週に一度のスイーツタイム。態々この時のためにパティシエを呼ぶという、正直言って良く分からない時間が終わり、私は2階の部屋で時間をミックを膝に乗せて寛いでいた。
時間がゆっくりと感じられ、思わず眠気を感じてしまう。さすがに勤務中に居眠りをしていたら杉下さんに怒られるので、何とか耐えるが。
こうしていると、やはり平和が一番だと心の底から実感する。ミックもこうして大人しくしていれば可愛いのだけれど。
それにしても、外が騒がしい気がするのは気のせいだろうか…。
とりあえず、一度ミックをソファの上に下ろし、窓から様子を伺う。
…ちょっと待ってほしい。なんでこんなところにドーパントが居るんだろう。
見たことないし、多分組織とは関係ない一般人なんだろうけど、どうして態々こんなところに来ているのか…。
まあ、ここは見て見ぬふりを…っ、ちょっと待て。今、あれが出てきたとこと。あそこには私が手入れをした花壇があったはず。
胸騒ぎがして、窓を思い切り開けて身を乗り出す。そして私の目に入ったのは、謎の白い物体が付着して無残な姿を見せた花壇。
何かが切れた音がした。
…ああ。こいつは許せない。私の安らぎの時間と労力を奪ったこいつだけは。
近くに人の気配がないことを確認して、私はメモリを起動した
【翔太郎視点】
ハードボイルドな探偵である俺、
なぜこのような状況に陥っているのか。それは、亜樹子がパティシエ失踪事件を追って、勝手に潜入調査なんて始めやがったからだ。
あいつは分かっていない。探偵の仕事ってのは、少しのミスで周りの人間を傷つけてしまうかもしれない危険があるってことに…。
俺はそれを追って来たは良いものの、入り込む方法が思いつかず途方に暮れていた。途中で変な男に若菜姫のストーカー扱いされるわ、そいつが自慢話を始めるわで足止めを食らっていたが、ちょうどその時、俺の視界に依頼人の一人である浅川麻衣がドーパントに襲われているのに気付き、男を振り払って強引に敷地内に入り込むことに成功。
そして俺は…いや俺と相棒のフィリップは、仮面ライダーWへと変身し、捕まった彼女を助け、そして姿を現したドーパントとの戦闘に至るってわけだ。
「ありふれた平凡な菓子を舌先に乗せると、私はそれだけで戻してしまう。極上のスイーツがないと生きていけないのだよ」
そしてこいつがパティシエ達を攫っている理由が、どうやら自分のためにスイーツを作らせることらしい。そのためだけに多くの人を悲しませた罪は許されねえ。
(行くぜ、フィリップ!)
(ああ)
腰のベルト―ダブルドライバーで意識が繋がっているフィリップに声を掛け、ドーパントに向かっていく…その時、
「はっ!」
「何!?」
突然現れる見慣れた青いドーパント。「組織」の幹部であるこいつがどうしてここに!?
「面白い場所で会ったね、仮面ライダー君。今日こそ君を倒して、その秘密を暴く!」
全く、面倒なタイミングで出てきやがって。
「今、相手をしてる暇ねえんだよっ!!」
結果として2対1というこの状況。しかもその内一体は「組織」の幹部。状況はかなりまずい。
『翔太郎っ!』
「くっ!」
だが、別々の方向からくる攻撃を捌くので手一杯だ。
今の姿はサイクロンメタル。防御力は高いが、スピードもパワーも中途半端なこの姿じゃ、突破も撤退もしにくい。
ならメモリチェンジを…、と思った瞬間、お菓子のドーパントが飛び掛かって来る。
不味いっ!!
思わず身構えたその時、
「ぐあっ!?」
「なっ!?」
突然、そのドーパントが吹き飛ばされた。
あまりのことに、俺達も青いドーパントも周囲を見回す。
「な…、君は…」
そして、この目に映ったのは全身を色とりどりの布で包まれた、まるでミイラのようなドーパント。
どうやら青い奴はこいつのことを知っているようだが、組織に関係しているのだろうか?
「何なんだ、お前は…?」
思わず零れた俺の呟きに、そのドーパントは顔も向けずに答える。
「…答える気はないし、知る必要も無い。私はただ、そいつに落とし前を付けさせに来ただけ」
落とし前…一体どういうことだ?
こっちが理解しきれていない中、そのドーパントが右手を伸ばすと、再びお菓子のドーパントが吹き飛ばされる。一見、お菓子のドーパントが勝手に吹っ飛んでるようにしか見えない。
『一体、何なんだ? あの攻撃の正体が全く分からない?』
フィリップでも正体を掴めない、あの謎のドーパント。目的も正体も、メモリの種別も一切不明。一体、奴は何なんだ。
そいつはさらに追撃を行おうとしたが、それを幹部が手で制した。
「待ちたまえ。ここは私一人で十分だ。君は君の仕事を」
「うるさい。邪魔をするな…」
「何だとっ!?」
…仲間割れか?
