的の場所へ歩き始める亜樹子。だがその姿が見えなくなると、初は携帯電話を取り出す。

 

「発信器を付けることに成功」

『了解。こちらも探偵が行動したのを確認しました』

 

 亜樹子が持ち歩くバッグ。先程、別れるときに初がシール状の発信器を貼り付けていたことに、亜樹子は気付いていなかった。

 

 

 

 

 

「はあ…」

 

 翔太郎は重い溜息を吐く。

 結局、次に狙われる対象についてもフィリップが検索してみたが、該当者が多すぎて絞り込むことが出来なかった。

 そのため新たな手がかりを探すべく、照井は被害者から直接話を聞きに行き、翔太郎は事件が起きた西夕凪町へ再度足を運んでいた。しかし、得た情報は昨日聞いたものとほぼ同じ。これではドーパントの正体も、次の被害者についても絞り込むことが出来ない。

 

「どうすっかな…」

「すみません!!」

 

 再び溜息を吐く翔太郎に誰かが声を掛ける。振り向くとそこに居たのは息を切らした男性が居た。その首に掛けられた名札には、昨日赴いた施設『みかづき』の名がある。

 

「この近くで小学生の男の子をみませんでしたか?」

「いや、見てねえけど…、どうしたんだ?」

「…男の子が一人、行方不明なんです」

「なんだって!?」

 

 思わず目を見開く。ドーパントが事件を起こしているのはこの地域だ。もしかしたら襲われた可能性がある。そうでなくとも翔太郎は、子供が行方不明と聞いて見て見ぬ振りが出来るような人間では無かった。

 

「おい、その子供ってどんな子だ! 俺も手伝う!」

「いえ、そんな見ず知らずの方に手伝ってもらうなんて…」

「俺は探偵だ。少しは役に立つ。それに子供に万が一の事があるかもしれないのに放っておけるわけないだろ」

 

 翔太郎の言葉に押し黙る男性。しかし、今優先すべきはその子の身の安全だ。

 

「…分かりました。お願いします」

「おう。任せろ」

「それでこの子なんですが」

 

 そう言って男性は手に持っていた携帯で一枚の写真を見せる。

 

「おい、この子って…」

 

 それは大葉誠の写真。

 翔太郎の脳裏には朝の出来事が思い起こされる。

 

『…本当に行くつもりかい? 大葉誠の母親の家に』

『うん』

 

「まさか…!?」

 

 一つの仮説が思いつき、翔太郎は亜樹子に電話を掛けるも繋がらない。仕方なく、今度はフィリップに掛ける。

 

『どうしたんだい、翔太郎?』

「おい! 今すぐ亜樹子がどこに行ったか教えろ!」

 

 

 

 

 

 亜樹子はアパートの一室の扉の前まで辿り着いていた。

 先程まで携帯電話が鳴っていたが、翔太郎からの着信だったため、出るのを躊躇ってしまった。

 

「…後で謝らないとね」

 

 結局電話はすぐに切れてしまったので、帰ったら何の用事なのか聞く必要があるだろう。とりあえず今は自分のやるべきことをやろう。

 

「…よし」

 

 決心してインターホンを鳴らす。しばらくして中から物音が聞こえ、そして扉がゆっくり開く。

 

「あー、えっとどなた?」

 

 中から出てきたのは、ショートカットの茶髪が特徴的な女性。服装も小綺麗。確か、WIND SCALEの新作。亜樹子も欲しかったが、値段が高かったために諦めたものだ。

 

「えっと、大葉里香さんですよね? 鳴海探偵事務所の所長の鳴海亜樹子って言います」

 

 亜樹子が名乗ると、里香は怪訝な表情を見せる。

 

「探偵が何の用よ」

「ちょっとお話を聞きたくて」

「あー、後にしてくれる? これからデートなのよ」

 

 明らかに迷惑そうに顔を歪めるが、ここで引くわけにも行かない。

 

「あの…あなたの息子の誠君について話を聞きたくて…」

 

 その一言を口にした瞬間、里香の雰囲気が一変する。

 

「何? あいつは今、施設にいるんでしょ? もうあたしとは関係ないじゃない」

「…え?」

 

 冷たく突き放すかのような一言に、思わず目が点になる。

 

「誠君はあなたの息子ですよね?」

「だからどうしたっていうの? 大体、あいつが居たせいで、あたしは不自由になったんだから…」

 

