その日もメイドの業務を終えた後、琉兵衛様の部屋に呼び出された。
「『バード』ですか?」
「そうだ。今、そのメモリを使って実験を行っているのだが、その様子を観察してもらいたい」
そう言って、琉兵衛様は背を向ける。
「あれは貴重な実験台だ。我がミュージアムのさらなる発展の為のな…」
…どうせろくでもない実験なのだろう。
まあ、私には関係ない。その実験台がどんな人だろうと、どんなメモリを使っていようと。まあ、私自身がその実験台の一つなんだろうが…。
そして私には承諾しか許されない。もし断れば、それこそ私の最期の言葉になりかねないのだから。
無言で頷き部屋を出ると、周囲に誰も居ないことを確認して溜息を吐いた。
それから数日経ち、現在、私は飛行する緑色のドーパントをバイクで追跡していた、
あらかじめ渡された資料によると、バードメモリは中学生の少女が所持していたはず。しかし、今空を飛んでいるあのドーパントはその少女ではない別の少年が変身しているのを見かけた。どうやら使いまわしをしているらしい。
本来、ガイアメモリを使用するためには、生体コネクタと呼ばれるものを体に刻み、そこに挿入する必要がある。そしてこの生体コネクタは一つのメモリにつき一つしか刻むことが出来ない。つまり、基本的にはそのメモリに対応したコネクタを持つ個人しか使えないようにしている。
だが、あのドーパントは生体コネクタを持っていないはずの少年が変身している。どういう原理かは不明だが、おそらくこれが実験なのだろう。
そして、ドーパントを追跡して十数分。辿り着いたのは高架橋近くの公園。子供たちの秘密の溜まり場といってもいいような場所。そこにはすでに三人の中学生が居た。そしてその中には本来のバードメモリの持ち主も。
「よっ。やってきたぜ!」
そう言って変身を解くドーパント。
今の台詞は恐らく、ここに来る前に襲った歯医者のことを指しているのだろう。一体、何がしたかったのかは分からないが。
さて、この後どうするのかと観察を続けていると、今度はどこからか自分のものとは別のバイクのエンジン音が聞こえてきた。しかも、それは徐々に近づいてくる。
とりあえず、見つからないように物陰に身を潜める。
…ん? あれは、霧彦様? 一体、どうしてここに…。
確かあの人はこの実験の事は知らなかったはずだし、気付かれないようにこの場から離れるべきだろうか。
そんなことを考えているうちに、一台のどこかで見たようなバイクが公園の前に止まり、青年と見知った女性が降りる。
確かあれは亜樹子さん…。もしかして、あのドーパントについて調べに来たのだろうか? というより、そもそもあのバイクは確か仮面ライダーが乗っていたバイクと同じ…。まさか…?
その男女が中学生たちに向かって何か話し始めた。霧彦様に気付かれないように距離を取った分、さっきよりも会話の内容が聞きづらいが、あまりいい雰囲気ではないことは分かる。
そしてとうとう男子中学生がメモリを取り出すと、青年はそれを取り上げようと飛び出す。しかし、ギリギリのところでそのメモリはもう一人の眼鏡の少年へと投げ渡され、そのままキャッチした少年が左腕にメモリを挿入し、ドーパントへと姿を変える。
そのままドーパントは青年の足を掴むと、そのまま飛び立ち逆さづりにする。青年はもがくも、基本的にドーパントの力は人間よりも遥かに高い。足が外れることもなく、あっという間に5メートルほどの高さまで上昇すると、いきなり手を離した。
普通であればそのまま地面に激突して大惨事になる。だが落下する途中、青年は突如として姿を変化させた。あの緑と黒の姿、仮面ライダーへと。
さらに仮面ライダーはすぐさま別のメモリを取り出し、腰のベルトのようなものを操作すると、右半身が黄色へと変化した。あれもドライバーの一種なのだろうか?
そして仮面ライダーの右腕はまるで触手のように伸び、空中に居たドーパントを叩き落とす。
そう言えば、もしこのままあのドーパントが倒されたらどうすればいいのだろうか。資料によると、バードメモリは普通のメモリとは異なり簡単には破壊されないようになっているらしい。それに本来の使用者とは別の人間が変身しているというイレギュラーな状態。恐らく、あのまま倒されてもメモリが残る可能性がある。
あれは貴重なサンプルだと言っていたし、仮面ライダーに奪われるのはまずいだろう。しかし、この場には霧彦様が居る。あの人に実験について教えてもいいのか分からない。つまり、ドーパントに変身して回収に向かうということも出来ない。
困った。どうすれば良いのか…、ってあれ?
