仮面ライダーW メイドはU   作:雪見柚餅子

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あけましておめでとうございます。

今回は3話連続更新。


27話 暴かれるM/救われなかった少女 前編

「キーワードは『二宮 初』」

 

 地球の本棚に入り込んだフィリップの紡いだ言葉と共に、夥しい数の本棚が移動する。見慣れた光景だが、いつもとは異なる現象が起きる。

 

「これは…?」

 

 突如として本棚が動きを止める。今までには無かった状況に戸惑っていると、陰から一人の女性が姿を見せる。

 

「遅かったわね、来人」

「姉さん…」

 

 フィリップと同じく地球の本棚に入り込むことが可能な園咲若菜。その手には一冊の本が抱えられているが、鎖で厳重に閉ざされており、何とか題名を読むことは出来るが、中身を読むことは不可能だろう。

 

「もう既に彼女に関する記憶には鍵を掛けたわ」

「くっ…」

 

 あのドーパントの正体が彼女(二宮 初)であることに気付いた際の予防策だったのだろう。もっと早くに気付くことが出来ていれば…。

 そんな後悔を感じていると、いつの間にか若菜が目の前に立っている。

 

「さあ、大人しく戻ってくる気にはならない?」

 

 そう言って手を差し伸べてくるが、その誘いに乗る気にはならない。自分は仮面ライダーとして、そして家族として若菜を止めると決めたのだから。

 フィリップの表情から拒絶を読み取った若菜は諦めたように背を向け呟く。

 

「仕方ないわ。強引にでもあの子に連れて帰って貰うことにしましょう」

 

 そして若菜の姿は薄くなって消えゆく。

 残されたフィリップは、鎖が掛けられた本で埋まった棚に視線を向けるだけだった。

 

 

 

 

 

 あの後、翔太郎は無事に誠をみかづきまで送り届けることは出来たが、依然としてその心は回復していない。加奈子に事情を説明し謝罪したが、今回の件は自分達の不注意もあったとして苦情などは無かった。誠についてはしばらくは学校も休ませ傷が癒えるのを待つとのことで、加奈子の表情にはどこか悲しみや後悔のようなものが浮かんでいた。

 亜樹子にもそのことを伝えた。周囲への警戒が甘かった点はあるだろうが、今回は事故のようなものだから仕方ないとフォローしたが、それでも亜樹子の表情は晴れない。当たり前だ。自分の行動で依頼人を傷つけてしまった上に、知り合いがドーパントとして襲って来たのだから。

 

 そして日付も変わり現在、亜樹子の目の下には隈が浮かんでおり、その精神的な疲れを表しているかのようである。

 照井からの連絡によると、二宮初が暮らしていたとされるアパートはもぬけの殻。そして役所にある住民票等を含めた個人情報に関しても既に抹消されている。恐らく組織の工作によるものだろう。そして昨日、帰って来てさっそくフィリップが検索したが、こちらも既に園崎若菜による妨害を受けていた。

 

「やはり、あのドーパントの正体が二宮初なのは間違いないだろう」

 

 フィリップはそう結論づけるが、それが分かっても現状の大きな問題は解決していない。

 まず第一に二宮初のガイアメモリが不明であるということ。メモリの正体が分からなければ、対策のしようがない。現状分かっている能力は、全身を覆う布を伸ばしてこちらの動きを拘束するもの、トライアルに匹敵する高速移動能力、目で捉えることが出来ない衝撃波、そして何よりも厄介なのがこちらの動きや能力を制限する力。原理こそ不明だがエクストリームを不発にさせるほどの力だ。恐らくこれこそが彼女のメモリの正体に近づく手がかりなのだが、一体どのようなものなのかまるで見当がつかない。

 そしてもう一つはメガロドンメモリの所有者が不明であること。こちらも正体が掴めていない。このまま野放しにしていれば、それだけ多くの被害者が出る。

 どちらも暴かなければならないが、どちらもそれを暴くためのヒントが圧倒的に足りないという状況だ。

 

「仕方ねえ。俺はもう一度、聞き込みに言って来る」

 

 そう言って翔太郎は壁に掛けてある帽子を手に取ると、亜樹子に視線を向ける。

 

「お前はしばらく休んでろ。どうせろくに寝てねえんだろ?」

「うん…。ごめんね…」

「ったく、いつもの元気はどうした? お前はお前らしくやればいいんだよ」

 

 亜樹子の肩を軽く叩き、事務所から出て行く。

 

(あたしらしく、か…)

 

 亜樹子は考える。今、自分に出来ることは何か。自分のやるべきことは何か。それが翔太郎達の手助けになればいいと思いながら。

 

 

 

 

 

 同時刻、園崎邸の広間には琉兵衛と若菜が向かい合っていた。

 

「ふむ、気付かれたか…」

「ええ、お父様。一応、言われたとおりにしましたが」

 

