「いやさあ、うちのバイトが一人辞めちゃったせいで、大変なんだよねえ…」
風麺の屋台で麺を啜りながら呟くスキンヘッドの男性。少し前まではサンタちゃんと呼ばれ親しまれていた彼だが現在はペットショップを営んでいる。
「出来れば手伝ってくれないかなあ?」
「ごめーん。あたし達もラジオ番組が忙しくて」
「それに受験勉強もなんだかんだでやらなきゃだし」
そんな彼の隣で喋る二人の女子高生。去年、とある番組に出場したことにより芸能界デビューしたクイーンとエリザベス。風都イレギュラーズ同士で親交があり、手助けしてもらえないかと思って聞いたのだが断られ見るからに落ち込む元サンタちゃん。
「あー、確かその子…」
その後ろでは、ウォッチャマンが電話で誰かと話している。一応、彼にも打診したのだが、既に断られている。
「うーん、どうしようか…」
「まあ、頑張ってサンタちゃん」
「そうそう。誰かバイト探してる子が居たら紹介するから」
重い表情で俯く男を慰める二人。
いつもの風都の日常がそこにはあった。しかし…
―ドォン―
近くで大きな爆発音が響く。一体何の音かとそこに居た全員が辺りを見回す。そして彼らの目に入ったのは、全身が炎に包まれた怪人とそれに追われる二人の少女。
「ちょっと、あれ!?」
「ドーパント!?」
「翔ちゃん、今!」
この場に居る4人は翔太郎に情報を提供する立場ということもあり、ドーパント犯罪に巻き込まれることも少なくない。故に対応は素早く、すぐに自分達の身の安全を確保するためにその場から離れると共に、ウォッチャマンは電話の向こうにいる翔太郎に現在の状況を伝える。
「分かった、今すぐ行く!」
翔太郎は電話を切ると、近くにいた亜樹子に視線を向ける。
「もしかしてドーパント?」
「ああ」
依頼人が探している人物の居場所は元々知っていたが、向かってみると留守。そのためそこで待ちながら、どこにいるか手掛かりが無いかウォッチャマンに連絡を取ってみたのだが、ちょうどドーパントが現れたらしい。
「とりあえずお前は一度、事務所に戻っておけ」
「え、ここで待ってなくていいの?」
本来なら依頼人が探している人物が戻って来た時のことも考えて、ここで待機するのが良いはずだ。しかし、今は運が良いのか悪いのか…
「それがどうやら―」
「え、ホント!?」
予想外の言葉に思わず目を見開く。
「だからお前は、先に事務所に戻っておけ。終わったら連絡する」
「うん。出来るだけ早くね!」
その言葉に軽く返事だけすると、翔太郎は近くに止めていたバイクに跨り、走り出した。
やっとマグマ・ドーパントを振り切った初と少女。既に息は上がり、汗が止まらない。
一度大通りに逃げたため大きな騒ぎとなり、それによって発生した人ごみに紛れ、何とか撒くことには成功し、今は騒ぎのせいで人が居なくなった道の壁に二人は背を預けていた。
「…もう、大丈夫?」
壁にもたれかかりながら何とか声を出す少女。しかし初は静かに首を横に振る。バイオレンス・ドーパントから逃げ切ったそのすぐ後にマグマ・ドーパントが現れ、自分達を狙って追って来た事を考えると、あの2体は繋がっていると考えるのが自然だ。そして初の予想が正しければ、他にも協力者がいる。
バイオレンス・ドーパントは自分のことをターゲットの一人と呼んでいたが、面識は無いようだった。もしかするとあのドーパント達を統括する存在がおり、自分を狙っているのかもしれない。そしてもし自分が狙われているとしたら、心当たりはただ一つ。組織の元構成員であったこと…。
「…もう終わったはずなのに」
誰に言うでもなく呟く。
少女はその言葉の意味を理解できず首を傾げるが、そんな二人の耳にカタリと小石が蹴られるような音が聞こえた。
二人はその音がした方向へ視線を向けると、そこにはバイオレンス・ドーパントと黒いスーツを着た眼鏡を掛けた男が立っていた。逆光で顔は見えづらいが、その体は細く、風が吹けば吹き飛ばされてしまいそうだ。
この男に初はどこか見覚えがあった。
「やっとお会いすることが出来ましたね」
その男の声を聞き、初は思い出す。そうだ、こいつは園咲家に居た使用人の…!