どうやらいつの間にか歯医者を襲った少年がメモリを使ってドーパントに変身したようだ。そしてそのままドーパントは、元々の持ち主を掴んで逃げて行った。
よし、中学生ナイス!
仮面ライダーも隙を突かれたようで、棒立ちになっていた。
とりあえず、霧彦様の事も含めてこの状況を琉兵衛様に伝えておこう。そう考えていると、悲鳴が聞こえてきた。
どうやら先程までメモリを使っていた少年に何らかの異常が起きたようで、左腕を掴んで叫んでいた。多分、あのバードメモリの影響だろう。あんなイレギュラーな使い方をすれば異常が出ないほうがおかしいだろうが…。
それにしても大丈夫だろうか。ずいぶんと痛そうだ。
ガイアメモリを挿入するための生体コネクタには、ガイアメモリのある程度毒素を抑えるための機能がある。その毒素の影響の度合いはガイアメモリの種類や使用者によって差があるが、基本的には麻薬のような物と言って差支えは無い。
そんなものを未成年が、しかもコネクタというフィルター無しで使用したのだからその影響は予想できたことだろう。それでも琉兵衛様からすれば必要な犠牲でしかないのだろうが。
まあいずれにしても、
元々はそんな利用をした中学生が悪いのだし、そもそも無関係な人間に対して手を差し伸べてやる必要性も感じない。
そして私は仮面ライダーや霧彦様たちに気付かれないようにその場を離れた。
翌日、再び私はビルの上で、ドーパントと仮面ライダーの戦闘を双眼鏡を使って観戦していた。
今、使用しているのはあの少年。
昨日倒れたあの眼鏡の少年よりも長期間利用しているにもかかわらず、まだ元気な様子を見る限り、バードメモリに対する適合率は割と高い方なんだろう。ただ、生体コネクタがない以上、それもいつまで続くか…。
対する仮面ライダーは、昨日とは異なり右半身が白い姿。しかも変身したのは昨日見たのとは別の青年。正確には昨日の青年も居たのだが、何故かもう片方の青年が仮面ライダーに変身したのと同時に倒れた。一体、何がどうなってるのかは分からないが、どうやらあの仮面ライダーに倒れた青年の精神が融合しているらしい。もしかして昨日の仮面ライダーも、もう一人の青年の精神が融合していたのだろうか?
そしてその2つの存在の戦闘は、終始仮面ライダーが圧倒していた。ドーパントが空中に逃れようとしても、仮面ライダーは高い跳躍力と敏捷性で追いつき、地に落とす。
そして今、仮面ライダーが止めを刺そうとしている。
昨日聞いた琉兵衛様の話によると、あのガイアメモリは体内に挿入されている以上、その位置をピンポイントに狙わなければ破壊できないらしい。
そして予想通り、仮面ライダーの全力の一撃を受けたドーパントの変身は解けメモリが体外へと排出されたが、それには一切傷がついていない。
一応、実験のデータ収集はほとんど完了している。後はバード本来の性能を引き出すために、本来の所有者である少女が使う必要があるのだが…。
そんなことを考えているうちに、再び見慣れた人影が仮面ライダーに近づき、落ちていたバードメモリを拾い上げる。
…やっぱり来ましたね、霧彦様。
その姿を見ると同時に携帯を操作する。連絡先はただ一つ。
「…琉兵衛様。霧彦様がバードと接触しました」
昨日の報告後、琉兵衛様から命じられた。もし、霧彦様が実験について嗅ぎつけるようなことがあれば知らせるようにと。
その時の琉兵衛様は笑顔だったが、目は冷たかった。
『家族が減るのは悲しいことだ』
その言葉に理解は出来なかったが、ただ失望の感情だけは伝わった。
これ以上ここにいる必要は無い。メモリは霧彦様が持ち帰るだろうし。
眼下の光景に背を向けて、私はその場を後にした
そしてその日を境に霧彦様の姿が園咲家から消えた。
表向きには事故として、実際には冴子様の手で始末されたそうだ。
結局は彼も又、私やあの中学生たちと同じ実験台でしかなく、居たら便利程度の存在でしかない。それを理解していなかったのが、この結末なのだろう。
愛していると言っていた妻に殺されるとは、随分と皮肉な話だが。
「…やっぱり、家族なんてろくでもないね」
まあ、あの人が居ようが居まいが、
そう結論付けて、今日もまた花壇の整備に精を出すのだった。
さて、次からは新キャラ(刑事と医者)が2人出るけど、どうすればいいのだろうか…?