ここは一度撤退、いやあの二体が言い争っているなら、その隙に俺達であのドーパントを倒し…、
「…っ!!」
何だ? 突然、あのミイラドーパントの動きが止まった。
『翔太郎! 翔太郎!』
それに同調するかのように、フィリップが慌てた声を出す。
『感じる…。ここは危険だ!!』
「あ…っ!?」
一体何のことかと聞こうとした瞬間、背筋に冷たいものが走る。
そして気付くと、周りの地面からどす黒いスライムみたいなものが噴き出していた。
「くっ!!」
最初に動いたのはミイラドーパント。体にまとった布を伸ばして、その場から急いで逃げ出した。
それに少し遅れて、俺達もその場から逃走する。
一体、どうなってやがる!?
そしてしばらく走り、安全な場所に辿りつくと、変身を解いた。
その時の俺の手は、尋常じゃなく震えていた。
【初視点】
変身を解き、現実逃避気味にミックを撫でていた私に、他のメイドが伝えてきたのは、琉兵衛様が私を呼んでいるという、聞きたくない内容だった。
まずい…。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい!!!!!!!!!!
なんであの時、琉兵衛様が現れるんですか!?
やばい。花壇を滅茶苦茶にされた恨みで、つい衝動的にドーパントに変身してしまった。普通に霧彦様も変身してたけど、彼は園咲家の一員であり、私はただのメイド。立場的には幹部と平社員ほどの差がある。
もし今回の件が、園崎家の秘密の漏洩に繋がると言われれば、私の立場が危うくなる。最悪…。
暗い未来しか見えず、足取りが重くなる。
そして琉兵衛様が待っていた部屋には、冴子様と若菜様、霧彦様までもが揃っていた。
あ。これってもしかして、これから私の処刑が始まるんですか?
という懸念がよぎる。
そして、私の姿を見た琉兵衛様が、口を開いた。
「どうやら使用人の中に一般のドーパントが紛れ込んでいるようだね」
「あら。だったらお掃除しないと」
…そのお掃除ってどういう意味なんでしょうか?
正直、逃げたい。だけど…
「まあ、放っておけ。組織の秘密を知る屋敷の人間は僅かしかいない。態々事を荒立てる必要も無かろう」
その言葉は優しく聞こえるが、その視線は私を射抜いていた。
顔が思わず青褪めた気がした。多分、変わっていないんだろうけど。
「それと、初君」
名前を呼ばれて、ハッと顔を上げた。
ああ。これはもう終わったかな、なんて考えたが、掛けられた言葉は予想外のもの。
「花壇は残念だったが、君をどうこうするつもりはない。これからは気をつけなさい」
その言葉に安堵すると同時に、それは忠告でもあることに気付く。次に下手なことをしたら、どうなるか分からない。
私がゆっくり首を縦に振ると、琉兵衛様は笑みを浮かべて部屋から出て行った。
私も冴子様達に一礼をすると、ミックを連れて部屋から出る。
その時、気になったのは冴子様と霧彦様が何かを話していたこと。
お願いですから、下手なことはしないでくださいね、と願いつつ、私は再び2階に戻った。
その後、亜樹子さんが実はとある事件を捜査しに来た探偵であり、彼女の推理(?)によって、この家に紛れ込んだドーパントの正体が佐々木由貴子さんであることが判明した。
私としては佐々木さんのことを、一発殴ってやりたかったが、琉兵衛様がその場にいたため動くことは出来ず、亜樹子さんとパティシエを連れて逃げ出したドーパントの後ろ姿を、ただ眺めることしか出来なかった。冴子様と霧彦様は、騒ぎに紛れて外に出たみたいだけど…。
そして何があったのかは知らないが、佐々木さんのメモリは破壊された上で逮捕されることとなった。戻ってきた冴子様も霧彦様も何も口に出さないが、明らかに機嫌が悪そうな冴子様と、全身が傷だらけの霧彦様を見るだけで大体の状況は把握した。
…なんというか、この状況に慣れつつある自分が嫌になる。
…そう言えば、鳴海さんは大丈夫だろうか。彼女は探偵だ。今回は無事だったみたいだが、もしこの家の秘密、ミュージアムについて踏み込んでいたら、恐らく命を狙われていたはず。
出来ることなら彼女には死んで欲しくはない。というより、そもそもミュージアムについて調べないでほしい。絶対に面倒なことに巻き込まれるだろうから…。
そんな思いを抱きつつ、未だに調子が悪いミックの世話に追われていた。
※初のメモリはミイラではありません。あくまで翔太郎がつけたあだ名みたいなものです。
没仮面ライダー案
仮面ライダーウィング
●記憶:翼
●メモリのデザイン:広げた鳥の翼(W)
●姿:左目は翼のようなパーツで隠れている。基本的な目や体の形状は、ジョーカーやエターナルと同一。色は水色。
●詳細:ウィングメモリとロストドライバーで変身する仮面ライダー。その名の通り、飛行能力は全メモリ中最高クラス。ただし、身体能力自体は低い。強化案として、ワイルドメモリを使ったウィングワイルドというのも考えていた。
●没理由:最初はこれを書こうと思ったが、いまいちダブルやアクセルとの絡ませ方が思いつかなかったのと、無理に入れるとストーリーが崩れそうな気がしたので没。