仮面ライダーW メイドはU   作:雪見柚餅子

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後日、修正するかもしれません。


35話 Lにさよなら/風都逃走中 後編

 最初に仕掛けたのはバイオレンス・ドーパント。その鉄球状の左腕を振りかぶり、Wに向かっていくものの、そのスピードは遅く、軽く避けられる。

 次はマグマ・ドーパントが高熱の火炎をWに向かって放つ。しかし

 

〈METAL〉

 

 すぐさまWはドライバーの左側のガイアメモリを交換する。

 

〈CYCLONE METAL〉

 

 黒の体は鈍色の金属光沢をもつものへと変化し、背中に装着された棒状の武器、メタルシャフトを掴むと、それを振り回して向かってきた火炎をいとも容易く吹き飛ばす。

 

「この程度、効きやしねえ!」

 

 そのままメタルシャフトで炎を弾きつつ、マグマ・ドーパントに肉薄すると、素早い連撃を放つことで反撃を許さず追い詰める。

 

「後ろががら空きだ!」

 

 そんなWの背後から、バイオレンス・ドーパントが再び向かって来るが、

 

〈LUNA METAL〉

 

 一瞬の内にWは右側のメモリも交換し、右半身が鮮やかな黄色に変わる。それと同時にメタルシャフトはまるで鞭のように変幻自在にしなり、目の前のマグマ・ドーパントに攻撃しながら背後のバイオレンス・ドーパントにも不可思議な軌道を描きながら攻撃を与える。

 

『少し油断していたんじゃないかい?』

「だからと言って勝手にメモリを変えんなよ」

 

 お互いに言葉を交わしながらも、攻撃は途切れることなく、2体のドーパントを追い詰める。

 

「ちっ。こんなのやってられるか!!」

 

 旗色が悪いと見るやバイオレンス・ドーパントは相方を置いて逃走を図ろうとする。

 

『翔太郎!』

「おい、待ちやがれ!」

 

 Wもそれに気付くが、目の前のマグマ・ドーパントを放っておくわけにもいかない。そのまま、バイオレンス・ドーパントは走り去ろうとするが…、

 

「そううまくいくとでも?」

 

 その行く手を赤い仮面ライダー、アクセルが塞いだ。

 

「照井!」

 

 騒ぎを聞きつけたのは翔太郎達だけではない。刑事である照井も市民からの通報を受け、やって来ていた。

 

「なんだお前!?」

 

 慌てた様子でバイオレンス・ドーパントが声を上げる。

 

「俺に…、質問するな!!」

 

 アクセルはその一言と共に、長剣エンジンブレードを振り上げ、バイオレンス・ドーパントに斬りかかる。最早逃げようがない状況、ドーパント達は自棄になって向かって来るが、彼らは最近メモリを与えられただけの素人同然。今まで襲っていたのは生身の人間相手であり、それ故に自分の力を過大評価していたが、幾度となく困難を乗り越えてきたライダー達を相手にするには荷が重すぎた。圧倒的なまでの実力差で追い詰められる。

 

〈METAL MAXIMUM DRIVE〉

〈ENGINE MAXIMUM DRIVE〉

 

「『メタルイリュージョン!!』」

「はあっ!!」

 

 Wがメタルシャフトを振り回すと無数の光輪が発生し、それがマグマ・ドーパントを打ち据える。対するアクセルはエンジンブレードから放たれた斬撃でバイオレンスドーパントを貫く。

 

「がはっ」

「ぐげっ」

 

 ドーパントは変身が解け、その体内から排出されたガイアメモリは砕け散って行った。

 

「とりあえず、これで終わりか…」

 

 翔太郎達は一息吐くと、変身を解除する。

 

「大丈夫か?」

「…何なのこれ?」

 

 戦闘中離れていた初と少女に声を掛ける。初は相変わらずの無表情だが、少女は現実を受け止め切れていない様で、少々パニックのようだ。

 

「やはり、お前が狙われたか…」

「どういうことですか?」

 

 照井の呟きに初が反応する。そして照井はミュージアムの元構成員が狙われていることを初と翔太郎に伝える。そして今も襲われた当事者である。

 

「何か知っていることは無いか?」

 

 照井は初を問い詰める。現状は被害者の共通点しか分からない以上、何かしらの手掛かりが欲しいところだ。そこで初は何か話そうとして口を開いたが…、

 

「翔太郎君、終わった?」

 

 空気を読まない声がその場に届く。その声の方向を見ると、そこには息を切らした様子の亜樹子と依頼人の女性が居た。

 

「おい、何で連れて来てんだよ!」

「いや、それがさ…」

 

 先程まで戦闘していたこの場所に依頼人を連れてくるというのは探偵としてご法度だ。しかし、亜樹子がどこか言いにくそうにしている中、依頼人の女性が口を開く。

 

「すみません。私が頼んだんです。ここに案内してほしいと…」

「ごめん…。でも断りづらくて…」

 

