仮面ライダーW メイドはU   作:雪見柚餅子

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お待たせしました。
ガチでエタりそうでしたが、何とか最終話まで書き上げました。
そういう訳で3連続投稿です。


36話 Lにさよなら/前に進むために 前編

仮面ライダーW

 

今回の依頼は…

 

「探してほしい人が居るんです…」

「ちょっと、誰か!!」

「こいつは組織のっ…!!」

「私はミュージアムを再建します」

「私はただの他人です」

「この人は、お前の実の母親だ…」

「危ない!!」

 

 

 

 

 

 トラックを見失った翔太郎達は一度事務所に戻り、今後の事について考えていた。そして初からも改めて何が起きたのか、あのドーパント達に心当たりは無いか聞いていた。

 

「ある程度予測はしていたけど、ミュージアムの残党か…」

 

 前に翔太郎はミュージアムの後継者を名乗る若者たちと戦ったことがある。それはあくまで名目だけの、不良の寄せ集めのようなものでしかなかったが、今回は違う。実際に組織を復活させるという目的を述べており、あのマスカレイド・ドーパントの数も考慮すると、それなりの規模があると考えられる。

 考え込んでいると、ガレージへとつながる扉が開き、フィリップが姿を見せる。

 

「ちょうど奴らの検索は終了したよ」

 

 翔太郎達が事務所に戻ってくるまでの間、フィリップは連絡を受けて手に入れた情報を基に、早苗と雪を攫った連中の手掛かりを調べていた。

 

「まず、竜胆早苗を攫ったドーパントだが、恐らく『LIQUID《液体》』のメモリだ」

「リキッド?」

 

 聞き返す翔太郎に、フィリップは頷く。

 リキッド・ドーパントは能力として自分の体を液状化させることが出来る。ただそれだけのメモリだが、単純故に厄介なメモリの一つでもある。

 

「照井竜が言っていた、組織のメンバーの襲撃事件の犯人もこのドーパントだろう」

 

 液状化するだけであれば他のメモリの可能性もある。しかし被害者の肺から検出された液体の成分は人体の成分そのものだった。そしてあのドーパントの正体は恐らく初と接触していた男。これらの情報からメモリの正体を絞り込むことが出来た。

 

「それと、奴らが潜伏している場所だが、7か所まで絞り込むことは出来た」

 

 そう言ってフィリップは風都の地図を取り出し、絞り込んだ場所を一つずつペンで丸く囲んでいく。

 

「どれもまだ警察が調べていないミュージアムの関連施設だ。これらをアジトにしている可能性が非常に高い」

「そうか…、分かった」

 

 テーブルに広げられた地図に目を通した翔太郎と照井。その視界の端には、ソファに座ったまま顔を俯かせる初の姿があった。

 

「おい、他に何か知っていることは無いか?」

 

 そんな彼女に照井が声を掛ける。

 

「…知ってることはもう全部話しましたよ」

 

 そして初は急に立ち上がると、荷物を持ってそのまま出口に向かう。その様子を見て、亜樹子が慌てて止めようとする。

 

「別に…、私は関係ないので出ていくだけですよ…」

「関係無いって…、初ちゃんのお母さんなんだよ!?」

 

「だからどうかしました?」

 

 『家族』に関しては誰よりも強い思いを持つからこそ、思わず口調が荒くなる。だが振り向いた初の目は何も映していなかった…。

 

「もう私とあの人は他人です…。あの人がどう思っていようが知りません」

 

 そのままドアから出て行ってしまう。

 

「おい、待て!!」

 

 しかし今の初もまた狙われている身なのだ。放っておくわけにはいかない。

 

「おい、お前らはここで待ってろ!」

 

 立ち止まってしまった亜樹子の代わりに、翔太郎が帽子を手に取り外へと走り出す。

 そして翔太郎を見届けた亜樹子はぽつりと呟く。

 

「今の初ちゃん…、とても寂しそうな目をしてた」

 

 

 

 

 

 風都の中央部にあるさびれた廃工場。その実態は、ミュージアムが秘かに使っていたガイアメモリの保管倉庫である。元々は販売する予定のメモリが大量に隠されていたが、1年前にミュージアムが瓦解したことによって、一部の構成員が金銭目的に持ち出していったため、現在残っているのは数えるほど。

 その現実を改めて見つめ、眼鏡の男は溜息を吐いた。

 

「全く、彼女も連れ戻すことが出来ませんでしたし…」

 

 それよりも…、と男は腕を縛られ床に転がされた早苗と雪に視線を向ける。早苗に邪魔されなければ初を捕らえることが出来たのに…。男は歯噛みする。

 だが、同時に収穫もあった。あの時見た仮面ライダーはダブルドライバーを使用していた。あの姿になるためには、『運命の子』が必要なはずだ。若菜様に吸収されたはずの運命の子がどうして存在するのか…。疑問は尽きないが今はどうでも良い。重要なのは運命の子がいるという事実だ…。あれが居れば、新たなガイアメモリの開発も可能なはず…。

 

「貴方達、一体何なんですか!?」

 

 男が考え込んでいると、早苗が声を上げた。思考を中断され不機嫌になり、男は早苗に詰め寄る。

 

「黙っていなさい。貴女はただの人質です」

 

 仮面ライダーならこの状況を見捨てることは出来ないだろう。だが人質という言葉に反応した早苗は再び声を上げる。

 

「人質なら私がなります! 代わりに雪ちゃんは自由にしてください!」

 

 早苗の心からの訴えに雪は目を見開く。しかし男は一笑に付すと、早苗を思いっきり蹴り上げた。

 

「あ゛っ…」

「早苗さん!!」

 

 雪は自由が利かない体を何とか動かし早苗に近づく。

 

「貴方達に選択の自由なんてありません」

 

