「うん。吹谷町の駅の近く! そこにドーパントが居るから!」
照井に電話を掛け、翔太郎達が居る場所を告げた後、再び誠の手を取り走る亜樹子。その心は後悔に包まれていた。自分が軽率な真似をしなければ、これほどまでに誠を傷つけることは無かったのだから。
当の誠の顔には感情がすっぽりと抜け落ちたようになっている。母親からの心無い言葉に加え、ドーパントに命を狙われたのだから仕方ないのかもしれない。
とりあえず、今は誠を安全な場所まで送り届けることが最優先だ。
「あれ?」
出来る限りドーパントから離れ人目の多いところまで向かっていると、進行方向にスーツを着た男たちが立ちふさがる。そして男たちはガイアメモリを取り出すと、首元に挿す。
〈MASQUERADE〉
それと同時にその顔が異形へと変化する。
「ええっ!?」
一斉に向かって来るマスカレイド・ドーパント達から亜樹子は逃げ出す。
しかし、普通の人間である亜樹子と、曲がりなりにもドーパントの集団では体力に差がある。ずっと逃げ続けることは不可能だ。
『おやっさんだってなあ、依頼者を危険に晒すようなことは絶対に許さなかったぜ!!』
しかし、せめて誠だけは守らなければならない。それが探偵である自分のやるべきことなのだから。
亜樹子は誠を連れ、狭い路地を走り抜ける。そしてある程度距離を引き離すと、建物の影に誠を隠す。
「あたしが囮になるから誠君はここで隠れててね!」
聞こえているかどうかも分からないが、時間がない。亜樹子はわざと大きな叫び声を上げ、マスカレイド・ドーパント達に追いかけられながらその場から走り出した。
「『はあっ!!』」
前回の戦闘でメガロドン・ドーパントの能力は学習している。最初からヒートジョーカーに変身し、高熱を纏った拳を連発する。
しかし、メガロドン・ドーパントも負けじと両腕の鋭い鰭を使い打ち合う。
「ちっ!! やっぱり厄介だな」
怪力を持つメガロドン・ドーパント相手に接近戦はやりにくい。だからと言ってトリガーに変身しても、前回のように防がれる可能性がある。
『こうなったら、あれしかないね』
「エクストリームか」
W最強のメモリ、エクストリームメモリ。それは翔太郎とフィリップの二人が文字通り一心同体となるメモリである。これを使用した形態サイクロンジョーカーエクストリームになれば、その場で瞬時に必要な情報を得ることで、最も有効な戦術を発揮することが可能となる。
だが、二人が意識を逸らしている間に、メガロドン・ドーパントが肉薄してくる。
「『なっ!?』」
「今度こそ食いちぎってやる!」
そして胸にある口がWを噛み砕こうかと大きく開くが、何とか両腕でそれを止める。だがその力はすさまじく、少しずつ牙がWの体に届かんとする。
「おい、やべえぞ!!」
しかし咄嗟に防いだため体勢は左ひざを地面につけている状態でうまく力が入りにくい。その上、両腕が塞がっていては他のメモリも使用不可能だ。
そんな二人のピンチにメガロドン・ドーパントは不敵な笑い声を上げる。
そしてその牙がWの体を貫こうとした時…
「はっ!!」
今度は赤い影がメガロドン・ドーパントを切り裂いた。
「一体何なんだ!?」
その影は長剣を携え、ドーパントを睨む。
「俺に質問するな!」
その影の名は照井竜―仮面ライダーアクセル。亜樹子の連絡を受け、変身して駆けつけたのだ。
「また、別の仮面ライダーだと!?」
「全く、来るのが遅えよ」
「ふんっ、悪かったな」
悪態を吐く翔太郎に、そっけなく返答する照井。これで2対1。状況は一変する。
「よし、一気に決めるぞフィリップ」
『ああ!』
〈CYCLONE〉
〈JOKER〉
Wがメモリを交換すると同時に、特徴的な音声と共にエクストリームメモリが姿を現し、Wの頭上に滞空する。
このままならばWがエクストリームへと変化し、そのままアクセルと共にドーパントの撃破に成功していただろう。だが、この瞬間を待っていた者が居た。
「なんだ!?」
突如として出現した幾重もの布が、エクストリームに巻き付きその動きを封じる。
『エクストリームが!?』
この布は今まで何度か見たことがある。その根元に視線を向ければ、あの謎のドーパントが右手を伸ばしたポーズで立っていた。その姿を見つけたメガロドン・ドーパントの声色には喜びが満ちている。
「おお、あんたか! それじゃあ、後は任せた!」
そう言って逃げ出すメガロドン・ドーパント。アクセルが追いかけようとするが、
「ぐっ!?」