 地球の本棚の中の初に関する情報を封じたのは琉兵衛からの指示によるものだ。初のメモリの特性上、その正体に気付かれてしまえば脆い。それ故に若菜が自らの手で工作したのだ。

 そして他の場所に潜伏させている組織の工作員の手によって、初に関する情報を抹消させている。現状、初について知っているのは組織の者だけ…。そう若菜は考えていた。

 しかし、琉兵衛の表情は未だに厳しいままだ。

 

「彼女は現状唯一のあのメモリの適合者だ。他の適合者を探すとなると、かなりの時間が掛かる。だからこそ今まで大目に見てきたが、ガイアインパクトも近い以上、そろそろ潮時か…」

 

 最早、彼女に固執する必要は無い。初はより多くのデータを組織にもたらしたが、だからと言って情けを掛けるほど園咲琉兵衛は甘い人間ではない。組織に有用な人間であれば残すが、不必要と判断すれば即座に切り捨てる。

 琉兵衛は部屋の中にたたずむもう一人の人間―ゴスロリの服を着て、イナゴの佃煮がぎっしり入ったケースを持つ女性を見つめる。その目にどこか暗いものを若菜は感じた。

 

 

 

 

 

 亜樹子は思い出す。今まで初と会った時のことを。初がどんな人間かを…。しかし、そうするほど思い知らされるのは、自分が彼女について何も知らなかったという現実だ。

 

(答える気はないし、知る必要も無い)

 

 この言葉こそ彼女の態度を表しているのかもしれない。そう言えば、この言葉を最初に聞いたのは、確か…。

 

「家族…?」

「どうしたんだい、亜樹ちゃん?」

 

 その呟きに気付いたフィリップが近づいてくる。

 

「いや、思い出したんだけど、初ちゃんって家族について聞いた時、何も教えてくれなかったんだよね…」

「ふむ?」

「まあ、だからと言って、何かの手掛かりになるってわけじゃないんだけど…。結局、あたしは何の役にも立たないのかな…」

「そんなことは無いさ。亜樹ちゃんに助けられたことは何度もあるからね」

 

 力なく呟く亜樹子を慰めるが、表情は曇ったままだ。

 

「そう言えば、フィリップ君の方はどう?」

 

 今度は亜樹子がフィリップに聞き返す。フィリップも今までの戦闘で得た情報を基にガイアメモリの正体を絞り込もうとしていた。だが、苦々しい表情でフィリップは首を横に振る。

 

「やっぱり駄目だね。能力の原理が全く掴めない。二宮初に関する記憶は若菜姉さんに妨害されているしね…」

「そっか…」

 

 どうしようもない現状に思わず天を仰ぐ。

 しかし、フィリップはあることが引っかかっていた。何故、若菜はここまで厳重に二宮初の情報を封じたのか。メモリの正体を隠すのであれば、そのものや二宮初自身の記憶だけに鍵を掛ければ良いはずだ。しかし若菜はそれらのみでなく、彼女に関する記憶全てに鍵を掛けている。これは一体どういうことなのだろうか。考えても分からない…。

 

「どうして姉さんは、あそこまで二宮初の情報を隠そうとしているんだ?」

 

 その言葉に亜樹子は思い付きを口にする。

 

「知られたら困るとか? 初ちゃん、自分のことをあまり喋らないから、私もよくは知らないし…」

 

 そう言って項垂れる亜樹子。だが、その言葉を聞いたフィリップの目つきが変わる。

 

「そうか、もしかすると…」

 

 そしてフィリップは再び地球の本棚に入り込む。もし、自分の推理が当たっているとすれば、若菜が行ったことについても、合点がいく。

 

「キーワードは―――」

 

 いくつかキーワードを挙げると、フィリップは目的の記憶を手に入れる。勿論、それにも厳重に鍵は掛けられているが、それでも大きな前進には変わらない。

 

「亜樹ちゃん、やっぱり君は天才だよ!」

 

 現実に意識を戻すと、呆然としている亜樹子に感謝を告げる。

 

 中身を読むことは出来なかったが、対抗策についてもある程度予想は出来た。問題は彼女に関する情報のほとんどが消されているということ。

 何か手掛かりはないか…。フィリップは考え込む。そう言えば、あの時、若菜が持っていた本。その表紙に書かれていたのは…。

 再び新たなキーワードを用いて検索し、あの時若菜が持っていた本の表紙を確認すると、スタッグフォンを取り出し電話を掛ける。

 

「翔太郎、向かってほしい場所がある。場所は…」

 

 

 

 

 児童養護施設みかづきの前に立つ一つの影。それは懐から何かを取り出す。

 

〈MEGALODON〉

 

 影が起動させたガイアメモリを右の首筋に挿入すると、その姿は異形の怪物へと変化する。怪物の目的はただ一つ。

 

「あのガキは絶対に処分してやる…」

 

 それこそがこの町の為なのだと自分に言い聞かせるかの如く、呟いた。




次は10分後に投稿します。
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