初はすぐさま男に背を向け、少女の手を引いて逃げ出そうとした。しかし、走り出そうとした先にはいつの間にかマグマ・ドーパントが姿を現し、行く手を遮る。
「勘違いしないでください。私は貴女を傷つけるために来たのではないのですから」
男は笑みを浮かべ一歩ずつ近づいてくる。
「私は貴女の力を評価しています。もし貴女が私に協力してくれさえすれば、身の安全は保障します」
そう言って手を差し伸べてくるが、初がそれに応える様子はない。
「協力って言ったけど、何が目的?」
初の疑問に男は笑みを浮かべたまま返事をする。
「私はミュージアムを再建します。そう、今は姿を見せない若菜様のために!!」
「!?」
組織の再建…。まさかそんなことを考えている奴がいるとは。
しかし、その目論見を聞いた以上、初が協力しようという考えは完全に消えていた。自由を奪われたあの生活に戻ることなんて考えたくはない。それに今の初は執行猶予を受けている身だ。犯罪になんて関わりたくもない。
しかし、この状況で断れば、今度は自分の身が危ない…。
「さあ、選びなさい! 私と共に組織のために働くか、否か!」
そして男とドーパント達は近づいてくる。
この絶体絶命の状況の中、初は自分の腕を握り震える少女に視線を向ける。これに似た姿をどこかで見たことがある…。
―お願いだから、この子には手を出さないで!―
そして頭によぎる記憶。
初がそれに気を取られているその間にも男は近づいてくる。そしてその手が初を捉えようとしたその瞬間、
「なっ!?」
突如として男は飛来したスタッグフォンに吹き飛ばされる。そして同時に猛スピードで走るバイクが、スタッグフォンに目を奪われていたマグマ・ドーパントを突き飛ばす。
その隙に初は少女と共にドーパントから距離を取ると、その場に現れた新たな存在の姿に安堵の溜息を吐く。
「やっと来た…」
「おい、それが助けに来た男に言う言葉かよ」
ヘルメットを脱ぎながら初の言葉に反論する探偵―左翔太郎。
「こいつ、まさか!」
使用人の男は目を見開く。
「まあ、生憎と忙しいからな。さっさと片づけさせてもらうぜ」
そして翔太郎は腰にダブルドライバーを装着し、メモリを起動する。
〈JOKER〉
「変身!」
ドライバーに転送されたサイクロンメモリ、そして右手に握ったジョーカーメモリを順番に装填し、展開させると、その姿は左右異なる色の体を持つ戦士、仮面ライダーWへと変わっていく。
「やっぱり、これだよな」
しかし、その姿を見た初は首を傾げる。
「…いつの間に戻ったんですか?」
初の記憶ではフィリップは若菜を助けた際に消滅したはずだったが、目の前に居るのは彼が居ないと変身できない姿の仮面ライダーだ。これは一体どういうことなのか…。
『まあ、色々あってね』
「今は良いだろ。それよりも!」
Wはすぐさま近くにいたマグマ・ドーパントに殴りかかる。気が付けば、使用人だった男は姿を消し、この場には2体のドーパントだけが残っていた。
「おい、お前は安全なところに避難しとけ!」
翔太郎の言葉に初は黙って頷き、その場から離れる。
そしてWは2体のドーパントに対し、左腕を伸ばして宣言する。
「『さあ、お前達の罪を数えろ!』」