 そして、里香が紡いだ一言に愕然とする。

 

「あんな子供、産むんじゃなかった」

「っあんたねえ!!」

 

 堪忍袋の緒が切れ、亜樹子は里香の襟を掴む。

 

「それでも母親なの! あの子にとってあんたは掛け替えのない家族なのよ!!」

「だから施設に預けられてるんだから、もうあたしとは縁が切れたも同然でしょ! あたしにはあたしの生活があるの!!」

 

 お互いに怒鳴り合う。しかし、その光景を見ていた一つの影があった。

 

「…お母さん?」

「っ!?」

 

 亜樹子が横に視線を向けると、そこには誠が居た。

 本来ならば学校にいるはずなのに…

 

「…どうしてここにいるの?」

 

 そして里香もそれに気づいたようで、鬱陶しそうな視線を誠に向ける。

 

「何よ、あんたも居たの?」

「お母さん、嘘だよね?」

「全く、聞いてたなら分かるでしょ? もうあたしとあんたは他人なんだから、さっさと消えてくれない?」

 

 その言葉に誠は俯き、そしてどこかへと走り去る。

 

「誠君っ!!」

 

 亜樹子は里香に対する怒りは消えていなかったが、だからと言って誠を放っておくわけにはいかず、その後を追う。

 

「全く、何だったのよ…」

 

 そして残された里香の呟きは誰に届くわけでもなく消えていった。

 

 

 

 

 

 涙を流しながら脇目も振らず誠は走る。

 

(どうして…どうしてお母さんは…)

 

 今朝、探偵に話したいことがあったため事務所に向かうと、母の住んでいる場所が分かったと言っていたので、気になって後を付けていたのだ。

 電車などを乗り継いだため、溜めていたお小遣いはほとんど使いきってしまっていたが、それでも母に会えるのならば惜しくは無かった。

 しかし、ずっと会いたかった母から告げられたのは非情な言葉。

 

『あんな子供、産むんじゃなかった』

 

 信じていたものに裏切られた誠はただ走る。どこに向かう訳でもない。ただあの言葉を思い出してしまうと、それだけで苦しくなるから。

 

「うわっ!?」

 

 目の前もよく見ずに走っていた誠が何かにぶつかり、尻餅をつく。

 顔を上げた先に居たのは…

 

「よう?」

「…あ……ああっ」

 

〈MEGALODON〉

 

 そこに居た影は一瞬にしてドーパントに姿を変える。

 

「私の正体を見たな?」

 

 そう。誠は昨日、このドーパントが人間に戻るところを目撃している。元々はそれを教えるために事務所に向かっていたのだ。

 

「知られてしまったからには生かしておくわけにはいかない。それに元々目障りだと思っていたんだ」

 

 そう言ってメガロドン・ドーパントはその腕を誠に近づける。

 

「あ、あ…」

「お前には消えてもらう!」

 

 誠は思わず誰かに助けを求めようとする。だけど、誰に?

 

『さっさと消えてくれない?』

 

 母からの言葉が胸に突き刺さる。

 そうだ…、誰も味方なんていない。僕のことを助けてくれる人なんて…。

 誠の表情が絶望から諦めに変わる。

 

「死ね」

 

 そして誠がドーパントの手に掛かろうとした時、

 

「させるかよっ!!」

 

 突如として現れたバイクが勢いよくぶつかり、不意を突かれたドーパントは吹き飛ぶ。

 

「ぐあっ!?」

 

 そして遅れて姿を現した亜樹子は、その姿を見て声を上げる。

 

「翔太郎君!?」

「ったく、まさか次のターゲットがこいつだとはな…」

 

 そう言って視線を下に向けると、誠は虚ろな目でただ黙り込む。

 

「…遅かったか。仕方ねえ。亜樹子、こいつと一緒に避難してろ!」

「う、うん…」

 

 亜樹子は誠を何とか立ち上がらせ、その場から離れる。

 

「全く、どれだけ私の邪魔をすれば気が済むんだ!!」

 

 怒りを込めてこちらを睨むドーパントに翔太郎は言い放つ。

 

「どこまでも邪魔してやるよ、俺達はな」

 

 そして腰にドライバーを装着する。

 

〈JOKER〉

 

「変身!」

 

〈HEAT〉

〈JOKER〉

 

 再度相対する仮面ライダーとドーパント。だが仮面ライダーは気付いていない。誠だけでなく自分もまたターゲットであることに…


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