ああ。いい天気だ。
庭先で背伸びをしながら、空を見上げる。
あのミックの散歩以来、特に面倒な仕事もなく、本来のメイドとしての業務をこなしている。
やはり、これが本来のメイドとしての在り方だと思う。怪人に変身したり、怪人と戦ったり、怪人を追いかけたり…。そういうのはメイドの仕事じゃないと思う。
辺りを包む静寂。暖かい日差し。こんな日々が続けばいいと思う。
「そ~ら! 捕まえたわよ、この贅沢猫!」
だけど、そんな私の願いを打ち破るかのように、大きな声が響き渡る。
何事かと思い、声がする方向へと向かうと、そこには変なメイドに捕まったミックの姿があった。
「…何をやってるの?」
「え?」
思わず呟くと、そのメイドが振り向いてこちらを見つめてきた。その隙にミックはその手から抜け出して、いつものように私の足元に擦り寄って来る。
「一体、何事?」
さらにいつの間にか若菜様も姿を見せると、そのメイドは瞳を輝かせて若菜様に近づく。
「あー! 園崎若菜だ!!」
興奮して詰め寄って来るそのメイド。
まずい。若菜様の機嫌が思いっきり悪くなってる。このままだと、本気でキレかねない…。
とりあえず逃げよう。あんな若菜様と一緒に居たら、私の胃に穴が開く。
そう思い立って、いつもよりどこか動きが鈍いミックを抱きかかえると、急ぎ足でその場から立ち去った。
…それにしても、あのメイド、どこかで見たような…。いや、気のせいか。
【亜樹子視点】
「戯け者! 若菜様やミック様に何たるご無礼を!!」
っひゃあ~。なんかいきなり怒鳴られたし…。
別に私は何か悪いことをしたわけじゃないのに、なんで叱られなきゃいけないんだろ。
ふてくされていると、いつの間にかメイド長が部屋から出て行って、残ったのは私と二人のメイドだけ。
「やっちゃったね~、あんた。メイド長の杉下さんは鬼軍曹だから、これからが大変だよ~」
小太りな城塚さんがお菓子を食べながら話しかけてきた。さらにもう一人のメイドの佐々木さんがこの場所のルールについて説明してくる。曰く、仕事以外で園咲家の人とは会っても、話しかけても、何かを聞き出そうとしてもいけない、とかいうまるで日光の猿のようなルールがあるらしい。
正直、そんなのを気にしてなんてられない。佐々木さんはどうやら説明に夢中でこっちを気にしていないみたいだし、ここはさっさと抜け出して、情報収集でもしよう。
そもそも、この美少女探偵の
それは今朝、私が所長を務める探偵事務所に持ち込まれた一つの依頼が始まりだったの。依頼者の人たちが言うには、この園咲家を訪れたパティシエが次々と行方不明になったとのこと。
ただ、この場所は警察でもそう簡単には捜査できないほど厳しい場所らしくて、普通に入り込むなんて不可能。だから依頼者の一人であり、なおかつこの家に呼ばれたパティシエでもある浅川麻衣さんに付いて行って、新人メイドとして入り込んだのだ。
ハーフボイルドな翔太郎君には出来ない、この鮮やかな潜入捜査。やっぱり私って天才!
とりあえず、ある程度この屋敷の中の人の顔と名前は覚えたし、一度麻衣さんのところに行ってみようかな、と思った時、ある人物の姿が見えた。
あれは確か、猫を連れて行った無表情メイド…。今もソファに座って猫を撫で続けてるけど、もしかしてサボり…?