強い衝撃を受け、転倒する。前にスイーツ・ドーパントを襲った時と同じものだろう。さらに翔太郎の脳裏には昨日の出来事が思い起こされる。それはメガロドン・ドーパントを追いかけようとした場面。見えない衝撃というのはあの状況とよく似ている。もしかすると、こいつは昨日からずっと狙っていたということになる。
少なくとも、このドーパントを倒さなければメガロドンを追いかけることは出来ないと判断したWとアクセルはそれぞれ戦闘態勢を取る。しかし、ドーパントが放った言葉は予想外のものだった。
「別に私は戦いたいわけじゃありません。出来ればこのまま大人しくしてくれると助かるのですが」
「何だと?」
仮面の下で怪訝な表情を浮かべる3人。大人しくしていろとはどういうことなのか。
「私の目的は園咲来人の確保です。それさえ出来れば手出しはしません」
「なんだと!」
『なるほど。やはり組織の人間か…』
園咲家で出会ったこと、そして幹部と一緒にいたことからその可能性はあらかじめ考えていた。しかし、まさかエクストリームメモリを確保するなんて方法を使うとは…。
エクストリームメモリの内部にはデータ化されたフィリップの体が入っている。つまりこの状況はフィリップを人質にされてるも同然であるということだ。
『どうする翔太郎?』
「どうもこうもねえだろ。何とかしてエクストリームを取り戻さねえと…」
『だが、奴のメモリの能力がまだ分からない…。下手に手を出すわけには…』
このドーパントと出会った回数は僅か。情報も少なく、手掛かりが無いのが現状だ。
そしてドーパントはさらに口を開く。
「もし、こちらの条件を飲むのなら、彼女もお返ししますが?」
「何?」
そう言うと、今度は複数のマスカレイド・ドーパントが姿を見せる。そしてその内1体が縄で縛られた亜樹子を抱えていた。
「亜樹子!?」
「ごめん、翔太郎君…」
どうやら怪我は無いようだが、もし条件を飲まなければどうなるか分からない。しかしフィリップを組織に連れて行かせるわけにも行かない。
「私の事は良いから、フィリップ君を!」
自分を見捨てろと伝える亜樹子。しかし、翔太郎もフィリップも照井もそんなことは出来ない。だが、どうすれば…。
そんな彼らを近くの建物の屋上から見下ろす、もう一つの人影。それは手に持った銃にガイアメモリを装填する。
〈BOMB MAXIMUM DRIVE〉
そして放たれた光弾が、マスカレイド・ドーパント達の頭上に降りかかる。
「なっ!?」
「ええっ!?」
その衝撃で亜樹子はマスカレイド・ドーパント達の手から逃れることに成功する。さらに今度はどこからともなくファングメモリが現れ、その尻尾の刃でエクストリームメモリを捕えていた布を切り裂く。
「くっ!」
「良し! 人質は返してもらったぞ!」
そんな中、照井は先程の攻撃を行ったものが誰なのか確かめるべく、視線を頭上へと向けたがそこには既に人の姿は無く、仕方なく今の状況を打開すべく動く。
〈TRIAL〉
それをドライバーに装填すると、アクセルの姿は赤から黄、そして青一色へと変化を遂げる。それが超高速形態アクセルトライアル。以前、眼前のドーパントとの戦闘では通常の形態で戦闘がうまくできなかったため、何かをされる前に速攻で仕留めようという算段だ。
「行くぞ!!」
Wは周囲のマスカレイド・ドーパントを引き受け、アクセルはその超加速で謎のドーパントに一瞬で詰め寄り蹴りを放つ。しかし…
「何だと!?」
今度はそのドーパントも一瞬で消え、その攻撃を避ける。気が付くとその姿は30メートルほどまで離れていた。
「まさかこいつ、トライアルと同等のスピードが出せるのか!?」
あまりのことに驚きを隠せない照井。その照井に対して今度はドーパントが右手を伸ばす。恐らく、先程と同じ衝撃波だろう。視認できないため、左右に細かく移動することで狙いが付けられないようにする。
しかし、しばらくするとその速度が予想よりも速くなっていく。
「なんだ…?」
まるでメモリの力が際限なく流れ込むかのような感覚。しかし、止まったら攻撃を受けるため、避け続けるしかない。
「大丈夫か、照井の奴?」
Wも心配そうに見つめるが、マスカレイド・ドーパント達を倒しきるまで近づくわけにはいかない。
「ぐあっ!」
そして途中でアクセルの動きが止まると同時に、トライアルメモリから全身に向かって電流が流れだす。照井はこれに経験がある。かつて井坂を倒すための特訓で何度も受けた痛みだ。
「照井!!」