 翔太郎は溜息を吐く。誰よりも相手に親身になるこの情が亜樹子の長所であると共に最大の欠点なのだ。

 そんな翔太郎達を他所に、女性を見た少女は声を上げる。

 

「早苗さん!?」

 

 その声を聞いた女性も同じように声を上げた。

 

「雪ちゃん? 何でこんなところに?」

「…ん、どういうこと?」

 

 状況が呑み込めず、疑問符を浮かべる亜樹子。そこで女性―竜胆早苗が説明をする。この少女―竜胆雪は早苗の再婚相手の連れ子とのことだ。今日は友達の家に遊びに行くと聞いていたのだが、何故ここにいるのか…。

 雪も問い詰められると観念した様子で事情を話した。

 

「そう言うこと…」

 

 早苗はどこか申し訳なさそうな表情で呟く。

 

「勝手にごめんなさい…」

「ううん。雪ちゃんを心配させた私にも責任はあるし…」

 

 お互いに謝り合っている光景を、唯一興味なさそうに見つめていたのは初。彼女からすれば他人の家の話に過ぎない。そう思っていた。

 

「貴女もありがとうございます。雪ちゃんを守ってくださって」

 

 だから女性にそう声を掛けられるとは思って居なかった。

 

「別に助けたつもりはありません。勝手について来ただけです」

 

 つい口から出たのは建前では無く本音。実際、初は彼女を守るために逃げたのではない。ただ付きまとわれただけ。囮にしなかったのは、目の前で死なれたら夢見が悪くなりそうだから。ただそれだけだった。

 

「私はただの他人です」

 

 そう言いきって顔を背ける。

 だが、そこで翔太郎が口を挟んだ。

 

「お前はそう思ってるのかも知れねえけどな、この人にとってお前は他人じゃねえんだよ」

 

 まさか反論されるとは思っていなかったので、初は少し驚いた様子を見せるが、それでも態度を崩そうとしない。だが続く言葉は初にとっても、そして早苗にとっても予想外のものだった。

 

「早苗さんが依頼したのは、お前を探すことだ…」

「「「え?」」」

 

 初、早苗、そして雪の声が重なる。

 

「この人は、お前の実の母親だ…」

「っ!?」

 

 その一言で目を見開く。

 

「え…、本当に初なの?」

 

 早苗は恐る恐る声を掛ける。

 それと共に初は記憶がフラッシュバックする。それは自分が持つ最も古い記憶…。涙を流しながらも自分を抱きしめる誰かの姿。その姿と目の前の女性が重なる。

 

「…っ」

「初…」

 

 早苗はゆっくりと手を差し伸べる。しかし初がその手を取ることは無く、ただ無言のまま早苗を見つめていた。

 緊張感が辺りを包む。それ故にその場にいる誰もが気付かなかった。

 

「…きゃっ!?」

 

 突如として無数の糸が雪の体に絡みつき捕える。

 その糸の根元に居たのは、トラックの荷台に乗った白いタキシードを着た怪人―パペディアー・ドーパント。

 

「雪ちゃん!?」

 

 早苗が声を上げると同時に翔太郎が雪に向かって手を差し伸べるがそれは届かず、そのままトラックの荷台へ吸い込まれていく。

 そしてそれと同時に、初にも背後から何かが近づいていた。

 

「え?」

 

 それはまるでスライムのような流動する何か。近づいてきたそれを、初は咄嗟の事に反応できずそのまま飲み込まれようとした。しかし、

 

「危ない!!」

 

 早苗が初を庇うようにぶつかる。その衝撃で初は倒れこむものの、大きな怪我は無い。反対に早苗はそのまま流動体に飲み込まれ、先程の雪と同じようにトラックの荷台へと連れ込まれていく。

 

「待ちやがれ!」

 

 翔太郎と照井は再度変身し、走り出したトラックを追おうとするが、そこに大量のマスカレイド・ドーパントが姿を現す。

 

「こいつら、さっきの奴の仲間か!?」

「くっ、邪魔だ!」

 

 翔太郎達はマスカレイド・ドーパント達を倒していくものの、それが片付いた時には既にトラックの姿は消えていた。

 

「…何で?」

 

 そして残された初は、ただ静かに呟くのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【次回 仮面ライダーW】

使用人「我々の目的はただ一つ」

翔太郎「お前、怖いんだろ?」

早苗「私の事は良いから!」

初「今だけは、これに出会えたことに感謝するよ…」

初「答える気は無いし、知る必要も無い!」

 

Lにさよなら/前に進むために

 

これで決まりだ!




書かれていない裏設定

①33話冒頭で呟かれている「あの男」とはエナジー・ドーパントの事です。

②初が自動二輪免許を取ったのは、ガイアメモリを手に入れた後。組織の構成員として色々仕事してもらう上で必要であるとして、免許を取らせられたという独自設定が有ります。なお、普通免許では無く自動二輪免許なのは、あるシーンを描きたかったため。

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