 そう言って男は静かにその場から離れる。

 周りにいる監視の男達の視線を受ける雪の目にはじんわりと涙が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「おい、待てよ!!」

 

 一人で勝手に歩いていく初を追いかける翔太郎。初はどこか面倒臭そうに溜息を吐く。

 

「何なんですか…」

「あのな…、お前も狙われてるんだぞ?」

「そんなこと、分かってますよ…」

 

 そう言って歩みを止める初。その姿を見た翔太郎は、自分の首の後ろに回しながら手を近づく。

 

「なあ、これは俺の勝手な予想だけどよ、お前、怖いんだろ?」

 

 翔太郎の言葉を聞き、思わず顔を上げる。

 

「怖い? あの男の事がですか?」

「いや、そうじゃない」

「じゃあ、あの人の事がですか?」

 

 初は早苗の顔を思い浮かべながら言う。だが翔太郎は首を横に振る。

 

「いや、お前は誰かを信じることが怖いんじゃないか?」

 

 その言葉に目を見開く初を見て、翔太郎は自分の考えに確信を持つ。

 

「前に加奈子さんから、お前が誰よりも臆病な子供だったって聞いた…。そしてあんたの家についても…。自分でも気づいていないのかは知らないが、お前は誰かを信じて、そのせいで誰かが傷つくのが、もしくは裏切られるのが怖いから、そうやってわざと他人を突き放しているんじゃないか?」

 

 初は俯いて黙り込む。

 幼かった彼女は何故母親が自分を置いて姿を消したのかは分からなかった。そして実父の家では、家族から虐待を受け続け、自分を助けようとした人が逆らえない力で消えていくのを見ていた…。

 そして施設へと保護されていく初に対し、父の家族は最後にこのような言葉を初に言い放った。

 

『お前は疫病神だ!!』

 

 この言葉は初の心に棘のように突き刺さっていた。実際に自分に関わった全ての人間が不幸な目に遭ったのだから。

 だからこそ初は誰とも深く関わらないようにした。自分が、そして親しい誰かが傷つくのは嫌だったから。それならば親しい関係なんて作らなければいい…。それが初の結論だった。

 その本心に気付かれ、思わず狼狽える初に翔太郎は声を掛ける。

 

「早苗さんもお前のことをずっと思っていたんだよ…」

 

 そして翔太郎の口から出たのは、早苗が初と離れた理由、そしてこれまでの人生だった。

 

 早苗は夫からの暴力を受け、このままでは初が危険だと感じて離婚を申し出た。しかし夫はそれを拒否した。それは早苗を愛していたというわけでは無く、離婚したら外聞が悪くなる、という自分本位の理由でしかなかった。

 最終的には夫も離婚に承諾したものの、当時の早苗は専業主婦であり、仕事も収入も無かった。その上、両親は死亡しており、頼れる親戚も居ない。そんな経済的な理由によって親権は夫にあると裁判所から言い渡される。これについては夫も予想外だったらしい。早苗自身は弁護士を雇うお金も無く、対する夫は元々は裕福な家庭。腕の良い弁護士を雇い、家庭内暴力に関してもうやむやにされてしまった…。いくら訴えても決定は覆ることなく、そのまま初とは離れ離れになってしまった。

 裁判の後も、初と面会することは出来るはずだったのだが、面会の日になっても、夫の家族は初に会わせることを拒否してきた。時には夫の実家に直接赴いたこともあったが、初に会うことは出来ず、果てには

 

『これ以上騒ぐようなら、娘がどうなっても知らないぞ!!』

 

と脅され、追い出された。

 そしてその日の帰り道、早苗は一台の車に轢かれた。奇跡的に軽傷で済んだが、早苗は恐怖を覚えた。事故の原因はあくまで不注意とされているが、早苗にはそれが夫の家族からの警告であることが分かった。これだけのことをする人達だ。本当に初に何をされるか分からない…。

 仕方なく早苗は初を取り戻すことを諦め、地元へと戻った。しばらくは安いアパートで暮らしながら働いていたが、そんな時、職場で出会ったのが雪の父親である。彼は妻を早くに亡くしており、どこか似たような雰囲気をしていた早苗が気になって近づいてきた。当初は警戒していたが、彼の優しい人柄に触れ、早苗の心の傷も少しずつ癒えていった。この2人がお互いに恋をし、再婚するまではそれほど時間は掛からなかった。

 だが、早苗の心にはずっと初への思いが残っていた。毎日のように夢に見るのは、幼い初が夫たちに傷つけられる光景。幻なのか、現実なのかも分からない。それでも時間が経つごとに初に対する気持ちは強くなっていった。

 それを知った雪の父親も早苗の気持ちを汲み取り、風都へとやって来たのだ。

 

「………」

 

 静かに母親についての話を聞く初。

 

「俺は別にお前の気持ちが分かるとは言わない…。だけど後悔だけはしないように行動した方が良い…。死ぬまでずっと残り続けるものだからな…」

 

 そう言って翔太郎は空を見上げる。すると翔太郎の携帯電話が鳴り響いた。

 

「ん?」

 

 翔太郎が携帯を開くと、そこには見慣れない電話番号。ボタンを押して耳に当てると、ねっとりとした声が届いた。

 

『やあ、仮面ライダー?』




ドーパント情報

リキッド・ドーパント
●記憶:液体
●メモリのデザイン:L字の水溜まり
●姿:スライムが人形に纏わりついたような基本形態
●能力:液状化
●弱点:物理攻撃はほぼ無効だが、高熱や冷気、電気などは有効。

井坂深紅郎がこのメモリにそれほど価値を見出していなかったのはウェザーメモリと相性が悪いため。特に冷気を使用すると、液状化の能力を十二分に発揮することが出来ない。

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