Wも何とかマスカレイド・ドーパント達を倒しきると、再び捕まることを警戒して隠していたエクストリームを再度呼び出す。だが
『なんだ!?』
本来であればエクストリームメモリが頭上からゆっくりとダブルドライバーに降りながら装填・展開され、サイクロンジョーカーエクストリームに変身を遂げるのだが、何故か今は装填こそされても展開せずに固まったまま。
「一体、どうしたってんだよ!?」
そのままエクストリームメモリから膨大なエネルギーが発生する。
『不味い、翔太郎! 今すぐ取り外すんだ!!』
「お、おう!」
フィリップに言われるがまま、やや強引にドライバーからエクストリームメモリを取り外すと、行き場が無くなったエネルギーが周囲に弾ける。
そして、全てを放出しきったエクストリームメモリはそのまま地面に落ち、内部からフィリップの肉体を吐き出す。
「くっ、一体何が起こったんだよ」
『原因は分からないが、何らかの影響でエクストリームメモリに不具合が起きて、そのせいで変身できなかったんだろう。そして変身のために必要なエネルギーが暴走して今のようになったってところかな?』
そしてその何らかの影響を与えられる相手は一人しかいない。
Wは謎のドーパントを睨みながら口を開く。
「一体、てめえは何者なんだよ…」
無論その返答は変わらない。
「貴方に答える気は無いし、知る必要も無い」
しかし、この場で唯一その返答に反応した人間が居た。
「今の…もしかして…」
その呟きは誰にも届かない。
いつの間にかアクセルもトライアルから通常形態へと戻っている。マスカレイド・ドーパントも既に戦闘不能となっており、相手こそ異なるものの2対1の状況に戻る。しかし、その相手が問題なのだ。トライアル並みのスピードを持ち、視認できない攻撃を放ち、さらには原理こそ不明だがこちらに干渉してメモリがうまく発動できないようにする。その上正体すらも分からない。これでは対抗しようもない。
そして何より、奴の狙いはフィリップだ。今、こちらには完全に無防備なフィリップの体がある。
『今は撤退しよう。ここで戦うのは悪手だ!』
フィリップの提案に舌打ちをしながら応じる翔太郎。それは逃げるしかない現状に対する悔しさの表れである。
なぜかリボルギャリーも近くまで来ていたらしく、呼び出すとすぐに来た。そしてアクセルが何とか時間稼ぎをしているうちに乗り込んで撤退しようとするが、亜樹子だけは全く動かない。
「おい、亜樹子! 早く来い!!」
翔太郎の言葉も耳に入っていないらしく、ただ目の前の謎のドーパントを見つめ口を開く。
「ねえ、まさか…初ちゃんなの?」
その言葉にドーパントは一瞬動きを止めたような気がした。それでもなお動かない亜樹子を、アクセルが強引にリボルギャリーに連れ込む。
「ねえ、そうなの!?」
再びドーパントが布を伸ばして捕えようとするが、再度ファングメモリがその布を切り裂いて防ぐ。
そして全員が乗り込んだのを確認すると、その場から一目散に走り出した。
暗い車内では変身を解いた翔太郎が、あることを心配する。
「とりあえず、まずは誠の無事を確認しないとな…」
フィリップが狙われていることも問題だが、誠がメガロドン・ドーパントに狙われていたことも十分問題だ。
「亜樹子、誠がどこにいるか知ってるか?」
「…え? あ、うん…」
心ここにあらずだった亜樹子も何とか持ち直したようで、誠を隠した場所を伝える。さすがにリボルギャリーで行くのは目立って仕方ないため、比較的ダメージの少なく、一人でもみかづきまで送ってやれる翔太郎が迎えに行くこととなった。
そして車内に残された亜樹子は、再び呟く。
「どうしてなの…、初ちゃん」
【次回 仮面ライダーW】
若菜「遅かったわね、来人」
加奈子「この子に手は出させません!!」
琉兵衛「そろそろ潮時か」
フィリップ『君のメモリの正体は…』
初「あ…」
暴かれるM/救われなかった少女
これで決まりだ!
嘘予告
新たな仮面ライダーの物語が始まる…。
新番組「仮面ライダーW ANOTHER STORY 仮面ライダーウィング」
謎の研究所から逃げ出す一人の少女『ソラ』…。
「私は一体、何のために…」
彼女を狙う組織『財団X』。
「さあ、楽しもうじゃないか!!」
そして出会う仮面ライダー。
「何が起きてるんだ?」
「実に興味深いねえ?」
少女が答えを見つけた時、新たな戦士が覚醒する。
「私はもう…、逃げ出したりなんかしない!!」
「変身!!」
新番組「仮面ライダーウィング」
気が向いたら執筆開始!
それでは皆様、良いお年を。