そういえば彼女は名前も知らないし、とりあえず話でも聞いてみようかな。何か情報を知ってるかもしれないし。
「あの~、ちょっと話を聞いても良い?」
少し躊躇いがちに話しかける。もし大声を出したらあのメイド長に見つかるかもしれないし。多分、サボってる彼女もそれは嫌だろう。
「…?」
うっ。なんか、無言で見つめられると、少しプレッシャーを感じる…。せめて少しは口を開いてくれると良いんだけど。もしかして警戒されてるのかしら…。
「何の用? 仕事は?」
あ、話はしてくれるんだ。っていうか、
「そっちこそ仕事は良いの?」
「私は琉兵衛様からミックの看病を言い渡されたので…。どうやら変なものを食べたせいで、具合が悪いみたいだから」
変なもの…。いや、私の猫まんまが悪いんじゃない。きっと、贅沢なものばかり食べてたから、すぐに具合悪くなるんだろう…。そうだよね? なんか猫がこっちを見てくれないけど。ついでに目の前の彼女もなんかジト目で見つめてるけど。
なんかいたたまれない。よし、ここは話題を変えよう。
「そういえば、あなたの名前は?」
「ああ、私は二宮初。あなたは?」
「私は新人メイドの鳴海亜樹子で~す。よろしくお願いしますね」
よし。とりあえず掴みはOK。ずっと無表情だけど、きっとこれは照れてるんだろう。
まあ、それは置いといて、情報収集をしなきゃ。まずは二宮さん自身について聞き出そう。
「ねえ。二宮さんってどうしてここで働いてるの?」
「…給料が良いからかな」
「そうなんだ。私も給料日が楽しみだなあ」
そういえば、ここの給料っていくらなんだろ。まさか、うちの事務所の収入より高かったり…。
「ここの仕事って楽しい?」
「…仕事にもよるかな。花壇の整備とかは心が落ち着くけど、たまに琉兵衛様から無茶ぶりをされるのは、ちょっと…」
「まさかセクハラ?」
「いや。お使いみたいなものかな」
ふむふむ。そのお使いとやらが少し気になるけど、多分事件とは関係ないだろうし、別の質問にしよう。
そして私はいろいろ質問した。二宮さんは終始無表情だったけど、何だかんだで答えてくれたから、結構情報は集まった。
だけど、唯一答えてくれなかった質問が一つ。
「二宮さんの家族ってどんな感じ?」
その質問をした瞬間、今まで以上に二宮さんの表情から感情が抜け落ちた。そして無表情のままこちらを見つめて口を開き、
「…悪いけど、その質問には答える気はないし、知る必要もないよ」
とだけ言うと、再び口を閉じた。
何があったのかは分からないけど、多分触れられたくない話題っていうことは分かった。
その後も少々質問して、それが終わると麻衣さんに一度合流するために、一先ず二宮さんと別れることにした。
さ~て。待っててね麻衣さん。それと翔太郎君。この名探偵鳴海亜樹子が今回の事件を見事に解決して見せよう!
【初視点】
…賑やかな人だったな。
鳴海亜樹子さん。杉山さんに叱られて尚、一切物怖じしない人なんて初めて見た。どうやったら、あんなふうに堂々とできるんだろう。少し嫉妬してしまう。
ただそれ以上に緊張した。もし不用意な発言をしたら、ガイアメモリのことがばれたかもしれない。もしそんなことになったら、鳴海さんも私も無事では済まなかっただろう。所詮、琉兵衛様から見れば私を含めたこの街の住民なんて、ただの
そんなことも知らずにいろいろと聞いてきた彼女。どこか不自然さを感じたけど、詮索するのも面倒だし…。まさか、ガイアメモリについて調べに来たってことは無いだろうけど…。無いよね?
「…何か、考えただけで疲れてきた」
誰も居なくなった部屋でぽつりと呟く。
それを聞いていたミックは、ただ欠伸をするだけだった。
没ドーパント案
ラスト・ドーパント
●記憶:錆
●メモリのデザイン:錆びた金属(R)
●姿:全身が錆で覆われた人型の怪人。
●能力:浴びた物質を酸化させる波動を放つ。
●没理由:ダブルドライバーに波動を当てて錆びさせることで変身解除に追い込む、という流れまでは考え付いたが、その後の流れとしてフィリップが修理を行い、さらに錆対策の改造を施すというシーンも思い浮かんだ結果、どちらかというと2話で片付くネタにしかなり得ないため。